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11. 翡翠と涼

Penulis: 神木セイユ
last update Tanggal publikasi: 2026-02-19 17:00:00

「終わったか ? 」

 近付いて来た足音に翡翠の方から扉を開けて迎え入れられる。

「うん。魔法使いは本当に駄目だった」

「はは。まさか本当に言ってみるとはね。

 さぁ、これから『城』での生活が始まる。殆どの者はここへ来ることは二度と無いが……お茶くらいはご馳走しよう」

「……まるで最後の晩餐みたいだね」

「君は突然死では無かったな。最後の晩餐を済ませて死んだか ? 」

「そういう話はもう、したくないです」

 翡翠の質問に悪意を感じた涼は、肩に置かれた大きな手を思い切り振り払う。

 その瞬間──

 ヒュウ……────

 一凪の風が二人の間を駆け抜けるように。

 何かが起きた。

「 !? 」

「今のは…… ? なんだ…… ? 」

 涼と翡翠、それぞれに走る感情の流れ。

 強制的に感情を捻じ曲げられるような感覚。

 涼も体感したことのないものだったが、『城』に要求した事を思い出す。

『人の感情が視える力の強化』

 それは。

 今目の前にいる翡翠を見れば一目瞭然だった。

 執務室に来た時に視た翡翠が持つ絶望と哀しみの暗く深い青色が、今はなんとも薄まって視える。

 そして気付いた。

 翡翠の手を払った自分の人形の指先から、不必要な程伝わる快楽的感覚。それは人の行う性的快楽とは別の種類のなにかであった。

「うぅ……」

「大丈夫か ? 」

 しゃがみ込んだ涼を翡翠が支え、ソファに座らせる。

「なぁ、触んないで。なんかこれ、おかしいかも……」

「身体に異常は無さそうだが ?」

 翡翠は無遠慮にペタペタと確認するようにまさぐって来る。

「違う。そうじゃない……。俺の……能力だ……多分 ! 」

 未成年の涼にとって初めての感覚で、上手く例える事が出来ない。言葉足らずな涼の姿を見て、翡翠は何かを察した。

「一体何を願った ? あの『核』は『酔うもの』の類は厳しい審査があるが……」

 涼の紅潮した顔と、くたっとソファへ無防備に転がる姿を見て、翡翠は真っ先に酒や薬物の可能性を危惧した。

 飲酒用ではないアルコールを『城』と契約した者もいた。その者は酷い潔癖で消毒用として願ったのだ。今はそれを加工し横流ししてはいるが、黙認されている。決して全ての娯楽物品が禁止ではないのだ。

 しかし妙だと翡翠は涼から離れ、鋭い瞳で見下ろす。

 涼の今の状態では、とてもじゃないが足腰がいうことを効きそうにない。それほどフラついている。

「失礼。聞くのはマナー違反だったな。だが

 ……」

 しかしその姿に、翡翠自身とてつもなく感情を刺激された。

 初めての感覚だ。

 一目惚れや、性的要求とも違うものだった。

「何が起きたんだ ?

 確か……お前は人の感情が視えることに苦痛があったそうだな。『城』から与えられたデータではそう聞いている。その類か ? 」

 極めて他人に心を許さない事は、管理人の翡翠としては有効な性質だと自負していた。

 それが今、涼によって、何らかの条件により崩されたのを感じたのだ。

 涼も理解していた。

 翡翠から滲む哀しみの色が薄まると、美しい白い霧のような帯を纏い始める。この白という色は、絶望の黒に視える感情とは真逆の感情の色彩なのだ。

「俺、あんたの感情を吸ったんだ……多分……」

「吸った ? 」

「ねぇ、もしかして何か気分変わった ? 

 もしそうなら……俺は感情が視えるだけじゃなくて……多分、負の感情を相手から吸えるって事だと思う……」

「……」

 翡翠は言われて初めて、自分の感情に気付く。

 この感情は涼に対しての好意的な興味、好奇心、安心感、そして何か肩の荷がおりたような不安感の消失。

「人をコントロールする気か ? 」

「いや、多分そんな万能じゃないかな。この体たらくだし。

 それに、人の感情なんてそうそう変えられないよ ? ……多分、ソレの感覚は一時的なものなんだ……。

    こんな力でどう生きろってんだ『城』 ! 人の相談最後まで聞かずに勝手に決めやがって…… ! 」

 翡翠は不可思議な面持ちで涼の側へ座ると、一度思い悩んでから切り出す。

「俺自身がやめろと言ったばかりだったが……お前さえ良ければ、『城』と何を契約したのか聞いておきたい」

 涼は肩で息をしながら、やっとのことで背もたれから身を起こした。

「俺も文句言いたい。一度きりの願い事がこれ ? ……マジで意味わかんない。帰りたい……」

 涼も恐らく翡翠は他言しないだろうと踏んだ。

 自分が『城』と話した内容を翡翠に伝えることにした。

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