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第11話「再会の呼びかけ」

Author: ちばぢぃ
last update publish date: 2026-03-16 20:30:15

朝の陽光が教室の窓を優しく叩き、埃の粒子がきらきらと舞っていた。

シュウは机に肘をつき、紙袋の中の人形をじっと見つめていた。赤く塗られた目が、まるでこちらを睨んでいるように感じる。スピーカーは電池が抜かれ、ただのプラスチックの塊に戻っていたが、それでも不気味さは消えていない。

カナエが隣の席に座り、声を潜めて言った。

カナエ「これ……本当に高槻さんが置いたものじゃないよね?」

シュウはゆっくりと首を振った。

シュウ「病院の記録を確認した。昨夜から今朝にかけて、高槻零は意識不明のまま。ICUで監視下にある。外部との接触は不可能だ」

タクミが後ろから身を乗り出して、メモをもう一度読み上げた。

タクミ「『星見キッズ、全員集合の時間だ』……ふざけんなよ。ケンタとリナは、もう完全に部活モードに入ってるのに」

カナエの指が、スマホの画面を何度もスクロールする。

カナエ「私、昨日の夜にケンタにLINEしたの。『ちょっと話したい』って。でも既読がつかない。リナはストーリー上げてるけど、返事はゼロ」

シュウは深く息を吐いた。胸の奥で、何かが重く沈む感覚があった。

シュウ「無理に集めなくてもいい。でも……このメッセージは、無視できない」

三人は黙り込んだ。教室の喧騒が、遠くの波のように聞こえる。

放課後。校舎の裏、かつて星見キッズがよく集まっていた古いベンチに、三人は腰を下ろした。桜の木はもう葉が茂り、影が濃く落ちている。

タクミが缶コーヒーを開け、一口飲んでから言った。

タクミ「正直、俺も怖えよ。装置壊して、高槻倒して、それで終わりだと思ってたのに……また人形かよ」

カナエは膝を抱え、声を小さくした。

カナエ「私、テニス部の合宿が来週から始まるの。監督に『体調管理しっかりしろ』って言われてて……でも、こんなこと起きてるのに、練習なんか集中できない」

シュウは人形をベンチの上に置いた。赤い目が、三人を交互に見つめているように錯覚する。

シュウ「これは……脅しじゃない。招待状だ」

タクミ「招待状?」

シュウはメモを広げた。

シュウ「『次のゲームを始めよう』。高槻が言ってた言葉と同じだ。でも、高槻はもう動けない。ということは……」

カナエが息を飲んだ。

カナエ「高槻さんの仲間が、まだいるってこと?」

シュウは頷いた。

シュウ「プロジェクト『星見』は、高槻一人で動かしていたわけじゃない。父さんの手帳にも、『チーム』という言葉が何度か出てきた。研究員、技術者、外部の協力者……複数人が関わっていた可能性が高い」

タクミが缶を強く握り、アルミがへこむ音がした。

タクミ「じゃあ、俺たちが壊したのは……一部だけってことか」

シュウ「そうだ。装置のコアは壊した。でも、記憶のバックアップ、別のサーバー、または……別の装置が、まだどこかに残っているかもしれない」

風が吹き、葉ずれの音が三人を包んだ。

カナエが立ち上がった。表情が、少しだけ決意に変わっている。

カナエ「私……ケンタとリナに、もう一度連絡する。『今、本当にヤバい』って。嘘ついてでも、呼び出す」

タクミも立ち上がった。

タクミ「俺はバスケ部の先輩に頼んで、部室の鍵借りてくる。夜、誰もいないところで集まれる場所が必要だ」

シュウは人形を紙袋に戻し、立ち上がった。

シュウ「俺は……父さんの手帳を、もう一度読み直す。空白ページの続き、消された文字の痕跡……何か見落としているかもしれない」

三人はそれぞれの方向へ歩き出した。背中が、少しずつ離れていく。

だが、シュウは一度だけ振り返った。

シュウ「待って」

二人が足を止める。

シュウ「今夜、九時。旧校舎の屋上。……全員、来てくれ」

カナエの目が潤んだ。

カナエ「うん……絶対に来る」

タクミは親指を立てた。

タクミ「約束だ」

夕陽が沈み、校舎の影が長く伸びた。

夜九時。旧校舎の屋上は、月明かりだけが頼りだった。

シュウは屋上の中央に立ち、手帳を胸に抱えていた。人形はベンチの上に置かれ、赤い目が月光を反射している。

最初に現れたのは、カナエだった。ジャージの上にパーカーを羽織り、息を切らしている。

カナエ「ごめん、遅くなった……監督に捕まって」

次に、タクミ。バスケのユニフォームのまま、汗が乾いていない。

タクミ「ケンタとリナ……まだか?」

シュウは静かに首を振った。

シュウ「もう少し待とう」

五分。十分。十五分。

誰も来ない。

カナエの声が震えた。

カナエ「来ない……よね」

タクミが拳を握った。

タクミ「くそ……本当に、俺たちだけか」

その時、屋上のドアがゆっくりと開いた。

二つの影が、現れた。

ケンタとリナだった。

ケンタはサッカーの練習着のまま。髪が乱れ、息が荒い。

リナは美術部のエプロンを腰に巻いたまま。手にスケッチブックを抱えている。

ケンタ「遅くなって……悪ぃ」

リナ「……ごめん。怖かったけど、来ちゃった」

シュウの胸が、熱くなった。

シュウ「来てくれた……」

ケンタは照れくさそうに頭をかいた。

ケンタ「カナエのLINE見てさ。『今、本当にヤバい』って。嘘じゃねえってわかったから」

リナはスケッチブックを開いた。そこには、泣き顔の人形の絵が描かれていた。

リナ「これ……夢に出てきたの。赤い目が、ずっと私を見てて……」

タクミが大きく息を吐いた。

タクミ「全員揃ったな……星見キッズ」

五人が、円を描くように集まった。

シュウは人形を中央に置き、手帳を開いた。

シュウ「これから……新しい事件が始まる。でも、今度は違う。俺たち五人で、全部終わらせる」

月が、五人の顔を優しく照らした。

どこか遠くから、かすかな泣き声が聞こえた。

だが、今度は怖くなかった。

それは、まるで……仲間を呼ぶような、優しい響きだった。

シュウは静かに言った。

シュウ「始めよう。次のゲームを」

五人の手が、重なった。

星見中学校の夜は、まだ深かった。

そして、星見キッズの物語は、新たな章へ踏み出そうとしていた。

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