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第309話

Author: かおる
「雅臣、あの女はあなたのお金を好き勝手に浪費して、挙げ句に私たちの欲しい物まで横取りして......本当に調子に乗りすぎよ!

いつになったら彼女の資産を凍結できるの?

二度と見栄を張れないようにしてやらないと!」

雅臣は横目で彼女を一瞥する。

「俺はもう星と離婚している。

他人の資産を凍結するのが簡単だと思うのか」

短期間の凍結なら可能だ。

だが十日やそこらでは意味がない。

「少し用があるから、先に戻る。

勇、清子を家まで送ってやれ」

勇が返事をすると、雅臣はその場を後にした。

雅臣が去ると、清子は問いかけた。

「勇、前に言っていたじゃない。

あの女に罪を着せるって。

準備はどこまで進んでるの?」

「弁護士に相談したけど、無理やり罪をでっち上げるのは簡単じゃない。

でも人を動かしてるから、あと二、三日あれば形になるだろう」

その答えに、清子の表情が少し緩む。

二、三日なら待てる。

だが、勇にはもう待てなかった。

怒りが再び燃え上がる。

「ダメだ。

今すぐあの金目当て女を晒し者にして、世間に正体を見せつけてやる!」

電話を取り上げ、自分のコネを総動員する。

「二百億を持ってるからって好き勝手できると思うな。

俺が教えてやる、資本の力がどれだけ恐ろしいかを!」

人の評判を貶めるのは、簡単だ。

ただ、卑劣な色事の噂までは流せない。

星は雅臣の元妻であり、翔太の母だ。

そんな下劣な噂を広めれば、雅臣の顔に泥を塗るのと同じだ。

だが、社会的に葬る手はまだある。

「こう流せ。

星野星を庇う奴は、俺と雅臣を敵に回すことになる、と」

電話口の相手は息を呑む。

その宣言が世に出れば、Z国での彼女の居場所はなくなる。

さらに、勇は思いついたように嗤った。

「今すぐ告発しても罪に問えないかもしれない。

だが記者に、彼女が警察に出入りする姿を撮らせろ。

それだけでネットは炎上する」

そう言うと、また何本かの電話をかけて手配を済ませた。

電話を切ると、清子が尋ねた。

「勇、鈴木さんとは組まないの?」

「航平のことか?」

勇は鼻で笑う。

「あいつは善人ぶった男だ。

こんなことに加担するはずがない。

まあいい、俺と雅臣が動けば十分だ」

その頃、部屋で星はスマホのニュースを眺めていた。

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