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1 お迎え

Penulis: 七賀ごふん
last update Terakhir Diperbarui: 2025-07-03 22:16:58

「ふぅ……っ」

外は暗く肌寒い。駐車場に車を停めて歩くと、顔にあたる夜風に身震いした。

一時間以上運転してやって来たのは首都圏の国際空港。とても急だったが、間に合って良かった。

大学二年生の日永鈴鳴《ひながすずなり》はスマホで時間を確認して、ひとり目的の第一ターミナルへ向かった。

ここに来たのは実に六年ぶりである。六年前、海外へ飛び立つ従兄弟を見送りに行った、あの日以来。

あぁ……緊張する……。

この感じ、あの時と似てるぞ。大学入試のときと同じ、あの胃液が上がってくる感覚に。

十九時四十五分。もうすぐだ。

電光掲示板を見て、彼が乗ってるであろう飛行機の到着時間を交互に見合わせる。

ここへ来たのは、帰国する従兄弟を出迎えるためだ。

到着ロビーでしばらく待っていると、大勢のフライト客がやって来た。ひとりひとり注視していたその時、ある青年に目が留まった。

うっすらと、しかし確かに感じる、懐かしい雰囲気の青年。

「か……和巳さん!」

「……鈴?」

鈴鳴は小走りで彼の元へ向かった。

「うあぁぁ……やっぱり和巳さんだ……! お久しぶりです!」

涙目で言うと、彼は掛けていた眼鏡を外して笑った。

「本当に……久しぶりだな、鈴。すっかり大人になってるから見違えたよ。最初誰だか分からなかった」

キャリーケースから手を離し、彼は強く鈴鳴を抱き締めた。

「迎えに来てくれてありがと。すごい嬉しい」

「……っ!」

少しだけ、周りの視線を感じた。降りてきたのも待っていたのも日本人だし、男同士でこの熱い抱擁はちょっと目立つ。

ドキドキしたし、気まずいから早くこの場から離れたい。

それでも、まだ彼に会えた喜びの方が勝っていて動けない。逸る鼓動を抑えて、彼の両手を握った。

「ずっと待ってました。……おかえりなさい、和巳さん。さぁ、俺の家に帰りましょう!」

「おぉ。でも、本当にお前の家に泊まっちゃっていいの? 彼女とかいたら困らない?」

「困りません。な生まれてこの方彼女できたことないんで」

つい大声で言ってしまって、また視線を感じた気がした。やばい。一回落ち着こう、俺。

これからは頑張って、和巳さんの役に立つぞ……!

四つ歳上の従兄弟、日永和巳《ひながかずみ》に再会した鈴鳴は喜びの気持ちで一杯だった。

「はあー、何かすごい安心する!」

和巳は凝り固まった体をほぐすように、ぐっと背伸びをした。

「親父からは仕送りできるようになるまで帰って来るなって言われてたからさ」

「大変でしたね。俺も和巳さんに会いに行きたかったけど……叔父さんから止められてて」

「そんなん気にしないで、来てくれて良かったのに。仕送りはしないけど、鈴の旅費は全部出すよ」

したり顔で話す和巳に、思わず笑った。

彼のキャリーケースを運びながら、鈴鳴は空港の中で適当な飲食店を探した。長時間飛行機に乗って疲れただろうから、帰る前に少し休んでもらおうと考えた。

比較的空いている和食処に入り、ようやく落ち着いて対面する。

「でも仕事辞めて帰ってこいなんて、どうしたのかな? ちょうどコントラクトの更新だったからタイミング良かったけど」

「そうなんですね。仕事辞めるの、嫌じゃありませんでした?」

「基本働きたくないから、全然。でも同僚や上司は良い人達ばかりだったから、それだけが心残りかな。仕方ないけど……」

二人の家系は少し特殊だった。いくつもの会社を経営してる祖父を筆頭に、親戚の殆どがその系列の社員として属している。

和巳は親の意向で単身アメリカへ留学した。それから大学を卒業し、向こうで就職までしていた。その彼が今回呼び戻された理由は、祖父の体調が芳しくないことと関係ある。

だのに、彼はどうやらそれを知らされてないらしい。

「和巳さん。実はお祖父ちゃんがこの前発作で倒れて、救急車に運ばれたんです。幸いその時はすぐに帰れたんですけど、心臓に結構負担いってるらしくて」

「本当に? 祖父さん、今もタバコ吸ってる?」

「ほぼ毎日吸ってます。皆の目を盗んで」

「それだよ絶対。やめないと治らないね」

和巳さんは大して驚きもせず、むしろリラックスした様子でコーヒーを飲んだ。

ま、まぁ反応が薄いのは当然か……。

俺も和巳さんも、祖父が重度のヘビースモーカーである事を物心ついた時から知っていたから……正直そうなるよな、というのが素直な感想だった。

だが祖父から煙草を取り上げたらショックの方で衰弱してしまいそうな気もするし、かといって禁煙させないわけにもいかないし、悩みどころだ。

和巳さんはというと話の流れを察したようで、眠そうに窓の外を眺めた。

「……そうか。それでウチに入社しろと。どうしよ、家族経営に巻き込まれるの今からすっごい嫌」

「皆、和巳さんに期待してますからね。銀行で働いてたんですよね? 俺なんて専門用語を英語で覚えるところから無理です。やっぱり和巳さんはすごいです」

「確かに勉強はしまくったけど、下っ端だったから大したことはしてないよ。それより、鈴ももう大学二年生だもんなー。就きたい仕事はもう決まってるの?」

「俺は……ウチ以外なら、どこでもいいと思ってます。和巳さんはやっぱり、叔父さん達の会社に入るんですか?」

「帰ってきた以上他に選択肢ないって。ま、鈴は好きなようにやりな?」

彼はコーヒーカップを高く上げて、優しく微笑んだ。

正直、和巳さんの気持ちを考えると否が応でも暗くなる。

それでも彼が明るく振舞っているのだから、俺が沈んでいたら駄目だと思った。

色々不安はあるけど、それよりとにかく喋りたい。久しぶりの従兄弟との再会にテンションが上がらないはずはないし、……ただの従兄弟とも思ってないから。

鈴鳴は夢に浸るように、目の前に座る和巳を眺めた。

和巳さん、本当にかっこよくなったなぁ……。

いや、子どもの頃からかっこよかった。今は立派な好青年だ。

仕事ができそうな雰囲気を醸し出し、溢れ出るイケメンオーラを隠せてない。ただ座ってコーヒーを飲んでるだけで様になってる。惚れる。

そのせいもあって、未だちょっと緊張していた。大好きな人とはいえ、六年という間隔を空けて会ってみると。

……自分が知っていた彼ではなく、まるで未来にタイムスリップしてしまった様な錯覚に陥っている。

「鈴? どうした、じっと見つめて。俺の顔に何かついてる?」

「あ、いえ、何もついていらっしゃいません!」

突然のことに動揺しておかしな日本語で返してしまった。

変だな。喉が乾いてしょうがない。

ウーロン茶を一気に飲み干し、深呼吸する。

「そっか。ならいいけど……ちなみに、何でずっと敬語なの?」

「え?」

思わぬ所を突かれて返答に困る。しかし隠してもしょうがないので、窓の外に視線を移して答えた。

「久しぶりに会った和巳さんが、すごい大人の人になってるから……緊張しちゃって」

上手く目を合わせられない。自分は昔のまま、彼に対する気持ちは変わってないけど……彼はどうだろう。不安に思って目を泳がせていると、自分の手の上に彼の手が重なった。

「大丈夫だよ。俺は何にも変わってないから。昔みたいに、何でも相談して?」

「……!」

不覚にもドキドキした。

何の取り柄もない俺に、昔と変わらず微笑んでくれる。何かもうそれだけで充分だ。この笑顔を一日中見ていたい。絶対飽きませんことを誓います。

ずっと待ち焦がれてた人が帰って来た。俺を支えてくれて、誰よりも世話を焼いてくれた人が。

この人の役に立ちたかったけど、昔の自分は本当にダメダメダメ野郎で何もできなかった。でも今は違う。今なら俺も、和巳さんの役に立てる……かもしれない!

テーブルの下で拳を握り締め、希望に溢れた未来図を描いた。

「あ、ごめん鈴。俺ちょっとトイレ行ってくる」

「はい。確か、右側にありましたよ」

「サンキュー」

手を振る彼に微笑み返す。

その十数秒後に、店員の上擦った声が聞こえた。

「お、お客様!? そちらは女性トイレです!」

中腰になって確認すると、和巳さんは女子トイレに入ろうとしていて、女性店員に止められていた。

「あ、本当だ。すいません、何も見ないで入ろうとしちゃった」

和巳さん……帰国早々トイレを間違えるとは。

とりあえず警察沙汰にならなかっただけいいか。鈴鳴は正面に向き直り、烏龍茶を飲んだ。

和巳さんには何から何までお世話になった。だから今度は、俺がその恩を返す番だ。頑張らないと。

そう自身の胸に言い聞かせてると、彼は小走りで戻ってきた。

「おーい鈴。聴いてくれよ、今間違えて女子トイレに……あっ!」

驚くことに彼は何もないところで躓き、俺の座るテーブルに顔面から激突した。やっばい痛そうだ。

「だ、大丈夫ですか!! お怪我は!?」

「いたた……いや、大丈夫」

幸い怪我はなさそうだ。

さすが和巳さん。大胆にずっこけても一切動じない。むしろ風格すら感じる。

「ん……?」

ところが、ここである大問題に気付いた。ぶつかった拍子に倒れた俺の烏龍茶が、彼のズボンをぬらしている。しかも最悪なことに股間にピンポイント。

「和巳さん! 股間が大変なことになってます!(※小声)」

「ほんとだ、何か冷たいと思ったら……!」

「大変だ……すぐにトイレに……」

だが、やはり彼は落ち着いていた。変色した自身の股間を鞄で隠し、トイレの方に向き直る。

「慌てんぼうだな、鈴は。これぐらいで大騒ぎしてたら生きてくのが大変だよ」

そう言って彼は颯爽と、しかし堂々と通路のど真ん中を歩いていった。

さすがだ。俺なら冷静になるのに時間がかかりそう。

「お客様! そっちは女子トイレです!」

「うあっすいません」

でも、天然だとそれも相殺されてしまうんだろうな……と密かに考えた。

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  • 余計なお世話係   シンプル

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