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天狐上司のもう一つの顔③

مؤلف: 当麻月菜
last update تاريخ النشر: 2025-10-09 20:31:07

 顔の熱が完全に冷めてから、美亜は自分の席に戻る。香苗と綾乃は時間差で、戻ってくるだろう。その辺りの連携は取れている。

 昼休憩まであと5分。パールカンパニーは福利厚生が充実していて各階に休憩スペースがあり、最上階はワンフロア全てが社員のためのカフェスペースになっている。

 しかも昼食時には無料のデザートまで用意される。ただし数には限りがあり、雇用形態に関係なく早い者勝ちのルールだ。

 暗黙の了解として、本来なら正社員に譲るべきなのだが、美亜は遠慮はしない。

 だって用意されているデザートは駄菓子だけではなく、自社ブランドの高級菓子”花珠シリーズ”と、コンビニコラボで大ヒットした真珠大福もある。淡く輝くそれを何としても食べたいのだ。

 美亜は机の上を片付けながら、綾乃たちが戻ってくるのをソワソワしながら待つ。時刻は11時57分。どうか内線が鳴らないでと祈ったその時、甘い香りとともに頭上から声が降ってきた。

「星野君、ちょっといいかな」

 空気を読まずそう言ったのは、コスプレ課長……もとい、指宿亮史だった。

「は、はい。なんでしょう」

 チャイムと同時に駆け出したい美亜は舌打ちしたい気分だが、立場上嫌とは言えない。引きつった笑顔を浮かべて指宿に続きを促す。

「お昼前に悪いが、先ほどミーティングでちょっといい案がでなくてね。申し訳ないんだが、派遣の皆さんにも意見を聞きてみようと思ったんだ」

「……はぁ」

 こりゃあ、話が長くなるなと美亜はうんざりする。何も今じゃなくていいじゃんと、心の中でぼやいていたら、綾乃と香苗がトイレから戻ってきた。

「あ、課長お疲れ様です」

「お……お疲れ様ーす」

「ああ、お疲れ」

 二人はぎこちなく指宿に挨拶をして席に着いたが、動揺を隠せないでいる。

 無理もない。営業企画課に席を置いて半年近く経つが、これまで美亜を始め、派遣社員は一度も指宿から声を掛けられたことはない。これは、かなりの事件である。

 しかし好奇心はあっても、面倒事に巻き込まれたくないと思うのは当然の発想で、二人はこちらを見ようとはせず、ただただ仕事をするフリをしてチャイムが鳴るのを待っている。

「で、話は戻すが今度の商品のターゲットが──ああ、昼か」

 再び指宿が口を開いたと同時に、昼休憩を告げるチャイムがフロアに響き渡る。

 すぐさまざわざわし始める社員達を一瞥した指宿は、なぜかニコッと笑って美亜にこう言った。

「ちょうどよかった。お昼を食べながら話そうか」

 瞬間、美亜を中心に半径5メートルが静寂に包まれた。

 冷酷上司が笑っただけでもセンセーショナルな出来事なのに、派遣社員を食事に誘ったのだ。刃物のような女性社員の視線が、美亜を刺す。

「あの……申し訳ありませんが、私……お弁当を持ってきてまして」

「そうか。それは残念だったな」

「はい」

 体の良い断り文句を紡げば、幸いにも指宿は引き下がってくれた。……と、思ったのだけれど、

「そのお弁当は夕飯にしてくれたまえ。では、行こう」

「え?……えぇっー!」

 悲鳴に近い声を上げる美亜だが、無情にも指宿は無視してフロアを出ようとする。

「花珠シリーズは、うちらにまかせて。はい、いってらぁー」

「どこでランチしたか後で教えてね。んじゃ、行ってらっしゃい」

 他人事だと思って、香苗と綾乃はオロオロする美亜の背中と肩を軽く叩く。

 嫌だ嫌だと思っても、上司の命令は絶対。派遣社員である美亜は、評価向上のためトボトボ歩きで指宿の後を追った。

 甘い香りは、指宿のコロンなのだろう。彼に近づくごとに、香りが強くなっていく。

(……これ、アンバーとムスクが混ざってる。好きだな)

 美亜がどこのメーカーのコロンだろうと考え始めたその時、指宿が突然振り返った。

「どうしたんだい?」

 柔和な笑みを浮かべる指宿に、辺りの女子社員の目はハートマークだ。しかし彼の目がこれっぽっちも笑っていないことに、美亜は気づいてしまった。

 これは就業史上、もっとも楽しくないランチタイムになりそうだ。

 小さく息を吐いた美亜に、指宿は「早く行くぞ」と声をかける。

 逆らうことを許されないその口調に、美亜は覚悟を決めて歩調を速めた。

 イケメン課長が普段どんなところでランチをしているかなど、派遣社員が知る由もない。ちなみに美亜の本日のランチは、自分で握ったどデカいおにぎり二個である。

 高給取りの指宿はきっと、いくらとかキャビアとかピカピカ光るものが入ったセレブ系ランチをしているのだろう。はんっ、羨ましいですね。そう心の中で悪態を吐いていたけれど──

「……え?ここですか?」

 自社ビルを出てオフィス街を歩くこと数分。路地裏に入った指宿が足を止めたのは、おもむきのあるうどん屋だった。

「ああ。空いてるからな」

「そうですか。まぁ、そうですよね」

 趣があると言ってみたものの、古民家をリノベーションしたお洒落な店ではない。戦前からありそうな、ガチの古い店だ。

 さっきから指宿の身体から漂う甘い香りのせいで、パンケーキが食べたくなっていた美亜は、ガッカリ感を丸出しにしてしまう。しかし指宿は、それを無視して奥の座席に行く。

 注文したのは味噌煮込みうどん。あ、狐うどんじゃないんだと、美亜は思ったが口に出すことはせず、自分がそれを注文する。

「よりによってそれかよ」

 指宿は美亜を見つめながら、露骨に嫌な顔をした。

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