เข้าสู่ระบบ◇◆◇ ふんふん、と女の機嫌良さげな鼻歌が聞こえる。 ぱりん!がしゃん!と室内では大きな音が立て続けに響く。 「Kanatoが私の家に来てくれる」 甘ったるい声で機嫌良さげに笑う。 その女──アイドルのRikOは、荒れ果てた室内をぐるりと見渡し、満足そうに頷いた。 「ああ、そうだ。寝室の下着類も外に出しておかなきゃね。ちゃんとストーカーが散らかしたように見えるように」 るんるんと軽い、弾んだ足取りで寝室に向かうRikO。 下着類を引っ張り出し、乱雑に放り投げる。 そして、横にあるベッドを視界に入れると、いやらしい笑みを浮かべた。 「絶対に今日はKanatoと寝るんだ。あんなぶっさいくな一般人の幼馴染、Kanatoに相応しくなーい。自分から身を引いてもらわないと」 RikOはスマホを操作し、フリマアプリを開く。 「今は簡単にアプリで妊娠検査薬の陽性が出たやつと……エコー写真も手に入るし……ああ、でもエコー写真はもうちょっと時間が経ってる奴が欲しいから……来月くらいに購入しようっと」 ふふっ、と愉悦に口元を歪めるRikO。 「Kanatoには気持ちよーく寝てもらわないと、ね」 RikOは、キッチンの棚に常備している睡眠導入剤を手に取り、ちゅっと唇を寄せた。 RikOが着々と準備を進め、数時間。 奏斗が来たのだろう。 インターホンが来客を知らせた。 「──来たっ!」 RikOは嬉々とした表情で、インターホンに向かう。 モニターにはやはり想像していた通り、帽子を目深に被り、黒いマスクで顔半分を覆った奏斗が映っていた。 RikOはモニターのボタンを押し、声をかける。 「ここまで来てもらって、ごめん……。今解錠するね」 オートロックを解錠する。 奏斗には予め部屋番号を知らせてある。 RikOはそわそわと玄関扉の前で行ったり来たりとしつつ、奏斗が部屋の前にやってくるのを待った。 そして、少し時間が空いて、部屋のインターホンが鳴る。 RikOは急いで玄関の鍵を解錠し、扉を勢い良く開けた。 「──Kanatoっ」 「……っ、やめっ、抱きつかないでくれ。早く中に……っ!」 RikOは奏斗に思いっきり抱きつく。 それを振り払おうとした奏斗だったが、まだここはマンションの共用部。 誰かに見られてしまう可能性がある。 奏
ピリッとした緊張感。 それに、奏斗からは微かな怒りが漂う。 私がびくり、と体を震わせると奏斗は私を安心させるように抱き寄せてくれる。 だけど、その間もRikOの声はスピーカーから聞こえ続けてきている。 「待て、落ち着け、落ち着いてくれRikO。事務所やマネージャーに報告して、対応してもらう方がいいんじゃないか?」 「話してくれないと分からない、RikO」 奏斗の顔色が最初に比べて悪くなっている。 それに、さっきRikOの口から出た「幼馴染の子」って──。 まさか、私の事までストーカーに写真を撮られていたって言うの? 私が不安を覚え、奏斗を見上げると奏斗も混乱しているのだろう。 私に何とも言えない表情を浮かべた。 ぐすぐす、と啜り泣くRikOの悲痛な声がスピーカーから聞こえてくる。 「──は?写真って、この間外で会った時の写真じゃあ」 RikOの声は、それ以上を紡ぐ事はできず、わああった声を荒らげて泣き出してしまった。 それを聞いた奏斗は、難しい顔をしていたけど、暫く黙ったままだった奏斗は、ぐっと目を瞑り苦しそうな顔をした後、口を開いた。 「……分かった。一旦そっちに行く。そこで詳しく話を聞かせてくれ」 「──っ」 「家の住所を送っておいてくれ。今から向かう」 奏斗はそれだけを言い終えると、スマホの通話を切った。 室内は再びしんと静まり返る。 「──ごめん、香月。少し行って、話を聞いてくる……」 「でもっ、でも奏斗……。ストーカーが家に入っていたんだよね?大丈夫、なの?」 私は奏斗の身が危険に晒されてしまうのでは、と心配になる。 私が思わず奏斗の服を掴むと、奏斗は私を安心させるように優しく笑って手を握ってくれた。 「大丈夫。RikOの話を聞いて、すぐに帰ってくるよ。もし、香月の写真も本当
奏斗と一緒に寝て、どれくらい時間が経った頃だろう。 奏斗のスマホが着信し、音楽が流れる音で目が覚めた。 奏斗はまだ気持ち良く寝ているみたいで、私は鳴り続けるスマホに目をやって、奏斗を起こすために体を揺すった。 「奏斗、奏斗。電話鳴ってる!仕事用のスマホだよ?急ぎの電話かも……!」 「んー……、んん?俺、休み中なのに……」 奏斗は嫌そうにもぞもぞ、と体を動かしてにゅっと腕を伸ばし、スマホを探す。 私は奏斗の腕から抜け出して、スマホを取ると奏斗に手渡した。 「ほら、奏斗……!ちゃんと起きて!」 「うう、ありがとう香月……」 まだ完全に目が覚めていないんだろう。 しょぼしょぼとした奏斗が目を擦りながら起き上がり、スマホを耳に当てたと同時に、私の体を引き寄せた。 「──っ!?」 「はい、もしもし……」 私は後ろから奏斗にぎゅっと抱きしめられる格好になってしまって。 すぐ後ろには、電話に出ている奏斗。 私が下手に声を上げたりしたら、電話の向こう側にいる人に私の声が聞こえてしまう。 私は慌てて自分の口を手のひらで覆い、じっとする。 奏斗はそんな私ににやりと悪戯っぽく笑みを浮かべて、私のお腹に片腕を回してさらにぎゅうっと抱きしめてきた。 「──っ!」 奏斗の手を叩こうにも、叩く音が電話の向こうにいる人に聞こえてしまうかもしれない。 奏斗は、私が動けない事を知った上でこんな事を! と、私がぷりぷりしていると、電話に出た奏斗の顔色が変わった。 「──RikO?何だ……?良く聞こえない。……泣いてるのか?」 RikO──? 昨日、奏斗を追いかけて私たちの所にやって来たRikOが、どうして? しかも、RikOが泣いている? 何があったのか──。 私が混乱していると、それは奏斗も同じようで。 奏斗は一旦耳からスマホを離すと、画面をタップした。 途端、ぐすぐすと泣くRikOの声がスピーカーから聞こえてきて。 奏斗が通話をスピーカーにしてくれたのだろう。 RikOの声が、聞こえてきた。 「何が怖いんだ?何が起きてるのか分からない。ちゃんと話してくれ」 「──は?
「終わっ、たあー!」 私は、ペンを放り投げて課題のレポートに突っ伏した。 ずっと集中してたから、体がバキバキに固まっちゃってる。 小さく声を漏らし、伸びをする。 すると、パキっと音が鳴った。 「──奏斗、お待たせ……。奏斗?」 随分待たせちゃったかな、と思いつつ奏斗に話しかける。 だけど、私が奏斗を呼んでも、奏斗から返事は返って来ない。 あれ?と思って突っ伏していたテーブルから顔を上げると、いつの間にか奏斗もテーブルに突っ伏して眠っていた。 やっぱり、昨日ホテルであまり眠れなかったのだろう。 私は奏斗が用意してくれた飲み物を全て頂いてから、椅子から立ち上がった。 眠っている奏斗の体を揺さぶって声をかける。 「奏斗、奏斗。待たせてごめん。課題終わったよ」 「ん、んん……?ほんと、香月……」 「うん、もう大丈夫。自分の部屋に上がって寝た方がいいよ?」 「うん……そうする」 もそり、と体を起こした奏斗に、私は安心して離れようとした。 だけど、私の腕を掴んだ奏斗に止められてしまって──。 「──え?」 「さっき、香月を抱き枕にするって言ったでしょ……?俺の部屋行って一緒に寝よ……」 「えっ、え!?あれって本気だったの!?──ひえっ!」 まさか、奏斗が本気で言ってたなんて。 私が戸惑っていると、奏斗はひょいっと私を軽々と抱き上げてそのまま歩き出す。 「かっ、奏斗!階段あるから!危ないから下ろして!」 「んー、大丈夫だよ、香月軽いし……ちゃんとぎゅって掴まってて……」 「ちょっ!」 ぽやぽやとした口調のまま、奏斗が階段を上り始める。 私はひやっとして、思いっきり奏斗に抱きついた。 すると、どこか嬉しそうに笑いながら、奏斗が私を抱く腕に力を込める。 階段を上りきった奏斗は、私を抱き上げたまま自分の部屋に進み、そのまま扉を開けて中に入ってしまう。 「か、奏斗──?」 「ああ、もう限界かも……」 「えっ、あっ、ちょ──っ」 そのまま奏斗は自分のベッドに倒れ込む。 もちろん、私を抱いたまま──。 ぼすんっ!と音を立てて私を巻き込み、ベッドに横になる奏斗。 離してもらおうと身動ぎしたけど、奏斗は目を瞑ったままで。 「ちょっ、奏斗、寝苦しくないの?」 「んー……へいき……」 奏斗はむにゃむにゃとした口調でそれ
「香月?鍵は開けてるから入ってきて」 「本当?分かった、お邪魔するね」 インターホンから奏斗の声が聞こえて、私はそのまま玄関の扉を開けて中に入る。 すると、玄関を入ったところで奏斗が待っていてくれて。 「奏斗、わざわざここまで来たの?」 リビングで待っていてくれれば良かったのに、と私が奏斗に言うと、奏斗は照れ臭そうに笑った。 「さっきまで会ってたのに、待ちきれなくってさ」 「ええ、奏斗ってそんなに寂しがり屋だったっけ?」 私が奏斗を揶揄うように笑うと、奏斗は照れ隠しをするように私の頭をぐしゃぐしゃと撫で回した。 「俺も自分で自分に驚いてるよ!くそっ、恥ずかしいっ!」 「ふっ、ふふっ!奏斗の顔真っ赤になってる!」 「ああ、もううるさいうるさい!香月、大学の課題やるんだろ?早くリビングに行こう!」 奏斗に手を取られ、そのままリビングに向かう。 奏斗は私を椅子に座らせると、飲み物を用意してくれて、私の向かいに座った。 「大学の課題って、どれくらいで終わるの?」 奏斗に飲み物のお礼を告げて、私は考える。 「うーん……どうだろう。レポートだから、早くは終わらないかも?」 「そっかー……」 「少し待たせちゃうと思うから、奏斗はテレビでも見てたらどう?それか、奏斗眠そうだから少し自分の部屋で寝て来たら?」 私はとろんとしている奏斗の目を見てそう話す。 何だかすっごく眠そうに見えて、私は奏斗に寝てきたら、と勧めたんだけど私の提案を奏斗は首を横に振って断る。 「いや、いい……。寝るなら香月も一緒に寝よ……」 「えー?私は結構ぐっすり寝たから多分眠くならないよ」 「それじゃあ、俺の抱き枕になってよ。香月抱きしめたらぐっすり眠れそう」 「だ、抱き枕って……」 まさか一緒に寝よう、なんて提案されるとは思わなかった私は、ついつい課題のレポートから顔を上げてしまう。 すると、とろんと眠そうな目をした奏斗がじっと私を見つめたまま、ふっと笑った。 「あ、もちろん変な事はしないから安心して。大人しく普通に寝るだけだから」 「そ、そんな心配はしてないよ……!」 「そう?期待してたら悪いかなって」 「期待もしてない!」 「──ははっ」 眠いからだろうか。 奏斗が嫌に色っぽく見えてしまって、落ち着かない。 きっと、私の顔は赤くなってし
ホテルを出た私と奏斗。 昨夜は凄い雨で、電車が停まっちゃっていたのが嘘のように、空は快晴。 「凄い気持ちいい天気だな」 「ね。昨日の悪天候が嘘みたいだよね」 私と奏斗は、会話をしつつ駅に向かう。 自然に、無意識に。 私と奏斗はどちらからともなく手を繋ぐ。 指を絡ませる、所謂「恋人繋ぎ」 今まではこんな風に奏斗と手を繋ぐと、私はすぐ照れてしまって顔が赤くなってしまったのだけど。 今はもう、こうして奏斗と並んで歩く事も。 手を繋いで外を歩く事も。 嬉しさの方が勝っていて、恥ずかしさを感じない。 朝の爽やかな空気と、気持ちの良い天気も多分関係しているとは思う。 「香月は今日家に帰ったら何か予定あるの?」 手を繋いで、並んで電車を待っている時。 奏斗から問われた私は、首を横に振った。 「ううん、特に無いよ。強いて言えば、大学の課題をやる予定くらいかな?」 「ならさ、家に帰って少し休んだら、俺の家で課題をやればいいよ。まだ香月と一緒に居たいから」 「わ、分かった。着替えたら奏斗の家に行くね」 「うん。待ってる」 帽子を目深に被っているけど、それでも奏斗がとても嬉しそうに笑っているのが分かる。 繋いだ手をきゅっと握られて、奏斗の指先がゆっくりと私の手の甲をなぞる。 「もうっ、擽ったいからやめて、奏斗」 「ごめんごめん、嬉しくてさ。早く2人きりになって思いっきりいちゃいちゃしたい」 「──ばっ、馬鹿な事言わないで!」 「え?香月変な事想像した?ただ俺は、香月とくっついていたいな、って思っただけだけど?」 ひょい、と私の顔を覗き込む奏斗の目が、揶揄うように笑っている。 私は奏斗の背中をべちん!と叩き、ちょうどやってきた電車に乗り込んだ。 電車を降りて、帰ってきた私達は、私の家の前で奏斗と別れる。 ただいま!と声をかけて家の中に入るけど、両親は出かけているみたいで、不在だった。 それなら丁度いいや、と私は急いで着替えを終え、大学に持って行っているトートバッグに課題を詰め込んでいく。 髪の毛を整え直して、軽くメイクも直す。 新作のリップを塗って、鏡の前で全身をもう一度確認する。 「──よしっ、洋服も可愛い!メイクも上手く直せた!完璧!」 アイドルの奏斗は、可愛い子なんて見慣れてる。 だけど、奏斗にはやっぱり可愛い