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第6話「父の手帳の空白ページ」

Auteur: ちばぢぃ
last update Date de publication: 2026-03-14 08:30:22

家に帰ると、母は台所で夕食の支度をしていた。いつものように、静かな挨拶を交わす。シュウは二階の自分の部屋へ急いだ。タクミは玄関で待機している。今日は一緒に調べる約束だった。

部屋の引き出しの奥。古い木箱の中に、父の手帳は眠っていた。表紙は革で、角が擦り切れ、革の匂いが薄く残っている。シュウは箱から取り出し、ベッドに座って開いた。

最初のページに、父の字で書かれた日付。七年前のものだ。

「プロジェクト『星見』開始。対象:旧軍施設跡地。封鎖解除申請中」

シュウの指が止まった。『星見』。学校の名前と同じ。

ページをめくる。図面のスケッチ。星見小学校の敷地図に、地下の通路が赤い線で描かれている。新校舎の位置にも、薄い点線が引かれていた。

タクミが部屋に入ってきた。ドアを閉め、シュウの隣に腰を下ろす。

タクミ「それが……?」

シュウは無言で手帳を差し出した。タクミがページをめくり始める。

タクミ「地下……? 学校の下に、何かあるってことか?」

シュウ「父さんは、建設前に調査をしていたらしい。旧軍の施設が残ってるって」

タクミ「で、管理人がそれを知ってるってことは……」

シュウ「父さんの仲間だった可能性が高い。もしくは、敵対していた」

手帳の途中から、文字が乱れ始める。インクが滲んだページ。そこに、突然現れた空白。

一ページまるごと、白紙だった。いや、白紙ではない。よく見ると、薄く鉛筆で線が引かれている。消しゴムで消された跡。

シュウは机の引き出しから、鉛筆を取り出した。柔らかい芯のもの。ページの上に、斜めに擦る。

浮かび上がってきた文字。

「影の管理人は、決して許さない。子供たちを巻き込むな」

シュウの息が止まった。

タクミ「…お前の父さんが、書いたのか?」

シュウ「わからない。でも、この筆跡は……父さんのものに似てる」

次のページに、さらに薄い文字。

「願いの桜の下に、鍵がある。だが、開けてはいけない」

タクミが顔を上げた。

タクミ「願いの桜……小学校の時の事件じゃん。あの桜の木、今は中学校の敷地に移されたって噂あったよな」

シュウは手帳を閉じた。胸の奥がざわつく。

シュウ「管理人は、父さんの警告を知ってる。なのに、俺たちを巻き込んでる」

タクミ「つまり、父さんの敵だってことか?」

シュウは立ち上がった。窓の外は、もう真っ暗だ。

シュウ「明日、学校の桜の木を探す。夜に」

タクミ「夜? 危なくねえか?」

シュウ「昼間じゃ、管理人が監視してる。夜なら……隙ができるかもしれない」

タクミは少し考えて、頷いた。

タクミ「わかった。俺も行く」

その夜、二人は家を抜け出した。校門は施錠されているが、裏手のフェンスに小さな隙間があった。小学校の頃から知っている抜け道だ。

校庭は月明かりに照らされ、桜の木が一本、ぽつんと立っている。移植されたばかりで、枝はまだ細い。根元に土が盛られ、新しく植えられたのがわかる。

シュウは懐中電灯を点け、木の根元を照らした。

シュウ「ここか……」

地面を指で探る。柔らかい土。少し掘ると、何かに当たった。金属の感触。

タクミが手伝って土を掻き出す。小さな鉄の箱が出てきた。錆びているが、鍵穴がある。

シュウはポケットから父の手帳を取り出し、最後のページを開いた。そこに、小さな鍵が挟まっていた。母が「大事に持っておきなさい」と言っていたもの。

鍵を差し込む。カチリと音がして、蓋が開いた。

中には、古い写真と、一枚のメモ。

写真は、若い頃の父と、見知らぬ男。二人とも白衣を着て、笑っている。背景は、星見小学校の建設現場らしい。

メモには、父の字で。

「管理人へ。君の復讐は、俺で終わりにする。子供たちには、手を出さないでくれ」

シュウの指が震えた。

タクミ「…これ、管理人に宛てた手紙?」

シュウは写真を裏返した。そこに、男の名前が書かれていた。

「高槻 零」

シュウ「……この人が、管理人か?」

その瞬間、桜の木の影から、足音がした。

ゆっくりと、近づいてくる。

タクミが身構えた。

タクミ「誰だ!」

影が月明かりに浮かび上がる。黒いコートを着た男。顔はマスクで隠されているが、目だけが見える。冷たい、静かな目。

男の声「よく見つけたね、シュウくん」

声は、管理人のものだった。

男「その手帳……返してもらおうか」

シュウは手帳を胸に抱えた。

シュウ「なぜ、父さんを……」

男はゆっくりと近づいた。

男「お父さんは、俺の計画を邪魔した。プロジェクトを止めた。だから、俺はここに残った。ずっと、待ってたんだ」

タクミが前に出た。

タクミ「てめえ……何が目的だ!」

男は小さく笑った。

男「目的? 簡単だよ。この学校にいる、すべての子供たちに……『本当の泣き声』を聞かせることさ」

男の手が、コートのポケットから何かを取り出した。小さなリモコン。

男「さあ、第6の謎の始まりだ。『父の記憶は、どこに隠されている?』」

リモコンを押すと、桜の木の根元から、低い振動が伝わってきた。地面が、わずかに揺れる。

シュウの足元で、何かが動き始めた。土が崩れ、暗い穴が開く。

穴の奥から、泣き声が響き上がった。今までで一番、はっきりとした声。

泣き声「……お父さん……助けて……」

シュウの体が凍りついた。あの声は、紛れもなく、幼い頃の自分の声だった。

男「君の記憶だよ、シュウくん。忘れていた、父さんとの最後の夜の記憶」

穴が広がる。シュウの体が、引き込まれそうになる。

タクミがシュウの腕を掴んだ。

タクミ「シュウ! 離すな!」

男は静かに言った。

男「選べ。記憶を取り戻すか、それとも……永遠に忘れるか」

シュウは穴の底を見た。そこに、ぼんやりと浮かぶ父の姿。微笑んでいる。

シュウ「……取り戻す」

男の目が、わずかに細まった。

男「いい選択だ。では……落ちろ」

穴が一気に広がり、シュウの体が落ち始めた。

タクミの叫び声が、遠くに聞こえる。

暗闇が、再び訪れた。

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