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38.正しさは、それだけでは通らない

ผู้เขียน: 中岡 始
last update วันที่เผยแพร่: 2026-05-27 16:43:34

午後に入るころには、問題はもう「様子を見る」では済まないところまで来ていた。

朝から集めていた確認事項は、昼をまたぐうちにただの報告ではなく、判断を要求する材料へ変わっていく。包装会社から届いた返答、朝比奈フーズ側の現場メモ、倉庫で拾われた写真、冬便の実績表。どれもそれ単体なら、ひとつの注記として資料の端に置ける種類のものだ。だが、今日はそれらが同じ方向を向いていた。

支社の会議スペースに広げられた資料の上で、陸斗は何本もの線を頭の中で引き直していた。

包装会社の回答は明快だった。全面的な包材変更は不可能ではない。だが今すぐは厳しい。版の差し替え、資材手配、既存ロットの消化、ラインの再調整。安全性を上げる方向には動けるが、そのぶん納期は必ず動くし、費用も乗る。しかも一月のこの時期は、年明けの立ち上がりでどこも余裕が薄い。

朝比奈フーズ側の返答も同じだけ明快だった。この条件のまま押し切れないとは言わない。ただ、冬場は嫌だ。現場で吸いきれない可能性がある。もし一度目立つ箱潰れや見た目不良が出れば、品質事故そのものより前に、取引先

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  • 地方支社で、元セフレの部下になりました   38.正しさは、それだけでは通らない

    午後に入るころには、問題はもう「様子を見る」では済まないところまで来ていた。朝から集めていた確認事項は、昼をまたぐうちにただの報告ではなく、判断を要求する材料へ変わっていく。包装会社から届いた返答、朝比奈フーズ側の現場メモ、倉庫で拾われた写真、冬便の実績表。どれもそれ単体なら、ひとつの注記として資料の端に置ける種類のものだ。だが、今日はそれらが同じ方向を向いていた。支社の会議スペースに広げられた資料の上で、陸斗は何本もの線を頭の中で引き直していた。包装会社の回答は明快だった。全面的な包材変更は不可能ではない。だが今すぐは厳しい。版の差し替え、資材手配、既存ロットの消化、ラインの再調整。安全性を上げる方向には動けるが、そのぶん納期は必ず動くし、費用も乗る。しかも一月のこの時期は、年明けの立ち上がりでどこも余裕が薄い。朝比奈フーズ側の返答も同じだけ明快だった。この条件のまま押し切れないとは言わない。ただ、冬場は嫌だ。現場で吸いきれない可能性がある。もし一度目立つ箱潰れや見た目不良が出れば、品質事故そのものより前に、取引先の不信を招く。そうなれば後から数字で取り返すほうがずっと高くつく。どちらも正しい。その正しさが、陸斗には前よりずっとはっきり分かる。「ここまで来ると、現行仕様のまま押すのは危ないですね」斎賀が資料の端を指で押さえながら言った。「便条件ひとつで済むならまだしも、積み替え位置でも出てる。朝比奈の現場が嫌がるのも当然です」「でも今から包材切り替えたら、初回本格便のスケジュールがずれますよ」水沢が表計算を見ながら静かに返す。「包装会社さん、最短でも追加で数日って言ってました。便の組み替えまで入ると、そのぶん朝比奈さん側のラインにも影響出ます」久住が鼻を鳴らした。「遅らせりゃ済むって話でもないだろ。こっちは出荷先との約束がある。今さら便を後ろに倒して、全部説明で吸えると思うなよ」「だからって、このまま通して何か出たらもっと面倒です」斎賀の声は低いが、珍しく強かった。「まだ事故になってないから

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    午前の終わりに近い時間だった。外の白さが窓ガラスに貼りついたまま、支社の中だけが乾いた暖房で少し息苦しくなっている。コピー機が紙を吐く音と、電話の保留音と、誰かが紙コップへお湯を注ぐ小さな音が、途切れず重なっていた。そういういつもの仕事の音の中へ、水沢が早足で入ってきたのは、十一時を少し回ったころだった。「三沢さん、倉庫から追加で写真来ました」机の脇へ置かれたタブレットの画面を見た瞬間、陸斗は背中の奥がじわりと冷えるのを感じた。昨日見たものと、よく似ていた。段ボールの角が、わずかに柔らかい。潰れているとまでは言えない。破れてもいない。ただ、紙の層に冬の湿りが入り込んで、表面の張りだけが少し負けている。しかも一枚ではない。別の便、別の積み替え、別の時間帯で撮られた写真が並んでいて、どれも同じように、基準外へ落ちる一歩手前の顔をしていた。「今朝の分ですか」「一部は今朝ですけど、昨日の夕方の戻しも混じってます。倉庫の人が、気になったところだけ先に拾ってくれて」水沢の声は落ち着いていた。けれど、必要以上に落ち着けている時の水沢の声だと、陸斗には分かった。騒ぐほどではない。でも軽く見ていいものでもない。その境目にいる時の温度だった。陸斗は写真を指で拡大した。箱の表面には、細かい水気の粒までは見えない。だが、継ぎ目の近くにだけ不自然な鈍さがある。冷えた段ボールが一度外気へ触れ、また倉庫へ戻った時にだけ出る種類の、嫌な弱り方だ。「再現してる」口に出したあとで、その言葉の重さが自分に返ってきた。一度きりの偶然なら、まだよかった。どこかの扱いが少し悪かった、便がたまたま重なった、その程度で片づけられる。だが別の条件でも似た顔が出るなら、それはもう“何かがおかしい”ではなく、“前提のどこかが噛み合っていない”に近づく。「部長は」「斎賀さんと今、朝の共有終わらせてます。呼びますか」「先に倉庫へ返します。どの便で、どの積み替え条件だったか、全部紐づけたいです」水沢がすぐ

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    年が明けても、何もきれいには片づいていなかった。路肩の雪は、年末の初めのころよりずっと低く、ずっと汚れていた。除雪車が押し寄せた灰色の山が交差点の隅に残り、昼のあいだに少し緩んだ表面が、夜の冷え込みでまた固く締まる。その上へ新しい雪が薄くかぶさり、朝になると、白というより濁った冬の色になる。一月の新潟はもう、雪が特別ではない。吐く息の白さも、足元で圧雪がきしむ音も、駅前のタクシーの屋根にうっすら積もった雪も、ただの生活の景色としてそこにある。正月飾りはとっくに外れ、コンビニの棚も年始の甘い空気を引きずっていない。街の顔はもう仕事のそれに戻っていて、陸斗もまた、その中へ自分の身体を押し戻すしかなかった。年末は再見積もりと条件整理で終わった。本社の介入を受けたあとの資料の差し替え、朝比奈フーズ側との再確認、包装会社との細かい詰め。年が明けてからも、休みのあいだに短いメールと必要最低限の連絡は続いていた。仕事は止まっていなかったし、感情だけを丁寧に扱っている暇もなかった。征司とのあいだに残ったものも、そのままだった。あの雪の夜のことも、本社が来た会議のことも、何ひとつ言葉にならないまま、時間だけが先へ進んだ。薄まったわけではない。ただ、仕事の音の下へ押し込まれたまま年を越しただけだ。支社の自動ドアが開くと、乾いた暖気が頬に触れた。コピー機の稼働音。給湯スペースでポットの蓋が触れ合う小さな音。水沢が書類を抱えたまま総務の島から営業の席へ抜けていく気配。久住の少し大きい声が、物流側の奥から一度だけ響き、斎賀が電話を切る音が短く続く。外の白さとは別の時間が、もう中では始まっている。その普通さに、陸斗は少しだけ救われた。本社の残した嫌な感触も、雪の夜の熱も、この場所では同じ速度で薄められていく気がした。けれど完全に消えるわけではない。むしろ、仕事の音に紛れているからこそ、ときどき不意に輪郭を持つ。「三沢」低い声がして、陸斗は顔を上げた。征司は自席の前に立ったまま、机の上のメモを一枚こちらへ滑らせた。短い文字で、今日の確認先と時間だけが並ん

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    本社組の靴音が遠ざかってから、支社の空気は少しずつ元へ戻っていった。会議室の扉が開いたままになり、水沢が配布した資料を回収しに入り、斎賀が壁際で止まっていた電話を再開する。久住の少し大きい声も、物流側の奥からまた聞こえてきた。コピー機が紙を吐き、誰かが給湯スペースでポットの湯を足す音がする。たったそれだけのことなのに、さっきまで白い蛍光灯の下で張りつめていたものが、少しずつ剥がれていくのが分かった。支社は本社が来ても、結局は支社の速度へ戻る。誰かが偉そうに宣言するわけでもない。ただ、ここで動いている仕事の音が、自然にあの整いすぎた空気を押し返していく。それなのに、陸斗の内側だけがまだ会議室の椅子に座ったままだった。自席へ戻り、パソコンを開き、資料を揃える。手はもう習慣で動く。朝比奈フーズ向けに修正すべき箇所、本社側の論点をどこまで拾うか、逆に切り落としていい部分はどこか。そうした整理は、頭の表面だけならいつも通りできる。けれど喉の奥に残る乾きと、肩の筋肉の硬さだけが、まだあの部屋から戻っていない。会議が終わったのに、体だけが遅れている。それが情けなくて、陸斗は配布資料の角を余計にきっちり揃えた。「さっきの修正版、どこから直しますか」水沢が、自分の席へ戻る途中でそう声をかけた。ごく普通の仕事の声だった。労わりも、気遣いも、探るような色もない。ただ今やるべきことを確認するだけの温度で、だからこそ陸斗には少しだけ呼吸が戻った。「朝比奈さん側に出す版を先に整理します。本社の数字は残して、前提の置き方だけ変えます」「了解です。包装会社まわりの注記、こっちで追記しておきますね」水沢はそれだけ言って去っていく。普通だ、と陸斗は思った。本社が来ても、会議であれだけ空気が変わっても、支社は結局こういう仕事の声で戻ってくる。篠宮の笑顔も神谷の資料も、ここではそのままずっとは続かない。そのことがありがたくて、同時に少しだけ悔しい。自分だけがまだあの会議の続きを引きずっているみたいだからだ。斎賀が電話を切り、こちらを見ずに言った。

  • 地方支社で、元セフレの部下になりました   34.痛いほど、今だった

    会議が終わって椅子が引かれた瞬間、陸斗はようやく自分が呼吸を浅くしていたことに気づいた。資料を閉じる音が続く。ノートパソコンの蓋が下りる音。誰かがペットボトルを持ち上げ、会議室の外へ出ていく革靴の足音が、乾いた床を細く打つ。そうした現実の音が戻ってくるほど、逆に身体のほうが遅れて強張り始める。指先が冷えていた。喉がひどく乾いている。肩の奥に入っていた力が、抜けきらないまま中途半端に残っている。助かった、とは思えなかった。その前に来たのは、もっと鋭くて、もっと言い訳のしづらい痛みだった。自分は言えることを持っていた。朝比奈フーズの工場ラインの都合も、包材を切り替える順番も、冬の物流がどれだけ机上の想定を簡単に裏切るかも、ちゃんと知っていた。何も知らないまま会議室に座っていた頃とは違う。言うべきことは、確かにあった。それなのに、立てなかった。綺麗に並んだ数字と、整った言葉と、篠宮の穏やかな笑顔と、神谷の隙のない資料の前で、また順番を失った。口を開きかけて、閉じた。そのたった一瞬の遅れが、どれほどみじめだったかは、自分が一番よく分かっている。そして、その場所に征司が立った。「三沢」名前を呼ばれて、陸斗ははっと顔を上げた。会議室の空気はすでに解け始めていて、篠宮は神谷と次の確認事項を話している。水沢は配布した資料の回収に動き、斎賀は壁際で物流側への連絡を入れていた。その雑音の中で、征司だけが普段と変わらない声でこちらを見ている。「朝比奈側に共有を入れる。さっきの資料、修正点だけ拾って一回まとめろ」短い。慰めも、労いもない。ただ次の仕事を渡すだけの声だ。「……はい」返事はどうにか普通に出た。征司はそれで十分だというように視線を外し、すぐ篠宮のほうへ向き直った。特別扱いをしない。そのことが、今の陸斗には逆にきつかった。腫れ物に触るみたいに気を遣われないことは救いでもある。だが同時に、この場で傷ついているのが自分だけみたいに思えて、余計に息苦しい。会議室を出ると、廊下の空気は少し

  • 地方支社で、元セフレの部下になりました   33.征司が制する

    窓の外の雪は、会議室の中から見るとただの白い明るさにしか見えなかった。朝比奈フーズの工場で鼻に残った原料の匂いも、包装会社の乾いた紙粉も、冷凍倉庫の床から上がる冷えも、この部屋へ入った瞬間に全部どこかへ置いてこられてしまう。白い蛍光灯、乾いた暖房、きれいに並んだ資料、無駄のない数字。そういうものだけで組み上げられた空間の中では、外の冬の現実は、ガラス一枚向こうにあるくせにやけに薄い。神谷が画面を切り替えた。「現状の試験導入は十分評価できます。ただ、ここから先を案件として広げるなら、属人的な運用に寄りかかったままでは難しいですね」スライドの上では、販路別の回転率と粗利予測が色分けされていた。横展開候補、SKU整理後の想定、標準化によるコスト圧縮。数字の並びはきれいで、言葉も過不足がない。どこを取っても間違っているようには見えない。だからこそ、落とされているものが見える。冬の物流の乱れ。原料の出来の揺れ。包材を切り替えるときに止まるライン。朝比奈フーズが地場の取引先を切らさないために守っている順番。支社が、それを踏み外さないように何度も組み直してきた段取り。そういうものが全部、資料の隅へ追いやられた注記になっている。「冬季の変動要因については、もちろん運用上の留意点として管理します」神谷の声は平坦だった。「ただ、現時点ではリスクとして過大評価しすぎる必要はないかと。管理可能な範囲ですし、そのための体制整備をどう置くかの話なので」管理可能。その言い方の冷たさに、陸斗は胸の奥を小さく刺された気がした。管理できるかどうかの話ではない。現実に、今そこで人がどう動いているかの話だ。雪が一度強くなれば、予定していた便は簡単に遅れる。包材の納まりが半日ずれるだけで、工場の流れは細いところから詰まり始める。現場はいつだって、それを“管理可能なリスク”としてではなく、今日どう回すかの問題として見ている。それを知っている。知っているのに、この整いすぎた会議室の中では、その知識がうまく言葉にならない。「支社で丁寧に育ててもらっ

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