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第7話

Author: 用事無し
「だって、君のことが好きだから」

私は信じられない思いで颯斗を見つめた。

――彼、今なんて言ったの?

私が好き……

でも、私たちはただ、両家の大人たちが決めたことを果たすために一緒になっただけじゃなかったの?

私が見つめ続けると、颯斗は耳まで真っ赤になった。

「忘れたの?僕たち、一度会ったことがあるよ」

もちろん、私は覚えている。

颯斗と初めて会ったのは、私が七歳で彼が八歳のときだった。

崎尾家がうちの隣の別荘に引っ越してきて、私は新しく来た子に興味津々だった。

理由は特にない。ただ、彼の顔がとても美しかったからだ。

私はちょこちょこと颯斗を探しに行ってみたが、タイミングが悪かったのか、一度も会えなかった。

そんなある雨の日、学校から帰る途中、子どもたちが颯斗を囲んで小遣いをねだっているのを見かけた。

その頃の私は「正義の味方になる」ことを夢見て、空から飛び降りる勢いで棒を振り回し、小さな悪ガキたちを追い払っていた。

それでようやく颯斗と話せると思ったのに、翌日、彼らが引っ越したと聞いてがっかりしたのを覚えている。

私は言いにくそうに尋ねた。

「まさか、あの頃から……好きだったの?」

颯斗はこくりと頷き、「うん」と一言答えた。

「棒を持って現れたときさ……セーラームーンみたいでさ」

そんな例えをされて、私は思わず吹き出した。

彼も、私が笑ったのを嬉しく思ったのか、照れくさそうに笑った。

「この何年もの間、ずっと君を見守ってきたよ。

僕にとって、君との結婚は親に従ったからじゃない。

本気で、君のことが好きなんだ。

でも知ってる、君がこの何年もの間……」

言葉を区切り、彼は真剣な瞳で私を見つめながら話し続けた。

「百香、僕は待つよ。でも……あまり長く待たせないでくれる?」

私は彼に見返してやった。胸の奥がぐちゃぐちゃだ。

まさか――颯斗が、本当に私のことを想っていたなんて。

私はかつて明彦のことで家族と喧嘩し、怒鳴り泣きながら、両家の縁談を白紙に戻そうとした。

そのとき颯斗から返ってきた返事は、わずか二文字だった。

「了解」

私はてっきり、彼にとって私のことなんてどうでもいいのだと思っていた。

まさか彼が、口にできない想いを抱えていたとは夢にも思わなかった。

胸の中に渦巻く感情がさらに強まり、私は長い沈
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