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第1371話 番外編十九

Author: 花崎紬
澈は微かに体を揺らし剛を見上げた。

ベッドに寝転がっていた二人のルームメイトは、物音を聞いてそっと下を見た。

「剛、ゆみと澈が知り合いでも別にいいじゃないか。そんなに怒る必要ある?それに、既に一発殴ったじゃないか」

「関係ないお前らは黙ってろ」

剛は椅子に座り、足を机の上に乗せた。

「止せよ。これからも卒業まで同じ寮で過ごすんだから、仲良くしようぜ」

剛は彼らの言葉を無視し、LINEを開いた。

しばらく考えてから、彼はゆみにメッセージを送った。

「今何してる?」

その時、ゆみは母の膝の上に寝転がり携帯をいじっていた。

剛のメッセージを読むと、嫌悪感を込めて「ちっ」と舌打ちした。

「どうしたの?」

その音を聞き、紀美子がゆみを見た。

「お母さん、あんまり親しくない人に友達を殴られたらどうする?」

ゆみは唇を尖らせた。

「原因と、どちらが悪いかによるわ」

紀美子は手に持っていたブルーベリーをゆみの口に入れた。

「あんまり親しくないほうが悪い場合は?」

ゆみはもぐもぐしてすぐに飲み込んだ。

「もちろん友達の味方をするわ。我慢すればつけあがる人もいるからね。早めに手を打つ方がいいわよ」

「なんだか、お母さん最近ますますお父さんに似てきたね」

ゆみは起き上がって笑いながら紀美子をからかった。

「お母さんをからかうんじゃないわよ。それより、何があったの?」

紀美子は笑みを浮かべ、さらに二つのブルーベリーを彼女の口に放り込んだ。

「別に」

ゆみは首を振った。

「どうしたの?」

そう言いながら、彼女は剛に返信した。

「暇なら遊びに行かない?」

剛はゆみを遊びに誘った。

「いいけど、どこに?」

「学校の近くに新しくできたカラオケ、知ってる?」

ゆみは唇を尖らせた。

そこはMKが経営する娯楽施設だ。

知らないわけがなかった。

「いいよ。何時に会う?」

ゆみは少し考えてから、口角を上げた。

「8時半でどう?」

「わかった。じゃあ後で」

「了解!」

携帯を置くと、剛は急いで立ち上がり、クローゼットを開けた。

何着か服を引っ張り出し、いくつかコーディネートを試すと、シャワーを済ませワックスで髪の毛をセットした。

「剛、出かけるのか?」

ルームメイトたちは不思議そうに彼を見て尋ねた。

「ああ、ゆみとデート
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