ジーノ達と話をしてから1週間が過ぎた。
あの後、白銀の騎士団を今すぐどうこうするには時間が惜しいという事。赤熱の騎士団の隠れ蓑として白銀の騎士団があった方が調査しやすいという事から、そのままの状態となっている。まぁ、元々何もしていないような連中だ。今動かれても面倒なだけである。トリドールの息子であるイベリコは団長室から出てこないらしい。
一度団長室の前を通った時、ブツブツと何か呪術のような呪文のような言葉を言っていた。「俺は団長だ。俺は強いんだ…だってパパとママが言っていたもん。俺は強い…。俺は強い。俺は強い。俺は強いんだぁ…!!いつかあいつをけちょんけちょんにしてやる。そして跪かせて、俺の愛人にしてやるんだ。」愛人って、一応私は男装していてここでは男として通っているのだが、思わずその言葉を聞いて鳥肌が立ったのは言うまでもない。しかし、負けたことが恥ずかしかったのか、今回の件は誰にも話していないようだ。一つだけ変わったことと言えば、私の顔を見ると団員たちが直ぐに道を開けてくれることになったことだろうか。今まで「スポレトーレ家の奴らが調子に乗ってるんじゃねぇよ」と言っていたヤツらも今では大人しく道を譲る。「これだけ道を譲ってくれると歩きやすいな。」1人でジーノのところに向かっていると、ウェインが逆方向からコチラに近づいてくるのが見える。最近のウェインは少し焦っているというか、機嫌が悪い日が多く、1人行動していることが多くなっていた。
「ウェイン。」片手を挙げて声をかけると、据わった目をしたウェインがこちらを見た。
「あぁ。ローレンか。すまん。見えていなかった…」ここまでイライラしているのはやはりラグネリアのことだろうな。「見えていなかったって…お前ちゃんと寝てるか?そんドラウゴン国を出て2週間。私達は伝説の豚であるトロイスの豚を探すために、ドラウゴン国から東に3日程行ったところにあるアヴァーロ島に来ていた。ドラウゴン国にも海がない訳では無い。ただ、アジュアール国には繋がっておらず、テッサリーニ国とは真逆に位置するため、ドラウゴン国から進んでいくのができないのだ。「アヴァーロ島に、すぐ入れたのは良かったな。」アヴァーロ島へは船で行くことは禁止されている。何日かに一度海の間に大きな道ができ、その時だけ島を通ることが出来るのだ。その道をドラウゴン国の人達は神の道と呼ぶ。「メローラの言う通りだな。今回は運が良かった。日によっては1ヶ月入れないこともあるしな…。」ウェインが私の言葉に返事をする。テッサリーニ国から戻ってきたばかりの時はラグネリアのこともあって少し荒れていたようだが、この数週間でだいぶ落ち着いたようだ。「ラグネリアは今回の薬の件、何か言っていたか?」「元に戻れる可能性があるのは嬉しい。ただ…同世代の女性に会うのは怖いそうだ。」「そうか…ラグネリアの同世代と言うとパルサティラ達だろうな。」誰でも虐められたりした記憶があればその人達と会うのは怖いものだろう。恐らく、それはフィオにも言えることだ。「今は取り敢えず2人を助けることを考えよう。それでその後あの2人を笑った奴らにお返しをしようじゃないか。」「そうそう!2人ともしんみりし過ぎだよー。今はさぁ、ほら丁度目の前に伝説の豚さんがいるじゃない?あれを倒すことだけ考えよっ!ねっ?」私とウェインの肩に手を置いて話しかけてくミル兄様。こういう時に場を明るくしてくれるのはありがたい…と思いたいがもう少し早く話して欲しかった。目の前をるとこちらを睨んだような目で見てくる大きな豚。右足の樋爪で床を蹴って勢いよくこちらに向かっ
「ほとんどの物はこの国にある物で解毒ができそうなのだが、3つほど足りないものがあった。恐らくこの3つは、アジュアール国、もしくはその近郊まで行かなければ取れないものだろう。もしかしたらテッサリーニ国に来ている商会が持っている可能性もあるかもしれないが…」マリウスの代わりにボァ兄様が話し出す。アジュアール国にあるかどうかわからない…というのは私たちがアジュアール国のことをあまり知らないから答えを出すことが難しいということだろう。それにドラウゴン国からアジュアール国に行くとなると、テッサリーニ国から船で海を渡る必要がある。直接アジュアール国に行ければ少し楽になるのだが、立地上難しいだろうな。これからどのように動いて行けばいいか考えていると、フィオが恐る恐る手を挙げて話し始めた。「アジュアール国でしたら一度だけ行ったことがあります。今後交易をするためにどのような国か見ておく必要がありましたので…少しでしたら役に立てるかもしれません。」「「「「そうだぁぁぁ!!今ここにはオルラフィオがいるじゃないか!!!」」」」兄様たち4人が立ち上がり一斉にフィオの方を向いた。ボァ兄様はその足りない解毒薬について考えていたのだろうが、残り3人はアジュアール国を侵略することしか頭にない気がする。「それで、ボァ兄様。解毒薬というのは…。」私がボァ兄様に声をかけると、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに話し始めた。「一つ目はロギヌスの水。これはアジュアール国にあるということが分かった。ロギヌスという槍が刺さっていると言われる湖があるそうだ。その水が必要となる。」ロギヌスの槍…この槍が一体何を示すかまではわからないが…きっとこの国で言う聖水に近いものなのだろう。以前、マーヤが一時的に聖水を使うと爛れが薄くなったと言っていた。成分ももしかしたら似ているのかもしれない。「水ですか…以前、マーヤが聖水を試し
「では、話が逸れてしまいましたし話を戻しましょうか。それで、薬草の内容は分かったかい?」暗い雰囲気をぶった切るように話し始めたのはボァトルト兄様だ。ボァ兄様に薬草の書類を渡すと、マリウスと一緒になって一度調べることがあると言って部屋から出て行ってしまった。まるで嵐が一瞬で過ぎ去ったようなそんな感じだ。師弟だからか、動きがとても似ている。きっとしばらくしたら戻ってくるつもりだろう。扉から二人が出て行った姿を見ていると、父様がゴホンと一つ咳払いをした。「薬草の件は一旦あの二人に任せておこう。その間に、わかったことを教えてほしい。」「わかりました。まず、オルラフィオ王太子殿下が表舞台に出なくなってから全てを仕切っているのはトリドール家のようです。」そう言って、ジーノたちがまとめてくれた資料を渡す。白金の騎士団の実態や、赤熱の騎士団について。そしてトリドール家がアジュアール国とつながっていることなどを伝える。「それと、アジュアール国から来ている商会の名ですが”フェサリス商会”と言い、アジュアール国第2王子がと同じ名前の商会であるということまでは分かりました。」「私は、イヴェッタ王妃の近くにおりましたが、侍女の中に2人ほど黒髪の女性がおりました。あれは間違いなくアジュアール国の者ではないかと思われます…それ以外にもちらほら従者の中、料理人の中にも見かけました。」マーヤが一番王族の近くにいたということもあり、王族について色々話をしていた。どうやら王族たちは資金などあまり気にせず好き勝手やっているようだ。特にピリットン第2王子は女性に目がなく、見境なく色々な女性に手を出しているらしい。この話を聞いたときに頭に浮かんだのはイベリコのことだ。やはり、イベリコとピリットンは血縁なのだなと思ってしまった次第である。それに国王陛下がずっと表舞台に出てこないところも気になる所だ。普通であればここまでの状態になる前に何かしら考を講じなければならない。それでも出てこないとなると、生きているのかも怪しくなってくる。
「おかえり!!メローラ!!!」キャロット城前に着くと、こちらに手を振って近づいてくる者がいる。私の婚約者であり、テッサリーニ国の王太子オルラフィオ王太子殿下だ。どうやら、ドラウゴン国を離れている間に少し心境の変化があったらしい。今までは外に出るのも怖がっていたフィオだが、少しずつ外に出ることができるようになってきたようだ。「ただいま!!フィル!!!」私も少し小走りでフィルに駆け寄った。ドラウゴン国を離れていた期間は3ヶ月弱くらいだろうか…その間に少し顔色がよくなってきたようにも感じる。「フィル、以前よりも顔色がよくなってきたんじゃないか。よく見ると体型も少し細くなったように感じるぞ。」「そうなんだ。これにはマリウス殿も驚いていたよ。もしかしたら、薬を飲んでから少し時間が経過してきたというのもあるかもしれない…ということだ。効能が切れてきているのだろうってさ。」資料を見てもずっと飲み続けていた薬ばかりのようだったからその薬を辞めたことで効能が薄れてきたのは何となく理解ができる気がする。ただ全部が全部…効能が薄くなって終わりというわけではないのだろう。ニキビなどはきれいになってきているようだが、爛れている皮膚は以前と変わらないし、発汗が多い所や顔の形なども以前と変わらないようだ。それでも少し変化が見られたことでフィルの気持ちが変わってきたのはよかった。「そうなのか。こちらでもフィルの薬についてはある程度目星がついたから、後ほどマリウスをウェインも交えて話をしよう。」「ウェインもかい?」そういえば色々なことが重なっていてフィルにはラグネリアの話をしていなかったか…。てっきり話したつもりになっていたと思っていると、私の後ろからウェインが声をかけてきた。「やぁ、オルフィ、久しぶり!元気そうでよかった。2人の逢瀬を邪魔してしまってすまないが、実は俺の婚約者もオルフィと同じような状態になってい
ジーノ達と話をしてから1週間が過ぎた。あの後、白銀の騎士団を今すぐどうこうするには時間が惜しいという事。赤熱の騎士団の隠れ蓑として白銀の騎士団があった方が調査しやすいという事から、そのままの状態となっている。まぁ、元々何もしていないような連中だ。今動かれても面倒なだけである。トリドールの息子であるイベリコは団長室から出てこないらしい。一度団長室の前を通った時、ブツブツと何か呪術のような呪文のような言葉を言っていた。「俺は団長だ。俺は強いんだ…だってパパとママが言っていたもん。俺は強い…。俺は強い。俺は強い。俺は強いんだぁ…!!いつかあいつをけちょんけちょんにしてやる。そして跪かせて、俺の愛人にしてやるんだ。」愛人って、一応私は男装していてここでは男として通っているのだが、思わずその言葉を聞いて鳥肌が立ったのは言うまでもない。しかし、負けたことが恥ずかしかったのか、今回の件は誰にも話していないようだ。一つだけ変わったことと言えば、私の顔を見ると団員たちが直ぐに道を開けてくれることになったことだろうか。今まで「スポレトーレ家の奴らが調子に乗ってるんじゃねぇよ」と言っていたヤツらも今では大人しく道を譲る。「これだけ道を譲ってくれると歩きやすいな。」1人でジーノのところに向かっていると、ウェインが逆方向からコチラに近づいてくるのが見える。最近のウェインは少し焦っているというか、機嫌が悪い日が多く、1人行動していることが多くなっていた。「ウェイン。」片手を挙げて声をかけると、据わった目をしたウェインがこちらを見た。「あぁ。ローレンか。すまん。見えていなかった…」ここまでイライラしているのはやはりラグネリアのことだろうな。「見えていなかったって…お前ちゃんと寝てるか?そん
「さて、取り敢えず騎士団長は倒したからな。この団をジーノに任せていいか?」「えっ?なんで俺?」何となくジーノに会ってから思っていることがあった。少なくともフィオが今の状態になる前までは誰かしらがフィオの警護をしていた事になる。ただ、あの団長がそれをやっているようには見えなかった。で、あれば白銀の騎士団は名ばかりで実際は青銅の騎士団もしくは赤熱の騎士団が守っていたのではないか…と。「赤熱の騎士団。団長はお前だろ?ジーノ…」赤熱の騎士団の名前を出すとジーノは目を大きく広げて吃驚する。「な、なんで…気づいたんだ。」「やっぱりな…半分はカマかけだったんだが、合っていたようだぞ。ウェイン、マーヤ。」「実はジーノ様には内緒で赤熱の騎士団について調べさせて頂きました。貴方方は元々王太子殿下の側近や、警備を担当されていた方々ですね。」赤熱の騎士団。表向きは騎士団として動いていたが、裏ではこの国を変えようとレジスタンス的な動きをしているというのは調べていて分かった。「フィオが今の状態になってから、白銀の騎士団に居場所が無くなったんだろ?それで作ったのが赤熱の騎士団…違うか?」ジーノの顔を見て全てが本当のことだと言ってい