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第2話

Auteur: 猫宮奈々
咲良はすぐに葵衣に関する資料を手に入れた。

一目十行の速さで読み進めるうちに、全身の血の気が引き、心臓が刃物で引き裂かれるような激痛が走った。

なんと、葵衣が十六歳で出国したあの年、すでに晴人と彼女の関係は「兄妹」の一線を超えていたのだ!

久遠家の人々はそれに気づき、家の名誉が傷つくのを恐れ、そのことを隠蔽し、葵衣を海外へ送った。

彼らは葵衣にA国の永住権を取得させ、生涯帰国しないよう命じていた。

しかし一年前、葵衣はうつ病を患ったと称し、海外での生活に耐えられないと訴えた。

彼女は実に十回も自殺未遂を繰り返した!

最後に救助された際、晴人はついに久遠家の当主である久遠厳太郎(くおん げんたろう)の前に跪き、懇願した。

激怒した厳太郎は、罰として彼に六十六回の鞭打ちを浴びせた。背中一面がずたずたに裂けて血まみれになり、肋骨は三本も折れていた。

たとえ久遠家の相続権を放棄してでも、葵衣を連れ戻しに行くと主張した。

最終的に、厳太郎が折れた。

「葵衣を連れ戻すのはいい。だが、わしの言葉は変わらんぞ。お前とあの子が結ばれることはありえん。

結婚しろ!お前が別の女を娶るなら、あの子を連れ戻すことを許可してやる」

そうして、咲良がターゲットになった。

最初から最後まで自分は彼が別の女を深く愛するための隠れ蓑であり、踏み台に過ぎなかった。

晴人が自分への優しさは、すべて「利用」の上に成り立っていたのだ。

どうりで、彼が自分のおしゃべりや無理難題に耐えられたわけだ。

一番滑稽なのは、自分が愚かにも、救いようのないほど彼を愛してしまったことだ。

咲良は極寒の氷窟に放り込まれたかのように、全身が震えた。

だから、警察署の入り口で長く待っていたマイバッハを目にしても、彼女は乗り込まなかった。

踵を返し、足早にこの窒息しそうな真実から逃げ出そうとした。

晴人は咲良がただ癇癪を起こしているだけだと思った。

何しろ彼は彼女をここから連れ出すと約束しておきながら、それを破ったのだ。咲良と知り合って二年近く、結婚して半年、彼が約束を破ったのは初めてだった。

だから晴人は何も言わず、徒歩で彼女の後をついて行った。

咲良が彼に気づいた時、彼女はすでに一時間以上も歩き続けていた。

ハイヒールが踵を擦り、水膨れができていた。彼女は痛みに耐えきれず、ついに立ち止まった。

彼女がハイヒールを脱ぎ、道端の花壇に座ろうとした時、晴人が自分のジャケットを脱ぎ、彼女が座ろうとする場所に敷いた。

晴人はため息をついた。少し力の入った手の甲には青筋が浮いている。

彼はネクタイを緩め、どうしようもないといった様子で言った。「葵衣だったんだ」

たった一言。それが、今日晴人が約束を破って先に葵衣を連れ出すに行った理由のすべてだった。

葵衣は妹だから。

あるいは、葵衣のほうが彼にとって重要だから。

咲良は座ることなく、裸足で冷たい地面の上に立ち、唇を軽く引き結んだ。

「葵衣を連れて先に帰って。私のことは構わないで。

一人で静かにしたいの」

明らかに言葉数が少なく、まるで彼女ではないようだった。

しかし晴人はそれを見て見ぬふりをし、また一つため息をついた。「もう遅い。何かあったらどうする」

咲良は少し立ち止まったが、彼を無視して歩き続けた。

晴人はそれでもついてきたが、突然マイバッハが加速し、急ブレーキをかけた。

ドアが開き、葵衣が後部座席から飛び降りてきて、晴人の腕に絡みついた。「お兄ちゃん、私が付き合うわ」

晴人は足を止めた。「ふざけるな、戻れ」

葵衣は唇を尖らせた。「私が二者択一なんてさせたせいで、咲良さんを怒らせちゃったんでしょ?私のせいだもの、一緒にお仕置きを受けるわ」

その口ぶりはまるで、咲良がこういうやり方で晴人を罰しているのだと不満を漏らしているようだった。

咲良は彼女が賢いと思った。論点をずらすのがうまく、挑発もうまい。

咲良が怒っているのは、晴人が二者択一で自分を選ばなかったからだ。

晴人の心の中で、葵衣が自分より特別な存在だからだ。

咲良の目に思わず嘲笑の色が浮かんだが、聞こえないふりをして歩き続けた。

葵衣は本当に後をついてきた。

しかし、しばらくもしないうちに葵衣は騒ぎ出した。「痛いよぉ、踵が赤くなっちゃった。

お兄ちゃん、夫婦喧嘩に巻き込まれて私が苦しんでるのよ。

私、十数時間の長距離フライトから降りたばかりで警察署に入れられて、あなたたちの痴話喧嘩に付き合わされるなんて、本当に運が悪いわ」

葵衣は媚びるように長い睫毛を震わせ、その身をすっかり晴人に預けてしなだれかかった。

葵衣は四センチもないキトゥンヒールで数分歩いただけ。足の甲が少し赤くなっている程度だ。

対して咲良は、十センチのピンヒールで二時間近く歩き続け、潰れた水膨れからは血が滲んでいる。

けれど晴人は、咲良の血まみれの足には気づかなかった。

彼の視線は、葵衣の足の甲のわずかな赤みに釘付けになっていた。

そして眉をひそめ、声を低く沈めた。「もう歩くな。車に乗れ」

葵衣は拒否した。「やだ。お兄ちゃんと一緒にお仕置き受けるって言ったでしょ!それとも……お兄ちゃんも歩くのやめて!私、お兄ちゃんがかわいそうだもん」

晴人はしばし沈黙し、ついにため息をついた。

彼は葵衣を横抱きにし、大股でマイバッハへと向かった。「分かった、言う通りにする」

咲良の後ろをついてくる人影はついに消えた。しかしマイバッハはドアを半開きにしたまま、ゆっくりと彼女の後を追い続けた。

薄暗がりの中、咲良は葵衣がキトゥンヒールを脱ぎ、晴人の革靴に履き替えるのを見た。

イタリア製の手縫いの革靴は、葵衣の華奢な足にはあまりにぶかぶかで、その姿はどこか滑稽に映った。

けれどなぜか、その光景は一瞬にして咲良の心臓を踏みつけ、原形を留めぬほど無惨に粉砕してしまった。

咲良は一瞬立ち止まり、脇の遊歩道へと身を潜めた。

マイバッハはついに追えなくなった。

今回、晴人は葵衣の足が痛むのを気遣い、二度と車を降りることはなかった。

咲良が帰宅したのは、それから一時間後のことだった。

玄関の灯りがついており、棚の上には消毒液とガーゼが置かれていた。

「帰ったか?傷の手当てをしろ」晴人がそう言った時、彼は葵衣の足の甲の赤みに、薬を塗っているところだった。

葵衣の白い足が彼の太ももの上に乗せられ、「お兄ちゃん、痛い、フーフーして」と甘えている。

晴人は呆れたように、彼女の足の甲に息を吹きかけた。

咲良は突然、笑ってしまった。

明滅するセンサーライトの下、咲良は静かにスリッパに履き替え、一文字ずつはっきりと告げた。

「晴人、離婚しましょう」

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