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第2話

Author: リィワイ
テーブルの上には、お菓子のゴミや酒瓶が散乱している。

莉愛はソファに丸くなり、私の愛用しているブランケットで足元をくるみながら、クッションを床に蹴り落としていた。

今朝出かける前に、私がやっとの思いで綺麗に片付けたばかりの部屋が。

また、見事なまでにゴミ溜めへと逆戻りしていた。

「おっ、今日は帰るの早いな」

渉は悪びれる様子もなく、私に声をかけてきた。

「この部屋には、誰も呼ばないって約束だったよね?」

私は彼をまっすぐに見据えて問いただす。

「この前、私のお母さんが食事に来たいって言った時は絶対に嫌だって断ったのに。……これ、どういうつもり?」

渉はガシガシと乱暴に髪を掻き毟り、あからさまに鬱陶しそうな目を向けた。

「お前がずっと仕事で家空けてっからだろ。俺が暇つぶしにダチ呼んで何が悪いんだよ。

誰も呼ばないってルールは、二人だけの時間を大事にするためだったろ?」

彼はため息をつき、私を責め立てるように言葉を続ける。

「胸に手ぇ当てて考えてみろよ。この2年間、お前がまともに俺の相手してくれたこと、一度でもあったか?

ねぇよな。

お前はもう、俺のことなんてどうでもいいんだよ」

――私は事実とルールの話をしているのに、彼は自分の感情論にすり替えて被害者ぶる。

ああ、もうダメだ。

これ以上、言葉を交わすだけ無駄だ。

私は何も言い返さず、会社から持ち帰った私物の段ボール箱を玄関の隅に置き、そのまま真っ直ぐ寝室へと向かった。

コンコン、と遠慮のないノックの音が響いたのは、私がクローゼットから服を出して畳んでいる時だった。

「琴音さぁん、もしかして怒ってますぅ?」

ドアの隙間から顔を出した莉愛が、ド直球にそう聞いてきた。

「私のことが気に入らないなら、はっきり言ってくださいよぉ。私だって、どうしてもこの家に来たかったわけじゃないですしぃ。

そんなあからさまに嫌な顔して、当てつけみたいに部屋に引きこもらなくてもよくないですか?」

彼女の言う通りだ。

私は、彼女のことが大嫌い。

だがそれは、今に始まったことじゃない。

初めて会ったあの日、彼女は渉の膝の上に跨り、彼の首に腕を絡めてベタベタと甘えていたのだ。

あれは、渉の誕生日パーティーでのこと。

部屋に入った瞬間にその最悪な光景を見せつけられた私は、頭に血が上り、莉愛を思い切り突き飛ばした。

そしてそのままの勢いで、渉の頬を力一杯平手打ちした。

だが彼は、舌で打たれた頬の内側を押し上げるようにすると、ヘラっと笑ったのだ。

「なんだよ、いつからそんなノリ悪くなったんだ?

ただの王様ゲームだって。マジギレすんなよ」

莉愛は、渉の遊び仲間たちよりも5、6歳は年下だった。

当時の彼女は彼らのグループに入り浸るようになったばかりで、男たちは最年少の彼女をチヤホヤと甘やかし、庇っていた。

私が手を出した途端、周りが慌てて場を取り成そうとした。

「琴音ちゃんごめんって!今のただのゲームだから!」

「俺の罰ゲームの指定が悪かったわ、ワリィ!」

「莉愛ちゃんも最近来たばっかで、ノリ良く頑張ってくれただけだからさ」

だが、当の莉愛は全く反省の色を見せず、不満げに私を睨みつけた。

「何ですかそれ、女の嫉妬?マウント取りたいんですか?

そんなに彼氏が他の女と絡むのが心配なら、首輪でもつけて家で飼っとけばいいじゃないですかぁ」

しかし、その挑発的な言葉には、渉が即座に噛み付いた。

「おい、今のもう一回言ってみろ」

彼の声は、一瞬で氷のように冷たくなった。

「俺に彼女がいるの知ってて、ゲームで俺を指名したのはお前だろ。

今、俺の女に何の口答えした?

……謝れ」

あの頃の彼は、いつだって人前で堂々と私を庇ってくれた。

でも、あの出来事を境に、私は得体の知れない危機感を抱くようになったのだ。

私も年齢を重ね、仕事で責任あるポジションを任されるようになると、彼らの遊び仲間の輪に顔を出す時間は嫌でも減っていった。

渉は、自分でミュージックバーを経営している。

たまにインディーズバンドの作曲やレコーディングの手伝いもしていた。

だから彼の周りには、いつだって10代や20代前半の若い女の子たちが溢れている。

彼女たちは、昔の私と同じ。

自由で、情熱的で。

誰かを好きになったら、後先なんて考えずに突っ走ることができる。

だから、結婚さえすれば、そういう子たちも彼と距離を置いてくれるんじゃないかと思った。

そう思って、私からプロポーズめいた言葉を口にした。

……でも、彼は頷いてはくれなかった。

ここ二年間、結婚のことで何度も喧嘩し、何週間も口を利かない冷却期間だってあった。

なぜ結婚してくれないのかと問い詰めると、彼はいつも同じ言い訳をした。

「2千万円貯金できたら、絶対にお前を嫁にもらうから」

確かに彼の稼ぎは悪くないけれど、その分出費も桁違いだった。

毎月のようにハイブランドの新作の服やスニーカー、アクセサリーを買い漁る。

毎晩の飲み代に、趣味の車への注ぎ込み。

月末になれば、彼の口座はいつもすっからかんだ。

貯金なんて、夢のまた夢。

だから私は、二人の将来を少しでも安定させたくて、がむしゃらに仕事に打ち込むようになった。

それなのに彼は、私が「癒やしをくれない」「ロマンチックじゃなくなった」と不満を漏らすばかり。

自分自身もすっかり変わってしまったことには、全く気づかないまま。

――扉の向こうでは、まだ莉愛がコンコンとドアを叩き続けている。

しかしリビングにいる渉は、彼女を咎めることもなく黙り込んでいた。

彼はもう、あの頃のように迷うことなく私を庇ってはくれないのだ。

私はクローゼットからキャリーケースを引き出すと、思い切りドアを開け放った。

そして、目を丸くする莉愛を真っ直ぐに見据えて言い放つ。

「ええ、その通り。私、あなたのこと大嫌い。

あなたを好きにならなきゃいけない義務なんて、私にはないでしょ」

呆然とする彼女を避けるようにキャリーケースを転がし、私はリビングのソファに座る渉へと視線を向けた。

「私、今日ここを出ていくから。

入居の時、私が立て替えた敷金と礼金、合わせて六十万円。後でちゃんと私の口座に振り込んでおいて」

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