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第2話

Author: ハル
それを見た怜奈は病室の前で買ってきた軽食を提げて立ち尽くし、ポリ袋を持つ指先でさえ白くなるほど強張っていた。

胸がギュッと誰かに思い切り握りつぶされたかのようだ。怜奈は持ってきた軽食を置くと、身を翻してその場を去った。足音を立てることもなく。彼女はこの一時の安らぎを、邪魔したくなかったのだ。

それから、家に帰ると、怜奈は自分の荷物をまとめ始めた。

これまで海斗からもらったプレゼントや、二人の数少ない写真、彼に選んであげたシャツ……それらを一つひとつ箱の中に収めていく。

そして、書斎へ入り、自分の本を取り出そうとした時、うっかり本棚の裏にある隠し棚に手が触れた。

カチッと音がして、壁がゆっくりとスライドする。奥には隠し部屋が現れた。

それを見た怜奈は呆然と立ち尽くしてしまった。

そこには、杏にまつわる品々が整然と飾られていたからだ。

かつて勲が叩き割った花瓶の破片が丁寧に修復され、金継ぎされている。

杏が描いた油絵。破り捨てられたはずが、完璧につなぎ合わせられている。

さらには、杏が子供の頃に海斗へ渡したという紙飛行機まで。色あせた紙は大切にラミネート加工までされていた……

それらを眺める怜奈の指先が、小さく震えた。

海斗がいつから、これら破棄された品を拾い集め、いつから隠れて修復し、この秘密の場所に隠していたのかを、彼女は知る由もなかったのだ。

そして、机の上には、一冊の日記があった。

ページをめくれば、どこもかしこも杏に関する内容が綴られていた。

【今日は、杏が去って87日目。杏が泣きながら寒いと言う夢を見た。目が覚めると、杏がいる街への飛行機を予約した。遠くから彼女を一目だけ見た。ずいぶんと痩せてしまった……】

【会社のパーティーで、杏と似た赤いドレスを着た人がいて、見惚れて深酒してしまった。帰宅後、酔って怜奈を杏だと勘違いし、そのまま体を重ねた。その結果、おじいさんに結婚を強要されてしまった。そんな、自分が憎い】

【今日は杏の誕生日、隠れて彼女のマンションまで行き、花束を置いた。帰宅すると怜奈が寝ずに酔い覚ましを作ってくれていた。怜奈はいつもそんな風に気遣ってくれるのだ。でも、やっぱり愛せない……】

最後のページの最後の日付は、先週だった。

【やっと杏を連れ戻せた。眠る彼女を見て、さすらう俺の心もようやく帰る場所を見つけた気がする。ずっと、毎日、杏のことを考えていた。怜奈は良い子だけど、結局愛することはできない。俺の心はとっくに死んでいて、両親と一緒にあの雪崩の奥に埋まってしまったんだ】

「……」

それらを見て、怜奈の視界はかすんでいった。

杏は、海斗の人生から消えたはずなのに、だけどまるで最初から離れていなかったようだ。

怜奈は急いで日記を閉じ、後ずさる際に足元の棚にぶつかってしまう。

写真立てが一つ床に落ち、ガラスが砕け散った。

慌てて拾おうとして、ガラスの破片が手に突き刺さり血が流れるのも構わなかった。

あたふたしていると、背後から凍りつくような怒声が響いた。

「何をしているんだ?」

入口に立つ海斗の表情は沈んでいて、とてつもなく険しかった。

彼の視線が怜奈の顔から床の写真立てへ移った時、その瞳は一瞬にして縮まった。

「私……」怜奈は言葉を紡ごうとしたが、声が出ない。

海斗は大股で歩み寄ると、乱暴に怜奈を押しのけた。

予期せぬ力に、怜奈は床に激しく投げ出された。手のひらと膝にガラスが深く刺さり、すぐに真っ赤な血が流れ出た。

「誰に許可をもらって入ってきたんだ?」海斗は注意深く写真立てを拾い上げると、凍りつく声で言った。「誰が、これに触っていいって言った?」

それはこれまで、怜奈が見たことがなかった海斗だった。

そんな彼は眉間を深く寄せて、恐ろしい怒りを漂わせて、鋭い目線を向けてきた。

かつての海斗は、自分を愛していなくても温厚で、決して叱責したりはしなかった。

それが今、杏にまつわる些細な物だけで、これほど海斗を激昂させるとは。

「ごめんなさい……」手のひらが焼けるように痛い。怜奈は痛みに震えながら這い上がって言った。「わざとでは……」

「出て行け」海斗は怜奈の手の流血に目もくれず、ただ写真立てを握り締めて言った。「すぐにな」

そう言われ、怜奈は痛んだ足を引きずりながら出て行こうとした。しかし、その一歩ずつ進むごとに、まるで鋭い刃物を踏んでいるかのようだった。

部屋から出る直前、怜奈は我慢しきれずに振り返った。「あの写真立ては、弁償するから……」

「必要ない」海斗はすでに平静を取り戻していたが、視線は相変わらず冷たかった。「二度とこの部屋には近づかせないよう、見張らせておくから」

そして、海斗が呼び出しボタンを押すと、すぐさま二人のボディーガードが駆けつけてきた。

「妻を部屋へ送ってやれ」海斗が命令する。「医者を呼んで、処置をさせろ」

こうして、怜奈はその場を追い出された。

閉まりかけるドアから最後の一瞥。怜奈には、床に跪いてガラスを拾い集める海斗が見えた。その手つきは、世界で最も大切な宝物を扱うかのように優しかった。
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