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第3話

Penulis: ゴブリン
詩音は彼と目を合わせようともせず、俯いたまま淡々と答えた。「新婚旅行の準備よ」

樹はほっとしたように表情を緩め、軽やかに笑った。「ああ、そういうことか。やっと一緒になれるんだ、盛大に行かないとな。そういえば、行き先は聞いてなかったけど、もう決めたのかい?」

「ええ」

「俺へのサプライズってこと?いいよ、詩音が行きたいところなら、地の果てまでついていく」

詩音は口元だけで笑った。

ええ、もちろんサプライズだわ。

一週間後、私はあなたの世界から永遠に消えて、あなたとお姉ちゃんを結ばせてあげるんだから。これ以上のサプライズはないでしょう?

樹が後ろから詩音を抱きすくめ、首筋に顎を乗せて甘えた声を出した。「さっきは焦ったよ。俺を置いてどこかに行っちゃうのかと思った」

詩音はさりげなく身をよじり、彼を遠ざけた。「このドレス、あまり気に入らないわ。触らないで、汚れるから」

樹はすぐに機嫌を取るように言った。「構わないよ。気に入らないなら次のを着てみよう。君が気に入るまで何度でも変えればいい」

「どれも気に入らなかったら?」

「その時は有名なデザイナーに頼んで、君の理想通りのフルオーダーメイドを作らせるよ」

「それだと、かなりお金がかかるんじゃない?」

「君が喜んでくれるなら、いくらかかっても惜しくないさ」

そばで控えていた店員たちが、一斉に羨望の眼差しを向けた。「奥様は本当にお幸せですね。お姉様も付き添ってくださるし、旦那様にはこんなに愛されて……まさに人生の勝ち組です!」

「私、ここで働いて八年になりますけど、こんなに仲睦まじいご夫婦は初めて見ました……」

「本当ですよね。今着てらっしゃるドレスだって二億円もするオートクチュールなのに、奥様が気に入らないと言えばすぐに変えてくださるなんて。溺愛されすぎですよ!」

樹は満更でもない顔で、微笑みながら言った。「詩音は俺の最愛の人だ。彼女には、この世で最も美しいものが相応しい」

そう言って、彼は情熱的な瞳で詩音を見つめた。

まるで本当に彼女に夢中で、他の何者も目に入らないといった様子だ。

詩音は周囲の羨望と、樹の熱っぽい視線を受けながら、心の中で冷ややかに嘲笑うことしかできなかった。

樹が店員を急かした。「次のドレスはまだかな?」

「はい、ただいま!奥様、こちらへどうぞ」

詩音はドレスを受け取ると、釘を刺すように言った。「『奥様』じゃなくて、江原さんと呼んで」

店員がきょとんとする。「どうしてですか?藤堂様とこんなに愛し合っていらっしゃるのに……」

「聞き慣れないから」

樹がすぐにフォローに入った。「いいじゃないか。詩音がそう呼んでほしいなら、そうしてあげてくれ。『奥様』と呼ばれるのは、式が終わってからでも遅くない」

「は、はい。かしこまりました、江原様」

詩音は新しいドレスを抱え、再び試着室へ向かった。

その背中に、姉の玲奈が声をかけた。「詩音、ドレスって着るのが大変だし、補聴器つけてると邪魔になるでしょ?私が持っててあげるわ」

詩音は振り返り、姉を見て、それから樹を見た。

樹の視線はすでに詩音にはなく、玲奈の豊満な胸元に釘付けになっていた。

彼の喉仏が、ゴクリと上下するのが見て取れる。

詩音は微笑んで補聴器を外し、玲奈に手渡した。「じゃあ、お願いね。お姉ちゃん」

再び試着室に入り、ドアを閉める。

だが今回聞こえてきたのは、二人の慌ただしい足音が遠ざかっていく音だった。

しばらくして、外から店員たちの話し声が聞こえてきた。

「……ねえ、旦那さんとお義姉さん、トイレに入っていかなかった?あんなに堂々と?」

「いいのよ。花嫁さんは補聴器がないと聞こえないんだから。さっきだって隣の試着室であんだけ激しくやってたのに、全然気づいてなかったじゃない」

「はあ……花嫁さん、可哀想……」

「無駄な同情はやめなさいって。ドレスさえ売れれば誰が着ようが関係ないの。藤堂様が支払ってくれれば、私たちのノルマは達成なんだから」

「そういえば藤堂様、この前もここでドレスをオーダーしてたわよね。世界的デザイナーのマリーに特注したやつ。あれ、お義姉さんのサイズだったんでしょ?一着で20億円以上よ!花嫁さんのドレス十着分じゃない。あれ一着売れただけで、私たちの三年分の売り上げになったんだから」

「お義姉さんに20億円のドレス?一体どういうつもりなの?美人姉妹とも美味しくいただきたいってわけ?」

「そういうプレイなんでしょ。どうせ式で着るわけじゃないし……」

ドア一枚隔てた内側で、詩音はすべての会話をはっきりと聞いていた。

ああ、そうだったのか。

彼と姉の関係は、周知の事実だったのだ。

私だけが騙されていた。全員が、私を嘲笑っていたのだ。

詩音はドレスを着るのをやめ、自分の服に着替えた。

試着室から出ると、たむろしていた店員たちがぎょっとして飛び上がった。

彼女たちは顔を見合わせ、慌てて取り繕う。

「奥様……いえ、江原様!今の話は全部デタラメです、どうか気になさらないでください!」

「申し訳ありません、私たち口が滑って……」

別の店員が、開き直ったように鼻を鳴らした。「何謝ってんのよ。彼女の補聴器、お姉さんが持っていったじゃない。今の彼女はつんぼよ」

謝っていた二人が、安堵の息を吐く。「なんだ、そうだった。びっくりさせないでよ」

「ふふっ、何焦ってんの。ただの壊れたお人形さんじゃない。旦那と姉が浮気してるのすら気づかない鈍感女なんだから、私たちがこれくらいの声で噂話したって聞こえるわけないでしょ?」

「だよね、焦って損した……」

その時、詩音が静かに口を開いた。「続けて。もっと聞かせてくれる?」

店員たちの顔色が、一瞬にして真っ青に変わった。

「え……江原様、聞こえるんですか?」

「ええ。サプライズでしょう?」

「じゃあ、さっき私たちが話してた、藤堂様とお姉様のこと……全部?」

詩音は冷ややかな目で彼女たちを見据え、人差し指を唇に当てた。「聞こえていることは、あの二人にはまだ内緒にしておいて」
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