家に帰ったミレは、長いあいだ熱いシャワーを浴びた。
お湯が背中を伝うたび、暗闇の中で自分を支えてくれた大きな手が浮かんだ。無意識にその場所に触れ、はっとして手を離した。
ドレッシングルームで薄いシルクのスリップを取り出して身につけた。夫を誘惑するためではなかった。誰も見ていない夜でさえ、いちばん美しいものを選ぶこと。それがアン・ミレが自分自身を守る方法だった。
鏡の中の女は、今も眩しいほど美しかった。
ずっと昔は、ソンウンも言ってくれた。
今日は本当に綺麗だと。
その服がよく似合うと。
いい香りがすると。
いつからその言葉が消えてしまったのか、思い出せなかった。少しずつすり減っていくものは、最後の瞬間がいつだったのかわからないものだ。
寝室に入ると、ソンウンはすでに背を向けて横になっていた。
「今日、病院のエレベーターが止まったんです」
「そうか?」
「電気も消えて……少し怖かったです」
「もう大丈夫なんだろ?」
それで終わりだった。
夫は振り返らなかった。何があったのか、怪我はなかったのかと尋ねることもしなかった。
ミレは広くたくましい背中を見つめた。
十七年を共に生きてきた、私の男の背中。
けれど一度も「つらいときは俺に寄りかかればいい」と、安らぎを与えてくれたことのない冷たい壁。
「電気、消そうか?」
「はい」
カチッ。
同じベッドで、同じ布団に入りながら、世界でいちばん遠く離れている二人。
暗闇が降りると、ミレの脳裏に浮かんだのは夫ではなかった。
低い声。
たくましい腕。
力の抜けた脚を支えてくれた太腿。
シルク越しに伝わってきた熱い手のひら。
目で見ることができなかったからこそ、かえって鮮明だった。
今日初めて会った見知らぬ男の腕の中が、十七年を共にした夫のそばよりも温かく、安全だった。
その事実がひどく甘く、そして同じくらい罪深かった。
翌朝。
子どもたちと笑っていたソンウンが、今度はミレに儀礼的な質問を投げかけた。
「昨日の皮膚科のパーティーはどうだった?」
「病院、綺麗にしてありましたよ」
「花は確認したか?」
「はい」
「そうか」
彼の視線は再びタブレットへ戻った。
ミレはコーヒーカップの温もりを両手で包んだ。
この家で自分が手にできる温かさは、それだけだった。
夫と子どもたちが出かけたあと、ジョンレが向かいに座った。
「エレベーターで驚かれたの、本当に大丈夫なんですか?」
「ほんの少しの間だったんですから、大丈夫ですよ」
「奥様、まだこんなにお若くてお綺麗なのに……どうして社長だけが、その価値に気づかないんでしょうね」
「おばさん、また始まった」
ミレは笑った。
その瞬間、頭の中を見知らぬ男の声がかすめた。
ジョンレは、そのかすかな生気を見逃さなかった。
ミレがあんな表情で笑うのを見たのは、いったいいつ以来だろう。
事故があったその夜、ジニも眠れなかった。
病院にスカウトされてからというもの、診療と会議、VIPの対応に追われ、息をつく暇もない日々だった。
それなのに目を閉じると、浮かんでくるのは大勢の患者ではなく、あのエレベーターだった。
暗闇の中で自分の腕の中へ傾いてきた軽い体重。
腰に触れた手。
少しずつ落ち着いていった呼吸。
手術室で人の身体を開き、死の寸前にいた患者を救ったことさえある。
たった数分の記憶が、これほど鮮明である理由などなかった。
ジニは片手で目元を覆った。
その瞬間、女が自分にもう少し身体を預けてきたときの体温が蘇った。
彼は、はっと目を見開いた。
顔さえ知らない女だった。
それなのに、忘れられなかった。