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第3話

작가: みずちゃん
重苦しい空気のまま、結婚記念日のディナーは終わった。

帰りの車内でも二人の間に会話はない。直哉は無表情のままハンドルを握り、あずさは助手席から流れていく夜景を眺め、虚しい感情だけが胸に満ちていく。

その時、鋭いブレーキ音が耳をつんざく。

二人が同時に顔を上げると、対向車線から一台の車が制御を失ったまま猛スピードで突っ込んできていた。

あずさが状況を理解するより早く、激しい衝突音が響いた。

車体が大きく跳ね上がり、視界がぐるりと反転した。

頭が車の窓に叩きつけられる。鈍い衝撃とともに視界が真っ暗になり、意識が遠のいた。

どのくらい経ったか、耳元で直哉の荒い呼吸音が聞こえる。

ぼんやりとした意識の中、あずさはかろうじて目を開く。すると、直哉の腕が自分の前へ伸ばされているのが見えた。

――守ってくれたのだろうか。

一瞬だけ、そんな考えがよぎる。

だが次の瞬間、その期待は無残に砕け散った。

直哉が庇っていたのはあずさではなく、助手席の脇に置かれていた天然石のペンダントだった。

怜奈が生前、彼に贈ったものだ。

事故の衝撃でペンダントには血が付着している。それなのに直哉は、自分の傷など気にも留めず、震える指で血を拭っていた。

やがてペンダントの表面に小さな亀裂を見つけると、その瞳に痛みが走る。すぐにスマホを取り出し、どこかへ電話を掛けた。

「至急、腕の立つアクセサリー職人を手配しろ。修復してほしいものがある」

あずさはぼんやりとその光景を見つめていた。胸の奥から、どうしようもない虚しさが込み上げてくる。

彼の妻である自分が血まみれで、身動きもできないほど傷ついているのに、彼は一度もこちらを見ない。

容体を確認することもなければ、救急車を呼ぶことさえしない。彼にとって大切なのは、あのペンダントだけ。

直哉はふらつく足取りで車を降りる。

その背中を見ながら、あずさの意識はゆっくりと沈んでいった。

世界が暗闇に飲み込まれる直前、最後に見えたのは――振り返ることなく去っていく直哉の背中だった。

……

手術室の照明が眩しく目に刺さる。

あずさの意識は途切れたり戻ったりを繰り返していた。遠くから慌ただしい声が聞こえる。

「ご主人と連絡が取れません!手術同意書にサインする方がいないんです!」

「こんな重傷なのに、一度も病院へ来ないなんて……同意書くらいすぐ書けるでしょ?いくら急用でも、妻の命より大事だっていうの?」

その言葉に、あずさはかすかに笑った。乾いた、自嘲の笑みだった。

その通りだ。直哉にとって、怜奈と怜奈の遺品は、自分の命よりずっと大事なのだ。

「自分で……署名します……」

小さくて、掠れた声が漏れる。

看護師たちは驚いたように顔を見合わせた。迷っているようだが、他に思いつく方法はなく、結局、同意するしかなかった。

あずさは震える腕を持ち上げる。血の付いた指先でペンを握り、自分の名前を書いた。

一画ごとに全身の力が削られていく。

それでもどうにか最後まで書き切ったところで、再び意識が途切れた。

次に目を開けた時には、病室のベッドの上だった。

入院する日が続いたが、その間、直哉が顔を見せることは一度もなかった。

理由は分かっている。彼はペンダントの修復で忙しく、自分のことなど思い出す暇もないのだろう。

そして退院の日が訪れた。まだ傷は完全には治っておらず、自力で歩くことも難しいため、あずさは車椅子に座ったまま病院の玄関へ向かった。

ようやく直哉も、妻が同じ事故で重傷を負っていたことを思い出したらしい。

迎えに現れた彼の表情は相変わらず淡々としていた。まるでスケジュール帳に書かれた予定を一つ片付けに来ただけのように。

帰り道、運転手は渋滞を避けるため、車通りの少ない道へ入った。

車内に流れるのは直哉がキーボードを叩く音だけ。

あずさが何気なく視線を向けると、画面には秘書とのやり取りが映っていた。内容はすべてペンダントの修復状況について。

怜奈が何気なく渡した品を、直哉は宝物のように扱っている。一方で、自分という生身の人間には一瞥すら向けない。

車は道路を滑るように走り続ける。二人の間に相変わらず会話がない。

そんな沈黙が続いていた時、突然、キーボードを叩く直哉の指が止まった。彼は窓の外を見た。

呼吸が浅くなり、車のグリップを握る手にも力がこもる。まるで、心の底から求め続けていた何かを見つけたように。

あずさもその視線を追う。

少し離れたところで、白いワンピースを着た女性の後ろ姿が見えた。長い髪がゆるく巻かれ、どこか怜奈に似ていた彼女は、一台の車に乗り、反対方向へ離れていく。

「車を止めろ!」直哉が叫んだ。

運転手は慌ててブレーキを踏む。車が路肩に停車するや否や、直哉はドアを開けて飛び出そうとする。視線はなおも女性が乗った車を追い続けていた。

そして振り返り、あずさに言い放つ。その声は冷たく、ひどく焦っていた。「お前は自分で帰れ。俺は用事ができた」

あずさは息を呑み、信じられない思いで彼を見つめる。

何か言おうと口を開くが、その前に直哉は彼女を車から降ろしていた。怪我人であることなど意にも介さず、車椅子ごと路肩へ移す。

そして運転手へ短く命じる。「さっき走っていった車を追え」

すると車は勢いよく方向転換し、猛スピードでその女性が消えた方向へと走り去った。

残されたのは――道路の脇で、一人きり車椅子に座るあずさだけだった。

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