LOGIN「大成さんの噂ですか?」
私は足を止めて、山川へそう問い返す。 山川は後部座席のドアを自然と開けた。 「レナ代表、先にお乗りください」 私は、車に乗り込む。シートベルトを締めた瞬間に山川は口を開く。 「花川様は、欲しいと思ったものを諦めない人だと聞いています」 その直後、車のエンジンをかけた音が耳に入った。 後部座席から少し身体を傾け、山川へ視線を投げる。 「それは、誰しもそうではありませんか? 大成さんはそれが強いだけですよ」 「花川様のレナ代表を見る目も好きではありません。女性関係も派手だと聞きます」 私は車の外を見ながら口を開く。 「噂は噂です。私は、自分の目で見たものを信じます」 「……代表らしいですね」 山川は小さく息を吐いた。 「でも、僕と黒川さんの心配する気持ちも少しは、分かってくださいよ」 山川はそう言って、車を走らせた。 「まぁ、レナ代表に何かあったら、僕が必ず助けますけど」 続けてそう山川は言った。いつも冷静な山川が、ここまで警戒するのは珍しいこと。 やはり、花川大成と少し距離を置くべきなのか、一瞬だけ考えた。けれど、私と大成さんの関係はあくまでビジネス。そう思いながら、先ほど指にはめてくれた指輪を見つめた。 「そうそう、山川さん」 「黒川さん、何ですか急に」 「文句じゃありませんよ。山川さん、代表の右手を後でちゃんと見てください」 「……?」 山川は無言だった。 「きっと、山川さんも驚きますから」 車内に、二人のやり取りが響き、私は思わず小さく笑った。 「山川さん、黒川さん。また始まりましたね」 「代表は呑気すぎるんですよ」 山川は前を向いたまま、そう言った。 「花川様のこと、本当に信用しているんですか?」 「信用していますよ。少なくとも、私が見てきた大成さんは、何度も助けてくれた人ですから」 私は窓の外へ視線を向けた。 流れていく街並み、行き交う人々、その中には、私のことなど知らない人もたくさんいる。 数年前まで、私もその一人だった。誰かの視線を気にして、自分を隠すことばかり考えていた。鏡を見ることさえ嫌だった時期もある。『Léna』というブランドを背負い、たくさんの人の前に立っている。 「だからこそ、心配なんですよ」 山川の声に、私は視線を戻した。 「え?」 山川の心配という言葉に、思わず声が漏れた。 「代表は、昔から自分より相手を信じる人ですから」 私はあまり人を信じていない。今、信じているのは真紀子と山川だけだ。 「実際に、今日だってそうしたからね」 バックミラー越しに、山川と目が合った。 「連れ去られないように、気を付けます」 ストーカーはもちろん、アンチファンもいる。一番酷いアンチファンから、顔の皮を無理矢理引っぱってくる人がいた。 『それは、整形している』 『詐欺だと』 と騒ぎ立てられた。その時は、山川が駆けつけてくれたことで、無傷でいられた。 「山川さん!」 突然、黒川真紀子が大きな声で割り込んだ。 「そろそろ代表の心配ばかりしていると、気づかれますよ」 「……何の話ですか」 山川眞がそう言った。 「さあ? 何の話でしょうね」 黒川真紀子はそう言って、車内から外を見始めた。 「山川さんも、黒川さんも……」 私は、二人の名前を呼び一呼吸した。 「人は、良い部分も悪い部分も持っています。完璧な人間なんていません」 それは、自分自身に言い聞かせている言葉でもあった。 昔の私は、人の評価に怯えていた。誰かに笑われれば、自分には価値がないと思った。誰かに否定されれば、それが真実なのだと思い込んだ。 「僕も分かっていますよ。それくらいは……」 「もうすぐ、大成さんと待ち合わせの場所ではないですか?」 「はい。レナ代表と花川様の二人席だったら僕は許せませんから」 「みんなでテーブルを囲むはずですよ」 私がそう言うと、山川はそれ以上口を開くことはなかった。 けれど、納得したわけではないことくらい分かる。立ち上げ初期からずっと、トラブルが尽きなかったのだ。相当、二人には苦労させている。心配するもの無理はない。 そう思っていると、山川が口を開いた。 「レナ代表、到着しました」 山川はそう言って、エンジンを切り後部座席のドアを開ける。 「とにかく、レナ代表は僕が守りますから」 差し出した手を取り、車を降りようとしたその瞬間 「あ、この指輪……!」 山川がふと目を留め、少し声を張った。 「大成さんからいただいた、最新のGPSよ」 私が少し誇らしげに微笑むと、山川は険しい表情のまま、私の右手を取ってじっと指輪を見つめ始めた。右に向け、左に向け、まるで危険物でも検分するかのように色々な角度からじっくりと観察する。 「レナ代表! どうしてこれを受け取ったんですか?」 「位置情報でしょう。私に何かあったときに追跡しやすいからでは?」 「おかしいですよね? 僕や黒川さんがいるのに?」 山川からそう言われて、初めて疑問を抱いた。 「それに、僕たちにレナ代表の位置情報の共有されていないですからね」 私は自分の右手薬指を見つめた。ただのGPS付きの指輪だけで安心感を覚え受け取ったはずなのに。 (大成さんは、何のために?) 疑問が浮かび上がってきた。 「とにかく、私たちはランチを済ませましょう」私はやれやれと心の中で息をついた。 桜生は相変わらずだ。大成さんが去ったからといって、すぐに空気が和むわけではなく、大成さんの背中をジッと睨みつけていた。 このままでは、また余計な言い合いになってしまう。 私は頭を切り替えるように、少し冷たく桜生に告げた。 「桜生。私たちの新しい企画書、ちゃんと目を通してくれる?」 「見る必要はない」 桜生と一緒に幼稚園へ通っていた頃から、桜生はいつもそんな調子だった。 他の子たちと桜生の違いといえば、御曹司という立場くらいだったはずだ。本人が望んで師弟関係を築いているわけではないだろうけれど、周囲の大人たちから放たれる、 『桜生くん、とても素晴らしい絵ですわね』 『お父様譲りの才能があるのですね』 『お母様に似て容姿端麗で』といった言葉の数々が、少しずつ桜生を歪めてしまったのかもしれない。 もっとも、私の家柄だってそれほど悪くはない。 だからこそ、海皇星家のご両親が、私の両親に向かって『レナちゃんを将来のお嫁さんに……』と微笑ましげに語りかけている場面も、子どもの頃から何度も目にしていた。 「代表っ!」 慌てた様子でこちらに向かって走ってくる、真紀子の声が聞こえた。 真紀子は私の頭から足先までしっかり見ていた。 「黒川さん。どうされました?」 「代表、『どうされましたか?』じゃないですよ。花川様から『連れ出してくれ』と言われましたから、何かされたのかと思いました」 真紀子はそう言って、桜生へ鋭い視線を投げた。 「海皇星様。いくら何でも、強引過ぎます」 真紀子はそう言いながら、右手人差し指を突き出して桜生へ問い詰めだした。 「私たちの資料も確認せず、契約するなど言い出しますし。勝手に代表の手を引いて……」 真紀子に問い詰められている、桜生はどんどん壁へ押されていた。 「これは、完全に誘拐ですから」 ここまで言い終えた真紀子は、そのままの勢いで細めた目を私へ向けた。 「黒川さん。桜生とは特に何もないですよ」 眉を下げ両手を広げ『降参です』と言わんばかりに、真紀子へ伝えたのだけれど、気がおさまらないようで、次は私に人差し指を突き出して迫ってきた。 「代表。とにかく、隠し事はよしてください」 真紀子がそう言い終えると、私の手首
大成さんが私の手を引き、その場から連れ去ろうと力を込めた。 「待って、大成さん。離して……」 私が慌てて腕を引き戻すと、大成さんは振り返り、以前の大成さんからは想像もつかないほど険しい顔で私を見据えた。 「いいや、離すわけにはいかない」 「大成さん。何か勘違いをされているようですが、桜生とは、仕事の打ち合わせをしていただけです。だから、落ち着いてください」 大成さんの耳には届いていない。さっきよりも強い力で私の腕を握っている。 傷みが走り、顔が歪みそうだ。 桜生が大成さんの身体を突き押した。 そのはずみで、私の身体は大成さんの胸板に引き寄せられた。 「レナもレナだな。男なら誰でもいいのか!」 桜生が大成さんを押したせいだと言うのに、どうして私がそんなことを言われなければいけないのか。 (どこかで同じようなことがあった) 私と桜生が中学生の頃だ。 ペア戦の作戦を部活の先輩男子と話していただけで、桜生はその先輩を突き飛ばした。地面に倒れた先輩の元へ駆け寄ろうとした私を、桜生は背中から強く押した。そのせいで、私は倒れた先輩の胸板へ覆いかぶせるような格好になった。 『その男とキスでもしたかったのか』 似たような言葉を浴びせられたのだ。 大成さんの胸板に顔を預けたまま、顔を横に向け、鋭い視線を桜生に向けた。 「……桜生、いい加減にして」 「お前に隙があるからだ」 「違うでしょう……! いつも、あなたがこういう状況を作っているんでしょ」 幼馴染だからこそ分かる。この男は、わざと周囲を混乱させ、私を追い詰めて楽しんでいる。 桜生は苛立ったように眉を寄せると、私の肩を強引に掴み、自分の方へ引き剥がそうと腕に力を込めた。 それよりも早く、大成さんの大きな手が私の背中を優しく、絶対に離さないという強い意志を込めて包み込んでいた。 桜生の手が空を切るように、空振りした。 「……レナに、これ以上触るな」 大成さんの腕に阻まれ、私は桜生の方へ引き戻されることはなかった。 「今、この時間は俺とレナのものだ。返してもらおう」 頭に血が昇っていた私は、桜生の言葉を聞きこの状況を変えなければと、話を元に戻す。 「桜生。大成さんは私が何度も連れ去られそうになっていることを知っているから」
「ちょっと、桜生」 そう言った瞬間、私は背中を冷たい壁に打ち付けられていた。逃げようとする間も無く、私の両脇を塞ぐように、桜生が大きな腕で壁へドンと、手を突いた。 (……近い) カフェの奥まった化粧室の前、人通りは途絶えている。 逃げ場のない閉塞感の中で、私は息を呑んだ。高校の頃よりもさらに鍛え上げられた身体から放たれる、男性的で強い圧迫感。以前にも同様のことがあった。あの時は、私の顔へ桜生が近づけた。だから、私は思いっきり頬を叩いて逃げた。 今回も、頬を叩こうとした。けれど、私の右手をしっかり桜生は掴んでいる。 「……離してよ。私に関わらないで」 私は震える声を必死に抑えつけながら、睨みつけるように桜生を見上げた。 けれど、桜生の瞳は以前のように平凡な私を嘲笑うものではなかった。その黒い瞳は、私を穴が開くほどじっと見つめ、熱い眼差しのようだった。 (違う。……昔の桜生と、何かが違う) 脳裏に蘇る、悪夢のような記憶。 『いいか、レナ。お前は色気もない女なんだ』 『俺くらいだ。お前と遊んでやるのは』 私の自信を粉々に砕いた言葉たち。その記憶が、現在の桜生の顔と重なる。大人になっても、その恐怖が身体中を駆け巡る。 「……どうして、今さら現れたの。私からまた奪うつもり?」 私がそう呟いた瞬間、桜生はフッと不敵な笑みを浮かべた。 そして、私の耳元に顔を寄せ、甘く、それでいて逃げ場のない低い声で囁いた。 「奪う? ……いいや、逆だよ」 桜生はそのまま、私の顎を指先でくいっと持ち上げた。 「レナ、お前が這い上がってきたこのブランド、そして今回のプロジェクト。……俺が、すべて手に入れてやる」 「どうして? 私の会社は最近、上昇したばかり。桜生が投資するほどの価値はないはず」 私は桜生を睨みながら、何か企んでいると思いながらそう告げた。 「俺が、お前ごと、投資するんだ」 桜生の言葉は、ビジネスの提案というよりも、所有権の宣言に聞こえた。 (意味が分からない。私以外にも綺麗な女性はたくさんいるのに、どうして……) この男の歪んだ執着が、今の私には理解できない。 「ごめんなさい。桜生、今回のプロジェクトは……」 私が言葉を切り出そうとした、その時だった。 「――レナ!」
「……レナ?」 突然私の名前を呼ばれた。 忘れたくても忘れられなかった幼馴染の海皇星桜生。 (どうしてここに?) 私の頭は混乱した。目の前にいる海皇星桜生は、高校の頃よりもさらに身長も伸び、スーツのラインも、視線の強さも以前よりも数倍は磨きかけられている。 スペックの塊みたいな誰もが惹かれるような眩しい男に。 (神様はどうして、何でも桜生にだけ磨きをかけさせるの?) 「レイナが、あの『Léna』の会社だったんだな」 桜生はそう言って、テーブルの向こう側の席に座った。 「レナ……本当に、俺の知っているレナだよな?」 桜生は何度も、私が望月レナなのか確認するかのように言葉にしてはじろじろと上半身から顔へと往復しながら見ていた。 「久しぶりね、桜生」 取引先相手が桜生でなければ、言葉すら交わすことはないと思っていた。だけど、これが現実だ。これから先、Lénaにとってはかなり重要な取引先。失礼のないように、公私混同しないように、対話する必要がある。だけど、私の心はそう簡単に従ってはくれなかった。 口角を上げているはずなのだけど、どこか奥歯を噛みしめたような言い方になっていた。 「桜生様、取引先のレナ代表ですから、無礼のないように」 その隣に座った、秘書らしき男性がそう言った。 「あぁ。それで、レナ。こいつは俺の秘書で、鏡見一郎だ」 桜生が紹介した鏡見一郎は、静かに一礼をした。 「鏡見と申します。……お噂はかねがね、レナ様」 その涼しげな瞳の奥に、どこか値踏みするような視線を向けられた。鏡見はそれ以上余計な言葉を発さず、隣に座る桜生へ視線を送った。 「で、本題だが」 桜生がテーブルに身体を預ける。 「海星インターナショナルとして、『Léna』の新しいプロジェクトに手を貸すよ」 桜生のその傲慢な一言。昔と変わらずだった。 「……は?」 私は思わず声を漏らした。隣に座る真紀子も、息を呑んで硬直している。 「手を貸す、って……何を言っているの? まだ私たちのプロジェクトの案件資料にも目を通していないはずよ」 私は怒りを押し殺し、震える声を必死にコントロールした。 「この新規プロジェクトのために、私たちがどれだけの時間をかけたと思っているの。何ヶ月も
後部座席に滑り込み、重いドアが閉まった瞬間、車内の張り詰めた空気がようやく少しだけ緩んだ。 「それにしても、今日の花川様。何だか、いつもと様子が違いましたね」 助手席に座った真紀子が、バックミラー越しに心配そうな目を向けて言った。 「そうね。急に『初恋の人』だなんて言い出したり、今夜のディナー・セレモニーに強制参加させられたり……」 「そうですよ。それに、代表の好きな食べ物を勝手に注文して、しかも自分の前にも全く同じものを並べるなんて……これまではあんな露骨な真似、しませんでしたよね?」 真紀子の指摘に、私は後部座席の背もたれに頭を預けた。小さくため息を吐き出す。確かに、これまでの大成さんはスマートな理解者だと思っていた。対等なビジネスの親友のように私は接していた。けれど、そう接していたのは私だけだった。 「あの人、完全に一線を越えてきましたね」 運転をしている山川がそう言った。 「山川さん、今は午後からの打ち合わせに集中して。大成さんがどうであれ、私たちの仕事の成果を落とすわけにはいかないですからね」 私自身も困惑しているけれども、経営者としてのプライドを奮い立たせた。 「レナ代表。承知していますよ。だけど今夜のセレモニーには自分らも同行しますからね」 山川の口調は、強かった。だけど、どうにかしたいと思っているようにも感じた。 私たちは午後のプロジェクトの打ち合わせ場所であるクライアントのオフィスへと車を走らせた。 数分車を走らせると、目的地の表参道のオープンカフェに着いた。 「代表。到着しました。デザインの最終確認ですから、お忘れなく」 私の誇りであるブランド『Léna』その未来を左右する大切な新規プロジェクトだ。今は、大成さんのことは忘れよう。 車から降りると、今の私の心を吹き飛ばしてくれるような心地よい風が吹き抜けた。 表参道のオープンカフェは、木漏れ日がテラスのウッドデッキに細やかな模様を描いている。 「何て、素敵なカフェなの?」 私の口から思わず、声が漏れた。 「代表、最高ですよね。新規プロジェクトの最終デザインを詰めるのにぴったりのロケーションですよね」 真紀子はそう言って、私の顔を覗き込んで続ける。 「事前のリサーチ通り、客層の雰囲気も『Léna』のターゲット層と完
その言葉は、疑問形ではなく決定事項として私に突きつけられた。 断るという選択肢が最初から存在しないかのように、大成さんは満足げに微笑んだまま私の肩を抱いた腕を緩めない。 テーブルの向こうで、山川がゆっくりとコップを置いた。その微かな音が不気味に響く。 「花川様! ディナー・セレモニー、ですか」 山川は驚いたようにそう言った。 「花川様、申し訳ございません。今夜は別件の案件が入っておりますので、今夜は難しいかと」 大成さんの急な予定について、真紀子も黙ってはいられなかったようだ。 「そうですね。私もこの後、午後のプロジェクトの打ち合わせがありますし、ディナー・セレモニーまでに間に合うかどうか……」 私も思わず、口を挟んだ。いいえ、挟まないでいるわけにはいきません。 「レナ。スケジュールなんて、どうとでも調整できるだろう」 大成さんはそう言って、テーブルの向こうに座る山川へ視線を向けて言った。 「いえいえ、大成さん。私のスケジュール管理は黒川さんにお願いしています。次の案件をお断りするとなると、会社の存続にも影響が……」 私は一度、言葉を区切った。冷静にと心の中で思いながら、コップのお水を口に含み飲み込む。 「それに、いくら大成さんでも、これは社交的ではないかと存じます」 私が言い終えると、大成さんは抱いたままの肩を強く握った。 「レナの会社の未来を左右する大切な夜だ。僕のパートナーとして、当然隣にいてもらう。……ねぇ、レナ?」 (私の意思は? 私の会社は……! 大成さんは何を考えているの?) 胸の奥で反発心が激しく渦巻いた。けれど、横にいる大成さんの言葉は、絶対的な支配のようだった。 「代表のため、ですか? 具体的に……」 真紀子がそう言った直後、私は言葉を遮るようにこう言う。 「黒川さん、もういいわ」 私がそう言うと、真紀子は『でも……』と口を開きかけた。それでも、私はその言葉すらも遮る。 「大成さん、わかりました。参加します」 私がそう答えると、大成さんは私のこめかみに親指を軽く這わせた。 真紀子がわずかに顔を伏せ、土門純が無表情のまま私の様子を観察している。そして、山川は、燃え盛るような真っ赤な顔で怒りを表現しているようだった。 「大成さん。申し訳ございませんが







