Mag-log in「つまり、『相手の感情が視える』。その中でも『負の感情だけを吸い取ることが出来る』というわけか……」
「多分。貴方みたいなお堅い人は自分の心なんて覗かれたくないだろうけど、でも見た感じ……今は『好奇心』の色が強いです。合ってますか ?
……薄い橙色で『楽』に似てるけど、違う。けど、そんな感じに視えたりするんです。
どっか触っていいですか ? 」翡翠が返事をする前に涼は肩に手を置く。
「どうですか ? 『好奇心』は消えた ? 消えてないと思うんです。
多分、人の持つ感情の中で、『吸えるものと吸えないものがある』んだ」
翡翠は眉を寄せると思わず涼の肩を揺さぶる。
「俺から吸った負の感情ってなんだ ? 俺には別にそんなものは !! 」
突然取り乱した翡翠に驚きながらも、涼は一度深呼吸をして翡翠の手を握り返す。
「はっきり言えば、貴方からは深い『哀しみ』を感じたから。
普段はそんな事を吐き出せない立場なのは分かるけど、俺も分かってしまうんです。 だから……」言いかけた涼の言葉が途中で止まり、自分が握り返した翡翠の手の違和感に気付く。
「…… ??? 」
白い手袋の下。
温もりこそ感じるものの、人の手の感触では無いと気付いてしまった。(義手…… ? なんか硬すぎた気が…… ? )
思わずパッと手を離し、不味いものを見てしまったと翡翠を見上げた。
だが、それには翡翠は冷静だった。「そうか。つまり……お前には詰まらん意地や虚勢は見え透いてしまうということか」
「……そ……言う事……ではありますが……。別に俺も悪意は……」
「ああ。『城』で生き残るために自分の感情を視る力の補正を望んだお前に、『核』はその力を『相手の負の感情を吸う』所までバージョンアップさせたわけだ」
「でも……。こんな力で……どうやって……。本当に話は終わってなかったのに……」
「それが本当なら『城』がお前に与えた正しい能力なはずだ」
「そんな……」
嘆き続ける涼を、翡翠はソッと頬に触れる。
涼はその感覚を敏感に受け取った。「き、急になに ! あの、俺 ! パーソナルスペースが狭いというか ! 」
「お前の過去は『城』から聞いている。取り繕わなくていい俺にもそんな趣味はない。
教えてくれ。俺の『哀しみ』と言ったな。そんなに強く視えたか ? 」
「……うん。深くて、絶望と哀しみや後悔の色だよ。
でも、さっき俺が吸い取った時より、少し色味が戻って来てるような気がするんです。って事は、感情を吸っても、また吹き出すって事なのかも」翡翠は涼の肩を抱くと、少しの力で自分の胸に倒れこませる。
ふらふらの腕で押しのけようともするが、涼はまだ万全に力が入らない。唯一安心なのは、翡翠は生前自分を玩具にしたような下品な感情を抱いていないのが視えて安心した事だ。翡翠は涼をグッと引き上げ、後ろから抱き上げるようにして首筋に顔を埋めた。
「ああ。確かに。
不思議だ。お前に触れていると、今までの焦燥感が消えるようだ。とても……幸福な気がする……」「はぁ……はぁ…… ! 急には無理です ! 俺が吸い上げた感情に酔う…… ! 」
「そうだったな。すまない」
そう言いながら、翡翠は何故か涼を離さなかった。
『悪意』 ? 『楽しんでいる』 ? 違った。 純粋に翡翠は『癒し』を得ていた。『無害』だと知ると、涼もなんだかどうでも良くなって、グルグル回る脳裏の中、深く考えず口をついて出る言葉だけをお喋りし始める。
「手袋しててこのくらいだと、素手で触られたらやばいかもしれないです……」
「あまり人に言わんことだな。しかしお前の同居人は野生の勘が強い奴だ」
「あは。京のこと ? 」
「……。
そんなことより、天井の大時計は見たか ? 」
あの不思議に光る藤紫色の時計だ。突然、話題が変わった ? と、涼はキョトンと翡翠を見上げた。
「あれ、時刻を見るんじゃないんですか ? 」
「そうか……気付いていなかったか。白い針はお前の死の時刻を現している。そしてそこに重なるもう一対の黒い針。それがどこまでカウントされるのかは知らんが、黒い針が『城の定めた時』まで動けば、この場所から解放されるらしい」
「それって !! ここから出る方法 !? 」
涼にとっては喉から手が出るほど欲しい情報だった。いや、ここにいる全員が欲しい情報だ。
「一応、ここに来た囚人全員には話している。だが、俺の知る限り……今まであの黒い針が動いたところを見たことはない」
「…… ? それが天国行き ? 黒い針が動かないとこのままってこと ? どうすれば動くの ? 」
「全く分からない。この執務室にも正確な情報はないんだ」
「……なにかの条件次第か……。
他に方法は無いのか ? ここから出る方法」涼は頭を翡翠の肩に預け、仰け反って翡翠を見上げる。
その翡翠の絶望の色が一瞬で戻りそうになるのを感じた。足元からザワザワと涼の身体を侵食するように這い上がってくる、冷たい植物が巻き付くような感触だ。「ある。もう一つだけ」
「え !? 」
「一ノ瀬 涼。この力を上手く使い、囚人生活を上手く送る方法を教えよう。
その代わり、調べて欲しいことがある。この『城』からの脱獄に関する事だ」「 !? 分かった ! 聞くよ ! 」
翡翠はソッと涼を抱えあげると、デスクのそばの椅子に座らせる。革張りでリクライニング用に置かれた物だ。
翡翠はその側、仕事用の椅子に座ると、机の鍵を開け、引き出しを開けると更に二重底になっている場所から小さな桐の箱を取り出した。「何が入っていると思う ? 」
「知らない。そういうオカルトな能力は持ってないから」
翡翠がそっと箱を開けると、そこには人形の瞳、『ドールアイ』の片目が入っていた。
「戻りました。 続けます」 涼が再び椅子に座ると、サタンは作ったような笑みでテーブルに身を乗り出して来た。「な ? ひでぇだろ ? 神なんていねぇのさ。囚人がここにいるのがその証拠じゃねぇか ? 」「『癒し』を受けないんですか ? 」「ルストも俺も、最初からそんな気ねぇんだ。ただ、本当に『城』が俺たちに『癒し』が必要と判断してんならよ。あんたゲロ吐いたりしねぇと思うんだよなぁ〜」 これに思わず京の視線が泳ぐ。 今の段階で涼の耳に入れたくない話だ。「『癒し』を受けないなら、帰れよ」「京、お前も反省や後悔なんてしてねぇクチだろ ? 俺たちと似てやがるよなぁ ? 人は悪魔に近いものさ。罪を犯さない人間なんていないんだから。だからこそ俺たちは『城』に来たんだろ ? それを『癒す』ってんなら、その方がおかしいだろ ? 」 サタンが一人、涼に話し続けるところを、今度はフェンランがやってくる 。「サタン。そう思うなら今日は出直しな」「フェンランか……。なんだ ? もう俺が怖くねぇのか ? 」「やめろ。だがお前の言うことに興味がある。後で話を聞かせて欲しいのだが」「……。驚きだな。いいだろういいだろう。 じゃあ、涼。今日はここまでだ。『癒し』について、『悪』だと認めたら俺たちの仲間になるといい」 涼はそっぽを向いて拒絶する。 サタンはルストを連れて、囚人塔へ戻って行った。 フェンランと京は一度だけ小さく頷き、互いに離れた。「サラ。次の人をお願い」「え ? 本当に体調は大丈夫 ? 」「大丈夫。少し相性が悪かっただけだよ」 涼は深いバイオレットの眼を群衆に向けた。 ボー……ン。ボーーーン……。 また鳴り出した大時計の鐘の音に囚人達が頭上を見上げる。「黒い針が&helli
「俺はサタンと呼ばれてる。勿論、本物じゃないよ。ククク。 俺は長い事……悪魔の言い分が大好きでなぁ。崇拝してきたんだ ! 神なんかいるかどうかも分かんねぇが、悪魔は確実にいるのさ」「サタン、『癒し』を受けねぇなら引っ込んでろよ」「京〜。お前なら分かってくれると思うんだけどな〜 ? 涼は罪深い少年だよなぁ〜 ? 」「知らねぇよ。好きでやってんだ。 サラ、こいつ引っ込めろ」「で、でも予約は取ってるし……。涼くん、どうする ? 」「別に……話は聞くよ ? 」「ほーん。いいねぇいいねぇ。じゃあ少し語り合おうか」 サタンは椅子に腰を下ろすと、自分の取り巻きの中から一人の男を手招きして呼んだ。「『癒し』て貰いてぇのはこいつだよ。 その前に、本当にこいつの罪が視えんのか ? 」「視えますよ」「当てずっぽうじゃねぇのか ? 」「いいえ。ちゃんと視えます」 涼とサタンの間に緊張が走る。「証明しますか ? 手を」 涼はサタンに呼ばれて来た取り巻きの男の手を取ろうとする。 その間もサタンは喋りっぱなしだった。「じゃあ見せてみな。原罪が本当に分かるのか……。皆も興味あるよなぁ〜 ? 俺の話はそれからだ」 涼が取り巻きの男と対峙する。「こいつぁ、ルストってんだ。視てみな」「……ええ」 ルストと呼ばれた男は豚のような体格だが、優しい目の無害そうな男だった。年齢は三十前半くらいだろうか。自分と同じ日本人か、あるいは近くの国民に見えるが、問題はそこではない。 過去にこの男が犯した原罪だ。 繋がった手と手から感情を吸い上げ、左眼でその色から記憶を視る。 煌びやかな電子音と若者達の笑い声。『取りやすくしてあげよ
薄暗い空間に怪しく揺らめくキャンドルの灯火。植物の緑と、古めかしいカフェテーブル。 上座に座る少年の銀の髪にキャンドルのオレンジ色が重なり、集まった群衆達を見つめる鮮やかな紫色の瞳。 囚人達から見てその姿はどこか神々しく、特別な存在に見えた。「次の方ですね、どうぞ」 サラが恭しく最前列の男性をエスコートする。京は涼の真後ろでその『癒し』を見届けていた。 涼の前に座った男は酷く気落ちして項垂れている。「緊張しないで。大丈夫、今日で終わります。手を出して」 涼が男に手を差し伸べる。「俺は……確かに見て見ぬふりして生きてきた。でもそんなに大きな罪なのか ? 」 男には深い疑念の色。反省や後悔の感情色がない。一体、何故なのかと、今度は左眼で男の過去を遡る。 ──課長、その辺にされた方が。 この男の声がする。 ──止めて ! 課長、止めてくださぃっ ! 泣き叫ぶ若者の声と、何かを身体にバンバンと打ち付ける音。 ──うちの営業課、やばいな。今年でもう四人死んでるよな ?「俺が止めるべきだったのか…… ? でも、クビになったら仕事はどうする ? 俺じゃない。悪いのは課長じゃないか……」 闇。 この男は闇を彷徨ったまま、『城』で生き続けて来た。 この男にとって、未だ『城』の生活は始まっていない。何故この『城』に来たのか。犯罪者ばかりがいるとすれば、自分の行いはそこまでの悪事だったのか自問自答の毎日だった。 涼がそっと手を握る。 男の戸惑いと疑念の色を、重ねた折り紙から引き抜くように吸い上げていく。「本当に悪いのは貴方じゃない」「……そう……だよな ? 俺は……。 そうだよ。悪いのは課長だよな ? 」「でも、確かに貴方は止められたかも
食堂で並んでいると、同じく最初の食事時間帯のフェンランが声をかけてきた。「あんたら……朝からやってたんだって ? 」「フェンラン ! お礼言いたかったんだ。女性の皆さんが色々手伝ってくれて、凄い集中できるようになってたんだ」 涼は目を輝かせながらフェンランを見上げて、朝の様子を語る。 その側では陳からビーフシチューを受け取った京が、なんとも青い顔をしているのを見て状況を察する。「女達はわたしが指示した訳じゃないよ。お礼は本人たちにいいな」「そうなんだ……。てっきりフェンランの指示かと思ってた。 俺も朝早くてびっくりしたけど、腕慣らしに、皆んなにも『癒し』をさせて貰ったんだ」 フェンランの眉が跳ねる。京も同じく、トレイを持ったまま足を止めて涼に振り返った。「あそこにいた女、全員癒したのか ?! 」「うん。だって手伝ってくれるって言うし、俺に出来るのはこのくらいだからね」「……そう……。いや、止めはしないよ」 フェンランは口では承諾をするが、明らかに動揺している。涼はあくまでも善意でやっている。しかし京とも視線が絡んだ。その目が訴えている事に同じ焦燥感を抱えていると気付いた。「食後もやるのかい ? 」「うん。もう予約の人いっぱいなんだ。前倒しで何人かこなしたんだけど、まだまだいっぱいなの」「……大変だね」 トーストを受け取った涼は、目の前で豆カレーを食べる男を見つけ、ニコニコと京に絡む。(見た ? また豆カレー ! )(やめろ ! 聞こえんだろ、バカ ! ) フェンランは離れて行く前に京を呼び止めた。「『癒し』の合間、休憩を取れるかい ? 少し話しでもどうだい ? 」 京は人の身体なら隈のありそうな虚ろな目で頷いた。「……ああ。それがいいか。俺も話してぇと思っ
──…… ! ────っ ! 朝。 廊下がとにかく騒がしい。 正確には廊下の遥か下。一階だ。 気付いた京がもしやと身を起こすと、既に房の中は静かだった。房所か、この階自体の人が少ない。 涼は既に起きていたようだ。 昨晩、そのまま会話も無しに寝てしまった。房から出て廊下から下を見下ろす。 偶然通りかかった者に聞けば、既に点呼は済んだあと。 参ったように溜息をついた。 涼が来る前は、京は誰かと同房になると絶対に夜は眠らなかった。昼に起きたまま浅い睡眠。そして早々に追い出すように相方を追い出す。これの繰り返しだ。 京にとっても同世代の涼、それも全く悪意なく自分に笑いかけて来る姿は昔飼っていた愛犬 クロを彷彿とさせることもあった。 今朝の『癒し』は二人でエントランスに行くはずだったが、涼は声をかけられなかったのかもしれないと思うと、少し心が痛むような気がした。 同時に、勝手な行動にも腹立たしく思えても来る。 兎にも角にも、行ってみるしかない。 京は房の中をチェックすると、エントランスへ向かった。 □『おい、押すなよ』『だって見えねぇじゃん』『ねぇ、ちょっと可愛いかも』『分かる。なんか堂々としてきたらカッコイイかも』「……どうなってやがんだ……」 一階に降りてすぐ、人混みに立ち往生した。京がそれを掻き分け、エントランスへ辿り着く。 そこで見た涼は、この『城』に来てから一度も見た事のない光景を繰り広げていた。 エントランスホールの囚人塔への出入口と庭への出入口はほぼ直線。左手は壁際で、右手は何も無い広い空間だった。最初は応接用のソファやピアノ、そんなリラクゼーションの為の部屋だった。今では何もかもが剥ぎ取られて物が無くなっていたエントランスだが、そのホールを腰まである高めの植物を鉢植えにし、境い目が出来ていた。 群衆がそこから押し寄せないため
食堂で食事を済まし、シャワーから戻ったところで再び房のベッドで顔を付き合わせる。 本来なら互いにうんざりしてしまう様な同房生活。 しかし涼にとって、同世代に見える京に対し、他の囚人とは違った。「いつも同じ時間に作業服のおじさんがいるじゃん ? また豆のカレー食べてた ! 」「好きなんだろ」 京の脳内は激しく回転しているが、心ここに在らず。涼に上の空の返事を返した。食事中も京のスプーンは度々止まっていた。「京はどうして夜にシリアルを食べるの ? 」「夜……寝れねぇ……夜型なだけだよ」「そっか」 涼はニコニコと周囲を見回し話題を探す。涼にとっては、これが初めての青春──友人だった。 時代は違うとはいえ、同じ歳で同じ房。気分はどこまでも修学旅行のようなもの。 しかし京は違った。 今まで同房になった者はすぐに京を裏切ったし、すぐに売った。夜中に施錠される格子等、信用出来ないことを知っている。心をすり減らして暮らして来た京にとって涼は猛毒のように自分を壊す存在になった。 タチが悪いのは、悪意の無さと無知な事。 それを放っておけない自分も。「明日から『癒し』スタートかぁ。ちょっと緊張するなぁ。一日何人のスケジュールかサラに聞いてないんだよね」「……」「キャンドルってちょっと楽しみかも。京、火をお願いね。臭いがラベンダーなんだって。京は何の匂いが好き ? 」「……あぁ。匂い ? サンダルウッドとか……」「あ、なんか分かる気がする ! 俺はコンクリート」「ふーん……。はぁ ? コンクリート ? 」「うん。雨降った時のコンクリートの匂い ! 」「それ、今の質問に対しておかしくねぇ ? 」 京はシーツを整えるとバサリと仰向けに寝転んだ。「もう寝るの ?」「お前も早めに寝た方がいいぜ。明日から毎日体力持つのか ? 」「んー。もう少し話そうよ」「……いや、もう
涼に手を握られていた最初の男は立ち上がると、大きく手を突き出してギャラリーへ振り向き宣言する。「俺は ! ギャンブルを辞める ! 」『城』一番の賭け事好きのこの男の妄言に、全員が渋い顔で笑う。「おい、気でも狂ったのか ? お前さんが辞めるだなんて」「いいや ! 辞める ! 手始めに持ってるこの金、全部今回の報酬だ ! 涼 ! 持ってけ ! 」「え"っ !!? 」 突然ポケットから思った以上の札束をテーブルへ叩きつけられ涼も可笑しな声が出る。
涼は食堂へ行くと、陳にサンドウィッチの礼をと思ったが、他の囚人が多く何も言い出せないままトレイを持って並んだ。 前の前の囚人はトーストとポーチドエッグを、前の男は豆のカレーとナンを、涼のトレイには納豆と生卵が白米と並ぶ。陳は涼と目が合うと「言いたいことは分かってる」というようにサッと手を上げ、すぐに作業に集中する。 涼が会釈をしてテーブルへ来ると、隣にいた男たちに話しかけられた。「お。今話題の」「涼ってんだっけ ? 『癒し』っていつやんの ? 」「あ、おはようございます」 涼は素直に問いに答える
「最近入った、涼って子供を知ってるかい ? 」「ああ」「少し気になることがあってね」「俺に出来ることは無い」 ブレードは視線を闇の先に向け、はっきりと拒絶した。「助けろって話じゃないのさ。どうか、あの子の話を聞いておくれよ」「何故俺にそんなことを言い出す」「涼の眼を見たかい ? 」「……見た」「あんたなら、何か……」「出来ん。 だが悪意
涼が囚人塔への扉を潜ると、困ったように待ち惚けするフェンランが立っていた。「あれ ? フェンラン……どうしたの ? 」「涼……翡翠の旦那に呼ばれてたのかい ? 」「うん。『癒し』の力を使うのに時々」「時々 ? 頻繁に執務室へ行ってるって事かい ? 」 フェンランが知る限りでは、先日サラのファイトの際に昏倒した時のみだった。「最初からそういう約束なんだ」「……そう……