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2.同居人 紅 京《くれない きょう》

last update Date de publication: 2026-02-05 17:00:18

「そ、そんな……」

 涼にとって、これではなんの意味もない。

 全て──消えて無くなりたかったからだ。

 特定の宗教を否定も肯定もしない。

 スピリチュアルに茶々を入れることもなく。

 目の前に神社仏閣があれば、勿論いたずらな事はしない。

 だが、それはモラルであり、信じているかどうかなど別なのだ。

 この世に神など存在しないと確信している。

「うおぉっ !! 」

「翡翠様を呼んでこい !! 」

 とてつもない怒号が飛び交うが、房にいる囚人たちではない。

 遥か下。

 涼はそっと鉄格子に近づくと、そこにある背丈の牢の一部が開くことに気付く。

 キィ……。

 恐る恐る下位層を見下ろす。

 この牢の集まりは漏斗状になっている。そしてその下位層は学校のトラック一周程の広さしかない。そこでは他の人形たちが争い事をしていた。拳を突き上げ、戦う二人にエキサイトしている人形たちに涼は『怒り』の感情が強いのを見て不思議に思う。

「何を……してるんだ…… ? 」

 戦っていた大柄な人形はガラクタのようになった人形を周囲の人形に抑えさせ、大きなナイフでドールアイを抉り出し始める。

「 !!? ……っ酷っどぃ……」

 そこへ当然背後から声をかけられた。

 背後は自分のいた房のはず。

「よう、新入り」

「 !! なんの用だよ。そこ、俺の部屋なんだけど ? 」

「いやいや。あはは、俺は最初からいたんだけど…… ? 全然スルーするじゃん、びっくりした」

 そう言ってクスクスと笑う。

 この男は涼と同じくらいの年齢だ。黒髪に黒のレザージャケット。自分と同じ人形姿だが、衣服やグローブで綺麗に球体関節を隠している。まるで普通の人間と変わらないように見えた。

 そして、この男の強い感情を涼は視る。

『楽』の感情だ。

 人が持つ喜怒哀楽のうち、『楽』が強い。

 瞬時に理解する。この男は状況を楽しんでいる。この状況下で。

 異常だ。

「最初から…… ? 」

「ここはどこも二人部屋。俺たちは同居人ってこと」

「あれ……。あの喧嘩は何してるんだ ? なんで目を……」

「ただの小競り合いさ。要らぬことを言って、袋叩きにされた。

 ま、説明は順番が大事。ここの話をしてやるから来いよ。一時間後に翡翠さんが来る前に、俺に聞いた方がいい事が沢山あるぜ ? 」

「……」

 言われるまま房に戻る。

 黒髪の少年と並んでベッドに腰を下ろす。

「自己紹介な。俺は紅 京(くれない きょう)。年齢は高一だから……十六 ! 」

 差し出された手を握り合う。

「俺は、一ノ瀬 涼。年は高二の十六歳」

「へぇ。近いじゃん。ま、ここじゃ時間や年齢は関係ないけど。俺はもう十年以上ここにいるし、隣の道具屋は八十年ここにいるけど、外見は四十代の人形だ」

「出る方法は無いのか ? 」

 京は妖しい笑みを浮かべ、首を振る。

「そんな簡単な事じゃない。

 ここは『城』と呼ばれてる」

「城 ? 」

「実際にはあの世……つまり霊界に建てられた罪人監獄。それがこの『城』さ。

 お前の死因、何 ? 」

 涼は唇をキュッと閉めると、京のブラウンの瞳を見つめた。

 しかし京の方は飄々としていて悪意がある質問ではなかった。

「『城』に来るやつは決まってんだ。

『殺人犯』『強盗犯、詐欺師』、『強姦犯』とか。色々来るけど、犯罪者が全員来るんじゃない。生きてる人生の中で精算してない奴が来るんだ。つまり罪に問われなかった奴さ。

 あとは『自殺者』も」

「そこが分からない。『自殺』は自分の判断だろ…… ! 」

「殺人だよ。殺す相手が違うだけさ」

「じゃあ、自殺を辞めろって奴は、俺の生活を保証してくれんのかよ !! 」

「落ち着けよ。個人的には、十六歳だろ ? 生きてりゃ次期にあったかもな。そんな生活から逃れるチャンスが。

 でも死んだじゃん。もう無理だろ」

「てめぇっ ! 」

 ここで涼が恨めしい眼差しを向けるが確かに事実、京は正しい。少なくとも、人間の生きる世界ではそう教えられる。

「犯罪者を集めてどうしようってんだ ? 」

「さあね。でも刑罰にしては軽いとも言える」

「ここにいるのが…… ! 軽いっ !? 」

 京は立ち上がると涼に房から出るよう誘う。

「階層にカーストは無い。空いたら次の奴が来る。それだけ。

 さっき城の底で喧嘩してた奴がいたろ ? ああいうのが頻繁な日常だ。だから身体が壊れるやつもいる」

 涼は後ろから京のそばに付いて歩くが、周囲の空気を敏感に感じ取っていた。

 京は恐らく、何らかの形で地位がある。京が歩けば、全員が無言で道を譲っていた。そして京の後に続く涼の顔を覚えるように、じっと見てくるのだ。

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  • 強制狂葬 狂眼ドール   これにてFin〜ありがとうございました

    読了してくださった方、支えてくださった担当さんとXでのリポストなど、全ての方に御礼申し上げます。大変ありがとうございましたm(_ _)m制作小話『強制狂葬 狂眼ドール』の制作について、サスペンスや流血描写を自分の作品上、切っては切れないスパイスになっていて……しかし時代は規制の厳しい年齢制限の時代 ! 何とか打開策はないかと考えたのが、身体を人形の体にする ! 血は出ない ! 修理できる ! 監禁やデスゲーム要素も異界の刑場という事にしてリアル感より気味の悪さを押し出そうと模索しました。強制狂葬、というタイトルの中で「誰が強制的に狂った葬りを受けたのか」は、主人公 涼の他のキャラもある意味当てはまります。しかし他にも……。脱獄という言葉を皮切りにストーリーは進行し、やがて涼は監獄に適応しようとし、それが全てを歪ませてしまう。けれど、最初の歪みはフェンランの存在でもあります。最古の女囚の正体ですね。フェンランを語る上での冥花の存在。あれは……つまり違法な物ですがこれも出すわけに行きませんから、冥界に咲く花を加工する──そうして狂眼ドールの世界は全てはが比喩で作りました。人間が自分の罪を清算するとはなんなのか。どうすれば清算したと言えるのか。それはきっと刑罰を受ければいいとイコールではない。そんなお話でした。これにて連載終了となりますm(*_ _)m長い間ありがとうございました !! では新作でお会いできればと思います!!

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  • 強制狂葬 狂眼ドール   17.藤紫の継承

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    「この石が、『核』の本体だよ」「即身仏……には見えないね。ミイラどころかただの生き埋めだね」「『城』が外法で建ててんなら即身仏も何もねぇだろ。呪物になっただけじゃねぇかよ。元々が呪いの城なんだよ。翡翠に殺されて云々じゃねぇ」「そうかもね。なんの準備もない者がなんの修行もなく出来るはずがないんだ。そもそも法律で禁止されてるはずだよ」「それで ? これ、どうすりゃいいんだよ。壊すのか ? 蛍石って燃える ? 」「お前はなんでも燃やそうとするな。発光するとか割れるという事は聞いた事はあるが……呪いを解くイコール壊す、では無いかもしれん」 どうしたものかと慌てふためく側で、涼がジッと出入口を見たまま固まっていた。「涼 ? どうした ? 」「……やばいかも……」 そのうち、足音が近付いて来るのが分かった。バタバタと何人もの物音は大きな騒音となって執務室へ向かっていた。「どうする !? 」「これが本体ならとりあえず ! 」 涼が石に手を伸ばす。「馬鹿 ! やめろ ! 」 何が起きるか分からないものを素手で掴もうとした涼を、誰も止めることはできなかったら。「う、うわぁぁぁっ !! 」「涼 ! 」 カツンと音を立てて涼の指先に石が触れた途端、両眼が狂った様にギョロギョロと動き出す。「くそ、どうなってんだ」「すぐに離して ! 涼 ! 石を離すんだよ ! 」「は……剥がれない ! 」 目の前の何かを払い除ける仕草をしながら涼はもがいたまま尻餅をついてしまった。 そこへプライドと翡翠がやってきた。後には囚人達がゾロゾロと身を乗り出してついてきていた。「呪いの物と分かっていながら何故荒らした !! 」 翡翠が涼に掴みかかる。「涼、『核』への生贄に選ばれて

  • 強制狂葬 狂眼ドール   11. 翡翠と涼

    「終わったか ? 」 近付いて来た足音に翡翠の方から扉を開けて迎え入れられる。「うん。魔法使いは本当に駄目だった」「はは。まさか本当に言ってみるとはね。  さぁ、これから『城』での生活が始まる。殆どの者はここへ来ることは二度と無いが……お茶くらいはご馳走しよう」「……まるで最後の晩餐みたいだね」「君は突然死では無かったな。最後の晩餐を済ませて死んだか ? 」「そういう話はもう、したくないです」 翡翠の質問に悪意を感じた涼は、肩に置かれた大きな手を思い切り振り払う。 その瞬間── ヒュウ……──── 一凪の風が二人の間を駆け抜けるように。  何かが起きた。「 !? 」

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     翡翠が椅子から立ち上がる。「それじゃあ、終わったら執務室においで」「分かりました」 翡翠が静かに扉を閉めたあと、革靴の足音が遠ざかって行く。「……」 緊張が走る。  涼にとって、この異常な世界で生きる術を今、一時の判断で決めなければならない。  一度深く深呼吸をし、『核』に向かって言葉をかける。「貴方は会話はできる ? 」『お答え出来る範囲だけです』 中性的な声。  機械でもなく、人のような抑揚も無い。不可思議な声質。「質問とかしてもいい ? 」『答えられる範囲のみになります。これは皆、共通の条件です』「分かったじゃあ……。ここから出るにはどうしたらいいの

  • 強制狂葬 狂眼ドール   9.執務室

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