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第3話

Author: 妖精魔女
暁は、星音の頬に残る平手打ちの跡に気づいた。

そこは痛々しく赤く腫れている。

彼は眉をひそめ、険しい声で言った。「誰にやられた?」

先ほどまで星音が右側の顔しか見せていなかったため、左頬の跡に気づくのが遅れたのだ。

星音は顔を上げ、冷ややかに言い返した。「誰だと思う?」

この潮海市で、暁の妻に手を上げられる人間など、麗子以外にいるはずがない。

暁も察したのだろう。目元を曇らせ、彼女を自分のそばへ引き寄せた。

「悪かった。さっきはあんな言い方をするべきじゃなかった……

早く言ってくれればよかったのに」

星音は、長い間こらえていたものが一気にあふれ出しそうになるのを感じた。

麗子にぶたれた時も泣かなかった。莉愛が慰めるふりをして火に油を注いできた時も泣かなかった。本邸から一人、空腹を抱えて帰ってきた時も泣かなかった。

なのに今、暁の「悪かった」というたった一言で、星音はどうしようもなく泣きたくなった。

自分がひどく情けなくて、嫌になる。さんざん傷つけておいて、後から優しくする……暁は10年以上もそうやって私をなだめすかしてきたのだ。分かっているのに、いつもその優しさに絆され、結局は彼を許してしまう。

だが、どうしようもない。

ただ、無性に泣きたいのだ。

泣きたいと思うことすら許されないのだろうか。自分の人生はどこもかしこも間違っているような気がするけれど、泣きたくなることさえも間違いなのだろうか。

星音は顔を背け、乱暴に涙を拭った。

暁は救急箱を取り出し、彼女の頬に薬を塗った。

あとからあとからこぼれ落ちる涙に、暁は胸を締めつけられた。彼女の頬に唇を寄せ、その涙をそっと吸い取る。

星音は避けようとしたが、顎を掴まれ、逃げられないようにされた。

しばらく深い口づけが続き、星音は少し息を乱した。

暁は言った。「悪かった。N国の鉱山は電波が入らなくて、電話をかけるにも遠くまで移動しなければならなかった。

それなら仕事を早く終わらせて、お前のところへ帰ろうと思ったんだ。昨日の午前中に潮海市へ戻ったところで、歩と莉愛から連絡が来て、病院に付き添うことになった。終わったらすぐ帰るつもりだったんだ」

そして不意にあんなニュースが飛び込んできたせいで、急遽会社に戻り、一晩中対応に追われることになったのだ。

星音はソファにじっと座ったまま、何と答えればいいのか分からなかった。

暁が仕事にかまけて放っておくから怒っているわけではない。

莉愛の健診に付き添ったから怒っているわけでもない。

正確に言えば、星音自身、自分が何に対して腹を立てているのか分からなくなっていた。

暁と結婚してからの3年間、ずっとこの繰り返しだった。何度も惨めな思いをし、何度も腹を立てた。けれど、理由を一つずつ拾い上げてみると、どれも本気で怒るようなことではないように思えてくるのだ。

結局のところ、暁の両親に嫌われているとか、月城家の人間がいつも嫌味を言ってくる、というだけの話だ。

そもそも、私なんかに腹を立てる資格があるのだろうか。

私はもともと鷹司家の執事の娘にすぎない。暁が名家の令嬢たちを差し置いて自分を選んだのだから、両親が面白く思わないのも当然なのだろう。

月城家の跡取り息子は、私のせいで命を落としたのだ。月城家から冷遇されるのも当然のことだ。

誰もが口を揃えて言った。星音は運がいい。こんなに恵まれているのに文句を言うなんて身の程知らずだ、もっと感謝すべきだ、と。

だが、星音はどうしても感謝する気にはなれなかった。

周囲の人間は皆、彼女をよそ者を見るような、あるいは値踏みするような冷たい目で見るのだ。

暁の妻である手前、麗子以外にあからさまに嫌な態度をとる者はいないが、誰も彼女を本当に一人の人間として尊重してはいない。彼女の話題になれば、皆一様に言葉を濁し、意味ありげに顔を見合わせて笑うのだ。

だから星音は、社交界のパーティーや食事会などに参加するのがますます嫌になっていった。

どの集まりに行っても、自分の居場所などなかった。

彼女は一日のほとんどの時間を、この広すぎる家で一人で過ごしていた。暁は仕事で忙しい。

だから彼女は、バラエティ番組を流しっぱなしにするようになった。くだらなくても人の声が聞こえれば、自分がまだ血の通った人間なのだと思えるからだ。

……

「まだ痛むか?」

暁の温かい掌が星音の頬を撫でた。薬を塗られた頬は熱を帯びていた。

星音は首を振った。「もう痛くないわ」

暁は静かに彼女を見つめ、鞄からジュエリーボックスを取り出した。

開けると、そこには見事なピンクダイヤの指輪が入っていた。

希少なピンクダイヤが贅沢にあしらわれ、細工も精巧だ。一目で途方もない価値の品だと分かる。

先月、喧嘩の弾みで星音が結婚指輪を投げ捨ててしまったため、これは彼からの償いの品だった。

「気に入ったか?」暁は口元に笑みを浮かべた。「2億円を指にはめる気分はどうだ?次に喧嘩しても、こいつは投げるなよ。さすがに2億円もするんだからな」

彼は、星音がお金に弱いことをよく知っていた。

星音は美しいピンクダイヤを見つめながら、ふと尋ねた。「莉愛も持っているの?」

暁は一瞬言葉に詰まった。「何だって?」

星音は顔を上げ、暁をまっすぐに見据えた。

「この指輪、莉愛も持っているの?」

静真が亡くなって以来、暁が星音に何かをプレゼントするたび、必ず莉愛にも同じものが用意されるようになった。

麗子に言わせれば、鷹司家と星音が莉愛に借りがあるからだという。

静真は何よりも妹の莉愛を大切にしていた。もし彼が生きていれば、星音に何かがあれば、必ず莉愛にも同じものを贈ったはずだ。

だから静真が亡くなった後、星音が手にするものはすべて、鷹司家が莉愛にも同じように用意してやらなければならないのだと。

バッグやアクセサリーといった小物から、家や車といった大きなものに至るまで。

一昨年の結婚記念日、暁は星音に小さな島を一つ贈った。

しかし数日後、莉愛から電話があり、彼女と歩の結婚記念日を祝うパーティーのために別の無人島へ招待されたのだ。

その時になって初めて、暁が莉愛と歩の結婚記念日にも島を贈っていたことを知った。

コツン、と額を軽く弾かれ、星音は我に返った。

「星音、昼ドラの見すぎでおかしくなったんじゃないか」暁はあきれたように言った。「これはお前への結婚指輪だぞ。あいつに贈るわけないだろ。俺はあいつの夫じゃないんだからな」

星音は視線を落とし、この日初めて、心からの笑顔を見せた。

彼女は指輪をはめ、指を伸ばして眺めた。

細く白い指にピンクダイヤの輝きがよく映え、気高く幻想的で、まるでおとぎ話のお姫様のようだった。

星音はすっかり嬉しくなり、珍しく写真を撮ってSNSに投稿した。

投稿から5分も経たないうちに、たくさんの「いいね」とコメントがついた。親友の水無瀬明日香(みなせ あすか)からは、さっそくからかうようなコメントが届いた。

【寝る時は片目を開けて見張ってた方がいいわよ。私がこっそりそのダイヤを削り取りに行くかもしれないから!】

星音が【あはは】と返信し、タイムラインを更新したときだった。ちょうど1分前に、莉愛も画像を投稿しているのが目に入った。

大粒のピンクダイヤのネックレス。画像を拡大するまでもなく、一目でそれと分かった。

星音の満面の笑みは、瞬時に凍りついた。

震える指で莉愛の画像をタップする。極上のピンクダイヤがあしらわれたネックレス。星音の指輪と色合いも細工も瓜二つで、一目で同じシリーズだと分かる代物だった。

莉愛のキャプションにはこう書かれていた。

【指輪とネックレスで迷ったけど、やっぱりネックレスにしたわ。華やかだし、値段も上だから。いつも何かと気にかけてくれてありがとう。私って本当に幸せ者ね】

その瞬間、星音の中で、張り詰めていた何かがプツリと切れる音がした。

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