Mag-log in「
ルビレルが地図を指差しながらいう。
奥の村だの第五中の村だのちゃんとした名付けはされてないのかよ。 第五中の村ってのも正式な名前じゃなくて、代官であるオルバック家が便宜上そう呼んでいたってんだから、なんだかなぁ……だよ。 十三ヶ村を先の村六ヶ村、中の村五ヶ村と奥の村、そして僕の生まれ故郷は果ての村って呼んでたってんだから泣けてくる。「僕自身が視察に行きたいんだけどねぇ……」
町を長い間留守にするには留守居役が必要で、その留守居役、つまり僕の代行者が務まる人がいないのがネックなんだよなぁ……。
「ルビレル、この町の代官やってくんない?」
「ワシには務まりませんよ」
実務能力的には絶対務まるよね。
むしろ僕より務まる気がするんだ。 やっぱり懸念は新参で騎士ってことかなぁ。 諸々反発は予想されるよ、確かに。町での相場感からいくと一泊二食付きなら二百から三百銅貨ってとこだろうけど、他所から来た人はおおむね金を持っていなかった。 そういう世の中だ。 そういったとこを全然考慮に入れてなかったじゃないか。 まいった……。 江戸時代初期辺りまでは自分で食材を用意する素泊まりの宿が多かったそうで、その飯を炊くのに薪の代金を払ったことから木賃宿と呼ばれる。 対して旅籠は基本一泊二食付き、いいところはチェツクアウトの際に道中で食べる昼の弁当を出してくれたという。「木賃宿を建てなきゃだめだな……」 と呟いたら、「それ、オレが建てます。そこ、そのままオレが主人でいいですかね?」 そういったのは、ここが気に入ったといって町から奥さんを呼んで住み着いた元建設作業員。「客用の炊事場があって雨風しのげりゃいいんですよね?」「ああ。ただこの辺は冬は寒いからちょっと考慮しなきゃ凍死する客が出かねないぞ」「そこはオレも心得てますよ」 っていうなら大丈夫だろう。「で、薪の値段って五銅貨でいいですか?」 町での薪の相場がそんなもんだったっけ? 町長特権で炭しか使わないんでよく判んないや。「そうだね、自給自足で暮らすんなら原価販売もいいけど、薪を用意するのだって一苦労だろうし、宿の掃除洗濯だって結構重労働だろ?」「じゃあ、十銅貨ってことで」 原価率五割は前世感覚だと高いけど、こっちじゃまだまだそんなもんか。 むしろ利益乗せすぎとか言われそうだ。 そのほか諸々も差配しているうちに日が暮れて、カイジョーたちが帰ってきたのでみんなでちょっとした宴会になった。 ペギーによれば、毎日こんな感じなんだという。 飯場かよ。 宴のあと、僕は宿のスイートルーム的なところで酔いでフラフラする中、ロットとチャールズ宛に手紙を書く。 ロットには生活物資の補給のお願いを、チャールズには宿場町が使う用の飛行手紙を用意してもらうためにだ。
魔法使いなら魔力をチャージできるそうだけど、魔法使いは絶対数が足りない。 なぜこんなものを作ってもらったかというと道中に一箇所、グフリ族のテリトリーがあるからだ。 グフリ族は夜行性でたびたび旅人を襲うことで知られているのだそうだ。 それだけ聞くと元日本人的には討伐対象のモンスター扱いしそうなところなんだけど、彼らは縄張り意識が強く排他的なところがあるだけで、人と交易もする種族なんだそうだ。 厄介なのは人族のように明確な領域を主張しないところ。 ぶっちゃけその時の気分でテリトリー主張するってことだ。 前の日に問題なかったところで次の日には襲われたり、以前襲われた場所で「ここはテリトリーじゃないから」と気さくに語らったりするという。 領土意識が明確な人族には理解しがたいはた迷惑なテリトリー意識だけど、それが異種族交流というやつだと言われれば仕方ない。 前世でも野生動物とはそういう折り合いでやっていた。 ここでは言語による意思疎通ができる存在が人族以外にいるだけ。 ホルスに乗っていれば一日で隣村までつけるんだけど、視察も兼ねて今日は第一宿場町で一泊することにしている。 途中で街道整備のカイジョーたちと出会って以降はびっくりするくらい道幅が広くて進みやすい。 いやあ、いい仕事してますねえ。 まだ日の高いうちに到着すると十七人総出で出迎えてくれた。 宿場町とはいうが、立派すぎる宿が二つあるだけの総人口四家族十七人の集落だ。 街道整備の作業員も逗留しているが、さっき会ったばかりだし彼らはまだ帰ってきていない。 まだ、役割の割り振りもできていないようで、みんなで手分けして仕事をしている。 まぁ、僕らが最初の客なんだから当然か。 宿賃も設定してないくらいなんにも決まっていなかった。 この世界、村々では村長の家に泊めてもらえることもあるようだけれども基本的に旅は野宿のようで、「宿」があるのは大きな町くらいなのだとルビンスが教えてくれた。 あ・こりゃだめだ。 僕は急遽前世知識とオギンの
ロットに僕の代行を押し付けて五日ほど様子を見た。 もちろんルビレルをその補佐につけて。 僕もオブザーバーとしてアドバイスはしたけど、最終決断は彼に任せた。 その結果、多少決断が遅いきらいはあったけど、町の運営に支障が出るようなことはなさそうだとの結論に至った。 六日目、僕は二人に町の運営方針を指示して、完全に後を任せることにする。 七日目、町の諜報にザイーダを残して、ホルスの世話をしているチローに良さげなホルスを三頭選んでもらってルビンスとオギンを供に旅立つ。「嫁探しもお願いしますね」 と、笑いながらいうサビーと、なぜか寂しそうなクレタが見送りに出てくれた。 嫁取りねぇ……。 旅の支度はオギンに任せ、僕はいくつかの魔法の道具と冬の間試作を重ねてきた紙を背負う。 魔法の道具といえば冬の間、ラバナルと弟子のチャールズにいくつかの新しい魔道具を開発してもらった。 改良型の飛行手紙は僕の館宛ではなく特定個人に届くようにしてもらったもので、当面は僕に届くようにしてもらっている。 というか、ようやく僕個人に送れるようになったというか、他の人ではテストしていないというか、なかなか複雑な魔法陣のようだ。 ともあれこれで僕がどこにいても政治的判断を僕に仰ぐことができるようになったわけだ。 従来型も僕の館以外にルダーの代官屋敷宛の飛行手紙も作ってもらった。 これで町と村は有事の際にすみやかに連携ができるようになる。 本当は電話を開通したいところなんだけど、あれは魔力が必要なんで村側に使える人材がいないんだよね。 その飛行手紙は僕が二十枚を背負い袋に背負っている。 村についたらルダーに渡す予定だ。 そして結界の寝袋。 寝袋に入ることを発動条件に攻撃意思、敵意を持った相手が十五シャル以内に入ると知らせてくれるという優れものだ。 残念ながら込められる魔力量の関係から三泊分の効力しかないのが欠点だ。
「奥の村の先に第五中の村がありますので、ここを抑えるのは確定として、その先どこから攻めましょうか?」 ルビレルが地図を指差しながらいう。 奥の村だの第五中の村だのちゃんとした名付けはされてないのかよ。 第五中の村ってのも正式な名前じゃなくて、代官であるオルバック家が便宜上そう呼んでいたってんだから、なんだかなぁ……だよ。 十三ヶ村を先の村六ヶ村、中の村五ヶ村と奥の村、そして僕の生まれ故郷は果ての村って呼んでたってんだから泣けてくる。「僕自身が視察に行きたいんだけどねぇ……」 町を長い間留守にするには留守居役が必要で、その留守居役、つまり僕の代行者が務まる人がいないのがネックなんだよなぁ……。「ルビレル、この町の代官やってくんない?」「ワシには務まりませんよ」 実務能力的には絶対務まるよね。 むしろ僕より務まる気がするんだ。 やっぱり懸念は新参で騎士ってことかなぁ。 諸々反発は予想されるよ、確かに。「けど、ルビレル以上の適任者はいないと思うんだ」 実際、日が浅いにも関わらず町人の受けはいい。 むしろ息子のルビンスより馴染んでいる。 亀の甲より年の功ってやつかもしれない。「いやいや……」「じゃあ、お飾りで誰かを代官に任命するから、そいつの補佐ってことで」「補佐……ですか?」 お!? 口から出まかせ、瓢箪から駒だな。 もっとも、この世界にひょうたんがあるかどうかは知らないけどね。 もう一押しだ。 担ぐのにちょうど良さげな軽い神輿を選べれば、なんとかなりそうだぞ。 パッと思いつくのはサビーとかガーブラ? 政治向きの仕事させてなかったからルビンスを補佐に据えたら、実質的な傀儡だってすぐバレちゃうか。 オギンもザイーダも僕が手足として使いたいからダメだ。 カーゲはジョーの執事だからちょっと立場的にどうかな? あ! いた。 ロット
同時に元傭兵組と戦士団を屯田兵的に街道整備に派遣する。 道幅を拡幅して整地、行き来をより快適にできるようにするためだ。 街道整備には労役として隣村の人手を駆り出す。 租庸調の庸である。 隣村を支配下に置く際に取り決めた徴税法を利用する取り組みだ。 人数を決めて一ヶ月労働奉仕させる賦役を早速利用したわけだ。 隣村の人口は約三十人、女子供も分け隔てなく賦役に就くことで、この秋の年貢を当初の七割徴収から五割五分に減らせる。 しかも飯付き宿付きと至れり尽くせりに見えるんで、実際にはズラカルト家同等の徴税率なのに得した気分になるという仕組み。 ま、実際一月分飯代が浮くんだから、村人にとっては冬の備蓄に余裕が出て生活が楽になると思うんだ。 本当は畑仕事がなくなる冬場に駆り出したいところなんだけど、今年はそうはいかなくて今時期になっている。 労働奉仕させなきゃ年貢に七割取り上げることになっちゃうからね。 さすがにそこまで鬼じゃない。 もちろん、町の住人にも賦役はある。 こっちは村からの復興に駆り出されていた去年までと特に違いはなく、シームレスに移行できた。 推進している貨幣経済が浸透してきたのでお金での徴税や物納も視野に入ってきた。 もっともいくら納めさせればいいかが判断つかないんで、今年は無理かな。 相変わらず流入人口の増加に町の住宅供給が追いつかなくて、新規に流入してきた人たちには集合住宅を建てるまでの間、街道整備の労役に出てもらっている。 腹の中ではどう思っているか判らないけど、表面上は納得して従ってくれていた。 副次的効果で街道整備は計画を上回る進捗状況だ。 しかし、町の規模からいってキャパオーバーなんだよね、すでに。 イラードにはできるだけ早く村に移民できるようにしろと催促しているんだけど、簡単じゃないよねー。 僕はルビレル親子と地図を広げて腕を組む。 正確なものじゃないけどね。 ズラカルト男爵領オグマリー区十
裏の畑の秋蒔きフレイラの収穫と春の種蒔きが終わる頃には村の人口が百七十人を超えてしまった。 その間、どころかそろそろ夏というこの時期まで僕は内政に忙殺されて村から出られなかった。 目下喫緊の課題は僕の代わりに町の行政を担える人材探しだ。 本来内政を補助していたイラードは隣村に出向中で、イラードに代わる人材がいなかったというのが痛い。 いや、まったくいないわけじゃない。 むしろ最適な人材がいたにはいたんだけど、とても重大な点で任すことができないのが問題だった。 ルビレルかルビンスに任せられるんならどんだけ楽になるか……。 しかし、この案に強硬に反対する勢力がいて二人に打診することもできないでいる。 はい、反お館派の面々です。 彼ら曰く『寝返ったばかりの奴に町を任せられるか』 感情的な発言だけど、ごもっともと言わざるを得ない。 まぁ、おんなじ意味で彼らに任せる気にもならないんだけどね。 ギランなんかに任そうもんなら、正に獅子身中の虫ってやつだ。 大人の事情で反お館派をひとまとめにしただけとはいえ、一つの部隊を任せているのだってどうかと言われているくらいなのに。 反お館派は味方の戦死者九人中七人と戦死者を多く出したことで、勢力自体は小さくなったんだけどそのせいでより強硬な態度を取り、対立を深めている。 戦死者遺族には褒賞と税制優遇措置を施しているんだけどなぁ。 そうそう、オルバックJr.はつい先日、多額の身代金と引き換えに国元へお引き取り願う算段がついたところだ。 十日もすれば身代金が到着する予定なのでようやく厄介払いができる。 身代金のほかにルビレルの奥方も要求したのだけれど、こちらは断られた。 ルビレルは武人の習いと言っているけれど、寂しそうだ。 話がそれた。 人口の話。 先の戦で捕虜にした三十四人中まだ人質として残っているジュニアと僕の臣下となってくれたルビレルの他にこの街に残ることになったのが二十六
「で、僕のステータスはどうやったら確認できるの?」「なにそれ、美味しいの?」 え?「うそうそ、そんな便利機能現実世界にあるわけないじゃない」 だよねー。「数値が知りたいなら体力測定とかIQ検査でもしてみる?」「それって実際あてになるの?」「参考程度には」 だめじゃん、そんなの。「まぁまぁ。ホラ、そろそろ準備始めなきゃまた木の上で寝ることになるよ」 リリムに言われて気がついた。 お日様がだいぶ西に傾いているらしく、僕の影
「逃げたのはガキ一匹か」 と、僕の真下で傷だらけのごつい男が言っている。 こいつが盗賊団の頭目と見た。「へい、多分」「多分だと!?」「へ、へ……」 あたふたした下っ端が頭目にぶん殴られ、仰向けにぶっ倒れる。 気絶してろ! 盛大に気絶してろよ、でなきゃここにいることがバレる。 僕の祈りは天に通じたのか、そいつは白目をむいて動かない。「このさらに奥に行ったかもしれませんぜ」「ならいい」 頭目は、一言吐き捨てて踵
さて、ここからは前世の記憶をフル活用だ。 襲ってきたのは、十数人の盗賊団。村には女子供を含めて三十人ちょっと。ここは本当に農村の一集落だった。 ん? この世界は前世知識的にどれくらいの文明水準なんだ? くそっ、ど田舎の未成年じゃ参照知識がなさすぎる。 異世界転生ものならそれなりの環境に生まれ直させろっての。 ──って言っても仕方ないわけで、そもそもテンプレの神様にあった記憶がない。 現世の記憶を手繰り寄せてもなろう系のお作法である知ってるゲーム世界的な場所でもなさそうだ。 あ、もっとも僕、
「人生やり直せたらなぁ……」 そう思っていたことが僕にもありました。 ありましたが……。 だからってこれはないんじゃないでしょうか? こんな状態で前世の記憶が蘇るとか、神様の仕業だとしたら「あんたバカぁ!?」って罵ってやりたい。 いいや、一発殴らせろ。 こんな切羽詰まった状態だが、現在の状況を冷静に確認分析だ。 まず、ここは村はずれの雑木林をちょっと入







