Masuk見るからに、弦は父親から結婚の催促をされすぎて嫌気がさしている。そもそもまだ縁が訪れていないのだから、弦から探しに行く必要はないと言われている。その運命の女性は自然と現れて、いつか知り合うことになると。彼の父親はせっかちで、息子はいい年なのだから、自分から動かず運命に任せていたら一体いつになるのかと言っている。もし神様が居眠りしてしまってすっかり弦の事を忘れたら、一生独身で終わるのではないかと心配しているのだった。弦はそれには納得できない。そんなに焦るほどの年でもないだろう。まだ三十過ぎだぞ。四捨五入すれば、四十の仲間に入るが、四十歳はまだまだこれからの年齢で、若いうちじゃないか。現代人は長生きになっているし、自分の健康状態から見れば、百歳まで問題ないと弦は思っている。だから、三十過ぎの今独身であっても、焦ることはない。玲凰は思わず笑い出した。「結城おばあ様もきっと九条さんの父親が鬱陶しく思って仕方なかったんでしょう。それであの占い師の方を紹介してお父様を落ち着かせようとしたんです」それがまさかこんな結果になるとは誰も思っていなかった。あのものすごく力のある九条寛哉が本気で結婚のプレッシャーをかけてきたら、本当に背筋が凍る。それで九条家の他の若者世代は自分が結婚適齢期に入り恋人がいないとみんな逃げていくのだった。出張か海外へ行くか、どのみち星城にはいない。寛哉が彼らにターゲットをしぼるのを恐れているからだ。ここまで寛哉が弦に対して結婚を急かしてくる様子を見て、弦のボディーガードたちも彼らの結婚にまで関わろうとするのではないかとビクビクしていた。「九条さん、お父様にそこまで結婚の圧力をかけられて同情はしますけど、そのいらだちを私に向けられては困ります。もらったプレゼントは開けずに置いてあります。今日いらっしゃったのだから、全部持って帰っていただけませんか?」姫華は弦のせいで自分や周りに被害を拡大させていることに不満をもらした。「さっさと九条さんにお返ししたかったんですけど、そちらのお父様に知られたら恐ろしいことになると、ずっと言えずにいたんです」弦は気にしていないらしくこう言った。「それなら、誰かにあげてしまったらいいですよ。それか捨ててしまっても構いません。だから絶対にうちには送り返さないでくだ
姫華は弦の自分に対する気持ちは偽物だとわかっている。それに彼女は名家出身でそもそもお金なら腐るほどあるのだから、高価な物に囲まれているし、弦の沼にはまることはない。弦から贈られた物の中で、花は捨ててしまうが、他の物は一か所に山積みとなり、一度も動かしたことはない。弦がこのわけも分からない行動を止めてから、一気に彼に返すつもりだ。姫華は最低でも善と婚約するか、結婚してからやっと、善と一緒にそのプレゼントを全部弦に返せると思っていた。今返してしまえば、弦の父親がこの事を知ってしまうだろう。今、その九条寛哉がどれだけ狂った行動をしているか神崎家もよくわかっている。寛哉は今一心不乱に息子をどうにかしようと奔走している。もし、弦が姫華に興味を示していると知れば、彼は姫華の気持ちなど無視し、結婚の申し込みをしに神崎家に来るに決まっている。姫華は弦の行動にはもう頭を抱えていた。もし、そこに彼の父親まで加われば、さらにややこしい状況になってしまう。それで彼女は我慢しているのだ。もちろん、姫華の家族もこの状況に耐えている。善ですらも、どうにもできない状態だ。善が今できることと言えば、姫華のことを今まで以上に大切にし、神崎家では態度を良くして評価を上げることくらいだ。毎回弦が花に、その他のプレゼントを贈ってくれば、善も同じ種類のプレゼントを姫華に渡して、弦には彼女の心につけ入る隙間を与えないようにしていた。すると弦はすぐにやって来た。この時の彼は手に何も持っていなかった。買った物は全て神崎家の使用人に任せ、運んでもらっている。「あれ、みなさんお揃いなんですね。まさか私が来ることがわかっていて、わざわざ待っていてくれたんですか?」弦は神崎家の面々が揃っているのを見て、気分良さそうに笑った。そしてソファが空いていないのを見ると大股で颯爽と歩いてきて、善のところまで行き笑って言った。「桐生さん、ちょっと横によけてもらって私も座ってもいいですか」善は今詩乃と航の目の前に座っていた。弦が善と一緒に座れば、ちょうど詩乃夫妻の目の前で、どちらのほうが良いのか比較できるだろう。善は笑って立ち上がった。「九条さん、どうぞお座りください」彼は弦に席を譲ると、姫華のところまで来て、一緒に座った。執事が大きな花束を抱えて入ってきた
姫華は少し黙ってから尋ねた。「本当に少しも証拠が見つからなかったの?」「今のところはな。調査する時間の問題だろう。時間をかけて調べれば何か掴めるかもしれない。だけど、あまり期待は大きくないぞ。なんといってももう数十年も前の話だ。何か綻びはあったとしてもそれはすぐに覆い隠されているはず。さっさと証拠なんて消されているよ。もしかすると、この件をよく知る人間はみんな死んでいるかもな」姫華は黙った。詩乃は娘に言った。「姫華、この件はあなたは心配しなくていいから。お母さんには時間があるから、ゆっくり証拠探しをするわ。お母さんが動けば、いつか必ず証拠が見つかるから」「おば様、僕の兄に言って、奥さんの実家のご兄弟に手伝ってもらうよう言います。それに、土屋社長に頼んでみるのも良いかと」土屋晃成(つちや こうせい)という人物は藤堂家の娘婿であり、藤堂家というのは九条家と同じく情報収集に長けた一族だ。「必要な時には、そうさせてもらうわね」詩乃はそれを断わることはなかった。人は多いほうがいい。それに専門家のほうに任せるのがやはりベストだろう。「後で電話で兄に一応伝えておきます」善はこれは自分をアピールできるチャンスと捉えた。未来の義母となる詩乃を手助けし、彼女の両親の死因を調査することができれば、彼女から高く評価してもらえ、高得点が得られるはずだ。点数稼ぎをすれば姫華とゴールできる日もそう遠くはない。執事がこの時やって来て、まずは姫華のほうを見て、それから詩乃に言った。「奥様、九条家の弦様がいらっしゃっています。またお嬢様に花束と宝石、それから他にもプレゼントを持ってこられたようです。彼一人だけでいらっしゃっています」その場にいた全員言葉を失った。弦が姫華に「つきまとい」始めると、本当に衛星のように周りをうろうろと、姿を消すことがない。弦本人が顔を出さなくても、姫華にプレゼントを送ってくると善が毎日ピリピリしてしまうので、姫華もすっかりどうしようもなくなっていた。そのせいで、善は仕事の時間よりも姫華と一緒にいるほうに時間を割いていた。目を離した隙に、姫華が弦に連れていかれてしまうのではないかと不安なのだ。そして裏では、善も弦に会って、姫華に対する態度は一体どういうことなのか尋ねたりもしていた。弦は、ただ姫華と一緒
詩乃が話し終わってすぐ、姫華と善が急いで中に入ってきた。執事がやって来て二人に玲凰が呼んでいると伝えたので、何かあったのではないかと思い、彼らは急いで駆けつけてきたのだ。「お母さん、お兄ちゃん、何かあった?」姫華は二人のほうへ歩きながら尋ねた。両親と兄の深刻そうな顔と、母親が何かの資料を手に持っているのを見て、姫華はまっすぐに母親の隣に来て座った。そして、母親の手からその資料を取り、続けて尋ねた。「お母さん、これなに?」善も心配そうに詩乃を見つめていた。彼は玲凰から近いところに腰をおろした。姫華の隣も空いていたが、詩乃はまだ彼への態度が少し良くなっただけで、受け入れてはいないから、善は詩乃がいる前で姫華のすぐ隣に座るのは避けた。「大丈夫よ、お兄さんが柏浜の黛一族について調査してくれたのよ。それを整理した資料を持って帰って見せてくれたの。あなたは桐生さんのお宅にいたのでしょう?内装は進んでいるの?」詩乃は善をちらりと見てから娘に尋ねた。姫華はその資料を見ながら返事をした。「お兄ちゃんが私と善君に帰ってこいって言ってるって聞いて、何かあったのかと思って急いで帰ってきたのよ」詩乃は笑って言った。「なるほどね、おかしいと思ったら、それで二人が一緒に来たのね」詩乃は突然、娘と善が一緒になるのを受け入れるのも、良いことだと思った。善は確かにA市出身だが、彼は今星城に家を持っているし、内装中の屋敷も神崎家のすぐ隣にある。こんなに近いのだから、家で何かあった時には二人に声をかけたら五分もせず、すぐに帰ってこられる。もし二人が本当に結婚して一緒に暮らすようになれば、姫華は毎日何十回でも実家に帰ってくることができる。「内装はまだ完全に終わっていません。僕も焦っていないんですよ。業者にはゆっくりでも細かいところまできちんと工事してもらえればいいですから」内装についてそう返事をしたのは善だった。あそこは彼と姫華が一緒に暮らす家だ。だから絶対に少しも気を抜かず最高のものに仕上げなければならない。細かいところをどのような内装にするか、材料は何を使うのか、彼は全て姫華と相談した。庭のどこに木や花を植えるのかも姫華の意見を取り入れた。つまり、全て姫華の好みに応じて工事している。善が彼女のためだけにつくる家だからだ。彼女に気
詩乃はテレビのリモコンを手に、ひたすらチャンネルを切り替えながら、夫に言った。「最近のドラマって本当につまらないわ。昔のドラマのほうがやっぱり面白かったわね。俳優もなんだかどれも同じって感じだし。私が時代に追いつけていないのかしら、私の見る目がないの?」航は笑って言った。「君は昔からずっとテレビを見るのはあまり好きじゃなかっただろう。それに見るような時間もなかったし。集中してテレビを見たことなんて今まであったっけ?音楽でもかけて聴いたらどうだい?」彼の妻はできるキャリアウーマンだった。退職する前は仕事を中心に生きてきた。毎日仕事にかける時間が多く忙しかったというのに、テレビを見る暇などどこにあるだろうか。昔、子供たちがまだ小さかった頃、忙しい仕事を終わらせると、妻は三人の子供の勉強をしっかりと見ていた。そして、いつも子供たちが夜寝るとすでに夜中過ぎになっていた。そんな時間にテレビを見るような気力があるはずがない。そしてその翌日にはまた新しい一日が始まり、仕事に出かけるのだ。長男が神崎グループを継ぐ才能があったから、夫婦二人は引退して家でゆっくり過ごし、もう会社の事にはノータッチで、詩乃にはやっと穏やかな日々が訪れた。詩乃はそんな自分の半生を思い出し、言った。「本当にそうね。若い頃から今まであまりテレビなんて見なかったから。それより、バッグヤードで何か野菜やら果物やら育てるほうがいいかも」「何か育てたいなら、夕方太陽が西に沈んで、暑さが和らいでから、耕しに行こう。ある程度の広さの畑ができたら、野菜やら果物やら植えようか。家の前にある庭には君の好きな花を植えて、毎日水やりして世話をしていれば、きっと面白いはずだ」神崎グループの管理中枢から退いた後、夫婦もパーティーなどにはあまり参加しなくなっている。仲の良い人から誘われれば顔を出す程度だ。この時、どっしりとした足音が聞こえてきて、航は言った。「玲凰が帰ってきたようだ」詩乃は頷き、部屋の入り口のほうへ目を向けた。するとすぐに背のスラリと高い長男の姿が詩乃の視界に入ってきた。彼は流星の如く颯爽と両親の前までやって来た。玲凰は手にファイル入れを持っていた。それを見た詩乃は息子に調査を頼んでいたことを思い出し、テレビの電源を切り、長男に近づいて尋ねた。「玲凰、はっきりとわかった?」
成瀬家は、莉奈が黙ってこっそり俊介と結婚したことを責めているだけであって、娘の死を望んでいるわけではない。だから、彼らは話し合った後、最後には娘に弁護士をつけることに決めたのだ。少しでも娘の罪を軽くできるようにと思ってのことだ。莉奈の兄とその嫁は実際莉奈のことなどどうでもよかったのだが、両親からひどく怒られてしまった。そして最近になってようやく両親の話を受け入れ、ある程度のお金を使って妹に弁護士を雇った。英子夫婦は実際見間違えたわけではない。彼らは実際、成瀬莉奈の両親だった。彼らは病院を見つけて来て、娘の夫である俊介に娘を寛大に許してやってほしいと頼みに来ていた。俊介が情状酌量の嘆願書を出してくれれば、娘は減刑される。莉奈の親が俊介に嘆願書を頼みにやってくれば、俊介の両親から大反対されるはずだ。これらの事を唯月は知らないし、構いたくもない。彼女には無関係な話だ。唯月と佐々木家を結ぶ唯一の存在は陽だけだ。……神崎家にて。外出していた玲凰が家に帰ってきた。彼の乗る車が善の屋敷の前を通り過ぎる時、彼はちらりとそちらを向いた。すると妹が善の家にいるのに気づき、彼は車を停めようと思ったが、結局は自分の家の敷地内まで運転していった。妹と善は付き合っていて、妹も彼のことが好きだ。善の実家はA市にあるとはいえ、善は星城に家を二つも持っている。そして今内装工事中のこの家は神崎家と隣同士だ。事実、玲凰も善のことを高く評価していた。アバンダントグループも神崎グループも提携話が持ち込まれている。そしてそれを担当するのは、もちろん善だ。この提携話は、蒼真が弟のために、将来の妻の家族と仲良くするためのきっかけをつくるために与えた機会だった。提携の機会がなくとも、玲凰は善を評価している。主に、善も妹のことを非常に愛している。しかしだ、母親があのように娘を遠いところに嫁に出したがらないので、玲凰も母親と少し同じ気持ちになってしまった。それで、善の味方をすることもないし、邪魔をすることもせず、自然に任せているのだった。少し前まで、九条家の弦が妹を口説きに来ていた頃、玲凰は両親の善に対する態度がかなり変わったことに気がついた。この時、両親が家にいるのに、妹が善の屋敷のほうにいて、内装の確認をしているということは、つまり
牧野明凛は口を尖らせて言った。「ちょっとブサイクなのよね。容姿が良くない男と結婚したら、生まれる子供だってブサイクでしょ。あなた達みたいにやっぱり夫婦どちらも容姿が良いのが一番よ。そしたら、生まれてきた子供だって可愛いでしょ」彼女は親友のように向上心のあるサラリーマンと結婚するのには賛成だ。結城理仁は名家の出身でなくても、彼は自分の能力で結城グループに入りホワイトカラーになったのだから。結城グループ本社に入れる人は、どの人もエリート中のエリートなのだ。内海唯花「……あんまり小説ばっかり読まないほうがいいわよ。明凛は小説の読み過ぎで、自分もその中のヒロインみたいに若くてカッコよくて、
「牧野さん、もっとゆっくりしていってくださいよ」河西は優越感に浸り、それを見せつけるのに力を入れているところなのだ。今牧野明凛を帰すなんてそんなもったいないことはしたくなかった。「河西さん、すみません、私たち合わないと思います。今後会うこともないでしょう」牧野明凛は直球ストレートで彼に投げつけると、内海唯花の手を引いて去っていった。歩いていると、親友が突然立ち止まって動かなかった。「唯花、どうしたの?」「私の夫だ」「はあ?」牧野明凛がまだそれに反応する前に結城理仁が二人の前に現れた。彼は深く沈んだ漆黒の瞳を内海唯花に落とした。口角を少し上げて何も言わなかった。しかし、内海唯花には彼から漂ってく
週末、実は店は暇だった。一日を通して特に商売になるような状況ではないので、別に店を開ける必要はなかったのだ。内海唯花が店に来たのは、静かにネットショップで売る商品を作ることができるからだ。そこへ牧野明凛もやってきた。内海唯花が店にいるのを見て、牧野明凛はとても驚いて言った。「唯花、今日は日曜日だよ。どうして来たの?いつもなら甥っ子を連れて公園に遊びに行ってるじゃない」「ネットショップに新しい商品を出さないといけないから」内海唯花は売る小物をハンドメイドしながら、頭を上げて親友に笑って言った。「あなたこそどうしたの?」「聞かないで。お母さんにぶつくさ言われて耐えられなかったから店まで来たんだから
内海唯花は姉に夜、結城理仁と一緒にごはんを食べに行くと返事した。姉妹二人が電話を終えた後、結城理仁がひと言尋ねた。「君と親戚は仲が悪いのか?」「そうよ」内海唯花は隠さずに、また嘘もつかずに話し始めた。「私が十歳の時、両親は交通事故に遭って死んじゃったの。父方の親戚と母方の親戚は誰も私たち姉妹を引き取ろうとしなかった」「でも、両親の事故の賠償金は持っていったわ。次から次にお金を分けて持っていったの。兄弟、おじ、甥姪にはお金をもらう資格なんてなかったから、おじいさんたちにお金を奪わせようと裏で手を引いていたの。私のお父さんは四番目よ、祖父母は父をそんなに大事にしてなかったの。他の兄弟、つまり私のお







