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第 384 話

作者: 江上開花
亜夕美は視線を収め、楠木に挨拶すると、菜実のニヤニヤとした視線を無視して、車に乗り込んだ。

車が動き出すとすぐに、菜実が今日のスケジュールの確認を始めた。「亜夕美さん、今から深見監督に会いに行きます。

由紀子さんも行きます。まずは簡単なオーディション用の芝居をお願いします。その後、由紀子さんがセッティングした会食があります。新作映画のプロデューサーなど、業界の大物が顔を揃える予定です」

亜夕美はうなずいた。

「午後4時の便で現場へ向かいます。今回は8シーンほど撮る予定ですが、まとめての撮影ではないので、四日は拘束されるかと」

「分かったわ」亜夕美は新堂家のパーティーを思い出し、菜実に言った。「
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