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第6話

작가: 八雲詩乃
吉川佳奈(よしかわ かな)は弁護士だ。そして、若葉が過ごしてきた25年で、いちばん仲のいい親友だった。

二人は高校からの知り合いで、大学も同じだった。この7年で、お互いに隠し事など何もないほどに仲を深めていた。

関係が崩れたのは3年前、若葉が宗介と結婚すると決めた時だった。佳奈は猛反対した。「宗介は、あなたが思うほどあなたを好きじゃない。あの人といても、幸せにはなれない」と、何度も言った。

けれど当時の若葉は完全に恋愛のことしか頭になかった。どうしても宗介と結婚したかった。少しでも愛してくれるなら、愛情はこれからゆっくり育めばいいし、時間はいくらでもあると思っていた。

説得できないとわかった佳奈は、若葉と宗介の結婚をだまって見ていられなかった。かっとなって、二人は絶交した。それきり、連絡は途絶えた。

時を経て今振り返ると、佳奈こそが初めから真実を見抜いていたのだと、若葉は痛感していた。

当時の自分には、それがまったく分からなかったけれど。

電話越しに沈黙が続いたため、若葉は通話が切れたと思い、問いかけた。「佳奈、聞こえてる?」

「うん」やっと佳奈が答えた。声はまだ硬いが、初めのような冷たさはなかった。「今、どこにいる?」

若葉は「澄波ヶ丘」のサインプレートを見上げた。佳奈に余計な気を使わせたくなくて、近くにある通りの名前を告げた。

「そこで待ってて。すぐ行くから」

「あ、来なくて大丈夫……」

「そこで待ってて」言葉を遮り、佳奈が言い切った。「30分で着く。暖かい場所にいて」

「うん」と返事をして、若葉は思わず目を潤ませた。強い言葉だし優しい言い方ではないけれど、これこそが彼女なのだ。いつもきつい口調の裏で思いやり、ピンチの時にいつも寄り添ってくれる。

深津市の冬はかなり寒く、若葉は少し外にいるだけで手足が冷たくなった。

彼女はスマホで近くのカフェを検索した。割安なコーヒーでも頼んで時間を潰すつもりだったが、その時突然、スマホに宗介から電話がかかってきた。

若葉が通話ボタンを押すと、冷徹な声が響いた。「悠人を叩いたのか?家の物を壊したって聞いたぞ」

澄波ヶ丘を出てわずか10分。これほどの短時間で宗介から咎める電話が来るとは、彼は本当にあの子のことが可愛いらしい。

「その通りよ」と若葉は素直に答えた。

「少し甘く見すぎたようだな」宗介は低く鼻で笑った。「お前は後先のことを何も考えずに、こんな無茶をやらかしているのか?」

その冷たい声を浴びせられ、若葉は本能的な恐怖で身が強張った。この3年、宗介がこんな言い方をすると、若葉はただ黙って説教に耐え、すぐに折れて許しを乞うしかなかった。彼の機嫌が良くなるまでそうするしかなかった。

心身に染み付いた従順な癖というのは、時に何よりも厄介だ。

若葉は激しく打つ心臓をおさえ、できるだけ冷静に、落ち着いて言った。「宗介、私たち二人の家だし、悠人も私が養子として引き取った子よ。自分の家で、自分の物を壊して、自分の子をしつけて、何が悪いの?」

言葉を返すと、受話器の向こうは静まり返った。

若葉も何も付け加えずに、静かに次の言葉を待った。

宗介が今の反論を不愉快に感じていることは想像がついたが、若葉はわざとそう言った。向こうがこの歪んだ罠を張るのなら、とことんこの駆け引きに応じてやるつもりだ。

「若葉、自分が何と言っているか分かっているのか?そんな口のきき方をして、どうなるか分かっているんだろうな」

スマホの先から宗介の憤りがひしひしと伝わってくる。

それも無理はない。これまでの若葉は、宗介に否定的な言葉すら投げられない「飼い犬」同然の存在だったのだから。

「何をどう話そうが、私の自由だわ」

「若葉!」宗介が声を荒げた。「お前のお母さんが病気で、気がめいってるだろうから、さっきの言葉は大目に見てやる。だが、悠人をぶった件は別だ。すぐあの子に謝りなさい」

「間違っていないわ。謝らない」

「謝るかどうかは、お前が決めることじゃない。まだわかってないようだな」

「宗介、まさかまだ仕事の話で脅すつもり?私は……」

「お前の事情なんて知りたくない」言い終わる前に、宗介にさえぎられた。「俺のやり方は知ってるだろう。言ったことは必ず通す。謝りたくないなら好きにしろ。ただし、その責任はとってもらう」

そう言うと、宗介は一方的に通話を切った。

若葉は電話のツーツーという音を聞いて、ただ皮肉だと思った。こんな人を、いったいどうして何年も愛せたのだろう。本当はさっき、仕事を辞めることを伝えるつもりだった。でも、今となっては、もうその必要もなかった。

佳奈は、すぐに来た。30分と言っていたのに、20分もかからずに着いた。

若葉は道ばたで待っていた。シンプルできちんとした服の、細くてスタイルのいい美人が車から降りてきた。若葉は思わずしみじみした。ああ、よかった。3年前とちっとも変わっていない。

でも、若葉を見る佳奈の目は、そうやさしくなかった。若葉に気づいたその瞬間から、ずっと眉間にしわを寄せている。近づくほど、それがはっきりわかった。

「佳奈、久しぶり」

「中で待っててって言ったでしょ」

二人は同時に口を開いた。でも、若葉の挨拶に比べて、佳奈の言葉はずっと直球だった。

「大丈夫、平気だよ。一刻も早く会いたかったの」

佳奈は多くを語らず、助手席を開けて言った。「乗りなさい」

「ありがとう」

車の中は暖房がきいていた。若葉はだんだん体が温まり、心も少しほぐれてきた。そして、横目で佳奈を見た。「あなた、前と変わらないね。ちっとも」

「あなたは、ずいぶん変わったけどね」佳奈がそっけなく返した。

それを言われると、若葉は思わず引け目を感じてしまう。この数年、たくさんの人が若葉の見た目や体型を評した。みんな例外なく、嫌そうで、気の毒がる目だった。

だからこのとき、佳奈にそう言われて、若葉は何を言えばいいのか、わからなくなった。

佳奈は若葉をちらりと見た。声はさっきより少し優しかった。「どうしたの?宗介と結婚しても、いい暮らしはできなかったわけ?なんでこんなに、やつれてるのよ」

その言葉に、若葉は驚いた。ほかの人は若葉を見た第一印象で、きっと甘い汁を吸って太ったんだと決めつけた。でも佳奈は、ひと目で、若葉が幸せじゃないと見抜いた。

「そんなに分かりやすい?」

「その顔を見れば誰だって分かるよ」

「みんなは私が贅沢のせいで太ったって……」

「どこの目の節穴がそんなこと言うのよ。あなたは、どう見ても寝不足が続いて、仕事のストレスで体をこわしてる。目の下のこんなクマ、あの人たちには見えないわけ?」

その言葉に、若葉は「ふっ」と笑ってしまった。佳奈は、やっぱりあの佳奈だ。いつも自分の味方で、自分をわかっていて、とことん守ってくれる人だ。

「何笑ってるの?」佳奈の顔は、あいかわらずこわばっている。でも、口調はすっかりやわらいでいた。

「なんでもない」

若葉が言わないので、佳奈もそれ以上聞かなかった。二人はずっとだまっていた。でも、その空気は予想外のことに穏やかだった。

しばらくして、若葉はようやく思い出して聞いた。「どこへ行くの?」

「私の家よ」

「佳奈の家?」

「なに、いや?」

「まさか」若葉はただ、迷惑をかけたくなかっただけだ。でも、隣の佳奈の顔色を見て、それ以上は言わなかった。ただ、「じゃあ、いったん家に寄ってもいい?」と尋ねた。

佳奈は口では答えなかった。でも車は次の信号でUターンして、若葉の家の方へ向かった。

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