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第312話

Author: こふまる
「これ全部、夕月の仕組んだ罠なんです!」必死に訴える声は焦りに満ちていた。

豚のように腫れ上がった顔で、楓は呂律の回らない声で叫んだ。

その言葉が盛樹の耳に届き、彼の心臓が一瞬止まったかのように感じた。

盛樹は折り畳んだベルトを楓の鼻梁めがけて振り下ろした。

「夕月との親子の絆を壊そうなどと思うな!」

楓は凍りついた。なぜ父が突然、夕月に肩入れするようになったのか理解できなかった。

「お父様、私はずっとそばで育ったのに!夕月とどんな絆があるっていうの?あの時だって、家に迎え入れる気さえなかったじゃない!!」

「黙れっ!!」

盛樹は激昂した。自分の評判は地に落ち、一方で夕月の勢いは止まらない。今後、夕月に頼らざるを得ない立場で、楓に夕月の悪口を言わせるわけにはいかなかった。

「テープを持って来い!!」盛樹が怒鳴った。

白い手が黒いテープを差し出す。

北斗は葵がテープを渡すのを見て、眉を僅かに上げた。

盛樹はテープを引き千切った。

「お父様、何するの?」楓は恐怖に震える声を上げた。

盛樹は冷酷な目つきで睨みつけた。「その毒づく口を封じてやる!」

夕月が戻って来て九年経つというのに、会話らしい会話も数えるほどしかない。

それどころか、険悪な関係になることさえあった。

だが今や、夕月との関係を修復したいと考えていた。

「やめて!!」楓は叫んだが、父の手を止めることはできなかった。

盛樹は容赦なく、楓の口の周りにテープを一周巻きつけた。

葵は傍らに立ち、暗い沼のような瞳で楓を冷ややかに見下ろしていた。

似たような光景が、脳裏を走馬灯のように駆け巡る。

かつて楓にトイレに閉じ込められた日。包帯のようにテープを巻きつけられ、目も、髪も、口も、鼻も覆われた。息もできず、助けを求める声すら出せなかった。

暗闇の中で、死の訪れを待つしかなかった。

汐がハサミでテープを切り裂いてくれるまで。

再び目を開け、光を取り戻した時、汐は天使のように映った。

「行こう」

北斗が葵の肩を抱く。我に返った葵は、柳の如く細い体を北斗の胸に預けた。

北斗は葵を連れて立ち去った。この騒々しい屋敷にこれ以上留まる理由はなかった。

*

その頃、某高級ホテルの特別スイートで、楼座雅子はレザーソファーに寄りかかっていた。上半身裸の男が彼女の前に跪いている。
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