Mag-log in青墓は蛭人間であふれ、マップアプリを真っ赤に染めるほどだった。その赤い点滅の渦が収束する中心点が私たちの目的地。ミサさんが実況していそうな場所だった。ただ、ビーコンの位置はあやふやで、ミサさんがそこにいるかどうかははっきりとしていない。危険度MAXの渦の中心に行くからには確信が欲しかったのでDに聞いてみた。「今ミサさんの実況は見れないの?」 実況が見られたら倉庫の広場にいるかわかるかもしれない。「実況はリアタイで配信できないんです」 配信前に運営の検閲が入るのだそう。「そのせいでスマフォもカメラもヤオマン製しか持ち込めません」 サーリフくんが頭が目玉のオヤジになったスティックカメラを見せてくれた。「まあ、人が死ぬのを流されてもな」 とサダムさんがさらっと言ったのが余計に怖かった。そういうシチュエーションを何度も見て来たように聞こえたからだ。「隊列」 寸劇さんの抑えた号令で三角隊形を組む。近くに蛭人間の気配を感じて身を低くする。寸劇さんのフィンガーサインでみんなが前方を見た。 樹海の下草の先に蛭人間の壁があった。体を密着させて延々並んだ様子は、まるでそこから向こうに行かせないかのようだ。「マップを」 寸劇さんの指示でサーリフくんがマップを出す。マップを見ると渦の様子が変わっていた。蛭人間の赤い列が弧を描きながら中心に向かって続いている。「一つを突破しても、すぐに壁に当たるな」 サダムさんが眉間に皺を寄せている。この突破はかなり難易度が高いようだった。 「メンバー優先の観点からここは撤退する」 寸劇さんの判断は早かった。そう宣言されたら私はもう反対できなかった。寸劇さんたちが後退を始めた。私もそれについて行こうとしたらDが、「ここまでありがとうございました。あたしは一人で中心に行きます」 私は振り返りDの顔を見た。悲痛な顔をしているかと思ったら、あんがいさっぱりした表情をしていた。ことの重大さが分かっていないのかと思って、「無理だよ。一旦引こう」 Dはそれを聴き入れず、「タケルさんは、安全な場所で待っててください。ミサはあたしがきっと連れ帰りますから」 寸劇さんたちも立ち止まってDを見た。すると寸劇さんがDに、「勝算は?」 と聞いた。「あります。ビジョンです」 ベッド・イン・ビジョン
私とDは寸劇さんのパーティーに守られて青墓の樹海を進んでいた。先頭に寸劇さん、私たちの両脇をサーリフくんとサダムさんが固めていてくれた。 それにしても寸劇さんはデカかった。見上げる巨大な背中は屏風岩のようだ。時折緊張した筋肉がビシビシと音を立てる。これはどんな音だろうと思いながら小説で書いたのだったが、実際に聞けたのは嬉しかった。「団長、これ見てください」 サーリフくんが隊列を崩し前に進み出るとスマフォを寸劇さんに差し出した。寸劇さんはそれを見て、「ゆゆしき事態だな」 停止の号令をかけた。そしてそれをみんなに見せるよう指示した。サーリフくんのスマフォには画面いっぱいに赤い光の点がひしめき脈動のように点滅してた。 それはスレイヤー・R専用のマップアプリで、参戦しているスレイヤーたちに青墓に放たれた蛭人間の位置情報を知らせるためのものだった。普段なら、広い青墓全体で十数体の蛭人間しか出現しないので重宝されているが、この表示ではまったく役立たずだった。「500体か。たしかにゆゆしいな」 サダムさん言った。「これ既視感あります」 Dが私に囁いた。私もそれを感じていた。小説で寸劇さんたちのパーティーが壊滅した晩も同じように青墓中に蛭人間が溢れかえったのだった。3人は一晩中蛭人間の攻撃を受けそれに堪えて生き延びる。しかし、朝になって休息を取っているところをヴァンパイアの襲撃に遭って全滅する。「ミサを探されたくないのかも」 Dが青墓の森の木を見上げながら言った。 これもまた繰り返しならば、それが辻沢の意志なのかもしれなかった。 サーリフくんが、スマフォの赤い点滅を指して、「この渦の中心って、倉庫の広場ですよね」 マップの赤い点滅はゆっくりと渦を描いていた。その渦の中心がミサさんが実況拠点にしている場所で、渦はそこに向かって収束しているのだった。つまり蛭人間はミサさんを集中攻撃している?「いそぎましょう」 Dが寸劇さんを促した。それに寸劇さんは少しムッとした顔をしたが、このパーティーの目的を悟って莞爾と笑い、「まあ、待て。やみくもに前進してもやられるだけだ」 とマップ画面を指して、「この渦には風車のように蛭人間が密なところと疎なところがある。我々はこの疎を目指して中心に到達する」 言い終わると寸劇さんはDに目配
ヒイラギ林の流砂帯を抜けて青墓の本体に足を踏み入れたら一段と寒く感じた。着ているものを通して冷気が体を撫ぜていく。ヘッドランプの光が届かない暗闇の中に禍々しい物が蠢いているようで怯えながら進む。青墓の杜の道はどこも積もった朽ち葉がぐにゃぐにゃしていて歩きにくい。 私とDは寸劇さんのパーティーについてスレイヤー・Rの会場を目指している。 私の前を歩くサーリフくんが、「チケットなしだとポイントどうなるんでしょう?」「未登録扱いだからいくら蛭人間を倒してもチャラだろう。最悪垢BANもある」 しんがりのサダムさんが答える。そのまましばらく沈黙したまま隊列は進み、ちょうど横からの獣道と交差する地点に来た時、先頭の寸劇さんが立ち止まり、「だな」 と振り返って言った。 一行はそこで二回目の休息を取ることになった。寸劇さんたちは、その場で今夜のスレイヤー・Rの位置づけを話し合っっていた。私とDはその側に腰掛けて待っていたいたが、急に寸劇さんが、「あんたらもどうするつもりだったんだ?」 と聞いてきた。私はどうもこうもなかったのだが、Dが、「あたしたちは人探しに来たんです」「いるなそういうの」 寸劇さんはスレイヤー・Rで人がいなくなるなんて珍しくもないといった反応だったが続けて、「写真あるか?」 と聞いてきた。それでDはスマフォを出してミサの写真を見せた。「ピンク髪女子か。この子なら何度か見かけたことがある」 とそのスマフォをDの手から取って他の二人にも見せた。それにサーリフくんは、「見たことがあります」 サダムさんは少し眉間に皺を寄せて、「俺も知ってる」 と言ったのだった。Dはそれを聞いて何か言いかけたのだが、寸劇さんが制して、「探すのを手伝おう」 と言った。 それでまずミサの情報を寸劇さんたちと共有することになった。・ピンク髪(染めている)で黒いメイド服を着ていて背格好はDくらい。・行方不明になったのは2週間前の定例。・ビーコンがあるが位置は青墓ということしか分らない。・LINEの既読はなし 情報を確認しての寸劇さんの感想は、「生きてる保証はないな」 私が思っていても口にできなかったことを寸劇さんは言った。Dは何か言い返そうとしたけれど声が出ず拳を固く握ったまま下を向いてしまった。 スレイヤー・Rは非
私とDはスレイヤー・Rのために張られた青墓の規制を回避するために、人が踏み込まない流砂地帯を抜けることにした。ヒイラギ林までは獣道を通って順調にこれたのだったが、流砂地帯に入った途端、私は足を滑らせて流砂穴に落ちてしまった。「タケルさん、動かないで!」 先を歩いていたDが私が落ちたことに気が付いて言った。「でも」 ふつふつと沸き立つ砂が足を呑み込み、どんどん中に引きずり込もうとする。じっとしていたらそのまま頭の先まで沈んでしまいそうだった。 私は摩擦を増やせば少しは呑み込む速度が減るかと思って砂の上に上半身を投げだした。顔に吹きかかる砂で息がしづらくなって余計に怖くなってしまった。起き直そうとして両手を砂に付くと、今度は両手が砂に呑み込まれて行く。一番やってはいけないことをしてしまったと後悔したけれどもう遅かった。次に浮上する時は屍人になっているに違いない。「これ掴んで!」 Dの叫び声がした。ヘッドランプの先に黄色と黒の縄が飛んで来た。私とDの絆、トラロープだった。私は砂に引きずり込まれつつある片手を伸ばし、トラロープを掴みに行った。「とどかない!」 トラロープの先端は伸ばした手の数十センチ先だった。するとヘッドランプの光の輪からトラロープが消え、再び現れた時には、私の頭の上に掛かった。私は命のトラロープを掴んで引っ張った。ロープがピンと張られて助かったと思った直後、ロープが力なく砂に落ちた。もがいたせいで砂に胸まで埋まる。かろうじてロープは掴んだまま。「力が入らないです」 Dは左腕が利かないのだった。「どこかに結わえて!」「やってます!」 ロープがピンと張るのを待って体を引き上げる。砂の抵抗が大きくて体がなかなか抜けない。「ダメだ!」「fdjshgs!」 Dがわめいたが何を言ったのか分からなかった。すると急にロープがぐいぐいと引っ張られて、そのおかげで私は砂から体を引き出すことが出来た。ロープを頼りに流砂穴の縁まで来ると、腕を掴まれものすごい力で引っ張り上げられた。「大丈夫か?」 立ち上がって見ると遥か上に顔があった。2mを超える大男、寸劇さんだった。「どうして?」 スレイヤー・Rに参戦しに来たのじゃないのか?私の質問の意味が把握できなかったのか、寸劇さんはしばらく黙っていたが、「あ
私とDは辻沢駅前のヤオマンカフェで、迷彩服姿のスレイヤー・Rの参加者がバスを待っているのを見ていた。その中に本当ならこの世に存在しない寸劇の巨人さんがいて、Dはそれを度々起こる「繰り返し」と感じ、私はビジョンの中にレイカを見た時の、―――辻沢の時間軸が狂い始めている。 を思い出したのだった。 バスの時間が来て私が立ち上げるとDが、「怖いです」 声が震えていた。「出直すかい?」 それにはDは首を振り、「ミサを探さなきゃだから」 とバックパックを担いで立ち上がった。 青墓行きの長い列に並んでバスに乗り込む。、「青墓北堺まで」(ゴリゴリーン)(ゴリゴリーン) 中は迷彩服でギュウギュウだった。寸劇さんは前のバスで行ってしまったらしく、搭乗していなかった。 私とDは後からの乗客に押されて車両の中ほどまでに押し込まれた。ガタイのいい男の中でバックパックを前に抱えたDは私に向かって立って、「すみません」 と私の左腕を掴んだ。 バスが発車して左右に揺られながらDの顔を見ると憔悴しきっていて、「あんたこれから大変な思いをするね」 という作左衛門さんの見立てを思い出してしまった。それでDが気がまぎれるようにクイズを出すことにした。「寸劇さんの前世の名前はなんだ?」 私を見上げたDは、なんで今? という顔をしたが、辻沢オタクの血が騒いだらしく、「まめぞうです」「正解。じゃあ、まめぞうの二つ名は?」「お天道様の油注ぎです」 と即答した。まめぞうは背が7尺半(230cm)もあるので「太陽に燃料を注ぐ人」と言われていたのだった。「正解。さすが」「この話好きなんです」 とDは微笑んで、「本当はタケルさんのおばあさまの綽名なんですよね」 祖母は誰にも聞かせたことがない女学生時代のことを私だけに話してくれた。「寮長の目を盗んで冷蔵庫の牛乳を飲んだ」「九条武子(大正三美人の一人)に似てると言われていた」(これは他の人には言ってはいかんよ) 等の話の中に、「背が高かったから級友から『お天道様の油注ぎ』と呼ばれてた」 というのがあって、それをキャラに使ったのだった。 そのことは小説の後書きに載せておいたのだが、Dは覚えていてくれたよう。 Dを慰めようとしたのに優しかった祖母を思い出して逆に私の方がほっこりしてしまった。
読者の皆様いつも『少女がやらないゲーム実況』にお立ち寄りいただきありがとうございます。本日の更新は体調不良によりお休みです。次回の更新は、11/19(水)22時以降です。内容は寸劇の巨人さんの出現で新たな状況になる中、たけりゅぬとDはスレイヤー・Rに参戦しますはたしてレイカ(ミサ)は青墓にいるのでしょうか?どうかお楽しみにたけりゅぬ