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第7話

작가: 八雲詩乃
若葉が家へ戻ったのは、単にコロを連れ帰るためだった。

佳奈もコロのことを覚えていて、抱っこしようとした。しかし、それまで大人しかったコロは誰かが近づくのを見た瞬間、激しく吠え始めた。そして体を震わせ、丸くなってしまった。

佳奈は訳がわからずに尋ねた。「どうしたの?」

「人が怖いのよ」

「どうして?」

「ひどい虐待を受けていたの」若葉は隠すことなく、澄波ヶ丘に戻った時に目撃した悲惨な光景をすべて打ち明けた。

それを聞いた佳奈は怒りで声を荒らげた。「あの二人が人でなしなのはわかってたけど、あのガキもひどいことをするなんて!」

佳奈は今すぐ怒鳴り込みに行こうとしたが、若葉がそれを止めた。トラブル続きで疲れていたので、これ以上彼女を巻き込みたくなかったのだ。

若葉がそこまで言うので、佳奈も引き下がった。コロの荷物をまとめると、二人はすぐに家を出た。

若葉の家から佳奈の住むマンションは遠くない。しかし、二つの場所が醸し出す雰囲気は対照的だった。佳奈の住まいはこの界隈では有名な高級住宅街だった。

佳奈は本来、とても家柄が良い深津市にある吉川グループの経営者の一人娘だ。不動産業の実家は、安藤グループには及ばないものの、地元の上流階級では有名だった。

しかし佳奈は家業を継ぐ気などなく、法律の道へ進んだ。そのことで親と大喧嘩になり、この数年は実家と疎遠になって一人暮らしをしていた。

今日、彼女が若葉を連れてきたのは、実家のグループが開発した高級住宅街の一角だった。

厳しいセキュリティーをくぐり、二人はようやく家に入った。佳奈は真っ先に冷蔵庫をあさった。何年も料理をしてこなかったが、今夜は特別だ。

「やっぱり、私やるよ」若葉はコロを落ち着かせると、キッチンへ向かった。

「ううん、自分でするから大丈夫」

「それじゃあ、食材を切るだけでも」

「本当に大丈夫。包丁なんて触らないで」

「なら、炒め物にする?」

「それもダメ、危ないから火から離れていて」

佳奈が頑ななので、若葉はふと察した。思えばさっき自宅にいた時から、佳奈はずっとぴったり付きまとっていたのだ。

そして今は、台所に近づけず、刃物や火といった危険なものから自分を遠ざけようとしている。まさか……

「私が落ち込んで、変なことでもするんじゃないかって心配してるの?」若葉は苦笑した。

佳奈は笑わず、ただ口元を引き結んで黙り込んだ。

「大丈夫よ、そんなことしないわ」若葉は約束した。「宗介なんかのために、死ぬ価値なんてないもの」

その言葉に、佳奈はようやくほっと胸をなでおろした。彼女は若葉を部屋へ押し戻し、安心して夕食作りに取りかかった。

手際は悪かったが、最後には見事な出来栄えだった。料理とお汁が並んだとき、若葉は仕上がりの良さに驚かされた。

佳奈がお酒を開け、二人は気持ちよく酔っていった。それまで口にできなかった疑問や悩みも、お酒の力で少しずつ語られ始めた。

「決めたの?」

「うん、決めたわ」

「後悔しない?」

「後悔なんてしない」

「わかった。全力であなたの力になるよ」

「何も聞いてくれないの?」

佳奈は鼻で笑った。「決まってるでしょ?あのクズ男に裏切られたって理由以外に、何があるって言うの?」

「佳奈は本当に鋭いわね」若葉の頭はまだ冴えていたが、なぜか涙がボロボロと溢れてくる。ただ、お酒のせいで感極まっているだけだと思いたかった。

「愛されてなんていなかった。一度もね」溜めていた感情は、心を許せる親友の前では、もはや押しとどめようがなかった。

飲みながら、若葉はこれまで宗介と涼香がしでかした仕打ちをすべて語り明かした。

黙って聞き続けていた佳奈だったが、若葉が泣き疲れて眠りについた頃、その表情はもはや言葉では表せないほど殺気を帯び、鋭い怒りに染まっていた。

佳奈は杯を一気に飲み干し、デスクに置いた。「いいわ、その裁判、私が徹底的に戦ってあげる」

飲みすぎたせいか、翌朝、若葉の頭は重かった。

目を覚ますと佳奈は既に出勤しており、デスクの上には朝食、離婚届と離婚協議書が置かれていた。

若葉がラインを確認すると、佳奈からメッセージが大量に届いていた。体調を気遣う内容とともに、今回の離婚協議書の内容が事細かにまとめられていた。

実に非の打ち所がない内容で、法律の範囲内で若葉が最大の利益を得られるようになっていた。

これだけ短期間でこれだけの成果を出すなんて、きっと一睡もしなかったのだろう。

若葉は胸が熱くなった。一切の迷いもなく、署名を済ませてバッグにしまい、近々宗介に直接手渡すつもりでいた。

用件を済ませると、若葉は席について朝食を食べた。本日はまだ休みのため、食後に病院へ見舞いに行く予定だった。

しかし食事の途中で、突然病院から電話が入った。

昨夜、担当医に何かあれば連絡すると言われていた。嫌な予感がよぎった。

震える手で通話に出る。「もしもし……先生、母になにかあったんでしょうか?」

「今すぐ病院へ来てください」電話口の医師の口調は、ひどく無愛想だった。

昨日の温厚だった様子とは打って変わり、酷く不機嫌で、早く切り上げたそうな声色だ。

「すぐに伺います!」若葉はパニックになりながらも返答し、「あの……母の状態に、何が起きたんですか?」と必死で問い質した。

「来ればわかるでしょう、いちいち質問しないでください」

プツンと無情に切られた。

若葉は戸惑いながらも、ただただ不安を胸に抱え、病院へ駆けつけた。

病院に到着するや否や、医師は待ち構えていたように食って掛かってきた。「早く来るように言ったはずですが、どうしてこんなにかかったのですか?」

「すみません、家が遠くて……母の容態はどうなったんですか?」若葉は息を乱しながら尋ねた。

「お母さんはもうここでは治療できません。今すぐ転院させてください」

突然の言葉に、若葉の膝から力が抜けた。「どうしてですか?悪化したんですか?」

医師は聞く耳を持たず、事務的に手続き用の書類を書いている。

「もしかして治療費のことでしょうか?お金なら今準備してます」

若葉は震える手で銀行口座の画面を見せ、食い下がった。「あります。まだ必要であればすぐに工面しますから……どうか母を見捨てないでください」

預金残高を見た医師の目が一瞬輝いたが、何かに気づいたように冷淡な表情へ戻り、突き放す。「聞こえませんか?今すぐ手続きしてください!」

「どうしてですか?」若葉は見せている画面を確認すると、昨日は600万円しかなかった残高が、なんと1億600万円になっていた。

昭夫が、言われた額をはるかに上回る1億円を振り込んでくれたのだ。

理由は後でいい。とにかく母の命を守らなきゃ、と若葉は食い下がった。「見てください、お金はもう十分にあるんです!なぜ駄目なんですか?」

「金のせいじゃないです。早く手続きしてください」痺れを切らした医師は吐き捨て、その場を去った。

若葉はその場に取り残され、ぼう然とした。

なぜだろう。昨日までは母をここに預けておけば安心だと、あれほど優しく心に寄り添うような言葉をかけてくれていた先生が、今日になって突然このような理不尽な対応をとるなんて、理解できなかった。

若葉は病院の廊下にぽつんと立ち尽くしていた。冷たい風にさらされるうちに、少しだけ頭が冷静さを取り戻してきた。

そしてその瞬間に、すべてを悟ってしまった。

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