ログイン「流入してくる人を建設に充てるってのはどうだ?」
いいね、ルダー。
「町を頼ってくる人は町に住みたくてくるのです。宿場に止めるなんて心証を悪くしますよ」
「敵は増やしたくないな」
「でもよ、イラード。この町の適正規模は百五十人程度。いつもそう言ってるのはお前さんだろ?」
「ええ」
「だったら、早晩町に人は受け入れられなくなるってことだぞ」
「それは……」
確かに今のペースで人口が増えるのだとしたら来年の夏にはその規模になってしまいそうだ。
「お館様が隣村抱き込む気になったのもそう言った事情があった上でだと思うんだ。ところで、お館様?」
「なんでしょう?」
「宿場二ヶ所で何人くらいの人口を割くつもりなんだ?」
人口ときたか。
「ゆくゆくは宿場町周りも畑にする計画だから一ヶ所五十人規模ってところかな?」
「ゆくゆくの計画はどうでもいい。宿場としての計画だけで言ってくれ」
僕の覚悟を確認したチカマックは僕の案を了承するという決断を下した。「よろしいのですか?」 サイがまだ不服であるという態度をあらわにチカマックに訊ねる。「仕方ないさ。それくらいドラスティックな為政者じゃなきゃ、乱世は生き抜けない」「取り上げるだけじゃないよ」 僕はオギンに目配せをして一枚の大きな地図を広げさせる。「これは?」「この町の周辺地図です」 オギンたちに描かせたかなり詳細な地図だ。 町を中心に道と地形とが書き込まれている。「これは皮紙ではありませんね」 ノサウスが興味深そうに手触りを確認している。「その件は後で話すとして、本題だ。町の再開発の提案だ」 と、口頭で説明を始める。 町の城壁を解体し、村までの街道沿いを全て農地にするという墾田事業だ。 数十人規模の集落の集合体から大きな農村を作るというプロジェクトである。 それを具体的にイメージできるようにもう一枚の紙を元の地図の上に広げる。 完成予想図ってやつだ。「ずいぶん思い切った計画ですね」 最初に食いついたのはやっぱりノサウスだった。 チカマックも計画自体は否定しない。「しかし、こんな大掛かりな計画、簡単にはいかないだろ?」 サイは腕を組んでうなる。「僕の村の開発状況から考えて三年から五ヵ年計画ってところでしょうか」「そんなに悠長に土木事業なんてやっていていいのか?」「むしろ、今のうちに進めていかなきゃやれなくなると踏んでいる」 そう、こんな計画は本格的に戦争をおっぱじめると簡単にはできなくなる。「具体的な事業計画が出来上がっているんですね?」 さすがは町の運営を任されている代官だけある。
階級制度的には農民階級と自由の民では農民階級の方を上級としているが経済力・武力を背景に貴族階級と対等以上に渡り歩く自由の民の方が何かと優遇されることが多いようだ。 厳密には各階級はもう少し細かく分けられている。 貴族なら爵位がある上級貴族とその部下である騎士。 農民は貴族ではないが自分の土地をもち小作人に土地を貸す大地主、自分の畑を耕す地主、土地を借りて耕す小作人、そして大地主や領主に所有権がある農奴だ。 農奴は奴隷階級と主張する貴族もいるが一応、制度上は農民階級として扱われているそうだ。 ちなみにバロ村ボット村セザン村は少し特殊で、バロ村は国王地、ボット村セザン村はズラカルト男爵所有の共有農地と自宅周辺の自分の畑という構図だった。 もっとも、僕が独立を宣言したのでちゃぶ台返しになってるけど。 ということで、それまでの三村同様公地として農産物から税を徴収したい僕と、財産である土地を取り上げられたくない町側の意見対立があるわけだ。「ワタシとしては、事務処理が簡略化するのでこの提案はありだと思うのですが……」「そりゃあお主は平民出で資産持ちでもないからそう言えるのだろうがな、ことは身分と財産の問題だ。持てるもの、奪われるものの感情も考慮に入れて考えろ」「ですが、税制のシンプルさは魅力ですし、農民階級も複雑な階層分けがなくなれば行政官としては願ったり叶ったりです」 こっちを無視してノサウスとサイがもめている。 慣習と感情に重心を置くサイと冷徹にメリットデメリットを推し量るノサウスという構図はむしろ僕の出る幕がない。「ジャン殿」 と、チカマックがいうと二人は議論をやめる。「ジャン殿は新しい身分制度を考えているのですね?」 あー……うん、王国基準の身分制度とは違うものだね。 前世の四民平等まで導入する気はないけど。 いや、むしろ制度的には古代の制度を導入しようとしているのかな?「新しいというのかな? 僕が農民出だから農民に優しい制度設計を考えたつもりなんだと思うけど」「私も土地を持たない下級貴
そうか。 てことは五年くらい前に盗賊に襲われて以降も頻繁にモンスターに襲われてたりするわけだ。 そりゃあ逃げ出したくもなるか。 それにしたって、いくら文明水準的に未熟で人の命が軽いからと言っても、この世界の田舎村は防衛意識低すぎないか? これじゃまるで日本の中世だべや。 モンスターも存在する世界なんだからもうちょっと改善の余地というか対策があってもいいと思うんだけど。 そんなことを思っているうちにホルス車は村長の家に到着し、村長に迎えられ招かれた家でとどこおりなく手続きが終了してささやかな晩餐へと続く。 ここら辺りは特段語ることもないよな。 コロニーの中心である町がこちらに帰順するのに衛星の一つでしかない村ひとつが抵抗するなんて選択肢はないさ。 翌日午前中に村の様子を視察して町へ戻り、一晩代官館に泊まって第二中の村へ。 こちらも第一中の村ほど荒れてはいなかったけれど、人口流出で寂れた感が拭えなかった。 そして改めてチカマックとの会談が行われた。 五日ぶりの会談は互いに事前折衝をしたルビレルとオギン、少し硬さのあるサイと飄々としたノサウスが同席している。 もちろん、サラも一緒だ。「──双方に異論のないこれらの案件はこのままでよろしいですか?」 街道整備をメインに懸案事項の大半が問題なく合意となった。 まぁ、それほど多岐に渡る議題があったわけじゃない。 そこはそれ、しょせん地方の農村運営だ。「いいでしょう」 僕からの提案が大半だったのもあるし、合意しているんだから異論はない。「では、合意に至っていない議題と懸案事項の話し合いに移りましょう」「難色をしめしているのは再開発の件となんでしたっけ?」 と、すっとぼけて見せるがもちろん事前にルビレルから話は聞いている。 身分と財産保証だ。 この国は封建国家なので当然身分制度があり、国王を頂点にした貴族階級と同等の立場にある聖職者階級、その下に農民階級、自由の民がいる。 自由の民というのはキャラバンを
朝、僕らを乗せたホルス車が一台、町を出発する。 御者にチロー、車の中には僕とサラ、そしてサラの世話係カルホ。 護衛としてルビンスとサビーがホルスに騎乗してついている。 前日、先触れとして第一中の村にキャラとホタルが、第二中の村にコチョウとキキョウがそれぞれ出立している。 僕らは前日、町の様子をノサウスに案内されて視察していた。 残してきたルビレルを中心に今日から事前交渉が開始される予定だ。 その間に二つの村を正式に傘下に組み入れるため、僕らは移動中というわけだ。 予定では先に第一中の村へ。 町から村までは半日の距離だ。 第一中の村と第二中の村を直接つなぐ道はないので、明日いったん町に戻ってきて改めて第二中の村へ移動する。 村同士というのはそれほど交流がなく、村の中でほとんどが完結してるということだろう。 最奥の村と言われていた僕の故郷もキャラバンが時折来るくらいで生活用品のほとんどは自給自足だった。 道は決してよくはなくても半日の旅程で着く距離の道中は特になにも起こることはなく、村に到着した。 村はぱっと見でも荒れた感じがする。 規模としては五、六十人規模の村だと思うんだけど空き家も多く、集落人口で四十人くらいじゃないだろうか。 ここでもキャラが出迎えてくれる。 村長の家までの間にキャラに村の現状を尋ねると、「ここは第三中の村同様モンスターに襲われやすいこともあって逃げ出す村人も多かったようです」 との返答。「じゃあ、うちの町にもこの村から移住してきた人、結構いるのか?」 その質問に答えたのはカルホだ。「たしか、アニーちゃんたちがこの村の出身だよ」
「俺等興奮したね。魔法より科学の方があふれているなんてこんないい世界ないじゃない。ま、そのせいで魔法を軽視した発言が疎まれて左遷喰らっちゃったんだけどね」 はは……笑うしかない。「なら、僕の傘下に入るのは君の幸運だよチカマック」「なぜ?」「なにせ僕の前世は魔法のない科学技術だけの世界だったんだから」 ちょろい。 子供みたいに目をキラッキラさせて神を見るようなチカマックちょろすぎる。 さて、あまり長く二人で密談するのもよろしくないので、ここら辺りで話を切り上げてホルス車待機組を安心させなくちゃ。「その件はまた次の機会に話すとして、そろそろ心配しているだろう部下たちを安心させようじゃないか」「ああ、そうか……そうだね」 と、席を立って僕を案内する。 応接室を出ると食堂に案内して人を呼び、僕らは一団勢揃いで饗応を受ける。 食事の席にチカマックの家臣はサイとノサウスの他はメイドだけ。 いいのか? 結構な人数だぞこっち。 食事の席で互いの情報を交換していた際に話題に出たのがグリフ族の件だ。 やっぱり悩みの種なんだねぇ。「どうも最近族長が代替わりしたらしく、好戦的でテリトリーも拡張傾向にあるという報告が上がっています」 と、サイがいう。 通行が脅かされるのは戦略的にも困るよね。 それで死者なんか出るようになったら為政者としての責任問題にもなるし……。「交易はどうなっているのですか?」 ここら辺りはさすが元キャラバン組だね、サビー。 僕ら田舎もんはどうもそこら辺りがとんと疎い。「グリフ族のテリトリーは貴重な資源の産地で今も交易を行っていますが、どうも代替わりをしてからかんばしくありません」 そう答えたのはノサウス。 どうやら軍事面はサイが経済面はノサウスがチカマックノ右腕のようだ。 ん? どっちかは左腕?「グリフ族なんて追い払っちまうのはダメなんですか?」
どちらも話したいことがあるけれど言い難いので互いに切り出しかねているという状況が続く応接室。 なんの我慢比べだよ。 ええい、主導権を握ったれ。「先ほどのあなたが代官と見破った件ですけどね」 うん、日和った。 本当はそんなことはどうでもいいっちゃどうでもよかったんだ、いまさら。 けど、核心に触れるのはなかなか度胸がいるんだよ。 ということで搦手で攻めつつ主導権をとるべく話し始める僕、なかなかやると思わない?「ほぅ、種明かしをしてくれるんですね?」 食いついてきた。 そりゃ、あの沈黙は居心地悪いよな。「最初に交渉主体として出てきた男が交渉の場だというのに自己紹介から始めなかったので、『おや?』っと思ったわけですよ」「そんなところから疑っていたんですか?」「ええ、まあ」 ヤバイ、ちょっとドヤ顔してる自覚がある。「そのあと前任の代官を様付けで呼んだでしょう?」「え? そんなことに引っ掛かったの?」 話し方が突然くだけたな。 まぁ、身バレしたときの言い方がこっちの方だったわけだし、これが地なんだろうけど。 そんじゃこっちも少しくだけてみせるか。「ま、他にも細かいところがいくつかあったんだけど、決定的なのは部屋に入ってきたときに僕の方を見て目を見張ったことかな?」「…………」 はい、黙っちゃいましたね。 マウントとれたかも。「いや、これはまた別件でしたかね?」「いや、たぶんその見立てがあった上での推理なんだろ? やれやれ……妖精連れなんて卑怯だよ。婚約者連れてくるより卑怯だ。しかも、そいつ転生者にしか見えないんだろ」 ビンゴ!「じゃあやっぱり」「ああ、あんたの推理通りだよ」 その後、互いの身の上話をした。 それによると、どうやらチカマックは地球人じゃないようだ。 誰もが魔法を使えた代わりに科学技術はほとんど
さて、ここからは前世の記憶をフル活用だ。 襲ってきたのは、十数人の盗賊団。村には女子供を含めて三十人ちょっと。ここは本当に農村の一集落だった。 ん? この世界は前世知識的にどれくらいの文明水準なんだ? くそっ、ど田舎の未成年じゃ参照知識がなさすぎる。 異世界転生ものならそれなりの環境に生まれ直させろっての。 ──って言っても仕方ないわけで、そもそもテンプレの神様にあった記憶がない。 現世の記憶を手繰り寄せてもなろう系のお作法である知ってるゲーム世界的な場所でもなさそうだ。 あ、もっとも僕、
「人生やり直せたらなぁ……」 そう思っていたことが僕にもありました。 ありましたが……。 だからってこれはないんじゃないでしょうか? こんな状態で前世の記憶が蘇るとか、神様の仕業だとしたら「あんたバカぁ!?」って罵ってやりたい。 いいや、一発殴らせろ。 こんな切羽詰まった状態だが、現在の状況を冷静に確認分析だ。 まず、ここは村はずれの雑木林をちょっと入
「で、僕のステータスはどうやったら確認できるの?」「なにそれ、美味しいの?」 え?「うそうそ、そんな便利機能現実世界にあるわけないじゃない」 だよねー。「数値が知りたいなら体力測定とかIQ検査でもしてみる?」「それって実際あてになるの?」「参考程度には」 だめじゃん、そんなの。「まぁまぁ。ホラ、そろそろ準備始めなきゃまた木の上で寝ることになるよ」 リリムに言われて気がついた。 お日様がだいぶ西に傾いているらしく、僕の影
「じゃあ次は概要ね」 と、リリムは言う。「世界の概要は現世の知識があるから割愛ね」 あらま。「あなたは転生の際にDNAってやつに細工されていてね、神様曰く人よりちょっと優秀になってるそうよ」 え? ちょっと?「そこはとても優秀になってんじゃないの? テンプレ的に」「いくら世界に干渉できる環境にある神様だってそんなことホイホイしたら世の中のバランスが狂っちゃうでしょう?」「異世界転生は世界のバランスを崩さないのか?」「崩すわよ。それなりに。そもそも