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触れてはならない、禁断の果実《2》

Author: 砂原雑音
last update Huling Na-update: 2025-04-09 21:43:15

どくどくどくと早鐘を打つ鼓動に焦燥感も煽られる。

「アカリちゃんって子が明らかに陽介狙いだったんで、送ってやれって二人きりにさせてみたんすけどね」

「だから俺は」

焦って説明しようとする俺の言葉に被せるようにして、慎さんが言った。

「恥ずかしがることないじゃないですか。陽介さんにも春が来たんですね」

「……」

ぷつん。

と何かが切れた音が頭の中でした気がする。

目の前には、慎さんがいれてくれたシャンディガフ。

薄黄色の透明な液体で埋められたグラスの中、きらきらと小さな粒のような泡がくるくる昇るのを見乍ら、苛立ちを抑えようとしたけれど。

我慢できずに、グラスを掴みひと息に飲み干した。

冷えた液体が身体の中心を通ったけれど、頭は冷えてくれなかった。

春が来た、って何。

俺はずっと春だけど。

慎さんと出会ってから、頭ン中ずっと春爛漫だけど?!

なんで今更他の女と春を迎えなきゃならないんだ。

好きだって言ったのに、なんで信じてくれてないんだ。

だん!

と勢いよくグラスを置いた衝撃で、会話を続けていた二人の声がぴたりと止まった。

「陽介さん?」

「俺は!」

椅子から立ち上がり張り上げた声に、慎さんが目を見張る。

今漸く、ずっと逸らされたままだった視線が合った。

「俺は、慎さんが好きだって言いました!」

信じてもらえない苛立ちそのまま言葉をぶつけてしまったけど、それでいいやと抑止は全く働かない。

驚いた慎さんの手から、ダスターがぽとりと落ちた。

「ちょっ、陽介さん……」

「拒否されててもわかってはくれてるものと思ってました! もっと口に出した方がいいっすか、もっと態度で示さないとわからないですか」

「ちょ、ちょっ……馬鹿かお前!」

「どうせ俺は馬鹿ですよ!」

嘘つきだとか節操無しだとか思われるより、馬鹿の方がなんぼかましだ。

完全に頭に血が上った俺に、慎さんが動揺したのか目線がちらちらと他所を向く。

なんだよ、俺に集中しろよ!

子供染みた独占欲みたいなものが沸いてでて。

その視線の先に、慎さんの動揺の理由に気付いた。

「浩平ならもう知ってます。俺、言ったから」

「は?」

ぽかん、と口が開いたままおかしなものでも見つけたような、表情だった。

「ば……馬鹿じゃないか、本当に」

「なんとでも。男も女も関係なく、慎さんが好きです。何回でも言いますし誰に知られても、俺はいいです」

そう
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