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第0958話

Author: 十一
「だから、口に出そうと決める前に、あなたは一人でこんなに色々考えていたのですか?」

「うん」

「道理で……」凛は小さく呟いた。

「何か言った?」陽一は聞き取れなかった。

凛は笑って首を振る。「何でもありません。もうどうでもいいことですよ。もう行きましょう……」

二人は手をつないで、階段へ向かう。

その時、陽一の足が止まる。

凛も立ち止まり、陽一を見る。「どうしたんですか?」

「り、凛、僕たち……今は彼氏彼女ってことだよね?」

凛は二人の絡み合った手を軽く振る。「そうですが?」

「……今、夢を見てるわけじゃないよね?」

女は思案気に言う。「どうやら、あなたはよく私を夢に見るらしいですね」

陽一は全身が硬直し、頬に急に怪しい紅潮が浮かんでくる。

凛は少し戸惑っている。

『本当によく夢に見てたの?』と。

陽一は凛と目を合わせられず、代わりに二人の握り合った手を見てニヤニヤする。「えへへ……いいな」

なるほど、凛の心にも自分がいたんだ。

なるほど、片思いじゃなかった。

二人は長い付き合いで、何度もこの階段を一緒に上ったことがある。並んで進んだり、前後になった
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Comments (3)
goodnovel comment avatar
いわあや
癒される…心がやさぐれる小説ばかり読んでいる中、このカップルが積み重ねてきた日々とこの成就は、ほんとに癒される
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美桜
同感です。今一番楽しみに読んでる話です。
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nami
もっと更新数増やしてー 2話じゃ秒で読み終わっちゃう 明日が待ち遠しいよ
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