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last update Last Updated: 2025-07-03 22:22:01

「災難でしたね、和巳さん」

「あはは、これくらいどうってことないよ。よくあることじゃん?」

よくあったらマズい気がする。

あと一回女子トイレに入ろうとしたら、確実に裏に呼ばれていたと思う。

和巳さんのズボンが無事に乾いた頃、店を出て駐車場へ向かった。彼には助手席に乗ってもらい、自宅へと車を走らせる。

「鈴は本当に立派になったな。大人になっても揺るがない可愛さ、俺の自慢の弟だよ」

「かわ……あ、ありがとうございます」

運転中ということもあるし、隣はしっかり見られない。けど今の自分は変な顔をしてるだろうから、この位置で良かったと思った。

弟か……。

そう思われてるのなら、その方が都合がいい。

“本当の自分”を隠さないときっと幻滅される。

俺が同性愛者だと知ったら、さすがの彼も接し方が変わるだろう。

この六年、彼から離れて自分という人間を直視した。成長する過程で変わったのではなく、成長したことで分かったのだ。同性愛者という、自分の特殊な一面を。

ため息をつきたくなるのを堪え、何とか家に安着した。彼の荷物を下ろし、昨日掃除した部屋へと案内する。

「和巳さん、長旅お疲れ様です。今日はもうゆっくり休んでください」

「ありがとう! へぇ、ここが鈴の部屋か。綺麗に片付いてるし、やっぱ性格が出るよな」

昨日までは散らかり放題だったんだけど、そこは黙っておいた。和巳さんは子どものように目を輝かせて、興味津々で部屋の内装を見ている。

「鈴、エッチな本とか持ってないの?」

「エッ……!? あ、ありません! 全て電子書籍で読んでるんで!」

「電子書籍ではたくさん読んでんだ」

「たくさんは読んでません! 読んでも、それは人生経験としてですね……」

BLを読んでます。なんて言ったら、和巳さんはどう思うだろう。

何て言うかな。この嘘つきキモ男と言われてしまうんだろうか。本当は大量のBL漫画をラックに隠してあることを知ったら……。

「和巳さん、今日は俺の家に泊まって……明日は、実家に帰るんですか?」

とりあえずゴニョニョ言って話を逸らす作戦でいこう。温かい紅茶を用意して、彼の元へ運んだ。

「あぁ。帰らなきゃ、だよな」

「えっ?」

彼の反応に少し違和感があったから、俺は目の前の座椅子に腰を下ろした。

「ど、どうかしました?」

「いや……ごめん、何でもない。今夜はここに泊まらせてもらって、明日家に帰るよ。俺が戻ったってことで、親戚も皆集まるみたいだから」

鈴鳴は頷いた。和巳の言うとおり、明日は祖父の家で親族が集まる用事がある。

三ヶ月に一度のペースで情報共有、酷い言い方をすれば会社の業務報告のような家族会議を行う。ただ鈴鳴は学生のため、二十歳になってからも参加したことはなかった。

今回和巳はその席に呼ばれているのだが、どうも顔色が浮かない。行きたくないんだろうか。

その理由は、何となく勘づいていた。規律や格式にうるさい家系だから、また突飛な要求をされるかもしれないと恐れているのだろう。以前母から聞いたことがある。

伯父や伯母は以前から、和巳の縁談を幾つも調整している。しかし彼が縁談に乗り気でないことは母から聞いていた。

もしとんとん拍子で話が進めば、彼はさらに手の届かない場所へ行ってしまう。

それも仕方のないことだった。彼の幸せを考えれば、温かい家庭を築くのは大切なこと。

ただそれまでは……少しでも彼の傍で、今まで尽くしてもらった分を返していきたい。彼を笑顔にしたい。

「和巳さん。もし良かったら……明日、俺も一緒に行きましょうか?」

「え。いいの?」

「はい。明日は土曜日だし、学校もバイトもないので」

出過ぎた提案かと思ったけど、彼はみるみる笑顔になり、俺に抱きついてきた。

「ありがとう鈴! 情けないけど正直めちゃくちゃ行きたくなくて……でもお前がいたらむしろ余裕だよ!」

「あはは、それなら良かった。俺はいてもいなくても一緒の集まりですけど、お付き合いしますよ」

彼の笑顔が見られただけで、もう言うことなかった。やっぱり和巳さんの笑顔は癒される。

「じゃ、お風呂入って早くゆっくりしましょう。用意しますんで、和巳さんお先どうぞ」

「ありがと。なんなら、一緒に入る?」

「え!?」

思わぬ台詞に硬直した。けどすぐに笑って否定される。

「はは、冗談だよ。昔はよく一緒に入ってたな、って思って。まぁそれお前が小学校低学年のときだもんな」

「あ……はは、そうでしたね」

良かった、ドキドキした。でも、同時に少しがっくりきてるのは何でなんだか。

「じゃあお言葉に甘えて、先に風呂もらうよ」

「はい、行ってらっしゃい」

手を振って見送る。何だかやっぱりハラハラした。

あ、そうだ。今のうちにエロ本もっと奥に隠しとこ。

和巳がいなくなったのを良いことに、鈴鳴は隠してた宝物達をさらに見つけにくい場所へせっせと移動した。

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  • 余計なお世話係   1

    ねぇ和巳さん。和巳さんがいなくなった日のこと、思い出したくないけどよく覚えてるよ。冬の終わり。吸い込んだら喉がカラカラになりそうな風が吹く中、一緒に空港の周りを歩いた。フライトの時間まで残りわずか、何度も時計を確認した。いつ戻って来るのか。向こうで何を学ぶのか。……俺と、これからも連絡を取り合ってくれるのか。本当は訊きたいことが山ほどあった。けど和巳さんは俺が話す隙を与えず、心配そうに色々話してたっけ。勉強のこと、進路のこと、両親のこと。「無理しちゃだめだよ」って繰り返していた。何度も肩を落としては持ち直し、そして俺を見つめていた。彼だって、一人で異国の地に飛び立つ。今も不安で仕方ないはずなのに、口から出るのはやっぱり俺のこと。俺は中学二年生で、和巳さんは高校三年生。もうそこまで心配されるような歳じゃないけど、彼は最後まで俺の心配をしていた。見てきた景色も、立っている場所も全然違う。それでも心は繋がっている。地球を覆うこの青い空のように、全ては同じところに存在している。距離なんて大した問題じゃない。俺にそう教えてくれたのは他でもない、彼だった。触れたい時に触れられない。聞きたい時に声を聞けない。辛いことだ。でも、それはさほど珍しいことじゃない。例え同じ家に住んでいたとしても、心がすれ違えば触れられない。声を聞けない。遠い国にいるのと同じなんだ。心がすれ違ってしまったら。だから誰かを想う心に勝るものはない。絶対、会える。どれだけ遠い地にいても、海に遮られても、山が隔たっていても。この想いは、時間も空間も飛び越えられる。『大丈夫だよ。必ず戻って来るから』彼が旅立つ日にそう言ってくれたから、俺は諦めずに待ち続けることができた。惨めでも滑稽でも、愚直だと蔑まれても……カレンダーの前に立ち、日付を捲ることできた。そう、「大丈夫」。必ず戻って来る。だから和巳さんは俺の心配より自分の心配をして、元気でいて。貴方がこの地球のどこかにいるって思うだけで、怖いぐらい俺は強くなれるから。六年。流されそうな時間の中で大人になっていく。傍にはいないけど、一緒に生きていた。昼と夜が正反対の場所にいるけど……やっぱり俺達は今、確かに。……一緒に生きてるんだよな。◇「あぁ~! やっぱりビールはいつどこで飲んでも美味いっ!!」宿泊先の旅館の客室で、

  • 余計なお世話係   誓いの言葉

    季節は次々に移り変わる。夏から秋、秋から冬へと。「ただいま、和巳さん」「おかえり、鈴!」肌寒い朝と夜を行き来する冬が訪れていた。大学から帰って、笑顔の恋人がいる暖かいリビングに入る。 俺達の生活は何も変わらない。忙しいのも変わらないけど、それは言い換えれば充実しているということ。大学、会社、家、その他のコミュニティを通して時間を費やす。最近は俺も和巳さんも、実家に顔を出すことが多くなった。以前はあえて避けてた親戚の集まりにも参加するようになった。会いたい人が増えたからだ。可愛い親戚の子も優しい祖父母も、気になって仕方ない。……会いたい衝動に駆られてる。そして会う度に、独りじゃないと気付かされる。たくさんの人に支えられて生きてるんだ、と改めて感じていた。「和巳さん、もうすぐ一年終わっちゃうね」「お、そうだね。俺と鈴が再会してから、もう半年も経ったんだ」リビングで寛ぐ和巳さんを尻目に、カレンダーを捲った。今でこそ何も考えずに捲れるけど、半年前は全然違ったな。和巳さんがいつ帰って来るのか。そればっかり考えて次のページを捲って、ゴミ箱に捨てていったカレンダー。あの苦い記憶すら今は懐かしい。恥ずかしいから和巳さんには絶対言わないけど。「そうだ、鈴! 俺達の輝かしい軌跡をお祝いしよう! 終わってしまうことを寂しく思うより、新しく始まる一年に乾杯するんだ!」「おぉ……さすが和巳さん、冬でも脳内は年中お花畑だね!」「鈴、その言い方だと皮肉になるから。それはさておき、冬と言えばスキー! 嘘! 俺は雪が嫌いなんだ! だから体も心も暖まる温泉に行こう! 雪見風呂なんて最高じゃない? 寒いのに暖かい所にいられる至福の時間、朝まで飲みたい!」色々と情報過多だけど、とりあえず温泉に行きたいことだけは伝わった。「温泉もいいね。せっかくだし、冬休みに入ったら行こう。和巳さんが乗りたがってた新幹線で」「おっ、分かってるねぇ鈴。じゃあさっそく計画立てていこうか」和巳さんがノリノリなので、新幹線で行く小旅行を計画した。スキーやスノボも良いと思うけど、和巳さんは「リフトが嫌なんだ」と真剣な顔で言ってきた。高い所が嫌いなんだろうか。でもすごい楽しみだ。和巳さんと初めての遠出……!その旅行は、わりとあっという間にやってきた。嬉しいことに、旅行当日は晴天。和巳さん

  • 余計なお世話係   5

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  • 余計なお世話係   4

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