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第4話

Auteur: 水鏡月聖
last update Date de publication: 2025-07-03 15:21:21

「あれ? 加藤じゃん。偶然だな。なにしてんの?」

 ――隣に立っているわたしに一瞥しただけで空良に話しかける重光君。本当は偶然なんかじゃない。その日、重光君がそこに行くことを友達と話していることを聞いたわたしが空良を誘って出かけたのだ。こんな風に偶然を装って出会えるように。

「ねえ、せっかくだからどっかに座って話でもしようよ」

 ――ずっとわたしが言いたくても言えなかったような言葉を空良は出会い頭一分で言ってしまう。

「あたし、重光君のこと好きになっちゃった」

その日の帰り道。空良は重光君のことを好きになったと宣言した。

 悪いのはわたし。初めに空良に自分が重光君のことを好きだと言っておけばこんなことにはならなかったかもしれない。だけれども空良の気持ちがすでに動き始めた今更となっては「自分も重光君のことが好きだ」だなんてとてもじゃないが言い出せない。それはあきらかに卑怯だ。

 二人は間もなく恋人同士になった。わたしはそれを祝福した。せつない想いだったけれども、うれしくもあった。重光君のことは好きだったけれども、それ以上に空良のことが好きだった。

 二人の幸せを壊すつもりなんてなかったし、壊さないままでわたしは重光君とも、空良とも一緒に居られることができるのだ。そんな幸せなことはない。

 ちょうどその時期。マスコミでは毎日のように話題にされているのが『出産軽減税率』だった。独身者から重い所得税をとり、その税金を育児家庭の支援に回すというものだ。

とあるアンケートの結果、二十代の男性のおよそ30パーセントが将来、結婚を希望しないと答えた。これは結婚、育児をすることによってかかる費用と労力を考えれば致し方のない事なのかもしれない。結婚などせず、自分で稼いだお金を自分のためにだけ使い、将来的に子供に残してやろうなどと考えなければ、それほどの収入がなくとも裕福な生活ができる。少なくとも既婚者に比べれば……

 世間の意見は賛否両論あったようだけれども、当時高校生だったわたしの周りではおよその意見が『賛成』派だった。その頃は誰だって自分が生涯独身だなんて考えてもいなかっただろうし、税金を支払うという立場でもなかった。

 それにわたし自身、特別な理由もなく子供を産まない人生を選ぶ人間はずるいと思っていた。自分自身のためだけにお金を使い子供を育てることの苦労もないまま悠々自適にその反省を過ごした老後に、子供世代が働いて稼いだ税金で老後を過ごすというのは虫が良しぎるのではないかと考えていた。

 年金は老後の自分のために支払うものではない。自分たちの子供時代に社会を築き上げてくれた大人世代に感謝の想いで、老後の生活を支援するという形で恩返しをするための制度だ。

 高校三年生の時、十八歳になって選挙権があたえられ、その最初の衆議院選挙の争点が正に出産軽減税率の施行だった。

 この選挙の結果、出産軽減税率は施行されることになった。

 四枚目の写真。ひとり暮らしを始めたばかりのわたしの部屋で、正輝さんとわたしが並んで笑っている写真。二人が初めて恋人同士になった頃の写真だ。

 高校を卒業すると空良は都会の大学に進学し、わたしと重光君は地元に残り友人として過ごした。あまり触れてはいけないと思いながらも会話の中で空良のことを話すこともあった。

 雨の激しく振る日のことだった。

「本当はずっと前から朋絵のことを見ていたんだ」

 彼の突然の言葉にわたしはすぐに返事ができなかった。

「正輝のこと、アタシの替わりに面倒見てやってね。あいつ、あれでけっこうだらしない奴だから」

 空良はわたしのことを責めるどころか応援してくれた。

 そしてわたしは重光正輝と恋人同士になった。

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