第445話

夕月は瑛優の頭の両側にある角のような髪結びに触れた。「これ、おじちゃんが結んでくれたの？」

「うん！」瑛優は力強くうなずいた。「おじちゃんね、昔ママの髪も結んであげたんだって」

夕月は優しく微笑み、天野への感謝の気持ちがこもった視線を送った。

瑛優は心配そうに尋ねた。「ママ、お昼ご飯食べた？お腹すいてない？」

彼女は手に持った保温ポットを掲げた。「これ、おじちゃんが作ってくれた愛情たっぷり栄養おかゆだよ！」

「ちっ！」奥歯を噛みしめるような、侮蔑の響きがベッドの下から漏れた。

しかし、瑛優が話していたため、他の人たちにはそれほどはっきりとは聞こえなかった。

天野はその物音を捉え、思わず後ろを振り返った。視線は平然とした表情を浮かべる凌一の顔に注がれた。

目覚めたばかりの夕月はまだ何も食べていなかったが、薬の影響で口の中が苦く、あまり食欲はなかった。

保温ポットを抱えた瑛優を見て、夕月は優しい声で言った。「お腹ペコペコよ」

「ママ、ちょっと待ってね」

瑛優は自分がママに必要とされていることをはっきりと感じた。

保温ポットの蓋を開け、中から小さな器を取り出し、おかゆを注いだ。

「ママ、私が食べさせてあげるね、いい？」

瑛優は他の大人たちのように、入院中のママの役に立ちたかった。

「ええ、いいわよ」夕月は答えた。「瑛優が食べさせてくれるおかゆが一番おいしいに決まってるわ」

夕月はゴムを手に取って髪を束ね、期待に満ちた表情で娘を見つめた。

瑛優はスプーンでおかゆをすくい、自分の唇の近くで軽く息を吹きかけてから、夕月の口元へ運んだ。

娘に食べさせてもらうおかゆを口にした夕月の目が、しっとりと潤んだ。

「お兄さんのおかゆ、すっごくおいしい」夕月は食べながら声を弾ませた。

「お前が家を出てから、もうおかゆを作ってやることもなくなったな」と天野が言った。

そう言いながら、彼は冷たい視線を凌一に向けた。

彼の言う「家を出た」とは、夕月が14歳の時、凌一について桜都へ行ったことを指していた。

「材料は昔と違うけれど、これがお兄さんの味だってわかるわ」と夕月は笑った。

二人が幼い頃、廃品回収で生計を立てていた日々を思い出し、天野の目の奥に暗い影が落ちた。

凌一は白磁のような指先で車椅子の肘掛けを軽くたたいた。「天野さんは病院に来る途中で、