Mag-log in「ちょ、とあんま、近寄んな」
窓際まで追い詰められ、
「浩美、どけ」
だが浩美は聞く耳を持たない。
さらに距離を詰めると、「いい加減、本当のことを言ってくれ。お前、本当に直樹なのか?」
整った浩美の顔が、目の前まで迫る。
「とてもじゃないけど信じられない。その顔も、仕草も……
浩美の口元がひくりと痙攣した。
「もしかしてお前……いや」
浩美の喉仏がごくりと上下する。
「……貴方は春さんなんじゃないですか?」
何も答えない相手を見て、浩美はさらに詰め寄った。
「答えて下さい。確かに貴方が春さんだとしたら、その姿は……あまりにもあの頃のままだ。でも、
責めるような浩美の物言いに、直樹は眉をひそめた。
「目?」
「そうだ。貴方の目、ここの老人たちみたいなんだよ。時間に疲れ切ったみたいな目をしてる。春さんも時々、そんな目をしてたから……」浩美は相手の目の奥まで覗き込もうとするように、さらに顔を寄せてきた。
互いの息が、至近距離で触れ合う。このままでは、心臓の音まで聞かれてしまいそうだ。
直樹は浩美の胸を押し返すと、ふっと嘲るように笑った。「浩美は……どうやら直樹より、春樹の方に帰ってきて欲しかったみたいだな」
降参、とでも言うように両手を上げる。
「でも残念。俺は春樹じゃないよ。がっかりさせてごめんね?」
薄く笑いながら、窓についた浩美の手首へそっと指を這わす。
途端、浩美が弾かれたように手を引く。「おい、なんでそんなに手が冷たいんだ。まるで死体──」
そこまで言いかけて、浩美ははっと息を呑んだ。
ふらりと一歩下がり、額を押さえる。「……ごめん、直。俺、変なこと言った。今のは忘れてくれ。急にお前が帰ってきたから、ちょっと混乱してて……」
髪を掻きむしる浩美に、直樹は弱々しく笑ってみせた。
「いや。いいよ、浩美。わかってるから」
直樹はそっと視線を逸らした。
閉め切れていないカーテンの隙間で、森の影が微かに揺れている。「……俺だって兄貴があんな消え方してから、ずっと混乱してた」
一瞬の沈黙を埋めるように、窓枠がカタカタと鳴る。
「兄貴がいなくなったあとも、しばらく信じられなかったんだ。だから、あの人の真似ばかりしてた。そうしてる間だけ、まだ兄貴が隣にいる気がして……」
直樹はゆっくり顔を上げ、目の前の浩美を見た。
「……俺が春樹に見えるのも、そのせいかもしれない」
しばらくして、浩美がためらいがちに口を開いた。
「もしかして、村を引っ越したのもそのためか?」
直樹は小さく頷いた。
「……そう、だね。あの日からふさぎ込むようになった俺を、カウンセリングに通わせるために、両親は村を出たんだ」
そう言って、自分の頬をぺちりと叩く。
「結局、今でも通ってるし……俺が年齢のわりにしょぼくれて見えるのも、そのせいかもな」
冗談めかして笑っていると、浩美がそっと肩に手を置いてきた。
強くはない。だが、その指先には確かな力がこもっていた。「直……もう、大丈夫なのか?」
真っ直ぐな視線に、直樹は静かに頷く。
「うん。だいぶね」
詰めていた息を吐き出す。
「だからこそ、ここにも来れたんだと思う。いい加減、気持ちの整理つけて前に進まなきゃって」
直樹は浩美の手を軽く押しのけると、わざとらしく伸びをした。
「ということで、しばらく村にいて、色々見て回るつもり。ここであったことって、嫌なことばっかじゃなかったはずだから。それをちゃんと確かめたいんだ」
浩美は納得したように頷いた。
張りつめていた目元が徐々に和らぐ。「そっか。なら俺が運転手やってやるよ。どうせ親父の方も、森の開発事業でしばらくこっちいるらしいし」
「浩美……」直樹はじっと相手を見つめた。
「さすがは『二世』だ。素晴らしくも堂々としたさぼり宣言」
言った瞬間、浩美の拳がこつんと頭に落ちてきた。
そのまま、ぐしゃぐしゃと髪を掻き回される。「おい、その『二世』様のおかげで村に滞在できることを肝に銘じろ」
「あーはいはい。そうでした『二世』様。ホント色々ありがとうございます」棒読みで返すと、さらに乱暴に髪をかき回された。
「おい。調子にのるなよ」
「とんでもございません。これで私の清き一票は貴方のものです」 「マジか。はからずも、お前の大事なもん手に入れちまったな。俺も罪な男だ」カッコつけて髪を掻き上げる浩美を見て、直樹は思わず吹き出した。
つられるように、浩美も笑う。そうして二人は、しばらく冗談を言い合いながら笑った。
──まるで、昔に戻ったみたいに。
新しく連載を始めさせていただきます。 お付き合いいただけると嬉しいです!(^^)!
「ふっ……」唇が重なり、吐息が溶け合う。 口づけの隙間から、〝それ〟が小さく笑った。その指が、からかうように浩美の髪をまさぐる。瞬間、浩美の理性がぶつりと切れた。 相手の身体を抱え上げ、そのままボンネットへ叩きつけるように押しつけた。〝それ〟は浩美の首へ腕を絡めたまま引き寄せ、さらに深く唇を重ねてくる。「んっ……!」下唇を甘く噛んだ瞬間、〝それ〟の喉から熱を含んだ声が漏れた。 その声だけで、浩美の身体に熱の波が走る。「お前が誰だか言わないなら、後悔することになるぞ」浩美が首筋へ歯を立てると、〝それ〟は小さく息を呑んだ。「最後までしたら……自然とわかるんじゃない?」吐息混じりの声。 同時に、〝それ〟の指先が浩美の首筋をゆっくりとなぞった。ぞくり、と背筋が粟立つ。 浩美は舌打ちしながら、相手の腰をさらに強く引き寄せた。「煽ってんのか」 「だって浩美、確かめたいんでしょ?」くすり、と笑う声。 その声音が妙に春樹に似ていて、浩美の呼吸が乱れた。気づけばシャツの奥へ手を滑り込ませていた。 指の下で白い肌が、ぴくりと震える。熱い。 指先に伝わる体温は生々しく、人間そのものだった。「……っ、浩美」名前を呼ばれた瞬間、喉がひどく渇いた。 〝それ〟の手が背中へ回る。浩美は衝動のまま、その唇へ噛みつくように口づけた。直樹はすぐに舌を受け入れ、熱を絡め返してくる。 荒い呼吸が、耳元で反響する。──これは、本当に誰だ?浩美は相手の唇を貪りながら、ぼんやり考える。春樹なのか。 直樹なのか。それとも──。ふと、ある考えが脳裏をよぎる。森には〝魔〟が住んでいる。 昔、神父様が聞かせてくれた話だ。故郷の森に棲む〝魔〟は、美しい青年の姿で人を惑わ
「やっぱり……お前は──」浩美は何かを言いかけては、何度も言葉を飲み込んだ。「貴方は、春さんの方だったんですね」口にした瞬間、堰を切ったように言葉が溢れ出す。「おかしいと思ってたんだ。貴方は直樹とは違う。似せようとはしてるけど……昨日だって、あの森で……」浩美は相手の両肩を強く掴んだ。「じゃあ直樹は……直樹は、一体どこにいるんですっ⁉」激しく揺さぶられても、〝それ〟は慌てなかった。 ただ、わずかに口元を緩める。「──さあ、ね」その瞬間、浩美の背筋がぞわりと粟立った。この、どこかすべてを諦めたような笑い方。 やっぱり、この人は春さんだ。「ねぇ、浩美」柔らかな声に、浩美ははっと顔を上げた。「前にも聞いたけど、君はどっちの方がいい?」〝それ〟の手が、そっと浩美の頬にかかる。 その指先は氷のように冷たい。「初恋の春樹の方がいい? それとも親友の直樹?」低く囁かれ、浩美の喉がひくりと震えた。「言ってよ。好きな方になってあげるから」 「やめ、ろっ……」浩美は片手で相手を押し返した。 だが、思うように力が入らない。一歩下がった〝それ〟は、降参、とでも言うように両手を上げた。「本気なんだけどねえ」あまりにも緊張感のない声だった。 その瞬間、浩美の中で何かが切れた。「春さん……っ!」衝動のまま、浩美は〝それ〟の腕を掴んだ。 そのまま相手の身体をボンネットへ押しつける。背中を強かに打った〝それ〟が、「痛っ」と短く息を漏らした。その顔を見た瞬間、浩美の身体の奥で熱がじわりと広がった。「クソッ!」浩美の拳が、直樹のすぐ脇のボンネットへ叩きつけられた。 ボン、と鈍い音が空き地に響く。「お前は一体……どっちなんだっ……!」
瞬間、浩美はハッと視線を上げた。 目の前には、ゆるやかな笑みを湛えた直樹が立っていた。──いや、違う。浩美は大きく目を見開く。これは、直樹じゃない。──じゃあ、こいつは一体……?「どうして……?」ようやく絞り出した声は、ひどく乾いていた。 浩美は瞬きも忘れて、直樹を見つめる。「そのことを知ってるのは、俺と春さんしか……」 「もちろん、知ってるよ」ふっと笑った直樹の吐息が、すぐ近くに落ちる。「春樹のことなら、何でも知ってる」ため息混じりに言うと、直樹は浩美の腕へそっと手をかけた。「それに、浩美の態度を見ればわかる。妙に俺と距離を取ろうとしてるし」浩美の腕に添えられた指先が、ゆっくりと肌に食い込む。「浩美は最初っから、俺を春樹に重ねてたんだよね?」細められた直樹の目が、蛇みたいに妖しく細められる。「──自分が抱いた、あの人に」 「……っ!」浩美は反射的に直樹の手を振り払った。「俺に近づくな」ごくり、と喉が鳴る。「あのことを知ってるなら……なんで俺に近づくんだ」引きつった笑みが、浩美の口元に浮かぶ。「また俺が、同じことをすると考えないのか?」笑おうとしているのに、うまく笑えていない。 浩美は、自分でもそれがわかっていた。「何をしてもいいよ」かすかな衣擦れの音。 気づけば、直樹がすぐ目の前まで迫っていた。逃げ道を塞ぐように、浩美の背後のボンネットへ片手をつく。「ねぇ、浩美?」耳元で囁かれ、浩美の肩がびくりと震えた。「俺がどっちか知りたいって言ってたよね?」その声は、森の奥から響く囁きのように静かで、甘かった。「なら試してみれば?」直樹は浩美の手首を掴むと、自らの胸元へ導いた。
浩美は空き地へ視線を逸らした。「……村で過ごした記憶がないってのは、本当なのか?」 「本当だよ」直樹は、葉擦れに紛れるような声で答える。「まぁ、少しは覚えてることもあるけど」 「……じゃあ、あの日のことは?」 「兄貴がいなくなった日のこと?」直樹は、子どものような仕草でふるふると首を振った。「それなら、まったく覚えてない。残念だけど」浩美の喉から、乾いた笑いが漏れる。「そんな都合のいい話、あるのかよ。映画やドラマじゃないんだし」 「仕方ないだろ。周りのみんなが『忘れろ』『忘れろ』って、ずっと言ってたんだから。ほら、俺、素直な子どもだったし」冗談めかした口調。 その軽さが、逆に浩美を苛立たせた。それでも直樹は、他人事みたいに肩をすくめた。「カウンセリングで処方された薬の影響もあるかもね。安定剤とか睡眠薬とか。そのせいで記憶力が鈍っちゃったのかも」 「自分が春樹か直樹かわからなくなるくらいにか……?」直樹の目が、ゆっくり細められる。「ずいぶん、つっかかるね」ぬかるんだ草地を踏みしめながら、直樹はゆっくり浩美へ近づいていく。 ぐちゃ、と湿った音が足元で鳴った。「そんなに気になる? 俺がどっちなのか」直樹は楽しむように目を細めた。浩美は息を呑む。 相手がこれ以上近づかないように、手で遮る。しかし直樹はその顔を覗き込むように、さらに距離を詰めた。「もう一回聞くけどさ。浩美は、俺にどっちでいて欲しいわけ?」唇がゆるやかな弧を描く。「やっぱり春樹?」 「何を言って──」それ以上相手を直視できず、浩美は顔を背けた。 だが、耳元に直樹の吐息がかすかに触れる。「ねぇ、答えてよ」クスクスと笑う声に、浩美の全身が粟立った。「ふざけてる場合かよ!」相手の勢いに、直樹は一歩
「お前、何言ってんだ」浩美の声に険が混じる。「お前の方はどうなんだよ。さっき〝神父様〟に言ってたよな、記憶がないって。それが本当なら、お前が直樹だって根拠はますます怪しくなる」浩美は運転席に座る男を鋭く睨みつけた。「記憶がないのを俺に黙っていたのは、わざとか?」 「言いがかりだよ。全部忘れた訳じゃない。所々は覚えてる」浩美は唇を噛みしめて、目の前の男を凝視する。「その記憶だって、本当にお前自身のものかわからないだろ。お前ら兄弟はいつも一緒だった。同じものを見て、同じ話を聞いて……」わずかに開いた窓から乾いた風が吹き込み、浩美の髪を巻き上げた。「お前が直樹のことを知ってるからって、本当に直樹だとは言い切れない。なぁ、お前、本当はどっちなんだよっ……!」耐えきれなくなったように、浩美は両手で顔を覆った。 かすれた吐息が、指の間から漏れる。直樹はそんな幼なじみを横目で見やった。「……〝神父様〟の見立てはどうだったの?」直樹の冷えた声が車内に落ちる。「〝神父様〟は……」浩美は息をつき、絞り出すように言った。「お前が直樹だって、すっかり信じてたよ。あの人は昔から、お前ら兄弟には甘かったからな」ふと浩美はある異変に気が付いた。 窓の外へ視線を向け、眉をひそめる。「……おい」道路脇を流れていく景色は、いつの間にか密集した木々に変わっていた。「どこ行くんだ? コテージ、とっくに通り過ぎてるぞ」直樹は何も答えず、ただハンドルを握り続ける。 その腕に落ちる木漏れ日が濃さを増していく。「おい、聞いてんのか」浩美は直樹の腕を掴んだ。 だが相手は微動だにせず、短く言った。「森だよ」※森へ続く林道の終点には、大きな空き地がある。 バブル期に別荘地として開発されかけ、そのまま放棄された土地だ。「へぇ
一瞬きょとんとしていた〝神父様〟は、慌てたように笑みを浮かべる。「あんなことがあったんだから当然だよ。忘れてしまった方がいいこともある」そう言って、〝神父様〟は直樹の手にフォークを握らせた。「さぁ、この話はもうおしまい。それより、早く食べて感想を聞かせておくれ」促されるまま、直樹はおずおずとパンケーキを口に運んだ。「……おいしい」 「そうだろう、そうだろう」〝神父様〟は満足げに何度も頷く。焼きすぎて少し固くなった表面。 けれど、中は驚くほど柔らかく、ほんのり酸味があった。甘い香りとともに、忘れていた記憶がゆっくり浮かび上がってくる。昔、直樹は兄の後ろばかりついて歩いていた。 〝神父様〟の家へ通っていたのも、春樹のあとを追いかけていたからだ。ここへ来るたび、〝神父様〟は色んなものを見せてくれた。大きな望遠鏡。 色とりどりの鉱石。 七色に光る蝶の標本。幼い直樹が目を輝かせて〝神父様〟の話を聞く横で、春樹はいつも静かに本を読んでいた。 午後の日差しの中、ページをめくる白い指だけがゆっくり動く。まるで、昔読んだ絵本の一場面みたいだった。懐かしさが胸の奥にじわりと広がり、直樹はそっと目を伏せた。※「もしかして、俺をけしかけた?」〝神父様〟の家からの帰り道。 ハンドルを握りながら、直樹は助手席の浩美を横目で見た。事の発端は今朝。 突然コテージへ現れた浩美は、「懐かしい人に会いに行くぞ」と半ば無理やり直樹を車へ押し込んだ。 その行き先が、〝神父様〟の家だったのだ。「浩美は……」新緑の林道を眺めたまま、直樹はぽつりと呟いた。なぜ、浩美が自分をあそこへ連れて行ったのか、なんとなくわかっていた。「俺を試そうとしてたんでしょ?」車内から音が消えた。 鳥の歌声がのどかに響き、木漏れ日が窓から|燦燦《さ
どれほどそうしていたのか、自分でもわからなかった。「直樹」不意に名を呼ばれる。 ハッと振り返ると、すぐ目の前に浩美がいた。知らないうちに、直樹は窓際まで近づいていた。 背中がひやりとガラスに触れる。すっと浩美の手が伸びてくる。一瞬身構える。 だが、その手は直樹の腕を軽く掴み、もう片方の手でカーテンを閉めただけだった。 まるで森の気配を遮るように。「直、って呼んでいいんだよな? お前はちゃんと直樹──高谷家の弟の方なんだよな?」浩美は真正面から直樹の顔をじっと見つめてくる。「……あ、あぁ」夢から引き戻されたような気分のまま
沈黙が車内を支配する。「……俺は直樹だよ」そう言ったあと、直樹はたまらず吹き出した。 こんな質問をされるとは思わなかった。「当たり前だろ。兄貴──春樹は、あの日からずっと行方不明なんだから。残ってるのは俺しかいない」はははと笑うと、浩美もつられるように笑った。「そう、だよな……」けれど、その声はどこか弱々しかった。「それより、ちょっと仮眠していい? ここまで歩いてきたから、もうへとへとなんだ」答えを待たず、直樹は窓に頭を預ける。 どこまで行っても変わり映えのしない森が、車窓の向こうを流れていった。故郷の村は、市街地から車で一時間ほど走
──暗い森には悪魔が住んでいる。子どもの頃、村の大人たちは本気でそう言っていた。 ※「そこのお兄さん、乗っていかない?」村へと続く林道を歩いていると、横を通り過ぎていったはずの車がバックし、すぐ脇に止まった。メタリックなカマキリ色。 奇抜な車から顔を出したのは、見覚えのある男だった。「──浩美ちゃん」 「おい。いい加減、その呼び方やめろ」ずっこける真似をした西原浩美は、気を取り直したようにサングラスを鼻先までずらした。「で、どうする?」まるで洋画のワンシーンみたいな気障な仕草。 だが華やかな顔立ちの浩美がやると、不思議
直樹は思わず足を止めた。 振り返った影の顔は、兄にしては幼すぎた。(あれは──)「……直、樹?」足を緩めた隙に、子どもは木立の奥へ消えていた。 葉をかき分ける音だけが、徐々に小さくなっていく。自分の粗い呼吸音だけが鼓膜に響く。あの子は誰だ? なぜ、昔の自分と同じ顔をしていた?直樹は、泥と血で汚れた手で髪を掻きむしる。──じゃあ、ここにいる俺は誰なんだ?叫びが喉元までせり上がった、その時だった。「おいっ!」