تسجيل الدخولオスカーは何も聞かなかったふりで記録を続けている。 会議の最後に、セルゲイは改めて提案した。 「では、北方慈善交易路共同管理案については、直ちに制度化せず、まず共同調査案として再提出いたします。対象物資は毛織物と薬草布。期間は三か月。調査範囲は輸出記録、港湾到着、国内中継、慈善受領先まで」 「その方向で、初期検討に入ります」 ジュリアスが王太子として答えた。 クラリスは、はっきり補足した。 「ただし、正式承認ではありません」 「承知しています」 セルゲイは笑った。 「即答しない貴女の流儀にも、慣れてきました」 クラリスは、少しだけ苦笑した。 「最近、周囲に徹底さ
「はい」 「財務院は関税と港湾記録」 「はい」 「王妃執務院は受領先確認」 「はい」 「王宮筆頭実務顧問室は?」 その問いで、視線がクラリスへ集まった。 クラリスは、すぐには答えなかった。 提案書上では、顧問室は制度設計と横断確認を担うことになっている。 だが、それをそのまま受ければ、顧問室の仕事は一気に膨れ上がる。 国内制度すら試運用段階なのだ。 国際制度をそのまま抱えれば、また「できる人に全部任せる」形に戻る。 クラリスは、イリスが置いた札を思い出した。 即答しない。 二枚も置かれた札だ。 「現時点では、制度設計全体を顧問室が担うとは申し上げ
クラリスは即答した。 「まず、概要確認です。財務院へ正式共有する前に、どの部分が財務院管轄で、どの部分が王妃執務院管轄で、どの部分が外交案件なのか整理します」 「よろしいかと」 イリスは頷いた。 「財務院に先に渡すと?」 「交易路管理を財務院単独案件として扱われる可能性があります」 「なるほど」 「でも、財務院を外すこともできません」 クラリスは書簡を閉じた。 「だから厄介です」 その日の午後、外交応接室で小さな協議が開かれた。 出席者は、セルゲイ大使、ジュリアス、レオンハルト、クラリス、オスカー。 正式会議ではない。 あくまで提案内容の初回説明。 だ
王宮筆頭実務顧問室に届いた書簡は、雪の匂いがしそうな封蝋で閉じられていた。 実際に匂いがするわけではない。 けれど、ノルヴァルト公国の紋章――雪冠を戴く鹿の印――が青白い封蝋に押されているだけで、北方の冷たい風が紙の端から入り込んでくるようだった。 クラリスは封筒を見つめたまま、しばらく手を止めた。 「お嬢様」 イリスが茶を置きながら言った。 「開ける前から、面倒な案件の顔をしております」 「封筒に顔はありません」 「ございます。これは、かなり面倒な顔です」 オスカーが横から覗き込む。 「ノルヴァルト公国大使館からですか」 「はい」 「セルゲイ大使の書簡ですね
午後、慈善記録官室に小さな仮任命札が置かれた。 慈善記録官室 補佐見習い ミレーヌ・フォン・エルディア 正式な名札ではない。 三か月の見習い期間用の仮札である。 それでも、ミレーヌはその札をしばらく見つめていた。 自分の名前が、王宮の仕事の中にある。 姉の横ではなく。 姉の影でもなく。 自分の机の上に。 「変な感じです」 隣でリーナが書類を整えながら尋ねた。 「嫌ですか?」 「いいえ」 ミレーヌは首を振った。 「怖いです。でも、嫌ではありません」 「なら、よかったです」 セリアが早速、書類を一束置いた。 「仮合格初日の仕事です」 「もう
だが、補填を動かす予算が止まれば、その未着への対応も止まる。 「視野が狭かったです」 「狭いというより、現場側に寄りました」 マルタは言った。 「それ自体は悪いことではありません。以前のあなたなら、現場を見なかったかもしれない。今は見ようとしている。ですが、補佐は現場と制度の両方を見なければなりません」 「はい」 ミレーヌは、すぐに答案の横に赤で書き足した。 補填に関わる予算照会は緊急度再確認。現場報告と予算手続きは連動する。 その動きを、マルタは黙って見ていた。 「今、書きましたね」 「あ……はい。忘れないように」 「よろしい」 短い言葉だった。 でも、







