Mag-log in私はなおちゃんに「ごめん」と断りを入れると、震える指先で通話ボタンをタップした。
「――もしもし?」 『なのちゃん?』 私が応じると同時、タツ兄が被せるように私の名を呼んで。 次いで心底ホッとしたように『良かった、通じた』とつぶやくから。 「あ、あのっ」 にわかに不安になった私は、こんな時なのに横から私の腰を抱こうとしてくるなおちゃんが気が付けば、私とたっくんのことが正式に全て済んだ頃には二月初旬になっていた。 その間、たっくんは『せっかくの準備期間だ。婚約者気分を味わおう?』と言って、私にダイヤの付いた婚約指輪を贈ってくれて。 私はウェディングドレスを着た後にエンゲージリングを薬指にはめるという、一般的な花嫁さんとはちょっぴり順序がごちゃごちゃなお嫁さんになった。 でも――。 挙式も何もかも全てが終わった今、私の左手薬指にはたっくんとおそろいのシンプルな結婚指輪がはまっている。 *** 「たっくん、ごめんね。私のせいで色々あべこべになっちゃって」 アパートを新しく借り直してたっくんと二人。愛フェレットの直太朗を連れ子に、私は新生活を始めたばかり。 伴侶を亡くしたお父さんを一人にするのはすごく心配だったけれど、お父さんは犬や猫に囲まれて毎日忙しくしているから大丈夫だ、と私の背中を押してくれた。 お母さんが亡くなってから半年以上。 私がウダウダと自分のそばを離れずに一緒に暮らしていたことを、お父さんは結構もどかしく思っていたみたい。 お母さんが存命の頃は、炊飯器でご飯を炊くことも出来ないような、典型的な昭和男だったお父さんが、お米を研いで自炊をするようになって。 メバルの煮つけを作ってくれて、それを私にふるまってくれながら、「わしは何でも一人で出来るようになったのに、菜乃香はいつまで建興くんを待たせるつもりだ?」と叱られてしまった。 *** 「お義父さんの家もさ、そんなに遠いわけじゃないし、ちょいちょい様子を見に行けばいいよ」 やっと引っ越しの荷物が片付いて、二人並んでコーヒーを飲んでいたら、たっくんがそんな風に言ってく
お母さんが亡くなったのは梅雨の真っ只中――六月下旬のことだった。 朝からひっきりなしに降り続く大雨のなか。 前日夕方に「お母さん、今日はおしっこが出ないのよ」と話してくれたお母さんは、夜には意識を失って。 その状態のまま苦しそうにずっと喘ぎ続けた。 半日以上そんな状態が続いたあと、痛み止めのモルヒネを投与したら、まるで苦しみから解放されたように永遠の眠りについたのだ。 『お父ちゃんとお母ちゃんが来るのを待ってくれとったんじゃね』 祖父母がそうつぶやいたのは、その日自営業の締め日で、どうしても片付けなければならない仕事を片してからでないと、病院へ駆けつけることが出来なかったからだ。 先生からはモルヒネを使ったらきっと、お母さんは楽になるけれど、恐らくそのまま旅立つだろうと言われていた。 私もお父さんも、お母さんを大好きな両親に見送らせてあげたかったから……。 祖父母の仕事の目処が立つまでは、先生にお願いしてモルヒネの投与を待ってもらったのだ。 結果的にお母さんを長いこと苦しませることになってしまったけれど、両親に手を握られて母を送ることが出来たことを後悔はしていない。 祖父母が駆けつけてからモルヒネを投与して母が旅立つまでの数時間は、みんな声には出さなかったけれど母の死を待っている時間だったんだと思う。 大切な人との別れは辛い。 でも、十分過ぎるほど頑
自分からねだるようにたっくんに口付けて彼を見下ろしたら、 「……菜乃香、ごめん。自分から言っといて恥ずかしいんだけど……僕、いま正常位は無理だから。――菜乃香の方から僕の上に座ってもらっても……いい、かな?」 そう問いかけられた。 たっくんが出来ないことは私が補う。 それは最初に二人で取り決めたことだもん。 コクッとうなずいたら、たっくんがそれを確認してベッドサイドからゴムを取り出した。 たっくんが慣れた手つきで自身に避妊具を装着している間、私はそろそろと下着を脱ぎ捨てる――。 「建興くん……大好き……」 「僕もなのちゃんが大好きだよ」 気持ちを確かめ合うようにそんな言葉を交わして、たっくんと向かい合う形で彼の上にまたがった。 そうして――。 懸命に彼の切っ先が入り口を割るように狙いを定めて腰を落とすのだけれど、ぬるついた彼のモノは気持ちいいところを掠めるばかりでちっとも中に入ってきてくれないの。 うまく入れられない度、彼の先端に敏感なところを擦られるから、そのたびに身体がビクッと跳ねて余計にうまくいかない。 「菜乃香、ちょっと待って……」 何度かそれを繰り返していたら、見かねたようにたっくんの手が、自らの根元をグッと支えて動かないようにしてくれて。 「っ――!」 私が少しずつ腰を下ろすのに従って、定まったたっくんの先端が私の隘路を彼の形に押し開きながら侵入してくる。 「んんっ……」 ギュッとたっくんにしがみついて、ゆっくりゆっくり彼を飲み込んでいく私の腰に、たっくんの手が添えられて――。 「ごめん、菜乃香……、僕、もぉっ、待てないっ」
乞われるまま、口に当てていた手を恐る恐る放してたっくんの両肩へ載せたら、服の裾から彼の手が入り込んできた。 直に胸へ触れられているんだと思ったら、恥ずかしいのに何だかすごく嬉しくて。 「お願い、たっくん、そこっ、……」 ――舐めて? 無意識にそうおねだりしそうになった私は、慌てて口をつぐんだ。 でもたっくんは、私が何を言いたかったのか分かったみたい。 「もしかして菜乃香は可愛いここを僕に舐めて欲しいのかな? だったらお願い。上、脱いで……僕の前に胸、突き出して?」 照れ屋さんで可愛かったり……物凄く意地悪だったり。どれが本当のたっくんなんだろう? 「あ、あの、でも」 「恥ずかしい?」 当たり前だよ。 そんなの分かってるくせに。 涙目で彼を見下ろしたら、たっくんがニヤリと笑った。 「菜乃香、知ってた? このTシャツ、薄手で白無地だからさ。……菜乃香の可愛いココ、透けて見えてるんだ」 言うなり布地ごしにたっくんが私の胸をパクリと咥えた。 「ひゃ、あ、んっ」 直に触れられるほど直接的ではないけれど、どんどん布が湿り気を帯びて、敏感な胸の先にたっくんの熱を伝えてくる。 Tシャツ越し。ツンと勃ち上がった乳首を舌先で転がされるのは気持ちいいけど、何だかすごくもどかしい。 気が付けば、私はたっくんの後頭部をギュッと抱えるように抱きしめていた。 「や、んっ、たっくん……、くすぐったい」 本当はくすぐったいのとはちょっぴり違う。 気持ちいいけどアクセル全開じゃないから、熱がどんどん内側にこもってくる感じ。
と、どこか申し訳なさそうな表情のたっくんに、「あ、あのさ……。このまま口で、は寂しいなって思って……」 もちろんそれも悪くはないと思うんだけど、とゴニョゴニョと歯切れの悪い物言いをしながらも、「それに……」とたっくんが付け加える。 「それに、その……ぼ、僕も……菜乃香を気持ちよくしてあげたいって思うんだけど……ダメ、かな? って言うか正直に暴露するね。――僕も……、めちゃくちゃ菜乃香に触れたくてたまらないんだ!」 初めて身体を重ねる時くらい、私に触れて、それからちゃんと繋がってから一緒に果てたい……と、たっくんが私をうかがうように見やって。 そうしてハッとしたように自分の脚に視線を落としてから、申し訳なさそうに付け加えた。 「って言っても僕は今、このザマだ。……思うように動けないかもしれないんだけど」 しゅん、と項垂れるたっくんに、私は慌てて口走らずにはいられなかった。 「あのっ! たっくんがうまく出来ないところは……わ、私がっ、頑張るんじゃ……ダメ、かな? エッチって一人でするものじゃないと思うし……その、ふ、ふたりで助け合って、き、気持ちよく……なりたいな……?って思うんだけど……」 こんなこと女の子から言うのはどうなんだろう。 とてもはしたないことを提案している気がしてしどろもどろになった私を、たっくんがグイッと引き上げて抱き締めてくれた。 片腕で引き寄せられたのに、いとも簡単に立ち上がらされてたっくんの腕の中。 脚を怪我していてもこれ。 今更のようにたっくんは力のある〝男の人なんだ〟って思い知らされて物凄く照れ臭くなる。 「菜乃香。さっきの提案、すごく嬉しい。僕ね、セックスって男が頑張るものだって勝手に思い込んでたから……女の子からそんな風に言ってもらえるなんて正直思ってなかったんだ。……ね、菜乃香。僕に足りない部分
途端、たっくんが抑え切れないみたいに吐息を漏らして。 頭に載せられたままの彼の手に微かに力がこもった。 私はそれがたまらなく嬉しくて、もっともっとたっくんを悦ばせてあげたいって思って。 「痛かったら、……言ってね?」 告げて、そっと鈴口を割り開くように舌先を押し当てた。 尿道口に添って丹念に舌を這わせて、ちょっぴり塩辛い潤みを丁寧に舐め取ると、そのまま根元に向かって一直線に舌を下ろしていった。 根元までたどり着いたら同じ軌跡をたどって上まで戻って、くびれたところを舌全体で優しく愛撫する。 「……なの、かっ」 早く咥えて?とでも言いたいみたいにたっくんが吐息交じりに私の名を呼んで、頭に載せられた手にグッと力を込めてきて。 私はそんなたっくんのことを心底『カワイイ』と思って、もっと喘がせてみたくなる。 うまくおねだり出来ないたっくんが悪いんだよ?と言わんばかりに、わざとくびれの外周を何度も何度も舌を使って行き来しては時折鈴口に舌先を這わせて焦らす。 口の中一杯にカレを頬張るのはちゃんとして欲しいって伝えてもらってから。 こういう閨事の駆け引きは、あれもこれもみんな……なおちゃんが私に仕込んだことばかり。 それを他の男性にするのはどうなの?と頭の片隅で警鐘を鳴らしつつ、だけど私はこの愛し方しか知らないから。 余りに積極的に責めたら、引かれてしまうかも知れない。 たっくんは私のことをまだ幼いままの〝なのちゃん〟として見ている可能性だって十二分にあるのだから。 なのに愚かなことに一度点火された劣情の炎は、私の判断能力を鈍らせるの。 そうして、幸いなことにそれはたっ