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35.王城へ

Author: サイ
last update publish date: 2026-09-15 18:00:04

 王城の門が見えた瞬間、次第に胸が締め付けられてゆく。

 記憶にはあるから懐かしいはずなのに、まるで別の場所みたいだ。

 これはナノリアの感情なのか、私のものなのか、もうわからなくなっている。

 私だけじゃない。

 馬車の窓から外を見つめていたブレイクも、いつもの優しい横顔とは少し違っていた。

 おそらく摂政殿下の、厳しい顔なんだと思う。

 コーンワルドでは緩んだ顔を見せていたけれど、ブレイクはもともとこういう顔をする人だった、と思い出す。

 門番たちはブレイクを見ると慌てて姿勢を正した。

「摂政殿下、ようこそお戻りでございます!」

 ブレイクは軽く頷いて答えた。

 その横で私は、手のひらが汗ばむのを感じていた。

 馬車が止まり、扉が開く。

 ブレイクが先に降り、手を差し出してくれた。

「ナノリア、気をつけて」

 私に対する態度もその声も、いつもの優しさだった。

 私はその手を取って馬車を降りた。

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     ようやく空気が緩んだと思ったら。 アディノスは、今度は私を睨んだ。「……おい。ナノリア」 その声は、さっきまでブレイクに向けていた虚勢とは違う。 もっと、ねっとりとした、嫌な響き。あからさまに上からの高圧的な呼び方だ。 そのままじろりと値踏みするような視線を感じる。「……お前、何か……変わってないか?」 言いかけたところで、ブレイクが静かに遮った。「殿下。礼節を守ってください」「礼節って……こいつにそんなもの」 言いながらアディノスは腑に落ちないとでもいうように、じろじろと私を見た。そろそろ居心地が悪くなって、ブレイクの背中に隠れようかと思う。 アディノスの視線は、羽の方で止まった。 何が不快って——まるで自分の所有物が勝手に変化したとでも言いたげな、そんな態度。 嫌悪感が全身を走る。「なんか、羽が勝手にでかくなってないか」 ブレイクが即座に声を低くした。「殿下。ナノリアは殿下の何だというつもりです。勝手に、というのはどういう意味で言ってるんだ」 俺の所有物だよ、とでも言いたげな顔だ。 それを言うとブレイクに言い負かされるのがわかってるから、表情にだけ出してくる。 アディノスは悔しそうに舌打ちした。「……ふん。だが、どう見ても変わっているだろう。前より……色が濃い。輝きも違う。何をしたんだ」 羽は確かに、私が子の体に入った直後よりも更に、一回り大きくなって更には光も増している。 コーンワルドで過ごした日々が、私を癒したから。生命力がまた満ちたようだった。 アディノスは、まるでそれが気に入らないかのように続けた。「ナノリアは元々王家で育てている妖精だろ? 俺が管理して把握するのは当たり前じゃないか」「管理、把握……殿下はもう少し言葉を学んでいただきた

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     アディノスは今度は私を睨んだ。「殿下」 咎めるようなブレイクの声。「何だ」 ブレイクの眼圧にアディノスが怯む。それで睨むのをやめなかったら、ブレイクが間に入っていたのかもしれない。 アディノスは不満そうに眉を寄せ、せめてもの反抗を示した。「……本当に戻らないつもりか?」「初めからその約束でしたので。引き受けた時から」「国を動かす名誉ある仕事だろうが。誰でもできる事ではない」 アディノスはふん、と鼻を鳴らした。 その態度は、まるで自分がブレイクに仕事を与えてやっているかのようだった。「そもそも摂政職は、俺が任命するものだろう? 地方に散らばる貴族が、王国の中心で働けるなんて名誉な事じゃないか」 ——公爵家を、地方に散らばる貴族、と。 ブレイクは微動だにしない。 アディノスはそれが気に入らないのか、さらに言葉を重ねた。「お前が辞めたら、誰がこの国を動かすんだ。国王が一々細かい政務までやると思うのか? 王は国の顔だ。雑務は摂政がやるものだろう」 ——雑務? 私は思わずブレイクを見た。 ブレイクは表情ひとつ変えず、ただ静かにアディノスを見ている。 アディノスは続けた。 ブレイクが何も言わないから変に勢いづいてしまってるけど……気づかないんだろうか。横にいる私でも、こんなにびりびりと、彼の怒りが伝わってくるのに。「お前は摂政として優秀だ。だからこそ、私がこの10年、安心して続けさせてやっていたんだ。それを勝手に辞めるなど、王に対する反逆に等しいぞ」 ブレイクが目を細め、微笑んだ——ように見えた。「殿下」 声が恐ろしく低い。「宰相の言っていた通り……学び直しが必要なようだな」「何だと——」「一つ。摂政職は殿下が任命したものではない。前国王の遺言のもと、王国法に基づき、王国会議

  • 妖精に転生した私は、年上の摂政殿下にめちゃくちゃ甘やかされる   35.王城へ

     王城の門が見えた瞬間、次第に胸が締め付けられてゆく。 記憶にはあるから懐かしいはずなのに、まるで別の場所みたいだ。 これはナノリアの感情なのか、私のものなのか、もうわからなくなっている。 私だけじゃない。 馬車の窓から外を見つめていたブレイクも、いつもの優しい横顔とは少し違っていた。 おそらく摂政殿下の、厳しい顔なんだと思う。 コーンワルドでは緩んだ顔を見せていたけれど、ブレイクはもともとこういう顔をする人だった、と思い出す。 門番たちはブレイクを見ると慌てて姿勢を正した。「摂政殿下、ようこそお戻りでございます!」 ブレイクは軽く頷いて答えた。 その横で私は、手のひらが汗ばむのを感じていた。 馬車が止まり、扉が開く。 ブレイクが先に降り、手を差し出してくれた。「ナノリア、気をつけて」 私に対する態度もその声も、いつもの優しさだった。 私はその手を取って馬車を降りた。 王城の空気は、冷たい。 コーンワルドから帰ってくるとよりそう思う。 柔らかい風とはまるで違う。 そびえ立つ城壁、塵一つない長く冷たい廊下、硬い表情で粛々と仕事をこなす使用人達。 ブレイクと共に外城を抜け、内城に入る。 アディノスは内城で待っていると聞いていた。 今回、ブレイクは王都滞在中自分の屋敷に寝泊まりする予定だ。私ももう内城には留まらないつもりでいるから、到着早々会いに来た。 侍従たちがざわつく。「ナノリア様……戻って……?」 視線に晒されて少し緊張する私の背を、ブレイクが軽く押した。私もそれに勇気づけられて歩き出す。「行こう。殿下は執務室で待っている」「はい」 歩くたびに、王城の空気が重くなる。 廊下の壁、床の石、天井の装飾——見慣れたはずの景色が、今となっては全部が冷たく見える。 コーンワルドの温かさが恋しくなる。

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     どうやって戻ったか覚えてないけど、気が付けば部屋の中にいた。「——ですって」 パウラが何か言ってるのに生返事を返してた。 ——パチン! 目の前でパウラが掌を合わせて大きな音が鳴る。 はっとしてみれば、パウラは手拭いで手を拭っていた。「あ、すみません。虫が。花について来たみたいで」「あ……ありがとう」 ドライフラワーにする花の準備で、拡げて仕分けしてくれていた。「……そんなにショックでした?」「え」「公爵様の結婚」「や……どうなんだろ。そうかな」 実際、何にショックを受けているのかは自分でもよくわからなかった。 パウラは以前からアディノスよりブレイクを推していたし、実際私がブレイクに惹かれてるのを知ってるんだと思う。もう取り繕う必要もないか。「恋愛の対象外だってのは、分かってたんだよね。……最近特に」「うーん。公爵様もお年ですしねえ」「お年って……まだまだ若いと思うけど」 まあパウラもまだ20くらいだから、彼女からしてもだいぶ年上ではあるけど。「でも、ナノリア様。よく考えてみてくださいよ。何もない所で転ぶわけないのに手を貸したり、毎日たった2分でたどり着くダイニングまで送迎したり。それって普通ですかね」「……………」「子供に対するにしても行きすぎてるって思いますけどねえ」「……………」「気があるかないかで言えば、あると思うんですけどねえ」 私は思わず顔を上げた。 本当に……?「——っや、危ない危ない。パウラの口車に乗るところだった。そんな、簡単に言わないでよ」「口車って

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     ポールが私の腕を掴んで強引に引きずった。「来い!」「い、いたっ。やめっ——!」 すごい力だ。 抵抗したくても力の差がありすぎてどうにもならない。 ベッドから引きずり降ろされた。「離して……!」「黙れ……立てよ」「どうするのよ!」「帰るんだよ、殿下の所に」「はあ……?」 冗談じゃない! 私は必死で座り込んだ。「嫌よ。そもそも、無理に決まってるじゃない。すぐにブレイク様が気付いて——!」 いや、こいつも一応貴族の子息だ。それなりに準備をしているのかもしれない。連れてきた王国騎士をすべて動かせば、ちょっとした小競り合いどころか、小規模な戦のような事にはなってしまうんじゃないだろうか。 そう思うと血の気が引いた。 引きずって部屋を出ようとされる。「おい、動けよ。羽に穴を開けられたいか?」 こいつ、私の羽が弱点だって知ってるから……。 羽は……それだけは恐い。 絶望的な気持ちで、重い足を奮い立たせた。 どうしよう。そういえば妙に廊下が静かだ。どんな手を使ったのか、人がいなくなってる。 このまま、こいつに連れ出されてしまうのか……。 そう思ったら、廊下からバタバタと足音がする。「ナノリア!」 ブレイクだ。 その声に泣きそうになった。 瞬間、強く腕を引かれて、窓の方へ引っ張られる。「くそっ、どうして……お前か!」 パウラは緊張した顔のまま言った。「おかしいと思うと伝言しました。まさかご本人がこんなにすぐ来られるとは」「パウラ……」 すごい有能。 足音が部屋まで来て、ブレイクが顔を覗かせた。その顔と目が合って、ほっとし

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