LOGIN■MUGENLABO
翌日、早く寝たことで遅刻することなく出勤もした俺のそばに斎藤部長がやってくる。
昨日叱られたこともあったので、俺は緊張していた。(なんかやっちゃいました? ってラノベではよくある言葉だけど、実際につかうのは悪い意味でしかないんだよなぁ……)
「近藤、これをやってみなさい」
「確認させていただき……ます」俺が部長から受け取ったのは企画書コンペの案内だ。
それは俺が遊んでいるゲームFoEのプロモーション企画に関するものである。「ええ!? これ、俺がやっていいんですか!?」
「コンペといっても広く業界で募集されているものだ、A4用紙1枚で魅力を伝えるペライチなので近藤でもとっつきやすいだろう」 「部長ありがとうございます! 俺、がんばります!」思わず、俺は部長の手を握ってブンブン振ってしまい、さすがに部長にひかれてしまっている。
「ま、まぁ……やる気があるのはいいことだ。GWに行われるFoEのイベントへの企業招待券ももらっている。企画書を作る際の参考のため一緒に行くぞ」
「部長もゲームやられるんです、か?」 「誰かと違って仕事に影響でない程度にはな?」 「……うぐっ」痛いところを突かれて俺は思わず声を漏らした。
ほんと、この部長には頭が上がらない。「とにかくだ。GW開けの金曜日には提出だ。会社での作業期間は1週間程度しかないからな。複数案を出すもよし、1つを突き詰めて考えるもよし。近藤のスタイルに合わせてやってみろ」
「わかりました! 斎藤部長、ありがとうございます!」雑用ではなく、ちゃんとした仕事を渡されたので俺は気合いを入れて資料に目を通していった。
〈沖田〉『近藤クン、やったね! 企画系の相談なら山南さんが詳しいよ。資料のまとめ方も上手だから、知識がすごいんだよ』
〈山南〉『沖田さんに言われるなんて……恐縮……です』 〈近藤〉『ありがとうございます! 早速なんですが……』チャットでも沖田さんをはじめ、みんながフォローしてくれる。
俺は今の流れがとっても、オンラインゲームで作戦会議をしているような雰囲気で心地よかった。■自宅
その日はすぐに帰り、俺はパソコンを立ち上げた。
過去のFoEのプロモーション動画の確認とFoEを触ってみることをするためである。「そう、これも仕事! 市場調査なんだ」
山南さんからもアドバイスでゲームでもなんでも、実際体感してみることが大事とのこと。
ターゲットの気持ちになってみるのが一番だと……だから、俺は遊びではなく仕事でゲームをやるのだ。 そんな言い訳じみたことを内心思いつつもステーションへとアクセスをする。 賑わうステーションではGWのイベントの告知が流れていて、ワールドチャットではその話で持ち切りだだった。〈ガルガンチュア〉『ユージンじゃぁないか。久しぶりだなぁ~』
〈ユージン〉『ガルさんも久しぶり。うわ、メッセージボックスにめっちゃ溜まってる』 〈ガルガンチュア〉『スマホアプリでのチェックもしてなかったのかぁ~? そいつぁいけないなぁ~。俺もそれで嫁さんからのメッセージを逃して1週間くらい口をきいてくれなくなったんだぜぇ~。ワイルドだろぉ~?』 〈ユージン〉『ぜんぜん、ワイルドじゃないですよ。それ』懐かしいやりとりにちょっと俺の心がほっこりする。
仕事場でもチャットでメッセージを交わすやり取りはするけれども、ゲーム内のやりとりはやはり別だ。 ゲーム内はゲーム内の、仕事は仕事の面があってそれぞれで話せる内容や気構えが違う。〈ガルガンチュア〉『アインも最近全然ログインしてこないから、お前らがくっついて引退したかとおもったぞぉ~?』
〈ユージン〉『いや、俺らが結婚とかしたらガルさん達みたく一緒に遊びますよ』 〈ガルガンチュア〉『そりゃぁ、そうか! がはははは!』腰に手を当てて大笑いをするモーションをガルガンチュアは行った。
ボイスを入れていないはずなのに、野太い声が聞こえてきそうである。(そうか、アインもあまりきてないのか……GWはちょっと会えたらいいなぁ)
新人のキャリーに誘われていたことを思い出した俺はガルさんに今日キャリーを手伝うことを申し出た。
どういう経路できたかのヒアリングをするのも企画を考える時に大事と山南さんに教わったからである。〈ユージン〉『そうだ、この間話していた新人のキャリー、今日やりますよ』
〈ガルガンチュア〉『そうか! GWのイベントに向けて伸ばしたい奴らが多いからな。早速声をかけて集めてみよう。仕事もあるから日付越える程度でやれる限りやっていくぞ』 〈ユージン〉『了解です!』ゲームを遊びつつ仕事にもなるなんて、今回はかなりヤル気MAXでいけそうだ。
〈ユージン〉『よっしゃー! やるぞー!』
〈ガルガンチュア〉『気合い入っているなぁ~。俺も負けてられないぜぇ~』俺はガルさんと一緒に新人冒険者のキャリーを始める。
今夜は久しぶりにハードな夜となりそうだぜ。■自宅
部屋の時計を見れば、日付が変わるころだった。
最後のキャリー組の序盤のクエストの攻略までを一緒にやり終る。 このあたりのタイムスケジュールはガルさんが組んでくれて、新人の動きに合わせて手を出すことや見守ることなど上手に切り替えてくれていた。〈ユージン〉『ガルさんと一緒に遊んでいたことは多いけど、今日は進行役としての立ち回りみたいなのを見てました。すごいですね』
〈ガルガンチュア〉『ユージンも仕事をしはじめたから、そういったところにも気を配れるようになったのだなぁ~。俺は嬉しいぞ、マイフレンド!』 〈ユージン〉『暑苦しいから、そうやって絡んでくるのはやめてくださいよ』 〈ガルガンチュア〉『Σ(゚д゚lll)ガーン 俺は、暑苦しかった……のか』 〈ユージン〉『今更ぁ!?』ショックを受けているガルさんに俺が思いっきりツッコミをいれてると、フレンド通知が届く。
チェックをすると、最終組のキャリーの時にいた魔法使いの女の子アバターがこちらを見ていた。 魔法が得意な種族であるドラゴノイドのふぁふたんである。〈ふぁふたん〉『今日はありがとうございました。お話し中だったですけれど、最後にご挨拶だけしたくてっ!』
ペコペコと丁寧にお辞儀をしてくるファフたんの姿に俺は出会った頃のアインの姿が浮かんだ。
〈ユージン〉『大丈夫だよ。こんな時間まで待ってくれてありがとう。ゲームを楽しんでくれたなら嬉しいな』
〈ふぁふたん〉『楽しかったです! もっと早く遊んでいればよかったと後悔してます。ユージンさんはGWのオフイベントは参加されますか?』 〈ユージン〉『参加は……まぁ、できたらするってところで……あんまり現実の話をするのはマナー的にな?』 〈ふぁふたん〉『はわわわっ、すみません! そうですよねっ。個人情報につながってしまいますものね!』慌てたかと思えば、キリッと納得したりとキャラクターの表情を切り替えて対応しているところをみるとMMOの経験者な気がしている。
正体については探るつもりはないが、初心者ぶっている経験者という線もあるのでちょっと警戒しようと思った。〈ふぁふたん〉『それではお二人とも。本日はありがとうございました。ごきげんよう』
最後にふぁふたんはお嬢様のような雰囲気を出しつつ、去っていく。
〈ガルガンチュア〉『じゃあ、お休だぞ~』
〈ユージン〉『はい、お疲れ様でした!』俺はガルさんとも別れてゲームからログアウトした。
ふぁふたんからのフレンド申請に許可をだしてから、俺はゲーミングチェアにもたれかかりながらもグーっと大きな伸びをする。「久しぶりガッツリ遊んだー! やっぱりFoEはいいゲームだぜ」
言い知れぬ満足感を得た俺は、ふぁふたんとのやり取りから気になった部分を忘れずにメモしてからシャワーを浴びてオレは眠りについた。
■MUGENLABO
「……で、先日期待したと思ったら遅刻とはいい度胸だな?」
「申し訳ありません!!」遅刻しないようにとガルさんと一緒に時間の調整をしたはずなんだが、途中で起きたりして資料集めをしてたりしたらこの様である。
平謝りしかできない自分が本当に悔しい。「次同じようなミスをするようであったら、企画書コンペへの参加を取りやめるからな。気を付けるように」
やれやれといった様子の部長に再び頭を下げて謝った俺は自分の席へとついた。
入社式以来の遅刻で本当に申し訳ないと思っている。 両手でほほを叩いて俺は気合を入れなおした。「よし! 気持ちを入れ替えていくぞ!」
俺はほかのメンバーからの作業を手伝いつつ、空いた時間で自分の企画書を練っていく。
今日遅刻した原因でもあるが、昨日の夜に新人をキャリーしたことで見えてきたものがあった。 「結構な人があるPVを見てゲームを始めたっていっていたよな」そのPVは俺も知っているものである。
何を隠そう、そのPVを渋谷の街頭ビジョンでみたことから俺はFoEをはじめたのだ。 PV自体はゲームのPVじゃないかと思えないほどに暗い画面のモノローグからはじまり、それが俺をはじめ世界に一歩踏み出せない人たちを動かしている。「このPVは何度見てもいいんだよなぁ……再生回数はそんなに多くないけども心に残るというかさ」
ミーチューブにあがっている動画の概要欄を確認していた時、手が止まった。
今までは概要欄まで見ることはなかった……いや、見ていたけれども気にもしなかった文字がそこにある。「PV制作……MUGENLABO。動画:斎藤カズエ」
俺や昨日キャリーしていた新人が始めたきっかけは斎藤部長の作ったPVだった。
この事実に俺は愕然となるが、その様子を隣でみていたソラさんがそっと声をかけてくる。「ふふふ、今は部長、制作には手を出してないけど……このPVで昇進したんだよ」
「いずれわかるってこういうことですか……」次に部長にどんな顔をしていけばいいのか、俺にはわからない。
それくらい今、受け取った真実は重いものだった。■秋葉原駅
GWである5月3日、イベントが開かれる秋葉原UDXだ。
PVの制作者が斎藤部長であることを知ってから、当たり障りのない会話しか部長とはしておらず、今日もどんな顔をしていいのかわからないくらいである。(こんな状態で部長と二人でイベント視察というのもなぁ……どうしよ)
秋葉原駅に待ち合わせの20分前には電車がついた。 スマホでFoEのメッセージ確認とアイテムの獲得などをしていく。 アインとはあまりメッセージのやり取りができていないが、ふぁふたんとは逆に雑談が増えてきていた。「こういうのも二股とかになるのか? どっちも恋愛とかではないから違うとは思うんだが……」
「会社の勉強としてきているのを忘れているのか、近藤。スマホで遊んでいるなら今日のイベントチケットは渡さない」斎藤部長はいつものぴっちりとしたスーツに眼鏡からも鋭い眼光が放たれている。
休日とはいえ、俺も仕事なのでスーツ姿ではあるものの若干暑いのでネクタイは緩めていた。「どれだけ暑くてもだな、身だしなみはきっちりしろ。仕事で外に出るということはうちの会社の看板を背負うんだ。近藤だけでない、ほかの社員の評価も近藤が基準になるんだ。わかるな?」
ネクタイをキュキュット締めつつも俺のほうを見上げて鋭い視線を向けてくる部長。「わかり……ました」
部長は無意識でやっているのだろうが、いい匂いがしてくる状況に俺は内心ドキドキしつつも頷いてかえす。 「それでは、このチケットを渡そう。さぁ、行くぞ。仕事ではあるものの楽しむことも大事だ。ユーザーの興味、関心がどこにあるのかを見つつも企業参加者とも顔つなぎができればしていく。名刺はあるな?」 「大丈夫です!」俺は恥ずかしさを吹き飛ばすかのように元気な声をだして、先に進む部長の後ろをついていくのだった。
■秋葉原UDX
会場となる秋葉原UDXに近づくと人の群れというか塊というかそういうものがはっきりしてきた。
FoEのオフイベントのため、コラボグッズの販売やUDXのカフェも今日はコラボメニューを提供しているところもある。 人数が多いので、警備員が忙しそうに人の列を整理しているのが見えた。「これは会場に行くだけでも大変だな……」
「ですね」人気ゲームのイベントということもあって盛り上がっているのはわかったが、予想以上である。
この中にも先日、レベル上げのキャリーをした人もいるのかもしれなかった。(ゲームで知り合った人も、知らない間に出会っていたり話しているなんてのもあるんだろうな……)
「きゃっ!」
「部長、大丈夫ですか?」人にぶつかり、倒れそうになる部長を俺は後ろから支える。
気が強くしっかりしている部長ではあるが、支えたからだは華奢で女性であることを示していた。「すまない……やはり、すごい人気だな」
「これもゲームの良さとそれを伝えてきた広告のおかげなんでしょうね」 「そうだな。いいゲームだからと流行るわけではない……魅力を適切な人に届けてこそ、評価されるものだ」そういう部長の横顔は誇らしげで、うれしそうである。
「ステージイベントの前に今回の企画書コンペの担当者と話をしないとな。急ぐぞ」 「了解です!」 俺は部長とともに人とぶつからないように気を付けながらステージのほうへと向かった。 ステージの近くはさらに人が多いが、裏手にあるスタッフの待機場所へといく。 部長はスタッフといくつか話をすると待機所のほうへと俺を呼んでくれた。「今年入社した新人で、次の企画コンペにも参加予定の近藤です。近藤、こちらはFoEの開発を行っている坂本さんだ」
「よろしくお願いします」 「よろしく。FoEが好きなら今日のイベントも楽しみながらも、吸収していってほしい」 「はい、いちユーザーとしてもFoEは大好きなので、頑張ります!」坂本さんは俺と握手をしつつ、優しく微笑んでくれた。
なんというか、できるイケメンのオーラである。 年齢は俺らよりも上で、ダンディな雰囲気が漂っている。 オフィスカジュアルとでもいうべきか、かっちりしたスーツではないものの清潔感が漂う言う出で立ちをしていた。「トークイベントは新情報や質疑応答時間もあるから、企画を考えるためにも関係者席で見ていってほしいな」
「ご厚意に甘えさせていただきます。ほら、近藤もお礼をいっておけ」 「は、はい! ありがとうございます!」部長に促されるまま俺もお礼をいうが、負けたというか普段は厳しい部長の腰の低い姿勢に若干モヤる。
だが、せっかくの機会だからいろいろ学ばせてもらおうと思うのだった。■MUGENLABO 資料室「近藤くん、大丈夫かい? 体調悪いなら帰る?」「あ、山南さん、大丈夫……です、たぶん」 ゲームバーケルプで酒を飲み、ボードゲームで遊んだ翌日。 会社で仕事をしていた俺は気持ち割るさを感じていた。 二日酔いとは違って、妙な寒気すらある。 俺の顔を覗いてくる山南さんの顔が近いのか遠いのかすらわからなかった。「だめだよ! かなり症状が悪そうだ。まずは倉庫から出て。部長を呼んでくるから」 資料の片づけを山南さんとやっていた作業を中断し、俺はよろよろと外に出た。 エアコンがガンガンに効いていて冷たくなった壁が気持ちいい。 いや、気持ちいいと思うのほうがおかしいのかもしれない。 「近藤! 大丈夫か! 意識はあるか?」「ん……部長、大丈夫、です」「こういう状態の大丈夫は信用できないな。近くの病院につれていく、私が付き添いをするからあとのことは頼む」「了解しました」 部長が山南さんに引き継いでいたことを見たところから、俺の意識はなくなっていた。■ユウのマンション「近藤、大丈夫か?」「あ、はい……薬と休養のおかげで、だいぶ復帰しました」 タクシーで病院に運ばれ、横になって薬と点滴をしてもらったらかなり元に戻った。 診断は熱中症とのことだったが、狭い資料室での仕事が問題だったのかもしれない。 時間は16時、会社まで戻ったら定時になるくらいの時間だ。「もう時間も時間だ。家まで連れていくぞ」 タクシーの支払いを終えてともに外へ出た部長は一緒に階段を上って部屋の前まで連れていってくれる。 肩を貸されて動くのは正直言って恥ずかしいが、まだうまく歩けないので助かった。 鍵を使ってドアを開けて、一緒になかに入る。「ほら、段差があるから気を付けて」「すみません……」
■ユウのマンション 寝室 食事を終えた後、ナオに電話がかかってきて帰らなければいけなくなったということで駅まで見送り解散した。 今は寝室でベッドに寝ころびながら今日起きたことを振り返っている。 「ナオから告白されたかぁ……結論は言いそびれたけども、どうしたもんかなぁ。ネットの恋愛だって悩む俺にリアルの恋愛は無茶だぁ!」 気持ちがあれたのか、一人で叫んだ。 こういう時に頼れるのはあの人しかいない。 俺はFoEのメッセージアプリを立ち上げて、ガルさんに連絡をする。〈ガルガンチュア〉『メッセージでくるとはどうしたんだ?』〈ユージン〉『すみません、姪っ子から告白されて……年齢差もあるからどうしたものかと思って……』〈ガルガンチュア〉『なるほどなるほど、リア充ははじけるべきだな!』〈ユージン〉『ガルさんにだけは言われたくない……昔は一緒に遊んでいたけど、ちょっと疎遠になって……それから再会したら』 俺はガルさんに向けて事情を説明した。 具体的なところはぼかすが関係性についてはハッキリ伝えた。 こんなときに相談できる既婚者の男性がいるのは助かる。〈ガルガンチュア〉『明日、ユージンは暇だな? ぐりゅえるの店に来てくれ』〈ユージン〉『あー、そういえばギルドのメンバーは知っていた風の様子でしたね。場所はしらないですが』〈ガルガンチュア〉『詳しくはこちらに上げるので、夜の営業時間にでも来てくれ』 ガル山からの返信で俺はようやく心が落ち着いた。 それから、ゆっくりと目を閉じて夢の中へと降りていった。■都内某所 Cafe Cherub(カフェ・ケルブ) ケルプは最近都内に増えてきているボードゲームバーという形式の店で、天使の羽が生えた猫耳少女の看板が印象的な店だった。 ドアを開けばチリリンとベルがなり、薄暗い店内が見える。 おしゃれな空間にはかっこいいBGM……よくよく聞くと往年のレトロRPGのジャズアレンジだった。「こんばんわ。えっと初めてなんですが」「いらっしゃい、カウンターに座りなよ」 火はついていないが咥えタバコをしているワイルドな美女のマスターが俺を案内してくれる。 俺は静かな店内のカウンターに座って後ろに並んでいる酒の棚と高価そうなボードゲーム棚を交互に眺めていた。「ぐりゅさんは……まだですかね?」「何をいている。今、
■FoE内 深海監獄アクア・プリズン 第三階層 二階層目のボスも倒して進んで第三階層まできたが、だいぶ厳しくなってきた。 レベルとしては問題ないが、手数が足らない感じを〈ユージン〉は得ている。〈猫天使ぐるりゅえる〉『回復アイテムも乏しくなってきたのじゃ』〈ガルガンチュア〉『作れなくもないが、ギルドメンバーをここまでキャリーしつつ来てこの先に温存しておくのも手だな』〈ユージン〉『ボスがどれだけ強いかわからないが、ギルド単位で挑んだ方が安全なのは俺も思いました』 セーフエリアで一息ついていると、12時の知らせが届く。 時間的もここまでのようだ。〈アイン〉『今日は調べながら来ましたし、次は寄り道しないで直進すればもっと早いと思います』〈猫天使ぐりゅえる〉『アインは賢い子じゃのぅ。まさしくその通りなのじゃ。資料としてまとめる時間も別に欲しいしここまでじゃの』〈ユージン〉『社会人だらけだから時間単位で何となく切り上げられるのは助かります』 何せ今日は月曜日なのだから、無理はできない。 〈ガルガンチュア〉『では、テレボードを使ってかえるぞ』 テレボードは板状のアイテムで、乗ったメンバーをダンジョン外へと運んでくれる特殊アイテムだ。 複数人が乗れる上、何度でも使えて便利だが、かなり高いので持っている人は少ない。 そして、再びビーチに戻ったら、解散かと思ったらアインがユージンに声をかけてきた。〈アイン〉『お兄ちゃん、ちょっとだけお話してもいい?』〈ユージン〉『ああ、大丈夫だ』 時間も時間のためかビーチは夜空になっていて、ひともまばらになっている。 ビーチの隅に二人で座り、浮かぶ月を眺めた。 ゲームの中だというのにとってもきれいな光景である。〈アイン〉『ごめんね、私……気持ちがどうにも止められなくて迷惑かけているよね?』〈ユージン〉『いいさ、いろいろアインも過去にあっただろうし』〈アイン〉『ありがとう♪ 指輪は本当にうれしいから……結婚だってしてもいいからね? おやすみ♪』 最後の言葉はどっちの気持ちなのだろうか……経験の乏しいユージンにはわからなかった。■御茶ノ水駅近く 白鳥亭 アインと浜辺で語った週の土曜日、俺はナオのデートに付き合うこととなる。 待ち合わせ場所は長らく愛されている食堂が待ち合わせ場所だ。 朝からの出発で
■MUGENLABO イベントも終わって、翌日から仕事になる。 お盆休みの最終日にだいたい開催されるのがコミギャラなのでしかたないが、今回ばかりはもっと遅くあってほしかった。「足が重い……」 ブースの部屋を開ける手がノブを握ったまま動かない。 斎藤部長の『お兄ちゃん』という言葉が重く感じていた。「近藤、入るなら入れ。そのままだとほかのメンバ―も困るぞ」 会社の福利厚生で買ってくれているコーヒーを入れた斎藤部長が俺の背中から声をかけてくる。 サガの『アインの方はユージンのことを気にしてなさそうだ。だから、お前も切り替えるべきだな。そもそもそういうスタンスだったんだろ?』という言葉がよみがえった。 深呼吸をしてからドアの中に入る。「近藤くんもおはよー。お土産だよー」「ありがとうございます」 ソラさんのいつも通りの明るさが俺にとってすごくありがたい。 手にしたお土産を見ると、半裸の褐色男が袋に描かれたチョコ菓子のようだ。 『マハラジャスティック』という名前で、なんというか……界隈のセンスを疑う商品である。「なんか、食べづらいお菓子ですね?」「え、なんで? なんでなのかなー? 何を考えたのかなー? ねーねー」 俺の周りをちょこまかと動きながらわかっててあおってくるソラさんをウザいと思う半分、気持ちが楽になるのも事実だ。「沖田も近藤も、朝のミーティングはじめるぞ」「「はい!」」◇ ◇ ◇——昼休み——「近藤、昼を一緒に済ますぞ。会議室をとって弁当も頼んでいる。打ち上げ時の報告も聞いておきたいので来るように」「は、はい……」 有無をいわさない鬼の斎藤ぶりを発揮させて俺は会議室へと向かう。 後ろからご愁傷様というような雰囲気を感じたのは気のせいではないようだ。「それで打ち上げはただ遊んでいたわけではないだろうな?」「はい、関係各社様やLYONEの方と名刺も交換しました」「その後のお礼メール等はだしているか?」 そういう風にいわれてから、俺は何もしてないことに気づく。 たしかに、名刺だけでは忘れてしまうが連絡を待つだけでなく先にメールを出せば返信の可能性もでてくる。 失念していたことに突っ込まれて、俺はますます気持ちが沈んだ。「まぁ、お前も今年入社したばかりだし営業に近い仕事は慣れていない。ちゃんと今日中にだして
■8月某日 東京国際展示場「なんだかんだあって、部長と仕事以外の話できなかった……ゲームも疲れてログインあまりできなかったしなぁ」 俺は賑わう人の波をかいくぐぐりながら待ち合わせ場所まで移動する。 朝早くからの集合ということもあって、現地集合だ。 二人きりで会うのがまたイベントというのが何とも言えない気持ちになる。「あ、斎藤部長! こっちです!」 「おはよう。近藤、朝早くからすまないな」 パンツルックのびしっとしたスーツ姿の部長の姿はいつもながらに凛々しい。 この部長がゲームでは癒し系ほわほわヒーラーのアインであることを知っているのは俺だけだ。「なんだ、ひとの顔をジロジロと……」 「いえ、なんでもありません! サークル参加なんて初めてなんで緊張しているんです!」 「まぁ、私も多いわけではないが……FoEの会社様からCMのお礼にと招待いただいたんだ。必要とあればお前は臨時スタッフとして手伝ってもらうぞ」 コミックギャラクシー……通称コミギャラは夏と冬に開かれる同人誌即売会で、最近では企業の参入も多い。 企業ブースでは限定商品が売られ、長蛇の列に並ぶも変えなかったことは多くあった。 その内側に入れるなんて、関連会社に入れてよかったと思う。「はい! むしろ、仕事があるほうが嬉しいです!」 「仕事仕事もいいが、ちゃんと休めよ……ゲームばかりで寝てないなんて困るから、な」 最後の方はぼそぼそといわれて聞き取れなかったが、メリハリつけろということは分かった。 俺は部長と共に一般参加者が列をなして並ぶ横を通って、サークル入場口へと進む。 サークル入場口も参加者が多いためか人込みになっていた。「部長、手をつなぎましょう! はぐれないために!」 「ひゃぁ! あ、ああ……そう、だな……」 部長の手を握り、俺が先に進みつつ人込みを謝りながらかき分ける。 そんな俺の手を握る部長の手は柔らかく、そして強く感じた。◇ ◇ ◇■コミギャラ企業ブース内 LYN
■個室居酒屋「楽宴」 アインの正体が部長だという事実が発覚した後、俺はしばらく何の言葉も出なかった。 部長の方も顔が真っ赤になって固まっている。 飲みかけのビールの泡は消えているし、どうしたらいいかと分からない様子だ。「申し訳ございません、店内が混雑してきましたのでお会計をしていただいてもよろしいでしょうか?」 「あ、ああ……すまない。いくぞ……近藤」 「は、はい……」 ちょうどいいタイミングでお店の人が促してくれたので、俺達は席を立って店をでる。 無言先を進む部長についていくと、宮下公園にたどりついた。 自販機で水のペットボトルを買って、ベンチに二人して座る。 ここまで無言だ。「あの……部長?」 「すまない、少しだけ……もう少しだけ待ってくれないか?」 厳しい雰囲気をいつも放っている斎藤部長のこの焦った様子はなかなか見られない。 だから、黙ってペットボトルの水を飲みつつ部長が落ち着くのを待った。 もちろん、俺の方も部長がアインだと聞いて驚いてしょうがないが、なんかあまりにも現実感が無さ過ぎて考えがまとまっていない。「よし、大丈夫だ。まさか……近藤が、ユージンお兄ちゃんだったとは……」 「お兄ちゃん呼びは……実年齢も違うんで、勘弁してください」 「いや……ま、そうだな……近藤のままでいこう。ゲーム中は……まぁ、いいよ、な?」 不安げな上目使いで俺を見上げてくる部長の姿に、本当にいつもの部長なのか不安にすらなった。 酔っている俺が見ている夢という方が納得できる。「ええ、大丈夫です。リアルとゲームは別ですから……」 俺はそう答えると部長はえへへと笑った。 可愛い! 酔っているせいなのか、そんな風に見えてしまった。「その、アインは大学生といっていたから、部長とは思いませんでした」 「まぁ、あれはな……私の素性はゲームでは明かしたくなかったのもあるし、今の自分とは違う自分でいたかったんだ……」 ふと、遠くをみるような眼







