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第2話

Penulis: ゴブリン
ブライダルショップの女性店員たちが、詩音を取り囲んで大げさに褒めそやした。

「さすが藤堂様はお目が高いですね。このドレス、奥様に本当にお似合いです」

「サイズもぴったりでしたね。藤堂様は奥様のサイズをすべて頭に入れてらっしゃるんですね」

「もちろんですとも。藤堂様がどれほど愛妻家か、知らない人はいないくらいですから!」

少し離れた場所から、別の店員が靴の箱を抱えて駆け寄ってきた。「こちらの靴も藤堂様がセレクトされたものです。奥様、ぜひお試しください」

そう言って店員が詩音の足元に跪こうとした瞬間、骨ばった大きな手がそれを制した。

樹が靴を受け取り、優しく微笑む。「貸して。俺が履かせるよ」

樹は片膝を床につき、詩音の足首をそっと掴んだ。履いていたスリッパを脱がせ、ガラス細工のように繊細なハイヒールへと足を滑り込ませる。

純白のヒールにはダイヤモンドがあしらわれ、照明を受けて夢幻的な輝きを放っていた。

「23.5センチだと少し大きいかな。23センチに変えてもらえるかい?」

「かしこまりました、藤堂様」

店員がすぐに新しいサイズを持ってくる。

樹は満足げに笑みを浮かべ、再び身をかがめて、詩音に靴を履かせ始めた。

彼がしゃがみ込んだ、その瞬間だった。

詩音の視線の先に、彼の首筋が映り込んだ。そこには、赤々とした痕――キスマークがいくつも散らばっていた。

どう見ても、ついさっき付けられたばかりのものだ。

それだけではない。鼻を突く、独特な匂い。男女が濃厚に絡み合ったあとに残る、体液と汗の混じり合った匂いが、彼の身体から漂っていた。

目の前のハイヒールは宝石のように美しい。

けれど、それを手にしているその手は、たった今、別の女の身体を弄んでいた手だ。

あの粘つく、吐き気を催すような匂いを指先に纏わせたまま、詩音の足に触れている。

想像しただけで、胃の奥から強烈な吐き気がこみ上げてきた。おぞましい。汚らわしい。

「詩音、足を上げて」

樹が甘い声で促し、再び彼女の足首を握ろうとした。

詩音は反射的に足を引っ込め、一歩後ろへと下がった。

樹が驚いて顔を上げる。「どうした?」

「……なんでもない」詩音は表情を殺して言った。「人に足を触られるのは慣れてないの。自分で履くわ」

彼女は靴をひったくるように受け取ると、逃げるように試着室へと戻り、内側から鍵をかけた。

ドアの向こうで、樹の戸惑う声がする。「詩音?急にどうしたんだ?ドレスに着替えてから、なんだか様子が変だよ」

店員がフォローする声が聞こえた。「きっと藤堂様の視線が熱烈すぎて、花嫁様が照れてしまわれたんですよ!」

樹は納得したように笑い、ドアを軽くノックした。「詩音、もうすぐ夫婦になるんだから、恥ずかしがることはないよ。ゆっくりでいいからね。ここで待ってるから」

詩音はドアに背中を預け、ずるずると座り込んだ。

不覚にも、涙がこぼれ落ちてくる。

未練があるわけじゃない。ただ、過去の彼があまりにも理想的すぎただけだ。

以前の詩音の世界は、孤独だった。

わがままな姉、無関心な両親、そして聞こえない耳。自分は部屋の隅に積もる埃のような存在で、誰も気にかけてくれないし、誰の視界にも入らないと思っていた。

でも、樹だけは違った。

ある日、両親に連れられて姉妹でパーティーに出席した時のことだ。華やかに着飾った姉の後ろで、地味なドレスを着て召使いのように控えていた詩音に、彼だけが声をかけてくれた。

「ここから見える百合の花畑が一番綺麗なんだ。一緒に行こう」

詩音は信じられず、何度も確認した。「人違いではありませんか?玲奈をお探しなら私ではありません。私は双子の妹で……」

「知ってるよ」樹は爽やかに笑った。「君は詩音。大学のプログラミングコンテストで優勝した天才少女で、百合の花が好きなんだろう?」

あんなふうに自分を理解してくれた人は、生まれて初めてだった。

あの時見た百合の花畑は、生涯で一番美しい景色だった。

それから、樹は頻繁に詩音の前に現れるようになった。

会うたびに、彼は百合の花束をプレゼントしてくれた。

両親さえも不思議がったほどだ。「どうして詩音なんかを?玲奈の方がずっと可愛くて愛想もいいのに」

樹の答えは決まっていた。「みんなは玲奈が良いと言うけれど、俺は詩音が好きなんだ」

付き合い始めてからの彼は、詩音をこれ以上ないほど大切にしてくれた。

ドライブ中にコントロールを失ったトラックが突っ込んできた時も、彼は迷わず詩音に覆いかぶさり、その身を盾にして守ってくれた。

詩音は軽傷で済んだが、樹は生死の境を三日間も彷徨った。肋骨を七本折り、心臓に達するほどの重傷を負って。

目覚めた彼の第一声は、自分の痛みではなく、詩音の安否を気遣う言葉だった。「詩音は無事か?彼女が無事なら、俺はどうなったっていい」

その瞬間、詩音はこの人に一生を捧げようと誓ったのだ。

その後、姉の玲奈がことあるごとに彼を誘惑しようとしたが、樹は決してなびかなかった。

一度など、きっぱりと姉を拒絶してくれたこともある。「玲奈。俺は詩音の恋人で、君の義理の弟になる人間だ。少しはわきまえてくれ」

何度も失敗した玲奈は、悔し紛れに詩音にこう言ったものだ。「男なんてみんな一緒よ。私の魅力に勝てる男なんていないんだから。樹だって、遅かれ早かれ私のものになるわ」

詩音はいつも一言だけ返した。「樹を信じてる」

そう、信じていたのだ。心の底から。

――今日、隣の試着室での出来事を聞いてしまうまでは。

結局、彼は姉の執拗な誘惑に屈し、堕ちてしまった。

あんなに綺麗だった思い出も、今ではすべてが嘘のように色褪せて見える。

その時、置きっぱなしにしていた携帯電話が振動した。

樹がドア越しに声をかける。「詩音、電話が鳴ってるよ」

詩音は涙を拭い、呼吸を整え、靴を履き替えてからドアを開けた。

電話を受け取る。

「もしもし?」

「江原詩音様でしょうか」

「はい、そうです」

「こちらは国家AIロボット開発計画・人事部です。一週間後、極秘のチャーター機でお迎えにあがります。必ず時間通りに空港へお越しください」

詩音は静かに答えた。「分かりました。必ず向かいます」

通話を切ると、樹が不思議そうな顔で尋ねてきた。「空港?詩音、どこかへ行くのかい?」
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