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79

Author: さいだー
last update Last Updated: 2025-09-09 17:30:43

「いよいよ明日か……」

 ここ二週間の準備期間は本当にいろいろとあった。

 ようやく協力してポスターの制作を開始したと思ったら、そのポスターが紛失したり。

 凛が最後に持っていたからと凛が疑われたっけ。

 まあ、結局あれは凛の不注意で棚の後ろに落っことしていただけだったから事なきを得たけど。

 それにしても、あの時の陽川の怒りぶりは吉岡ですらビビっていた。

『凛を侮辱するならあなたのことは絶対に許さないわ!』

 そう啖呵を切った時はさすがの俺も割って入った。

 陽川にとって、凛はエマと同等に守らなければならないものになったのだと、クラスの皆が理解した事件だった。

 みんな陽川には一目置いているせいか、凛がいる場所で陰口を叩く連中がいなくなったのは良かったと思う。

 相変わらず、俺が一人の時はヒソヒソと噂話をしているクラスメイトもいるのはたしかだけど、それは俺が舐められているだけのことなのだろう。

 でも、それならそれで良かった。

 凛に被害がおよばないのなら、俺は別に耐えられる。

 なんでそんな風に思うのかは俺にもわからない。

 凛の顔に幾度となく怪我を負わせてしまった後ろめたさからだろうか?

 はたまた別の感情から来るものなのかは今の俺には判断がつかない。

 ふと、窓の外から飾り付けられたクラス内の様子をみて、そこに広がっているのは、当初では考えられなかった景色。

 お互いを称え合い、同じ柄のクラスTシャツを着る。そこには団結力があった。

 学園祭と言うイベントを通して、クラスが一回り大きくなったような気がする。

 教卓にいる。横島先生もその光景をみて幾度となく頷きを繰り返す。

 横島先生にも相談をしていたからいろいろと思うところがあるんだろうな。

「どうしたのよ?窓際で一人黄昏れちゃって」

 そんな俺を不便に思ったのか、陽川が声をかけてきた。

「なんかいいなーって思ってたんだよ」

 俺が見ている光景を確認するように陽川は振り返る。

 そしてポツリと一言。

「たしかに、そうかもしれないわね」

 いつもの陽川とは違う、柔らかな口調。

 優しく体を包み込むクッションのような包容感を感じだ。

「ところで、ポスターの貼り出しにあなたは行かなかったのね」

 完成したポスターはとても簡易的なものだった。

 1-cとゴシック調の文字でクラスを示し、『推し発』と文字を定規で測り
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