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第284話

Author: marimo
last update publish date: 2026-09-15 19:58:20

夜七時。

すっかり日が落ちた街を、タクシーが静かに走っていた。

後部座席に座る雪乃は、隣にいる康太の小さな手を握ったまま、何度も窓の外へ視線を向けていた。

康太は何も知らない。

今日、これから何が話し合われるのかも。

自分がその中心にいることも。

雪乃は、そんな息子の横顔を見るたびに胸が締めつけられるようだった。

―――この子だけは、何も知らないままでいてほしい。

十年間、自分一人で康太を育ててきた。

苦しいことも、悔しいことも、何度もあった。

それでも、康太の笑顔だけを支えにして、ここまで生きてきた。

今日、その生活が大きく変わるかもしれない。

そう思うと、握っている康太の手に自然と力が入った。

「お母さん?」

「……何でもないわ」

雪乃は慌てて微笑んだ。

「もうすぐ着くからね」

やがてタクシーが停まり、雪乃は料金を支払って外へ出た。

目の前に広がった光景に、雪乃は思わず息を呑んだ。

広大な土地。

そして、その敷地の中には二軒の豪邸が並んで建っている。

夜の照明に照らされた建物は、まるで別世界のものだった。

ここが―――九条家。

以前、自分が訪れた九条ホールディングスとは比べものに
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    夜七時。すっかり日が落ちた街を、タクシーが静かに走っていた。後部座席に座る雪乃は、隣にいる康太の小さな手を握ったまま、何度も窓の外へ視線を向けていた。康太は何も知らない。今日、これから何が話し合われるのかも。自分がその中心にいることも。雪乃は、そんな息子の横顔を見るたびに胸が締めつけられるようだった。―――この子だけは、何も知らないままでいてほしい。十年間、自分一人で康太を育ててきた。苦しいことも、悔しいことも、何度もあった。それでも、康太の笑顔だけを支えにして、ここまで生きてきた。今日、その生活が大きく変わるかもしれない。そう思うと、握っている康太の手に自然と力が入った。「お母さん?」「……何でもないわ」雪乃は慌てて微笑んだ。「もうすぐ着くからね」やがてタクシーが停まり、雪乃は料金を支払って外へ出た。目の前に広がった光景に、雪乃は思わず息を呑んだ。広大な土地。そして、その敷地の中には二軒の豪邸が並んで建っている。夜の照明に照らされた建物は、まるで別世界のものだった。ここが―――九条家。以前、自分が訪れた九条ホールディングスとは比べものにならないほどの、圧倒的な存在感。雪乃は思わず康太の手を握りしめた。―――本当に、ここへ来てしまった。一度は和真の子供だと言ってしまった康太。そして、そのことで心春を傷つけた。その事実を思えば、ここへ足を踏み入れることさえ怖かった。インターホンを押さなければならない。それなのに、指が動かなかった。雪乃は門の前に立ったまま、ただ黙って豪邸を見つめていた。「お母さん、どうしたの?」康太が不思議そうに見上げてくる。雪乃は小さく首を振った。「ううん……何でもないの」そう言いながらも、心の中では何度も自分を奮い立たせていた。―――逃げちゃ駄目。―――今日は、きちんと話をするために来たんだから。そのときだった。門の内側から、若い女性が歩いてくるのが見えた。そして、優しげな声で声を掛けてくれた。「神山雪乃さんと康太くんですか?」突然声を掛けられ、雪乃は驚いて顔を上げた。けれど、その女性の柔らかな笑顔を見ているうちに、強張っていた表情が少しずつ緩んでいった。「はい……」女性は頷くと、門の中へと促してくれた。「どうぞ」雪乃は一瞬ためらった。けれど、もう戻

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