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12:海辺のホテル

Auteur: けもこ
last update Date de publication: 2026-07-14 20:45:42

趣味でホテル経営という言葉の意味が、今一つ飲み込めず、頭に?がいくつも浮く。

廉には表情からそれが汲み取れたらしい。笑いを含んで返される。

「食事が済んだら案内してあげるよ」

運ばれてくる料理は、どれも素晴らしかった。あらかじめすべてが手配されていて、完璧なタイミングで皿が出てくる。

「ねぇ、もしかして厨房に紫衣さんがいるの?」

出てくる料理は、出汁の味やソースの風味がなんとなく食べ慣れたものに感じた。

「母さんが、ここで料理を作ってるはずないだろう? いくらなんでも家族経営過ぎる。あぁ、でも、メニューの開発に、母さんの料理教室を使ったからそう感じるのかもな」

廉が声を出して笑う。

「綾香の舌は、ちゃんとそういうのを嗅ぎつけるんだな。すごい」

「嗅ぎつけるって‥‥人を犬みたいに。廉は、ホテルの経営が好きなのね。楽しい?」

父はいつも『俺は仕事が嫌いだ』とこぼしている。その割には世間的に辣腕らつわん経営者と言われているのだが。

廉が、父の会社に入ったと聞いた時は、もしかして恩返しなのだろうか?と思った。

廉ほどの才能があれば、海外の大手でいくらでも働くことができたのではないか。

日本国内では、父の会社は優良で大手のホテルグループだ。とはいえ、上には上がいくらでもあるし、うちの会社が、海外のホテルや地方の経営の傾いたホテルのM&Aに乗り出し、業績を上げ始めたのは廉が経営に参加してからだ。

「そうだな。楽しいかな。生活でも仕事でもないところに衣食住があるのは、こうした場所だけだろう? ホテルでの時間を非日常と捉えて楽しむ人もいるけど、いつもと違う場所で過ごす時間が、日常と密接に結びついてこそ、生活の中の癒しになると思うしね」

「なんだか、奥が深い話。深すぎて私にはちょっとよくわからなかったわ‥‥」

美味しいワインが進んで、ポワンとしてしまう。

テーブルの上に置かれた手の上に、いつの間にか廉の手が添えられている。自分の手が酔いで熱いせいか、廉の少し冷たい手がとても気持ちいい。

「デザートと食後の飲み物は、他の部屋で食べることにしよう。少し、建物の中を案内しようか」

そう言って手を取られて部屋に続く扉へ向かう。

エントランスを回り込むように緩やかな螺旋階段があり、上がりきるとさらに眺望の良い部屋が現れた。

壁が一面ガラス張りで、海に向かってバスルームと洗面がしつらえてある。

月明かりに照らされるように大きなベッドが部屋の中央に置かれている。ベッドの奥のテーブルが花で飾られ、コーヒーのセットとデザートが置かれていた。

綾香は、まるで海に続くようにしつらえられたその部屋の作りに息を呑んだ。

「すごい、窓の向こうの海原にそのまま歩いて行けそう」

ため息のように感嘆の声が漏れた。

「今夜みたいに月明かりに照らされると海とこの部屋しか見えなくてすごく幻想的だろう?」

いつの間にか廉の背中に身を寄せるようにして、窓に手をついていた。背中に廉の体温を感じる。

熱いのは少し酔っている自分だろうか?それとも話すたびに首筋に感じる廉の吐息だろうか。

「こんな素敵な場所、どうやって見つけたの?」

「ここはもともとペアールのホテルのあった場所だよ。ペアールグループが傾いた時に買い取ったんだ。子どもの頃に何度か来たことがあってね。場所がいいのにもったいない使い方をしているとずっと思っていた」

廉が話すたびに息がかかり、背中がゾクゾクしてしまう。綾香は、いつの間にか自分の体が廉に背後から抱きしめられていることを感じていた。

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