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娘のお披露目パーティーに姿を現さない夫なんていらない

娘のお披露目パーティーに姿を現さない夫なんていらない

By:  ベリーラディッシュCompleted
Language: Japanese
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娘の宮崎朋花(みやざき ともか)のお披露目パーティーの前日、夫である宮崎克哉(みやざき かつや)から連絡があった。 「いつもの店で待ってるよ。サプライズがあるんだ」 いつもの店というのは、プロポーズ、入籍祝い、そして毎年の結婚記念日を過ごしているお気に入りのレストランだった。 またいつものように小粋なサプライズを準備しているのだろう。 ドアを開けると、そこには克哉が女性と親しげに身を寄せ合い、その隣には彼に目元がそっくりな子供が座っていた。 私を見た克哉は、慌てたり隠れたりするどころか、悪びれもせずに言った。 「子供ができたし、もう隠しておくのも嫌だったから。 紹介するよ。俺の初恋相手の恵美。恵美との子も、もう4歳になるんだ」 黙り込んでいる私を見て、克哉は続けた。 「心配しないで。俺の妻はお前だけだから、お前と朋花の生活が変わることはないよ。 明日のお披露目パーティーも予定通りやろう。ただ……健太の戸籍だけは俺たちの方に入れさせてほしいんだ。 結婚して6年、お前の芸能活動は俺のおかげでうまくいっているだろ?俺の言う通りにしていれば、今後もお互い上手くいくから」 普段ならとことん追及する私だったが、この時は何も言わず、そのまま背を向けた。 翌日、克哉は何事もなかったかのようにホテルのロビーでゲストの対応をしていた。 私はフラッシュを浴びる中、克哉の親友を連れてその前まで歩み寄る。 「紹介するね。この人は朋花の新しい父親なの」

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Chapter 1

第1話

娘の宮崎朋花(みやざき ともか)のお披露目パーティーの前日、夫である宮崎克哉(みやざき かつや)から連絡があった。

「いつもの店で待ってるよ。サプライズがあるんだ」

いつもの店というのは、プロポーズ、入籍祝い、そして毎年の結婚記念日を過ごしているお気に入りのレストランだった。

またいつものように小粋なサプライズを準備しているのだろう。

ドアを開けると、そこには克哉が女性と親しげに身を寄せ合い、その隣には彼に目元がそっくりな子供が座っていた。

私を見た克哉は、慌てたり隠れたりするどころか、悪びれもせずに言った。

「子供ができたし、もう隠しておくのも嫌だったから。

紹介するよ。俺の初恋相手の恵美。恵美との子も、もう4歳になるんだ」

黙り込んでいる私を見て、克哉は続けた。

「心配しないで。俺の妻はお前だけだから、お前と朋花の生活が変わることはないよ。

明日のお披露目パーティーも予定通りやろう。ただ……健太の戸籍だけは俺たちの方に入れさせてほしいんだ。

結婚して6年、お前の芸能活動は俺のおかげでうまくいっているだろ?俺の言う通りにしていれば、今後もお互い上手くいくから」

普段ならとことん追及する私だったが、この時は何も言わず、そのまま背を向けた。

翌日、克哉は何事もなかったかのようにホテルのロビーでゲストの対応をしていた。

人気女優の娘のお披露目パーティーということで、名だたる著名人が多数出席している。

話題になるには十分で、ライブ配信も大いに盛り上がっていた。

【菖蒲(あやめ)さんはまだ?もしかして、不仲説が本当とか?】

【旦那さんのこと見て。目の下にクマができてない?昨夜はさぞかしお楽しみだったんだね】

【それはないだろ。自分の娘さんの祝い事だから、楽しみすぎて寝られなかったんじゃないか?】

【楽しみだって?迎えにさえ行ってないんだよ!菖蒲さんに一人で来させるなんておかしくない?】

コメント欄が飛ぶような速さで流れていく。

克哉はオーダーメイドの黒のスーツを纏い、ホテルの前で外行きの笑みを浮かべていた。

記者の一人がマイクを向けて問いかける。

「宮崎社長、今日は娘さんのお祝いですが、菖蒲さんはなぜ一緒にいらっしゃらないのですか?もしや何か……」

克哉は笑顔で遮った。

「夫婦仲は良好ですよ。妻は子供を連れて来なければならないので、また後から来るんです」

克哉の慈愛に満ちた表情に、カメラがこれでもかと向けられる。

皮肉な話だ。

昨夜、克哉は加藤恵美(かとう えみ)の肩を抱き寄せ、宮崎健太(みやざき けんた)と3人での海外旅行の計画をしていたくせに。

克哉は菖蒲が彼ら3人の関係を壊すような真似はしないと高をくくっているらしい。

克哉の隣にいた、彼の友人である新井海斗(あらい かいと)が肩を小突き、小声で冷やかす。

「克哉、昨夜は何時に寝たんだよ?ひどいクマだぞ。嫁と元カノが一緒にいたからって、まさか昨日はとんでもないことしちまったんじゃないのか?」

もう一人の友人もやってきて、にやにやしながら会話に入った。

「克哉も大したもんだよな。両方を幸せにしてやろうなんてさ。

それにしてもお前の奥さん、気が強いだろ?こんなことしたら、本気で怒って来ないんじゃないか?」

男たちが低く笑う。

克哉は口角をわずかに上げ、ただ淡々と言った。

「結婚して6年、俺はあいつに全てを与えてきたし、子供だってできた。ここに来ないなんてあると思うか?」

一呼吸置いて、克哉は記者の群れを見つめながら確信を込めて付け加える。

「不機嫌なのはいつものことだ。でも、これだけの大物たちの前で面子を潰す勇気なんて、あいつにはないから」

男たちが再び笑った。次の瞬間、一台のマイバッハが停まる。

シャンパンゴールドのドレスを身に纏い、髪をカジュアルに後ろでセットした私。

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第1話
娘の宮崎朋花(みやざき ともか)のお披露目パーティーの前日、夫である宮崎克哉(みやざき かつや)から連絡があった。「いつもの店で待ってるよ。サプライズがあるんだ」いつもの店というのは、プロポーズ、入籍祝い、そして毎年の結婚記念日を過ごしているお気に入りのレストランだった。またいつものように小粋なサプライズを準備しているのだろう。ドアを開けると、そこには克哉が女性と親しげに身を寄せ合い、その隣には彼に目元がそっくりな子供が座っていた。私を見た克哉は、慌てたり隠れたりするどころか、悪びれもせずに言った。「子供ができたし、もう隠しておくのも嫌だったから。紹介するよ。俺の初恋相手の恵美。恵美との子も、もう4歳になるんだ」黙り込んでいる私を見て、克哉は続けた。「心配しないで。俺の妻はお前だけだから、お前と朋花の生活が変わることはないよ。明日のお披露目パーティーも予定通りやろう。ただ……健太の戸籍だけは俺たちの方に入れさせてほしいんだ。結婚して6年、お前の芸能活動は俺のおかげでうまくいっているだろ?俺の言う通りにしていれば、今後もお互い上手くいくから」普段ならとことん追及する私だったが、この時は何も言わず、そのまま背を向けた。翌日、克哉は何事もなかったかのようにホテルのロビーでゲストの対応をしていた。人気女優の娘のお披露目パーティーということで、名だたる著名人が多数出席している。話題になるには十分で、ライブ配信も大いに盛り上がっていた。【菖蒲(あやめ)さんはまだ?もしかして、不仲説が本当とか?】【旦那さんのこと見て。目の下にクマができてない?昨夜はさぞかしお楽しみだったんだね】【それはないだろ。自分の娘さんの祝い事だから、楽しみすぎて寝られなかったんじゃないか?】【楽しみだって?迎えにさえ行ってないんだよ!菖蒲さんに一人で来させるなんておかしくない?】コメント欄が飛ぶような速さで流れていく。克哉はオーダーメイドの黒のスーツを纏い、ホテルの前で外行きの笑みを浮かべていた。記者の一人がマイクを向けて問いかける。「宮崎社長、今日は娘さんのお祝いですが、菖蒲さんはなぜ一緒にいらっしゃらないのですか?もしや何か……」克哉は笑顔で遮った。「夫婦仲は良好ですよ。妻は子供を連れて来なければならな
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第2話
メイクも完璧で、疲れなどは微塵も感じさせない。フラッシュが容赦なく焚かれ、激しい光が私を襲った。メディア関係者たちは血の匂いを嗅ぎつけた鮫のように、瞬く間に押し寄せてくる。「菖蒲さん!こっちにお願いします!」「菖蒲さん、宮崎社長との不仲が噂されていますが、事実ですか?」「宮崎社長に愛人がいるという噂がありますが、ご存知でしょうか?」私は軽く体を翻し、無言を貫いた。克哉は私の美しさに一瞬目を奪われたようだったが、すぐに気を取り直して私の腰を引き寄せる。彼は顔を近づけ、私の耳元で囁いた。「さすが俺の妻、スターだな。どこにいても注目の的だ。それにしても、なんで俺が用意したドレスを着なかったんだ?わざわざ海外から取り寄せたのに」克哉のとぼけたような労いの言葉を聞き、心の中には酸っぱい感覚がこみ上げる。私の腰を抱いた克哉が数歩進んだ時、彼のスマホが鳴った。画面を見た彼の顔に、嬉しそうな笑みが浮かんだ。「どうしたんだ?今日は幼稚園の保護者会じゃないのか?」すると、電話の向こうから、切迫しているようでいて、甘えた声が漏れてくる。「もうすぐ始まるんだけど、みんな両親が揃っているのに、自分だけパパがいないって健太が泣き出しちゃって。少しだけ顔を出してくれないかな?」克哉は呆れたように笑ったが、その口調はとても優しかった。「二人とも、俺を困らせる天才だな。分かった。10分で行くから待ってろ」そう言って克哉は電話を切ると、スマホをポケットに放り込み、駐車場の方へ向かおうとした。私は咄嗟に彼の袖をつかむ。頭の中に色々な思いが駆け巡ったが、最後には小さくこう問いかけることしかできなかった。「克哉。記者も関係者も大勢いるのに、本当に行くの?」克哉が足を止め、振り返った。その眉には皺が刻まれている。「当たり前だろ?恵美が困ってるんだから、行くに決まってるよ」そばにいた海斗も克哉に顔を近づけ、小声で言った。「克哉、ここで離れるのはまずいだろ。菖蒲さんが到着したばかりで、まだ会場にも入ってないのに」もう一人の男も頷く。「そうだぞ。こんな大物たちが来てくれてるのに会場から離れるなんて、有る事無い事記事にされるのがオチだ」しかし、克哉は二人を一瞥すると、大したことないというように笑った
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第3話
配信中のコメント欄も、大荒れになった。【まじか?娘のお披露目パーティーなのに、子供の父親がいなくなったぞ?】【来たと思ったら即帰宅?これってもう、離婚確定だろ!】【例の愛人のところに行った、に一票】【菖蒲さん可哀想すぎる。子供も生まれたばかりだっていうのに】私は何も答えなかった。ただ手の中のネックレスを強く握りしめる。金属の冷たさが手のひらを伝い、心の底まで凍りつかせた。深呼吸をして、私は会場の中へ足を踏み入れた。扉を開けると、そこには娘のお披露目パーティーのために用意された豪華な装飾が広がっていた。掃き出し窓の近くには、わざわざ海外から空輸した紅白のバラが、小さな山のように積み上げられている。甘味ブースには6段重ねのケーキ。一番上の段には星を抱えた小さな女の子……克哉がオーダーメイドで作らせた朋花の似顔絵チョコが飾られていた。そして、ゲストの名前が記された席札もすべて克哉が丁寧に書いたもの。克哉は昔から字がうまく、付き合い始めた頃には私のために筆記体を一緒に練習してくれたっけ。「朋花のお披露目パーティーは、結婚式より盛大にやるんだ。お前を芸能界で一番羨ましがられる女にしてやるよ」克哉はそれを全部実現した。私は入り口に立ったまま、全てを細部まで見渡す。夜通しプランナーと企画を練り合っていた克哉の姿。克哉がケーキの味についてパティシエと真剣に議論していた午後。朋花を抱いて誰よりも嬉しそうにしていた克哉を見たあの清々しい朝……すべてが目の前に浮かんでくる。ただ、今は知ってしまった。それが自分だけのものではなかったということを。慌てて追いかけてきた海斗が、引きつった笑顔で言う。「菖蒲さん、克哉はただ幼稚園の保護者会に行っただけですから。すぐそこですし、すぐ戻ってきますから」もう一人の仲間もすかさず克哉のフォローをした。「そうですよ!克哉なら分かってますって。それに、朋花ちゃんの大事な日なんだから、克哉が遅れるはずがないでしょう?」「そうそう!子供をあやすだけだから、30分で帰ってきますよ」誰もが、まるでライターを借りに行っただけとでもいうように、克哉を正当化していた。彼らに視線を向けると、私は表情を変えずに言った。「そうですか、分かりました。では、ゲスト
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第4話
薬指の結婚指輪を、なんとなく指先でなぞる。SNSのトレンドは、もう大炎上だ。【#宮崎克哉、娘のお披露目パーティーを放置】【#宮崎菖蒲、離婚危機】タップすると、芸能記者が投稿したばかりの速報記事が目に飛び込んできた。【独占!宮崎社長、娘のお披露目パーティーで途中退席?その行き先はなんと、初恋の女性との子どもの保護者会?】添付された写真には、克哉が膝をつき、4歳くらいの男の子の涙を拭う姿が写っている。そして、その隣には女性が優しげに微笑んでおり、まさに幸せな家族そのものだった。投稿のリプライもすでに1万件超え。【やばいな。自分の娘のお披露目パーティーを放置して、愛人との子どものところへ行くとか。宮崎ってやつ、奥さんを馬鹿にしているのか?】【その相手って加藤さんだよな?昔の彼女で、海外に行ったはずの。子どもを連れて戻ってくるなんて、正式に復縁狙い?】【菖蒲さんかわいそう。かつては宮崎社長のために親からも勘当寸前だったのに、結末がこれだなんて】私は無表情でその画像をスクリーンショットし、アルバムに保存した。すると、桜が私のスマホをひったくり、怒りに震えた様子で言い放った。「何を保存しているのよ?本当に馬鹿になっちゃったんじゃないの?まだこんなクズ男を待つつもり?記者たちがいるうちに、朋花ちゃんを連れてさっさと帰りな。明日には離婚声明も出すのよ!あなたがどれだけ条件の良い仕事のオファーを断ってあの男を支えてきたと思っているの!ご両親とだって、2年も連絡を取っていないんでしょ。こんなことになっているのに、まだ我慢するわけ?」私はスマホを桜から取り返し、画面をロックしてポケットに突っ込んだ。そして桜に向かって、ゆっくりと口元に笑みを浮かべる。「桜、私のことは心配しなくて大丈夫だから」ベビーカーの朋花に手を添え、私は他人事のような冷めた口調で続けた。「私が弱かったことなんてないよ」桜が驚いて動きを止める。私は桜にウィンクしてみせると、結婚指輪を外してその場に置いた。「この数年の時間は、自分で決めて選んだ道。だから、後悔はしていない。でも、今日の娘のお披露目パーティーは……まだ他に、とっておきのサプライズがあるから」気持ちを切り替え、私は会場のゲストたちへの挨拶に出向いた。会場の隣
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第5話
挙句の果てに、本妻の座を「褒美」として与える?一体、何時代の話をしてるのだろう?「菖蒲さん?」柚が小声で私を呼んだ。ハッと意識を戻した私は、柚に微笑みかける。「柚、もうすぐパーティーが始まるわ。先にみんなで集合写真を撮ってから、席に着こう」私がそう言うや否や、受付を手伝っていた男性陣が顔を見合わせた。海斗が私のそばに寄ってきて、声を潜めて言う。「菖蒲さん、もう始めるんですか?克哉がまだ戻っていませんが……」私は淡々と答えた。「用事が終わればすぐに戻ってくるはずですから。それに、300名を超えるゲストたちをお待たせするわけにはいきません」海斗たちは視線を交わし、明らかに動揺していた。海斗は残りの二人を連れて隅に移動し、慌てて電話をかけ始める。そう遠く離れていない所にいた私の耳にも、電話の内容が微かに伝わってきた。「克哉、そっちは終わったか?菖蒲さんが、もう始めるって……」電話の向こうからは、子供の笑い声と共に、克哉の笑い声も聞こえる。「忙しいのが分からないか?保護者会がまだ終わってないんだ。少し引き延ばして、待つように菖蒲に言っておいてくれ」「でも……記者たちがこんなに大勢集まってて、中座しただけでもこの騒ぎなのに、戻ってこないってなると……」「分かった、もういいよ。俺が何とかするから。菖蒲も分かってるはずだから、挨拶くらい先にやらせておけ」そうして、通話は切れた。スマホを握りしめた海斗の顔が青ざめている。もう一人が小声で毒づいた。「どうすりゃいいんだよ?克哉、今回ばかりは酷すぎるだろ……こんな大勢の記者がカメラを構えているのに、これ以上菖蒲さんを一人にしておくなんて」「本当にそうだよな。菖蒲さんっていえば、男なら誰しも憧れた人なんだから。かつては何人もの男が行列を作ってアプローチしてたのに、よりによって克哉を選んで……それがこのザマ?俺だったら大事にするぜ。なのに、あいつはなんでこんな真似ができるんだ?」さらに別の男が鼻で笑う。「やめとけ。そんなこと言うってことは、お前、随分と前から菖蒲さんを狙ってたりして?克哉が他人の子供の父親になったからって、今度はお前が代わりに菖蒲さんの子の父親になるつもりか?」彼が表情を引きつらせ、反論しようと口を開いた時――「いいで
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第6話
会場がどよめいた。フラッシュが一斉に焚かれ、メディアのマイクが殺到する。瞬く間に、この騒動がネットニュースのトップを独占した。幼稚園でこのニュースを見た克哉も、慌てて会場へ向かおうとした。しかし、追いかけてきた恵美が、その腕をつかむ。「克哉!どこに行くの?菖蒲さんの芝居なんかに乗せられちゃ駄目だよ」だが、克哉は恵美の手を振り払い、冷徹な声で吐き捨てた。「芝居だと?俺の娘を別の男に抱かせているんだぞ?それでも、芝居って言うのか?」恵美は息をのんだ。「冷静になって。克哉は横山さんともう3年は連絡を取っていないんでしょ?なのに、今更菖蒲さんとどんな関係があるっていうの?絶対にその場しのぎで連れてきただけだよ。それに、今戻って騒ぎ立てたら、メディアのいいネタにされて笑いものになるだけ!」克哉の足が止まる。恵美の言うことはもっともだ。だが、胸に渦巻く不安を、克哉はどうすることもできなかった。横山大輔(よこやま だいすけ)とは10年来の仲で、彼が菖蒲を見つめる眼差しは、いつだって普通ではなかった。それは、学生時代からずっと。克哉は恵美を無視して足早に立ち去り、スマホで海斗に電話をかける。「克哉……」海斗の声は震えていた。「どういうことだ?なんで、会場に大輔がいるんだよ?」「俺にもわからない……でも、急に現れて。そしたら、菖蒲さんが腕を組んで、新しい父親だって言うから、もう全員パニックで……」「菖蒲とあいつはどんな関係なんだ?」「わ……わからない」電話を切った克哉は、憤怒の表情を浮かべていた。恵美が後ろで何かを叫んでいたが、もう耳には入らなかった。今の彼が思っていることは、ただ一つだけ。なんとしてでも戻らなければならない。……娘のお披露目パーティーの会場で、私は大輔と共にメディア対応をしていた。「横山さん、お二人がお付き合いを始めたのはいつ頃ですか?」大輔は軽く微笑み、質問をはぐらかす。「12年の付き合いです」「では、娘さんは……」「朋花は自分の大切な娘です」大輔の言葉には確かな自信がこもっていた。「血はつながっていなくても、今日から朋花は私の娘ですよ」記者の間でどよめきが起きた。「継父になるということですか?」「いいえ」大輔は真
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第7話
私は鼻で笑った。「私が大輔と一緒になってあなたを騙してるって?ええ、そうね。本当に私が、あなたを騙すために大輔と演技をしていることにしよう。でも、あなたは?この数年間、私にどれだけの嘘をついてきたの?」克哉の顔から一気に血の気がなくなっていく。会場のゲストたちはひそひそ話し始め、ざわめきが広がった。克哉は指先が白くなるほど、拳を固く握り締めた。「菖蒲、その話は家で……」だが、私は言葉を遮る。「どうして家に帰ってから、話さなきゃいけないの?ここで話した方がいいと思わない?記者のみなさんも業界の方々も揃っていることだし、みんなが公正なジャッジをしてくれるよ」そう言って私は背を向け、カバンからスマホを取り出すと、写真フォルダを表示させて皆に見せつけた。「夫とは結婚して6年になります。最初の3年は幸せでした。でも、残りの3年、夫は変わってしまいました。昨年、私が朋花を妊娠して7ヶ月の頃、匿名である写真が送られてきたんです。そこに写っていたのは、恵美さんを抱き寄せる夫の姿、隣には3歳くらいの男の子もいました。なんと、家族3人、海岸でバカンスを楽しんでいたんです」フラッシュが容赦なく焚かれる。克哉の顔はもう完全に死人のようだった。「私は夫との子を宿していたのに、夫は他の女と子供に時間を費やしていました。問いただしたら、彼は『それはもう終わった話だ。俺の心にはお前しかいない』と言い、隠し子については『あれは事故だったんだ、俺が処理するから』と。そして、私に『信じてくれ』とも言ってきました。その時、私は信じました。当時はまだ、夫のことを愛していましたから。それに、娘から家族の温もりを奪いたくなかったんです。そして昨日、夫からメッセージが来ました。『いつもの店で待ってるよ。サプライズがあるんだ』って。だから、私は行きました」私は克哉を見つめる。目頭は熱くなったが、涙は出なかった。「サプライズというのは、夫が全てを自白して、隠していた事実を明るみに出すことでした」会場にいた何人かが息をのんだ。「彼は私に、愛人の子を自分たちの戸籍に入れる、と言いました。私の娘に、その愛人の子供を『お兄ちゃん』と呼ばせようとしたんです」声が震えそうになったが、私は必死に堪える。「これが、私が6年間も連れ添った夫です
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第8話
「でも、菖蒲は俺の話を聞かずに、お前を選んだ。なぜなら、お前を愛していたからな」大輔の声に、初めてかすかな感情が入る。「愛している女が他の男に嫁いでいくのを見ているしかなかった俺の気持ち、お前にわかるか?わからないだろうな。だって、お前は一度たりとも、誰かを本気で愛したことはないんだから。なにせ、自分自身が一番可愛いもんな」会場内は息をのむ音さえ聞こえそうなほど、静まり返った。克哉はその場に立ち尽くし、まるで雷に打たれた木のように、心まで枯れてしまったようだった。私は大輔の手を強く握りしめ、克哉を見つめる。私は克哉から目を離さずに、一語一句はっきりと伝えた。「私と大輔は、演じてなんかいないよ。少なくとも今日からは、本当のことだから」私を見下ろす大輔のその瞳には、ようやく想いが叶ったことによる、儚い歓喜が揺れた。「本気か?」克哉の声は掠れている。「本気よ」私はそう答えた。その後、克哉がどのようにして立ち去ったのかは、よく覚えていない。確か、海斗たちに肩を抱えられながら、連れ出されていたような気がする。去り際、克哉は何度も振り返り、何かを叫んでいたが、聞き取れなかった。まあ、聞きたくもない。色々騒ぎはあったが、娘のお披露目パーティーはそのまま続いた。大輔は朋花を抱きながら、私に付き添って各テーブルを回ってくれた。本当の父親のように、凛々しく、堂々としていて、とても落ち着き払っていた。彼が、今朝飛行機から降りたばかりだとは誰も気づかないだろう。そして、まだ時差ぼけが残っているのも、私たち二人の「関係」が今まさに嘘から真実へと変わったばかりだということも、誰一人知る者はいない。最後のテーブルへの挨拶を終えると、大輔は私の耳元に顔を寄せ、二人だけに聞こえる声で呟いた。「さっき言ったこと、本気だよな?」私はあえて答えず、席へと戻る。大輔も後に続いた。腕の中の朋花は小さな手を振り回し、声を上げて笑っている。「菖蒲」大輔が私の名前を呼んだ。「ん?」「期待させて放置はないだろ?」私は足を止め、振り返った。会場の明かりに照らされ、大輔の目鼻立ちがくっきりと強調される。「大輔、どれくらい待っててくれたの?」少し考えて、彼は答えた。「12年と3ヶ月」「そんなにずっと?
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第9話
「朋花のお披露目パーティーのときから、俺は父親として隣にいたんだ」私が手を差し出すと、大輔は「はめてくれるか?」と言った。指輪をはめてくれた大輔の指先は、少し震えていた。指輪をつけると、彼は私の手を握りしめ、静かにその指輪にキスを落とした。「菖蒲。俺にチャンスをくれるなんて、本当に感謝してる。ずっと待ち続けててよかったよ」その日の夜、大輔がインスタに投稿をした。写真は一枚だけ――朋花と私のツーショットで、私の手にはあの指輪が光っている。【12年。やっとだ】との文章を添えて。最初にコメントしたのは桜だった。【嘘でしょ!おめでとう!】克哉もその投稿を見たらしい。彼はコメントすることはなく、「いいね」だけを押した。だが、克哉はその夜、一人で朝までバーで飲み明かし、最後は海斗に抱えられて帰ったそうだ。……朋花が2歳になった頃、ある恋愛番組への出演オファーが届いた。監督陣からの条件は非常に良かったが、断るつもりだった。朋花はまだ小さいし、長く離れたくなかったから。でも大輔が、珍しく彼自身から言い出す。「行こうよ」「どうして?」すると、彼は堂々と答えた。「だって、世界中の人に、君が俺の妻だって知ってもらいたいから。あの時、君が克哉と結婚したことは、都市中の人が知ってた。だから今、俺と結婚したことも、同じくらいみんなに知らせなきゃだろ?」私が呆れて苦笑いを浮かべると、大輔は続けた。「子供っぽい?」「子供っぽい」そう私が言うと、大輔は認めた。「でも、効果的だろ?」結局、そのオファーを受けることにした。朋花を桜とベビーシッターに預け、私たち夫婦はD市へと飛び立つ。撮影初日、「夫婦の相性テスト」というコーナーが用意されていた。別々の場所で同じ質問に答え、どれだけ答えが合っているかを試すものらしい。「初めて出会ったのはいつ?」私はパネルに答えを書く。【大学のグラウンドで、大輔にぶつかって本を飛ばしてしまった時】大輔の答えも同じだった。【大学のグラウンド、で、菖蒲がぶつかってきて本を落としてしまった時】しかし、大輔はその下に、小さな字でこう書き加えていた。【菖蒲が俺を見て言った『ごめんなさい』という一言と、あの眼差しが12年間ずっと忘れられなかった】会場が
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第10話
「昨日の夜、ネットで必死に調べたんだ」と、大輔は素直に白状した。「『D市でカップルにおすすめなスポット』って検索したら、真っ先にここが出てきたんだよ」私は笑った。「大輔もプラン検索なんかするんだ」「俺だって魔法使いじゃないからさ」そう言いながらエプロンをつけた大輔は、青い作業服のおかげで、たくましい腕が強調されている。「君を追いかけてる時なんか、どんなことだって調べたんだから。女の子の喜ばせ方とかプレゼント選び、それに女の子の機嫌の見分け方まで。スマホの履歴なんて、そればっかりだよ」「本当に?」「本当だよ。見る?まだスマホにスクリーンショットが残ってるから」私は思わず吹き出した。私の笑顔を見て大輔も微笑み、白い布を手渡してくれた。「さあ、朋花のためにワンピースでも作ろう」私たちは工房で丸一日過ごした。大輔は手先が不器用で、柄付け用の紐をうまく結べず、結局は職人に手伝ってもらう羽目に。私は白と青が綺麗に混在する、ミニワンピースを作れたが、大輔の完成品は、恐ろしく不格好なハンカチで、中央には歪んだハートが浮かび上がっていた。「これ何?」私はそのハンカチを広げながら、なんとか笑いを堪える。「ハートだよ」大輔は言った。「わからない?」「ぜんぜんわからない」「ならいいよ。俺が自分で使うから」大輔はそう言って、私からハンカチを奪い返す。「ちょうだい」私が手を伸ばしても、大輔はハンカチを高く掲げて届かないようにした。「俺にお願いしてみて?」「大輔!」「あなたって呼んでよ」私が睨みつけると、大輔はニヤニヤしながら顔を寄せてきて、耳元でささやく。「じゃあいいよ。でも、今夜家に戻ったら、結局は呼んでもらうことになるんだけどね」私は顔を真っ赤にして大輔を押しのけた。そばにいた撮影スタッフも、気まずそうに咳払いをしてカメラの向きを変えたのだった。……3日目は「真実か挑戦か」という、4組の夫婦で順番に質問カードを引き、正直に答えていくというゲーム企画。私たちの番になると、大輔がこんな質問カードを引いた。【パートナーの欠点を3つ挙げるなら?】」大輔はすぐに答え始める。「一つ目は、我慢しすぎなところですね。元旦那からあれだけひどい仕打ちを受けても、6年間耐えてたなんて、今思い出しても腹が立つし、悲しくなりますから
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