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彼が振り向いた時、私はもういなかった

彼が振り向いた時、私はもういなかった

作家:  塩梅完了
言語: Japanese
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概要

不倫

後悔

家族もの

幽霊目線

切ない恋

癒し

高嶺の花

流産した後、私は一ヶ月間ICUで横たわっていた。 一方、私の夫の藤波時也(ふじなみ ときや)は彼の憧れの人と一緒に各地を旅行していた。 離婚を決意した彼が、ようやく私のことを思い出した。 母に電話をかけ、私がいつまで駄々をこねるつもりなのかと詰問してきた。 瀕死の私を見つめながら、母は心底冷え切った声で言った。 「この子はもう二度と、あなたに駄々をこねることはないわ。満足?」

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KuKP
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タイトル with 有能警察の事件解決物語 警察の人たちが凄かった 主人公がもう一度世界を信じようと思える理由が良かった…良い人生を! 傲慢さと語彙力を投げ捨てたクズ男とクズレベル高めの愛人はちゃんと報いを受けたので安心
2026-05-26 09:29:08
3
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ノンスケ
ノンスケ
ここまで冷たくされて、なぜ愛し続けたんだろう。そんな価値ないクズ男なのに。女も女だよなー。本気じゃなかったわけだし。見る目がなかったんだね。
2025-12-17 20:40:13
7
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松坂 美枝
松坂 美枝
タイトル通りの話だった いやー復活おめでとう! クズ男女もあの世行きおめでとう!! 恩は売らなきゃダメ!!
2025-12-17 09:20:12
8
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11 チャプター
第1話
私、白石雪乃(しらいし ゆきの)はICUに入院していた。流産したその日、大量出血と臓器損傷で生命の危機に瀕していたのだ。笑えることに、私を流産させた張本人は、他でもない私の夫、藤波時也(ふじなみ ときや)だった。事故が起きたのは、彼の誕生日当日のことだった。私は彼のためにテーブルいっぱいのご馳走を作り、自分の手でケーキを焼き、部屋を極上にロマンティックに飾り付けていた。様々なブランド品に加えて、時也のために特別で貴重なプレゼントも用意していた――妊娠したのだ。五年間妊活してやっと授かった命。本当に大切な宝物だ。この子の誕生は、私たち二人への贈り物であり、破綻していた二人の関係を修復できるきっかけになると信じていた。だから彼の誕生日を選んで、この嬉しい知らせを伝えようと思ったのだ。ところが時也は仕事から帰ってくると、大急ぎで着替えて「柚月さんが病院に行ったから付き添いが必要なんだ」とだけ言って、またすぐに出かけようとした。私は信じられない思いで彼の腕を掴んだ。「でも、私こんなに準備したのに……それに、とても大切なプレゼントがあるの……」時也は冷たく私の手を振り払った。「雪乃、柚月さんが一人で病院にいるんだ。俺は行かなきゃいけない!」私の気持ちも一瞬で冷え切った。椿柚月(つばき ゆづき)が再び現れてから、時也はまるで魂を抜かれたようになっていた。かつて愛しても手に入らなかった憧れの人は、時也の心の中で唯一無二の地位を持っている。私は力なく手を下ろした。「時也、柚月さんってそんなに大切なの?私より……大切なの?」時也はうんざりした顔で私を見た。「こんな時に駄々をこねるのはやめてくれるか?柚月さんは昔、俺の命を救ってくれたんだ。今、彼女が困ってるのに手助けして何が悪い?」私と言い争う時間も惜しいとばかりに、彼は先手を打ってきた。「俺と柚月さんの間に何もやましい事はない。いつもそうやって疑ってばかりで、こんなんじゃもう結婚生活は続けられないぞ」彼は私を嫌悪の目で見た。まるで仇を見るかのように。腹が立って、手を伸ばして引き留めようとした。すると彼は私を突き飛ばし、振り返りもせずにドアを叩きつけて出て行った。私は踏ん張りきれず、テーブルの角にぶつかり、そのまま床
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第2話
時也は柚月の点滴が終わるまで付き添い、それから彼女を家まで送った。見ていて分かった。柚月は時也に帰ってほしくなかったし、時也も帰るつもりはなさそうだった。彼女は時也の手に触れながらか細い声で言った。「時也さん、この頃、私すごく気分が沈んでて……二、三日したら体調も戻ると思うから、その時になったらどこか一緒に出かけてくれない?」時也はすぐに労わるような表情を浮かべた。「もちろんいいよ」柚月の父親は経営に失敗し、会社が破産を宣告したばかりだった。落ちぶれた令嬢になった柚月の苦労と辛さを、時也は理解している。さらに精神的な負担の影響で体調を崩し、あちこちが痛いと訴えている。時也はそんな柚月の姿を見て、一心に柚月の面倒を見たがった。「柚月さん、どこへ行きたいか教えて。俺が全部準備するから。分かるだろ、今の俺には十分な力がある。君をしっかり支えられるんだ」柚月は嬉しそうな顔を見せた。「ありがとう、時也さん。あなたがいてくれて本当に良かった」一方、二人の前に立つ私は、その言葉を聞いて惨めな気持ちで笑った。時也は仕事が忙しく、結婚した時も新婚旅行すら行かなかった。結婚してから五年経つが、時也は一度も私を旅行に連れて行くと言ったことがない。一緒に買い物に行った回数さえ、ほんのわずかだ。私は彼の大変さを思いやって文句一つ言わず、彼の生活の世話に心を込めてしてきた。妻としての務めを全て完璧にこなしてきたのに、得たものは時也の冷淡と無関心だけだった。私も何度か、時也の情熱を取り戻そうと努力したことがある。だが化粧をしても、綺麗な服を着ても、時也には何の効果も無かった。なぜなら柚月が現れさえすれば、時也の目には他の誰も映らなくなるからだ。彼が柚月のことで私の事を、この家の事を放り出すたび、私はいつも彼と気まずくなった。対して、彼は冷戦で対抗するか、逆に私を物分かりが悪いと貶すかのどちらかしか無かった。生きている時、私はそれに対して何もできなかった。今、死にかけている時も、やはり同じだ。時也は柚月の家で一晩過ごした。同じベッドで寝たわけではないが、二人の間の曖昧な感情はすでに密かに高まっていた。翌日、私は時也について行った。普段なら仕事を何より大切にする彼が、勤務中にあちこ
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第3話
時也に返ってきたのは、冷たい電子音だけだった。返事が得られず呆然とした時也は、数秒固まった後、苛立ちながらスマホをしまい、再び荒々しくドアを閉めて出て行った。彼はまた柚月のところへ戻ったのだ。憧れの人と一緒の旅行とはいえ、一ヶ月間のハードスケジュールで、時也の疲労は隠せなかった。彼は食事がしたいと言った。柚月は当然のように答えた。「じゃあ出前を頼むわね。時也さん、何が食べたい?」時也は、ほんの一瞬だけ嫌そうな表情を浮かべた。何日も外のレストランや屋台で食べ続けて、時也の胃腸はもう何度も悲鳴を上げていた。ただ柚月はそんなことに気づかない。だが時也はすぐに表情を取り繕い、愛おしげに答えた。「何でもいいよ。君が食べたいものを頼んで」私には分かっている。時也が今一番食べたいのは、家の炊飯器で炊いたほかほかの白米だ。それからさっぱりした野菜サラダとあっさりした味噌汁。時也は薄味好みで、食べられないものが多く、胃腸もとても敏感な人間だ。この世界で、時也の食の好みを全て覚えているのは私だけだった。ネギ、生姜、ニンニクが嫌い。ピーナッツ油も苦手。レバーも食べない。魚もかなり苦手。どの料理はあっさり作るべきか、どの料理は少し濃い味付けにするか。食事に関する細かいことを、私は全て彼のために把握していた。以前、時也が連日外で接待した時は、家に帰ると必ず吐いたり下痢をしたりした。そんな時、私が最もシンプルな家庭料理を出せば、あっという間に彼の胃腸も、気持ちも落ち着かせることができた。だが時也は、私の労力や心遣いなど気にかけたこともなかった。彼にとっては、自分が外で稼ぎ、家族を養っているのだから、私が彼の世話をするのは当然のことだった。もちろん、時也にとっては、柚月が大切にするべき令嬢で、その手はダイヤモンドより貴重なのだ。彼女が料理ができず、白米が炊けないのも、当たり前のことなのだ。出前が届くと、私は時也が箸を持ち上げて容器の中を選り分けているのに、なかなか箸をつけないのを見た。柚月は無邪気に尋ねた。「時也さん、これ好きじゃないの?」時也は笑って首を横に振ったが、眉間には失望の色が浮かんでいた。柚月は鋭く時也の異変を察知し、また尋ねた。「時也さん、外のインスタ映えする料理って
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第4話
母は以前、この結婚生活の中で私がずっと時也を許し、時也に合わせてきたことを知らなかった。母を心配させたくなくて、彼女が聞くたびに、私はいつも繰り返し答えていた。「お母さん、心配しないで。私、とても幸せよ。時也は私をすごく愛してくれてるから、私に辛い思いなんてさせないわ。それに、私だって自分が損する真似なんてしないもの」母はいつも私の言葉を簡単に信じてくれた。今、この残酷な現実が、母を悲しみのどん底に突き落としていた。「時也さん!あなたはなんて人間なの!?自分の奥さんがICUに一ヶ月も横たわってるのに、知らないふりするどころか、彼女が駄々をこねてると言っているなんて!」母がこんなに鋭く大きな声を出すのを聞いたのは初めてだ。私の記憶の中で、母はずっと優しくて、少し臆病な女性だった。だがその女性が今、私のために全世界に立ち向かって尖った声を上げている。「この人でなし!あなたなんかに私の娘はもったいないわ!」時也は頭ごなしに罵られ、一瞬呆然とした。だがすぐに、彼も怒りに任せて反撃した。「嘘つくな、ババア!雪乃がICUに一ヶ月も横たわってるなんてありえないだろ!今までみたいに一人で俺と揉めるだけじゃ足りなくて、今度はお前まで一緒になって芝居してるのか?いい加減にしろ!」私は時也の顔に一瞬驚愕の表情が浮かぶのを見たが、それ以上に多かったのは、軽蔑と疑念と煩わしさだった。この瞬間、私はこの男がどれほど薄情になれるか、はっきりと理解した。母も時也の態度に怒りを爆発させ、声を張り上げて時也に叫んだ。「私の娘は死んでもあなたを許さない!あの子だけじゃない!私だって死んで悪霊になったら、絶対にあなたを許さないから!」時也はスマホを強く握りしめ、首筋に青筋を浮かせた。「黙れ!雪乃が死ぬわけがない!出てこさせろ!たとえ死ぬにしても、俺と離婚してからにしろ!」
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第5話
母は時也の怒号を聞くと、きっぱりと電話を切った。時也も思ってもみなかっただろう。いつの日か、私のせいで、彼がここまで感情的になるとは。柚月の家に戻っても、時也は自分の感情を整えることができなかった。彼は苛立ちながら部屋の中を行ったり来たりし、口の中でぶつぶつと呟いていた。「我が儘になったもんだな。こんなに長く冷戦するなんて!逃げ回ってるのも、離婚から逃れるためだろ!雪乃、お前の弱点が何か、俺には分かってるんだぞ!死んだふりまでするなんて、本当に見くびってたよ……」私は時也の傍らに立ち、皮肉混じりに笑った。そう、私の弱点は、やっと手に入れた家と、必死で守ってきた結婚生活だ。この苦労して得た縁を、私は手放したくなかった。私が大切に育ててきたものを、時也は簡単に踏みにじった。柚月は慌てて時也を慰めようと近づいた。「時也さん、怒らないで。体に良くないわ。雪乃さんは多分、あなたが私に付き添ってるから不機嫌なんだと思う……前に私を突き飛ばした時みたいに、雪乃さんはわざとじゃなかったんだと思うの。どうしても駄目なら、私が雪乃さんに謝りに行こうか?」彼女はわざと悲しそうな表情をしながら、そっと時也の懐に潜り込んだ。時也は柚月を抱きしめたが、顔色は相変わらず険しかった。「あいつに不機嫌になる立場にないだろう。死んだとか言ってきたけど、あいつがあんなに俺を愛してるのに、死ぬわけないだろう?分かったよ。あいつはたとえ死んでも、離婚だけはしたくないんだろうな」時也は不満げにぶつぶつ言い終えた後、表情がゆっくりと冷たくなった。彼は眉を寄せ、額に皺を寄せて、何かを考えているようだった。時也が腕の力を緩めたのを感じて、柚月は時也の服の裾を引っ張った。「時也さん、こんなつまらないことで怒らないで。もう遅いわ、寝よう。時也さん、今夜はソファで寝ないで。その……ベッドで寝たら?」そう言いながら、柚月の頬に恥じらいの赤みが差した。彼女の意図は、言うまでもなく明らかだった。柚月の積極的な誘いに対し、時也は黙り込んだ。私は時也が何を躊躇しているのか不思議だった。どうせもう離婚するつもりなんだから、今こそ柚月と上手く事を進める絶好の機会じゃないか。だが思いもよらない事に、時也は柚月の
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第6話
時也は、私が社会に出て初めてできた友人だった。私は母子家庭で育ち、家庭の経済状況も良くなかったから、ずっと痩せて小柄で、小さい頃からよく同級生に笑われたりいじめられたりした。身長や体格を笑われるだけじゃなかった。彼らは私を父親のいない野良犬だとか、実の父親にさえ嫌われた子供だと笑った。母に心配をかけたくなかったので、いじめに対して、私は逆らわず黙って耐えていた。必死で勉強したのは、母の負担を減らすためだった。大人になって良い学校に行けるようになると、ようやくいじめられなくなった。だがこの逆らわずに耐える性格も、もう変えることが難しくなっていた。私は控えめに生き、自分を隠す事が、より安全な生き方だと感じていた。そうやって良くも悪くもなく大学を卒業し、最も目立たない女の子になった。社会に出れば、私のような性格の人間が搾取されるのは必然だ。最も大変な仕事は、いつも私に回ってきた。明らかに他人の犯したミスなのに、訳の分からない濡れ衣はいつも私に着せられた。私は人付き合いが苦手で、お世辞を言うことも学べなかった。時也が現れるまでは。彼は唯一、上司の前に駆けつけて事実を述べ、私の冤罪を晴らしてくれた人だった。彼も特別背が高くて屈強な人間というわけでも、人を威圧できるような背景があるわけでもなかった。だが職場のいじめを見過ごせない彼は、一途な正義感で私のために立ち上がってくれた。自分の仕事の立ち位置が無事に守られ、理不尽に解雇されずに済んだ時のことを、まだ覚えている。時也は私に小さなケーキを買ってきて、私を祝福してくれた。「これからも理不尽なことがあったら、俺に言って。俺が助けてあげるから!」時也がこう言った時、彼の目に輝いていた魅力的な光を、私は今でも覚えている。あの瞬間、私は救いようもなく彼を愛してしまった。だが時也が私を友人としか見ていないことは分かっていた。だから私も上手く自分の気持ちを隠し、友人として時也と付き合った。時也の励ましで、私は運動を始めて、より健康になった。時也の好みが難しいと知って、私はこっそり料理を習い始め、毎日時也に美味しいお弁当を作るようになった。仕事で難しい問題があれば、一緒に話し合って解決した。彼は私を連れて登山やランニングに行き、私の
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第7話
回想はしばらくやめよう。今頃、疲れた時也は、すでにベッドの上で服を着たまま眠りについていた。ホテルで寝る時のように寝返りを打つこともなく、ベッドの上で時也はとても安らかに眠っているように見えた。早朝に起きた時也は、すぐに家事代行会社に電話をかけた。仕事を受けた家政婦は、仕事がてきぱきしていて、話し上手なおばさんだった。時也の要求通り残飯を片付けた後、おばさんは家全体を掃除し始めた。ベランダまで来て、すでに枯れた鉢植えを見ると、おばさんは惜しそうにしながらも感嘆した。「奥様はきっと生活を愛する方なんでしょうね。この花や草、小さな鉢植えを見てください……」私はおばさんの手が、あの黄ばんだ葉を撫でるのを見て、心がぎゅっと締め付けられた。今、時也への未練以上に、大切に育てたこの植物たちを手放せない気持ちの方が強かった。「残念ですね。見れば分かります。以前はとても大切に育てられていたんですね」時也は冷たい顔でこの言葉を聞き終えた。私は時也が怒り出すと思った。ところが彼は奥歯を噛みしめて、こう吐き出した。「……あいつは確かに、こういうのを手入れするのが上手かったな」時也の機嫌が良くないのを見て、おばさんは口を閉じ、黙々と片付けた。ベランダを拭き終わると、今度はクローゼットを整理しに来た。だがクローゼットの扉を開けると、またおばさんは驚きの声を上げた。「家政婦をこんなに長くやってますけど、こんなに整頓されたクローゼットは滅多に見ませんよ」見渡す限り、服は薄い色から濃い色へ、春物から冬物へと、全て時也の着る習慣に合わせて順序立てて並べられている。時也は家で服を探す必要もなく、今日は何を着ようか、明日は何を着ようかと悩む必要もなかった。下着から靴下まで、私は全てコーディネートして整えておいたから、彼が少しでも気を揉む必要がないようにしていた。クローゼットを見て、それから今のだらしない格好の自分を見る。時也の目に、明らかな動揺が浮かんだ。彼は何か言いたげだったが、口を閉じて寝室を出て行った。おばさんは寝室の片付けを終えると、キッチンに向かった。冷蔵庫の扉を開けると、おばさんはまた驚嘆した。「奥様は料理がとても上手なんですね。このケーキ、お店のにも負けてませんよ!」彼女はすでに
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第8話
母は時也に対してもう何も言うことはなかった。彼女は冷酷に答えた。「あなたに彼女に会わせるわけにはいかないわ」時也の怒りに満ちた顔が、徐々に歪んでいった。「嘘をつくな!もう騙すのはやめろ!雪乃を出せ!死んだなんて、そんなわけがない!ありえない!」母は再び時也の無理解に怒りを爆発させた。「ありえない!?」母も感情的になった。「私の娘は今、目の前で苦しんでるのよ!?なのにあなたはまだ、彼女が嘘をついてるって言うの!?雪乃を安らかに逝かせるの。この一生、もう二度とあなたには会わせない!」母は電話を切り、震える手で時也をブロックした。時也の表情は疲れ切っており、複雑な感情が浮かんでいた。彼は拳を強く握りしめ、少し考えた後、家を飛び出した。私は彼と一緒に車に乗り込んだ。また柚月のところに行くのかと思ったが、彼はナビに従って最寄りの病院へ車を走らせた。病院に入るなり、彼は重症病棟がどこか、白石雪乃という患者がいないか尋ねた。「俺は彼女の夫です。妻がこちらの重症病棟に入院してるか確認したいんですが」看護師は焦る時也を不審そうに見た。「本当に患者様のご主人様ですか?奥様がどの病院にいるかご存知ないんですよね?」看護師は彼を詐欺師か不審者だと決めつけたため、警備員を呼んで、時也を病院から追い出した。車に戻った時也はハンドルを力いっぱい叩いた。隣で見ていた私は、時也も恥をかいて笑いものになったんだから、もう諦めるだろうと思った。もういいじゃない。もう執着するのはやめて、お互いを縛る事もやめて、私を静かに逝かせて。だが思いもよらず、今日の時也は異常だ。彼はスマホを取り出して、警察に通報した。「警察ですか、妻が行方不明になったんです……」時也が電話口で、まるで私の安否をとても心配しているかのように話すのを聞いて、私は可笑しくも、馬鹿馬鹿しくも思えた。離婚することになって、ようやく私という妻がいることを思い出すなんて。警察は時也の通報を聞き、最寄りの警察署に来るよう指示した。時也が真面目な顔で警察に私との関係を説明しながらも、柚月のことはさらりと流した。だが警察は彼の話の矛盾を見逃さなかった。「一ヶ月前に喧嘩して家を出てから、一度も彼女と会っていないと言いましたね
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第9話
時也は警察官の言葉を聞き入れなかった。彼の瞼が数回痙攣し、また激情に駆られて立ち上がり抗議した。「雪乃に会わせろ!あいつが死ぬなんて信じない!流産……流産なんてありえない。俺たち五年も子供ができなかったのに……あいつは絶対に嘘をついてる。絶対に芝居をしてるんだ……」そう言いながら、直接部屋を飛び出そうとした。警察官は時也の様子がおかしいと見て、即座に彼を押さえつけ、拘束した。時也は床に押さえつけられながらも、もがき続け、叫び続けた。「雪乃に会わせろ!あいつが死ぬなんて信じない!ありえない!」私は時也の真っ赤な目と凶暴な表情を見て、悲しく微かに首を横に振った。私が死ねば、あなたはこの結婚から解放されて、柚月と二人で添い遂げられるのに。こういう結末があなたの望んだ事じゃないの?なぜ嬉しくなさそうで、満足してなさそうなのか?警察官は力を込めて時也を押さえつけ、警察署全体に時也の声を張り上げた叫び声が響き渡った。だが急に、その声が途絶えた。時也も、まるで全ての力を吸い取られたかのように、もがくのをやめた。彼は伏せたまま、額で床を何度も何度も叩いた。「雪乃に会わせてくれ。会わせてくれ……あいつが死ぬなんて信じない。信じない……雪乃、もう怒らないでくれ。謝るから……」言葉の間に、途切れ途切れの嗚咽が混じっていた。私は信じられなかった。しゃがみ込んで、頭をかがめて見てみた。時也の涙が、すでに顔中に流れていた。彼は力なく咽び泣きながら、必死に首を捻って警察を見た。「会わせてください。お願い、一目だけでいいんだ……あいつは死ぬわけがない。あんなに俺を愛してるのに、死ぬわけがない……」警察はもちろん、彼の無理な要求を簡単には認めなかった。念のため、彼らは母に電話をかけて、多くの詳細を確認した。それ以外にも、警察は各所の監視カメラ映像を調べ、詳細な照合調査を行った。慎重な仕事を経て、警察は私が時也がドアを叩きつけて出て行った後に事故に遭ったことを確認した。時也は、当然のように拘束された。だが警察の尋問に対し、時也は魂が抜けたように、何度も何度も同じことしか言わなかった。「お願いだ。雪乃を一目だけ見させてください。一目だけでいいんだ……」懇願しながら、また
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第10話
時也の願いは最終的に叶った。母が心を許したからではない。母は時也が私を間接的に死なせた真犯人かもしれないと聞いて、時也と直接対峙することを決めたのだ。「あなたが彼女を突き飛ばしたの?あなたが彼女をこんな目に遭わせたの?」母はICUの中の私を指差し、涙声で言った。「よく見なさい。ちゃんと答えなさい!」時也は手錠をかけられ、病床の私を見て、また涙を流し始めた。私はこの男がこんなに多くの涙を流せるとは知らなかった。この数日間、私は彼が何度も泣くのを見てきた。まだ涙が枯れないのか。時也の涙は、まるで尽きることがないかのようだった。彼は渇望を込めて、ガラス窓の前に駆け寄ろうとし、私に近づきたがった。だが警察が彼を拘束し、遠くから私を見ることしかできなかった。私の憔悴した姿を見て、時也は嗄れた声で叫んだ。「雪乃!早く目を覚ませ。お前が芝居してるだけだって俺に言ってくれ。俺を騙してるんだって言え!雪乃、そんな手を使うな!死んだら俺から逃げられると思ってるのか?たとえ死んでも、俺はお前と離婚しないぞ!雪乃!」時也は勢いよく言ったが、私は失笑した。この男は、本当に私のことを理解してるのだろうか?母は時也が演技しているだけだと思い、さらに怒りを爆発させた。「自分の子供を殺して、自分の妻を殺しておいて、その上他の女と旅行に行けるなんて!あなたは人間失格よ!あの時私の娘は命がけであなたを救ったのに、あなたは彼女を殺したのよ!」母は真実を知っていた。あの時、母に私の選択を認めてもらうために、私は母に、時也のためにどんな信じられないことをしたかを話していた。まさか、この秘密が私の瀕死の時に暴露されるとは。時也は鋭い一撃を受けたかのように目を見開いて、私の母に向かって叫んだ。「彼女が俺を救った?いつの話だ?違う!俺を救ったのは明らかに……」パン!母は時也の顔に平手打ちを食らわせた。「恋に盲目になってるから、椿柚月があなたを救ったと思い込んでるのよ!一体誰が危険を顧みず一晩中あなたを探したのか、誰があなたを山から背負って降りたのか、あなたには分からないの?あの椿柚月にそんなことができると思う?」柚月は生粋のお嬢様気質で、自分の手も足も使わない。時也を見つけた時も、体は綺麗
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