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すれ違いと追う衝動

작가: 中岡 始
last update 최신 업데이트: 2025-09-20 14:30:29

バーを出ると、夜の空気はしっとりと肌にまとわりついた。雨上がりのアスファルトはまだ冷たく、街灯の光を濡れた道が鏡のように受けていた。金曜の夜の繁華街は、週末の余韻を引きずった人々のざわめきに包まれていたが、美咲の心は妙な静寂に取り巻かれていた。佐山と並んで歩きながら、会話の糸が緩やかにほどけていくのを、彼女はどこか遠いもののように感じていた。

「美咲さん、今日は遅くまでお付き合いありがとうございました」

佐山の声は相変わらず穏やかで、礼儀正しささえ漂っている。横顔は街灯に照らされて、淡い影を落としていた。バーの中で感じた静けさが、今も彼の周りにまとわりついている気がした。

「こちらこそ。久しぶりにゆっくり飲めて楽しかったわ」

美咲も自然に微笑んでみせる。けれど、その声はどこか上滑りしていた。心の奥には、さっきまでの自信や優越が、不意に冷たい風にさらされるような感覚があった。主導権を握っているつもりでいればこそ、いま自分が「誘われていない」事実に、気づかないふりができなくなっていく。

二人の足音が、濡れた歩道に控えめなリズムを刻む。すぐ隣にいるはずの佐山が、どこか遠くにいるような感覚が胸の奥を締め付ける。これまでなら、バーの後はどちらともなく自然に「次」を匂わせていた。なのに今夜、佐山はまるで予定調和を裏切るように、その先の言葉を一切出さない。

「今日は、このまま帰りますね」

佐山はそう言った。その声音には、あまりにあっさりとした静けさが漂っていた。何か特別な事情があるわけでもなく、ごく自然に「お別れです」と言われたようなものだった。美咲は一瞬、思わず足を止めそうになる。

「そう…気を付けて帰ってね」

「はい。美咲さんも、お気を付けて」

ごく普通の、何の含みもないやり取りが交わされた。美咲は余裕があるふりをして、口角を少しだけ上げてみせた。「寂しくなんてない」と自分に言い聞かせるように、小さな笑みを作る。その仮面がどこかぎこちなくて、唇の端をそっと噛む。

佐山はそのまま、美咲に背を向けて歩き出す。濡れた石畳の上を静かに歩くその背中を、美咲はしばらく動けずに見送っていた。背後から伸びる佐山の影が、夜

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  • 姉を奪われた俺は、快楽と復讐を同時に味わった~復讐か、共依存か…堕ちた先で見つけたもの   夜を越える指先

    時計の針が零時を回ったことに気づいても、佐伯は立ち上がる気になれなかった。雨上がりの街が窓の外に広がり、時折、車のヘッドライトが濡れたアスファルトを淡く照らしていく。リビングのソファに沈み込むように座り、佐伯は手元のスマートフォンをじっと見つめていた。暗い画面には、何度も書いては消した「また会いたい」の文字列が、未送信のまま残されている。ソファのクッションに沈んだ自分の体が、妙に重く感じる。ワイシャツの袖口から覗く手首の皮膚に、ほんの微かに昨日の夜の余韻が残っている気がした。佐山の指が、自分の胸をなぞった感触。爪先が太腿に食い込む細やかな痛みと、ベッドの中で耳元に落とされた低い囁き声。そのすべてが、今も皮膚の奥で消えずに疼いている。佐伯はスマホの画面を指先でなぞり、打ちかけては消す。「また会いたい」「今度は、いつにする?」「すぐに会えないか」メッセージ欄は、すぐ真っ白になる。送信すれば何かが壊れるような気がして、最後の一押しができない。雨上がりの湿気がガラス窓にうっすらと曇りをつくり、街路樹の葉から時折雫が落ちる。リビングの時計はまるで誰かの意志で止められたかのように、音も立てずに進み続けていた。佐伯は膝に肘を乗せ、首をうなだれる。佐山と過ごした夜のことを反芻するたび、喉の奥がじくじくと痛む。美咲の姿が脳裏に浮かびかけるたび、罪悪感が腹の底を重くする。それでも、佐山の顔や手の熱を思い出すだけで、もう何もいらないと思ってしまう自分がいた。あれほど飽きることがなかった美咲の体温でさえ、今はまるで遠い記憶のようだ。今この瞬間、何よりも欲しいのは、佐山の指先と息遣いだけだった。ソファの脇に置いたグラスの氷は、すでにほとんど溶けてしまっている。冷えた酒を一口喉に流し込む。アルコールの刺激も、心の乾きには届かない。右手の親指でスマホの画面を何度もスクロールし、佐山との過去のやりとりを辿る。仕事のやりとり、社内の軽口、そして最近ではほとんど深夜の約束ばかりだ。「今日も会えませんか」「まだ帰りたくない」そんなメッセージが、佐山の淡白な返事の隙間に何度も埋まっている。佐伯はふと

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    佐伯の中で、何かが壊れる音がした。佐山の身体を貫いたまま、最後の一線を越えた瞬間、全身が痙攣するほどの快感が走り抜けた。思わず呻き声がこぼれ、指先がシーツを掴む。深く、奥まで熱いものを吐き出しながら、佐伯は自分が今まで知っていたものとは違う、まったく別の悦びに捕らえられていることを実感していた。息が荒く、喉の奥で何度も空気を掻きむしる。汗で濡れた額から髪が垂れ、佐山の細い腰をしっかりと抱きしめている自分の腕の力に、呆れるほどしがみついていると気づく。佐山の肌はじっとりと汗ばんで滑り、吐息がまだ震えていた。「……っ、は……」声にならない声が喉を抜けていく。佐山の体温が、まだ自分の奥に残っている。佐伯は抜け殻のように、しばらくそのまま動けなかった。美咲と抱き合ったときに感じた快感とは、まるで質が違う。女の柔らかさや温かさでは埋まらなかった何かが、今、佐山の中で満たされている。その異物感さえも、快楽へと変わってしまう。自分の欲望の底が、いまさら恐ろしいほど知れてしまう。佐山は、息を整えながら、佐伯の肩に額を落とした。白い指先が背中に回り、汗のにじむ肌をやさしく撫でる。その動きに安堵を覚えつつ、同時にどうしようもない寂しさが胸に広がった。やがて佐山はそっと腕をほどき、ベッドから身を離す。髪をかきあげる仕草が妙に艶やかで、口元に浮かぶ笑みはまるで何もなかったかのように穏やかだった。「シャワー、してきます」そう言いながら、佐山はバスルームへ向かう。足取りは軽く、背中には一切の未練も感じさせなかった。残されたベッドに、佐伯だけが取り残される。天井の淡い明かりが、乱れたシーツに影を落とす。佐伯は、ぐしゃぐしゃに湿ったシーツの感触を指先でなぞる。そこには、汗と精液と、佐山の体温がまだ残っていた。自分の体からも、彼の匂いがじっとりと立ち上る。喉が渇き、無意識に喉を鳴らして唾を飲み込んだ。「……もう戻れないな」呟いても、返事をする者はいない。先ほどまで佐山の身体を抱いていた自分の両腕が、今はやけに重く感じる。「また、抱きたい」その欲望は、もは

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    佐山は天井の淡い灯りを見つめていた。すぐ頭上を照らす照明が、滲んだ視界のなかでぼんやりと広がっている。シーツの上、佐伯の身体が自分を覆っている。その重みと熱が、肌の奥まで浸透してくる。佐伯の手が腰をつかみ、奥深くまで貫かれるたび、体の内側が揺れる。頭がぐらりと揺れ、浅い呼吸が唇からこぼれた。佐伯の動きは、もう理性では止められないものになっていた。腰の奥まで押し込まれるたび、締めつけては、さらに強く求めてしまう。佐山は指でシーツを握り、背中をわずかに反らせて、その感覚に応える。痛みと快感が背骨を伝って交錯する。汗ばんだ佐伯の肌が、自分の首筋に落ちる。熱い息が耳にかかるたび、意識が遠のきそうになる。だが、どれだけ身体が震えていても、佐山の心の奥は、どこか冷静なままだった。この状況こそ、自分が望んだもの。姉を奪われ、何も守れなかったあの日から、佐山はすべてを計算し直した。美咲だけでなく、その夫さえも自分の手で壊す――この肉体を差し出し、快楽ごと相手を支配する。佐伯の背中に腕を回しながらも、心の底で静かに呟く。これは復讐だ。自分の中に流れ込む佐伯の熱を、他人事のように感じる瞬間がある。だが、そのたびに理性とは別の自分が、甘い痺れと疼きを求めてしまう。佐山は幼いころから、男女どちらにも欲望を感じることがあった。だが、どこかでずっと自分を外側から見ていた気がする。相手を選ぶのも、身体を開くのも、合理的な判断でしかなかった。だからこそ、男に抱かれるのが本当に嫌なら、こんな復讐の方法など選ぶはずがない。「もっと、奥まで……」そう囁いた声が自分のものだとは思えなかった。佐伯の動きがさらに激しくなる。体内を満たす硬さが、内壁を何度も擦りあげる。そのたびに快感の波が全身を突き抜ける。涙がにじむ。唇が震え、白い太腿がベッドに絡む。佐山は喘ぎながらも、心の奥で冷静に観察していた。佐伯の目は熱に曇り、ただ欲望だけを宿している。男の手が自分の腰を強く引き寄せ、身体ごと貫かれていく。佐山は喉の奥で小さく喘ぎながら、佐伯の表情を横目で捉えた。汗に濡れた額、唇を噛みしめたまま堪える声。ここまで夢中にならせたのは、自分の身体だ――そう実感すると、胸の奥で微かな

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    佐山の体温が手のひらに伝わる。佐伯は佐山のシャツを脱がせ、そのまま細い腰を引き寄せた。照明の淡い光の下、佐山の肌は驚くほど白く、滑らかで、思わず見とれてしまう。女の裸には何度も触れてきたはずなのに、佐山の骨ばった肩や薄い胸板、しなやかな肋骨の浮き方には違う種類の美しさがあった。首筋から鎖骨へと汗が薄く流れている。息を詰めるほど近くで見ると、喉仏が小さく上下し、腹の奥に不思議な熱が灯る。佐山は身じろぎもしない。むしろ、無防備なほど素直に体を委ねてくる。佐伯の手が腰骨をなぞると、白い腹筋がかすかに緊張した。その動きさえも美しいと思った。自分の鼓動がやけに大きく聞こえる。佐山の指先がそっと佐伯の頬をなで、目線が絡み合う。睫毛の長い目が少し潤んでいて、艶やかな唇が息を吸い込むたび微かに震える。「もっと……触って」佐山が囁いた。佐伯は躊躇いながらも、胸を撫で、乳首を指先でつまむ。佐山はわずかに身を震わせ、唇から甘い吐息を漏らした。その音が部屋の静けさに溶けていく。佐山の手が佐伯の太腿を撫で上げる。気づけば、指先がジーンズのファスナーに触れていた。「……いいですか」佐山の声は、濡れた夜気に似ていた。返事もできずに、佐伯は頷いた。佐山はゆっくりとファスナーを下ろし、下着越しに指を這わせてくる。その手つきが慣れていることに、佐伯は息を呑んだ。恥ずかしさよりも、なぜか安堵の方が勝った。佐山は膝をつき、目線を下から絡めてくる。唇が、布越しに佐伯のものを軽く噛む。そのまま下着を口でずらし、ゆっくりと舌を這わせた。佐伯は思わず腰を引いたが、佐山の手がしっかりと太腿を掴み、逃がさない。温かく湿った舌が、先端をなぞる。呼吸が早くなる。佐山は一度深く咥え込み、喉の奥まで受け入れる。その動きは柔らかく、熱を伝えてきた。佐伯は何度か声にならない声を漏らした。女がしてくるのとは全く違う、舌と唇の巧みな動きに、足元が震える。佐山は口を離し、ローションの小瓶をベッドの端から取り出した。その仕草が自然すぎて、佐伯は思わず驚く。佐山は自分でキャップを開け、白い指に透明な液体をまとわせた。何のためらいもなく、自分の後ろへと指を添える。佐伯は

  • 姉を奪われた俺は、快楽と復讐を同時に味わった~復讐か、共依存か…堕ちた先で見つけたもの   濡れた指先、壊れる境界

    ソファのクッションが深く沈む。佐伯はグラスをテーブルに置いたまま、静かに体を佐山の方へ向ける。空気が張り詰めていくのを感じながら、自分の指先が小さく震えていることに気づいた。佐山は、目を伏せて髪を耳にかける。濡れた前髪が頬にかかり、白い肌を際立たせている。唇にはグラスの水滴が残り、薄く光っていた。佐伯は、その柔らかな輪郭に目を奪われた。意識しないようにしていた熱が、腹の奥から湧き上がってくる。逃げ場はない。もう引き返せないと、どこかでわかっている。だが、理性が言い訳を探す。これは自分が誘った。部下の気持ちに流されたわけじゃない。酔いのせいだ。たまたまの気まぐれだ。そうやって心のなかで理由を並べ立てながら、佐伯はゆっくりと佐山に近づいた。「こっちを向け」低く押し殺した声が部屋に落ちる。佐山はほんの少しだけ首を傾け、素直に顔を向けた。睫毛がふるえ、かすかに赤みを帯びた頬が照明に浮かび上がる。佐伯はその顔に唇を重ねた。最初は確かめるような軽いキスだった。だが、すぐに自分でも抑えがきかなくなる。濡れた唇が重なり、息が混ざる。佐山は微かに身体を震わせ、佐伯のキスを受け入れる。だが、その唇がわずかに開き、舌先が差し込まれた瞬間、佐伯は自分のペースが崩れるのを感じた。佐山の舌はやわらかく、だが明確に佐伯の舌を探し、絡みついてくる。その熱に、佐伯の心臓が跳ね上がる。唇の隙間から湿った吐息が漏れ、キスは深くなった。睫毛が震えている。佐山の目は薄く開かれ、冷たい光が底に沈んでいる。表情は熱にほだされていながらも、どこか醒めていた。唇は濡れて、微かに光る。佐伯はその顔を片手で支えながら、唇を強く吸った。濡れた指先が佐山の顎に滑り、微かな汗と酒の匂いが混ざり合う。「……お前、こういうの、平気なのか」かすれた声で囁いた。佐山は一度だけまぶたを閉じ、またゆっくりと目を開く。その瞳は深く、何も映していないようでいて、すべてを見透かしているようだった。「僕、男も好きですよ」佐山は囁く。その声はやけに静かで、肌にしみこむようだった。佐伯は思わず息を呑む。身体の芯が熱くなり、脚の奥がじくじくと疼く。

  • 姉を奪われた俺は、快楽と復讐を同時に味わった~復讐か、共依存か…堕ちた先で見つけたもの   濡れたネオンと、閉ざされた部屋

    タクシーの窓ガラスを打つ雨が、色とりどりのネオンを歪めて流していた。夜の街はしっとりと湿り、明滅する看板の明かりが水の膜をまとって遠く揺れる。佐山は車内の沈黙を壊さず、窓の外を静かに見つめていた。薄い唇はわずかに閉じられ、伏せた睫毛に街灯の光が微かに揺れている。その横顔はときどきアンバーの影に沈み、また照明の下で輪郭を浮かび上がらせた。佐伯は無言で腕を組み、窓に映る自分の顔から目を逸らした。あくまで「ただの飲みの延長」だと自分に言い聞かせる。酔いのせいだ。部下を家に帰すのも面倒だから、流れでホテルに向かうだけ。そんな理由を頭のなかで繰り返してみるが、心臓が規則正しく打つたびに血が騒ぐ。隣にいる佐山の沈黙がやけに意味ありげに思えて、息苦しささえ覚えた。フロントで手続きを終え、エレベーターに乗り込むときも、佐山は一言も余計なことを口にしなかった。静けさのなかで二人だけが箱のなかに閉じ込められると、佐伯は呼吸が浅くなっていくのを自覚した。数字が順に上がり、やがて扉が静かに開いた。廊下を歩く佐山の背中を、何度も目で追いかけてしまう。部屋のドアが開いた。ホテル特有の淡い照明が、薄暗い空間にじんわりと広がる。床には深い青のカーペット。壁際の窓は結露で白く曇り、外のネオンの光がぼんやりと滲んでいる。ふわりとした空気に、冷たい雨の匂いがかすかに混じっていた。「お疲れさまです」佐山が先に部屋へ入り、振り返りながら笑った。その声は少しだけ湿り気を帯びていた。佐伯は無言でコートを脱ぎ、ソファへ身を沈めた。佐山は冷蔵庫からウイスキーのミニボトルを取り出し、氷をグラスに落とす。カランという音がやけに静かに響いた。「ロックでいいですよね」佐山はそう言いながら、琥珀色の液体をゆっくりと注いだ。小さな瓶を傾ける手首の筋、濡れた髪が額にまとわりついている。グラスを差し出された佐伯は、それを無言で受け取り、手元で揺らした。氷が溶けて表面がわずかに曇る。佐山は自分のグラスを唇に運び、舌先で縁をなぞるように味わっている。その仕草が妙に艶めいて見えた。ライトの下で佐山の頬がわずかに赤らみ、睫毛の影が頬に落ちる。静かな部屋に、二人の呼吸とグラスの氷が溶ける音だけが響いていた。

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