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待っていたのは……

Auteur: 涙乃
last update Date de publication: 2026-07-01 07:42:34

✳︎✳︎✳︎

私は聖女ではない。どちらが正しいのか、はっきりさせたいだけ。

浮ついた心で何も学ぼうとしないイリナへ、忠告したでしょう。

あなたは、どちらが聖女であるかはっきりさせましょう、と言っていたけれど。

何度も言っているわよね。聖女は、あなただと。

でも、聖女の儀式の条件を満たしてないけれどね。

この儀式が行われなくなったのは、道徳的な部分もあるけれど考え方の変化もあるのよ。

光魔法を使えること、

清らかな乙女であること、

殺生を行っていないこと、

肉を食していないこと、

全ての民に無償の愛を注ぐこと、

人を欺き裏切らないこと

以下略

とにかく細かく聖女の条件が記載されているの。国民の理想像の聖女の項目だから、あまりにも現実的ではなく、廃止になったのだけどね。

古は魔力持ちの家系は、生まれた時からベジタリアンを貫いたそうよ。

純潔を守るのは当然だけれど、最近は初夜にこだわらない風潮もあるし、聖女だから正妃になるとは限らないしね。

でも、イリナは聖女だから、当てはまらない項目が多いけれど死ぬことはないわよ。ただ、無傷ですむかは分からないけれど。

私は聖女でないから、本来なら死ぬはず……。

でも、儀式を冒涜する出来事が起こると、冒涜した者には裁きが下る。

私の聖水だけ少し濁っていたわ。急いでいたのか、完全に解けきっていないのに置いたでしょ?

ねぇ、レオナルド殿下、どうしてそんなに殺したいほど私を嫌うの?

あなたがもっと正式な手順をふんで、イリナとの婚約を望めばよかったじゃない。

イリナの行動を改めさせて勉強を勧めて、周囲を納得させる気概を見せないのはどうして?

私は婚約者として、ずっと努力してきたのに、こんな形で終わりになるなんて……

さようなら

✳︎✳︎✳︎

「おはよう、愛しいユリア、よく眠れたかい?」

爽やかな声色で耳元に語りかけられてぱっちりと目を開ける。

「カイル、おはよう」

サファイアのような瞳が憂いを帯びて大きくなる。これ以上の幸せはないという笑顔をカイルは向けてくれる。

私はカイルに抱きしめられて朝を迎えていた。

亡命してからもう数ヶ月はたつ。

まさか、こんなに幸せな生活が送れるなんて思ってもみなかった。

この日のためにカイルは根回ししていたようで、新居も身分も全て準備してくれていた。

聖水を飲んで意識不明になったのは、イリナも同じだった。

混乱に乗じてカイルは私を連れて他国へと転移してくれた。

目が覚めるとイリナは声を失っていたそうだ。グラスから毒物が検出されていた。儀式を冒涜したからか、聖女と関係を持っていたからか、レオナルド殿下は下半身不随となり車椅子生活を送っているそうだ。

勿論、今回の件で廃嫡となったが、王命でイリナと結婚。

邸ではレオナルド殿下の怒号と、物を投げつけるイリナの奇行が繰り返されているそうだ。

けれど二人のことは、名誉の負傷を負ったレオナルドと、かいがいしく世話をする声を失った聖女、と、表向きにはなっている。

忽然と姿を消したユリアと、筆頭魔術師カイルのことは、有能な二人に見限られた国と思われる訳にいかないので、箝口令が敷かれている。

私の能力は、能力というのかしら、ご先祖様の加護なのかしらね。

自殺防止魔法が、かかっているの。

自分の意志では死ねないの。

もう、死んでもいいと思った時は、助かることに気づいたの。

不慮の事故では発動しない。

あの時から、人生に希望なんて持っていなかった。

だから、この儀式で命を落としてもいいと、何もかも終わりにしようと思っていたの。

命懸けの復讐よ。

きっと、何か仕掛けてくると思っていたから。

貴方たちも、無傷ですまないと思ったから実行したのよ。

万が一助かった後のことは、その時考えようと思っていたのに、

こんなことになるなんて……。

復讐してもすっきりはしないけれど。

今、カイルと一緒にいられることが、この上なく幸せだわ。

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    「あぁ、ユリア、ここにいたのですか、探しましたよ」 「カイル?ふふふ、どうかしたの?きゃぁ」 窓辺にあるソファーで寛いでいると、血相を変えたカイルが室内に飛び込んでくる。 私の姿を捉えると一目散に飛びつくようにぎゅうっと強く抱きしめられた。 「ど、どうしたの?ちょっと紅茶を飲んでいただけよ」 「これからはどこにいるのか逐一報告してください」 少し掠れた声と吐息が耳に入ってくる。 その様子からかなり心配をかけてしまったのだと反省する。 カイルの背中に手を回して「家の中なのに?」と安心させるように明るく問いかける。 「んん⁉︎」 すると、ぐるんと視界が反転したかと思うと、カイルの膝に乗せられて、唇を塞がれていた。 「家の中でもです。どの部屋にいるのか逐一私に、お願いですから」 「え、えぇ、分かったわ、カイルは心配性なのね。でも、レオナルド殿下やイリナがここに来るとも……思えない……カイル?」 あれ?なんだかひんやりしてきたわ。 カイルの膝に乗せられた状態なので、上から覗き込むようにカイルと視線を合わそうとする。 「ねぇ、カイル?少し瞳が……何か気に障るようなことを言ったかしら……」 「──」 「え?カイル、なんて言ったの?」 「ユリア、あなたの口からバカルド殿下のいや、もう廃嫡されたのだったな、バカルドという言葉が聞こえたからです」 「バ?ちょっと、カイル、いくらなんでもそんな呼び方はいけないわ。人を貶めるようなことをしてはだめでしょう?」 「散々、あいつらはユリアに酷いことをしたのに?あぁ、ユリア、あなたは優しいですね」 「んっ!ちょっ、カイル、まだ、こんな時間に…」 またしてもカイルにベッドへと連れ去られそうになるのを、なんとか制止しようと試みる。 「カイル、でも、お仕事は大丈夫なの? カイルのような優秀な魔術師がいなくなって、今頃は混乱しているでしょうね、そう言えば、この国での私たちの立場はどうなっているの?」 「知りたいですか?」 どこかいたずらを仕掛ける前の子供のような無邪気な笑みを浮かべたカイルは、そっと私をソファーへと腰掛けさせる。 そして空間から花束を取り出すと、私の前に膝をつく。 「わぁ、きれい!私に?」 「ユリア、覚えていますか?あの時のこと。こうして、あなたにプロポーズをした」 「えぇ、

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    ✳︎✳︎✳︎ (だぁー! もう!なんなのよ! むかつく! むかつく! むかつく!うっとうしい! ) ツインテールの髪を振り乱し、手当たり次第に目についたものを投げつけている女性。可憐な容姿とは裏腹に、鬼のような形相を浮かべている。鬼気迫る様相に、本当に聖女であるのかと疑うレベルだ。 「わぁ⁉︎ イ、イリナ、やめてくれ! 危ないだろう! どうしたんだ、イリナ、落ち着くんだ!」 (もう、なんなのよ! なんなのよ! うっとうしい! どうして私がこんな生活をしないといけないのよ! 私は聖女なのよ! どうして王族でもなくなったこんな人と結婚しないといけないのよ! あんたなんか、見た目がいいだけじゃない! 第三王子殿下との婚約話はどうしてなくなったのよ! 王命ってなによ!認めない認めない! 私は聖女なんだから! もう、こっちに来ないで! ) 「イ、イリナ、落ち着いてくれ! 僕がこんな姿になったせいで……」 レオナルドは車椅子に手をかけて、哀しげな表情を浮かべている。 (本当にそうよ!全部、全部、あんたのせい! ) 「僕がユリアのグラスに毒を入れたせいで……きっと、神の怒りに触れたんだ……すまない……聖女であるイリナが声を失うなんて…全部僕のせいだ。イリナ……」 どんなに物を投げつけられようとも、怯むことなくレオナルドはイリナへ近づくために必死に車輪を回す。 赦しを請うように胡乱な目を向けられて、イリナはふと手を止める。 (そうだわ、あの女……、お姉様はどこに行ったの? あの儀式の後からどうもおかしいわ。 私に夢中だったはずの殿方達からは、手紙さえ届かないし。 巡礼に行かないと援助は打ち切ると国王は脅迫してくるし! あの、おいぼれ達のうるさいことったら、あーむかつわ! あ、そうだわ! お姉様を探して連れ戻せばいいのよ。 声がでなくなったのもお姉様が何かしたのね? あはは、お姉様てば、嫉妬に狂ったのね? 大丈夫よ、元通りにすればいいんだから。お姉様、レオナルド殿下はお返ししますわ。もう、用無しよ。 私は第三王子殿下と結婚しますわ。 あはは) 「──イリナ? 機嫌が直ったの? 」 (触らないで!) レオナルドの手を叩き落とし、イリナは不敵な笑みを浮かべて走り去った。 (ぶるぶると悪寒がする。何かしら?) イリナは誰かの視線を感じて、周囲を

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    「ユリア、何を考えているのです?何か不安なことでもあるのですか?ユリアを悩ませることがあるなんて耐えられません。 全て私が消し去りますから。もしかして、まだあのバ……レオ…ふぅ、口に出すのも嫌ですね。ユリア──」 ぎゅうっと囲いこむように抱きしめられて、カイルのいい匂いが身体の中まで充満する。 初めてカイルに抱きしめられた時は、あまりにも恥ずかしくて、真っ赤になったものだから、熱があるのかと心配かけてしまったのよね。 ねぇ、カイル。復讐してすっきりはしないけれど、レオナルド様のことは何とも思ってないわ。 だって、「あぁ」とか「そう」とか、「イリナは?」とか、レオナルド殿下の発する言葉は少ないの。まともに会話したこともないもの。 だから、カイルが、バカ王子と言いそうになったことも、全然気にならないわ。 「カイル、ふふふ、悩みなんてないわ。あまりにも幸せすぎて、現実なのか信じられないだけよ。」 「ユリア、そんなことを言ってくれるなんて、私の方こそ夢を見ているのか?」 思わず頬をつねそうとしたので、そっとカイルの手を止める。 「もう、カイルったら。貴方の顔を自分で傷つけないで。大切な……んだから……」 すぐ目の前というあまりにも密着した状態で、カイルに見つめられてぼぼぼっと頬が紅潮する。 「ユリア、そんな可愛いことを言ってくれるなんて、責任はとってもらいますからね」 「責任って…昨夜も…沢山……」 「ユリア……」 言葉は優しいのに、貪るように唇を重ねてくる。 「カイル……待って……」 「もう、待ちません、ずっとずっと我慢してきました……あぁ…かわいい……ユリア……私のものです誰にも渡しません……どうして計画を全て打ち明けてくれなかったのです?」 赤い愛の痕を残しながら切なげな声でカイルが問いかけてくる。 「カイル……ごめんなさい…あなたを巻き込みたくなくて……」 「あなたが死ぬ気だと分かっていました。だから私も万が一の時は、後を追おうと覚悟していました……けれど、倒れた貴方を見た時、やはり我慢ならなかった。貴方を死なせるものかと必死で……気づいたら、あなたをあの場から連れ去っていました……」 「カイル……」 嬉しくて、頭がぽーっとする。 朦朧とする中で、ふと疑問が残る 「カイル、もしかして……死ぬつもりだったの?」 「ユ

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