FAZER LOGIN「ローズジュエリー……。あれをこのまま消失させるのは、もったいない。あの技術をものにすれば、シェーンハイトはもっと高みに行けるだろう」 秋明の答えに、百合は絶望し、怒りを覚えた。(そうよ、この人はそういう人! 私のためかもなんて、バカみたい!)「結局は、自分のためってことね。本当に最低! ジュエリーデザイナーに興味がないか聞いてきたのは、アレグリアを取り戻してくれるからかもなんて思った、私がバカだったわ!」 平手打ちをして部屋を出ると、自室に戻る。キャリーバッグに服や貴重品、充電器と仕事道具を詰め込み、部屋を出ると秋明がいた。「早とちりするな。これはお前の、ぐあ!?」
「ありがとう、ルリちゃん。ついでに秋明さんも」 秋明からは返事がない。ルリは嬉しそうに笑みを浮かべる。 正直まだ納得していないし、秋明が自分のことを考えてくれているかは疑わしい。だが、ルリのおかげで気持ちはだいぶ落ち着いた。 「エトワールには、俺から連絡しておいた。お前は今日から自宅待機だ。仕事は家でしてろ」 「……そうね、そうするわ」 デザイナーという仕事は、わざわざ職場に行く必要はない。職場でのやりとりは、誰が何を担当するかというものがメインで、リモートでも問題ない。 ただ、百合個人としては、職場にいた方が仕事モードに切り替えやすいし、通勤中にも色んな人の服を見れるので、出勤できたほうが嬉しい。 食事を終えると、百合はゆったりした服に着替えて、作業部屋に籠もった。ラフを描き、トルソーに着せるために生地を取ろうとして、以前渡されたプラスチックケースが視界に入る。 百合はケースを手に取った。中には色とりどりの宝石たちが輝きを放っている。 「ジュエリーデザイナーにならないかって、何回も言ってきたのって、もしかして……」 祖父はアレグリアという宝石店を起業し、成功した。そしてアレグリアは、父の誠司が亡くなってから、なくなってしまった。 何故潰れたのかは、まだ分かっていない。「もしかして秋明さんは、アレグリアを復活させようと?」 百合は作業部屋を出て、秋明の部屋に行く。ノックしようとすると、秋明の話し声が聞こえた。どうやら誰かと電話しているようだ。 「明日の商談には、俺も同行すると伝えてくれ。……当たり前だ。成功すれば5億は固い。うまく立ち回れば、それ以上の利益も……」 (仕事の電話? やっぱり、スケールが違うわね……) 百合は電話が終わるのを待ちながら、ドアの向こうにいる夫は、やはり別次元の人間だと思う。 5億も稼げる商談など、庶民の百合には想像すらつかない。 電話が終わるのを聞くと、ノックした。 「秋明さん、ちょっといい?」 「入れ」 秋明はオフィスチェアに座っていた。部屋に入ると、秋明の前に立つ。 「どうした?」 「アレグリアのこと、教えて欲しいの」 「……詳しいことはまだ言えないが」 そう前置きをすると、アレグリアについて話し始める。アレグリアは百合の祖父が起業したこと、人気があったのは、値段の幅広
写真のコメントを見ていくと、抜けるとか、犯したいとか、そういったコメントが多く、吐き気がする。「最低……」「同感だ」 百合はただ、パソコンを見つめることしかできない。ここまでSNSに広められたことや、心無いコメントに傷つき、頭がうまく回らない。。 秋明は舌打ちすると、動画投稿サイトなどで調べ始めた。出てくるのは同じ名前や苗字の人物か、百合の花に関する動画ばかりで、百合に関する動画は今のところない。
(私? なにがあったの?) 秋明の視線に不安になり、彼を見守る。心当たりはないが、嫌な予感がした。「……あぁ、そうだが……。……何? 今すぐ確認する」 秋明は通話を終わらせると、百合に視線を戻す。「百合、お前に関するデマが流れてるそうだ」「なんですって?」
上を見ると、南京錠がついていた。「そんな……!」 絶望に打ちひしがれていると、腕を掴まれる。「来い、話がある」 百合はその腕を振り払おうとするが、成人男性に力でかなうはずもなく、振りほどけない。「いや! 離して! あなたなんかといたくない!」「百合、頼むから俺に強硬手段を使わせないでくれ」 強硬手段という言葉に、感情が冷えていく。軽蔑は怒りに変わり、爆発する。「強硬手段ですって? 脅しのつもり? 本当に最低!」「違う! 話を聞けと言ってるだろう! 俺は話を聞いてほしいだけだ!」「へぇ、話ねぇ。言っておきますけどねぇ、私は少し前まで、母が財閥の生き残りだったって知らなかったの。祖父の遺産の在り処も、暗証番号も知らないの。遺産欲しさに私と結婚したんでしょうけど、あてが外れたわね。分かったらさっさと離婚したらどうなの!?」「はぁ、分かった。いくらでも時間をやる。だから、冷静になってくれ。あとで話そう」 秋明は諦めたように言うと、寝室に戻る。「私はもう、あなたの優しさに騙されたりしないから」 百合は遠ざかる背中にそう言って部屋に戻ると、契約書を引っ張り出した。「どこかに逃げ道が……」 契約の穴を見つけようと、何度も契約書を読み返したが、気持ちが高ぶっているせいか、頭がうまく働かない。「はぁ、後でにしよう……」 それからの生活は地獄だった。会社への送迎は双子がしたし、どこかに出かけるにも双子か紫苑がついてくる。断っても、秋明からの命令だと言われる。完全にひとりになれる時間がない。 夜は契約で秋明の相手をさせられる日々。秋明との夜伽なんて、嫌で嫌で仕方がないはずなのに、毎回失神するほど感じてしまっている。 そして今夜も、仕方なく寝室で秋明を待っている。その間、下腹部が期待でうずいてしまう。我ながら卑しい体だ。よりによって、あんな男を求めて火照ってしまうだなんて。
「言ったでしょ、調べたって。ずっと引っかかってたの。どうして一般人の私を、あんな好条件の契約で拾ったのか。誘拐未遂の時、矢絃さんが言ってた鍵は、なんのことだったのか……。おそらく、うちの遺産が入った金庫でも熊谷家にあるんでしょうね。そしてあなたと矢絃さんは、私が暗証番号か、そのヒントを知ってると思ったんじゃない?」「それは……」 珍しく言い淀む秋明に、百合はすべてを察した。「あなたにとって、私は駒だったのね。だから優しくしてくれてたのね。最低!」 怒りや悔しさが込み上げ、叫び散らす。思ったより大きな声が出たが、そんなこと気にする余裕すらないくらい、百合の中に負の感情が渦巻いていた。「違う! 話を聞いてくれ!」「嫌よ! 金にがめつい人の話なんか聞いてたら、耳が腐っちゃうわ!」 百合は秋明を思いっきり押し、部屋に戻って鍵をかけると、荷物をまとめる。その間、秋明が慌てて部屋に向かってきているのが聞こえる。(そんなに私に出ていかれたら困るの? もう財閥会長するくらいお金持ちなのに、そんなに遺産がほしいの?) 嫌悪感でめまいがする。一刻も早く、この家から出ていきたい。「百合、待て! 誤解だ!」 秋明は焦った様子で、ドアを叩きながら訴える。だが、百合にはチープな演技にしか見えない。「聞きたくないって言ったでしょ! こんな家出てってやるんだから!」「契約違反だぞ!」 契約違反という言葉に、怒りのボルテージが一気に上昇した。「何が契約よ! バッカじゃないの!」 声を荒げながらも、百合は頭を回転させた。今出ていったら、秋明に捕まって終わる。だったら、彼が家にいない時にでも出ていけばいい。それか、寝ている時にでも。 百合はまとめ終わった荷物をドアの近くに置くと、ベッドに潜って頭から布団を被った。その間もずっと、秋明は契約違反だとか、逃げられると思うなだとか、声をかけ続ける。実にバカバカしい。「分かった、今はひとりにしてやる。冷静になったら話し合おう」 足音が遠ざかっていくのを聞き、ため息をつく。(私、なんでこんなに傷ついてるの?) 百合は、秋明が百合自身すら知らなかった彼女の正体や、遺産のことを知っていたことと、彼が百合の遺産のために自分に近づいたと知り、ショックを受けている自分に困惑する。「いいえ、もう、ごまかすのはやめましょう……」
ビルから出ると、リムジンが停まっていた。ボディガードのひとりがドアを開ける。秋明は何食わぬ顔でリムジンに乗ると、困惑しながら立ったままの百合に目を向ける。「何ぼさっと突っ立ってるんだ。はやく乗れ」「え、えぇ……」 おずおずとリムジンに乗り、百合は目を見開く。L字型をした革張りの座席があり、その向かいには小さなバーカウンターを想起させるテーブルがある。小型の冷蔵庫と食器棚もあり、食器棚の中には高そうなグラスが並んでいた。「お前は俺の隣に座るんだ」「分かったわ」 少し距離を作って座ると、秋明はあからさまに不機嫌になる。どうしたらいいか分からずにいると、秋明は距離を詰め、百合の肩に手
百合は疲れ切った顔で家に帰る。あの後、秋明と情報を共有していて遅くなってしまった。彼は百合が矢絃の家に住んでいると知ると、新しい家を用意するからすぐに出られるようにしろと言っていた。 これは百合にとって嬉しい話だ。1秒でもはやく、この家から出たいと思っている。(色々話したいけど、母さんはもう、寝てるだろうな……) 腕時計を見ると、もう12時になろうとしている。早朝から仕事がある母はきっと寝ているはずだ。(私も、シャワー浴びてはやく寝よう……) 自室に戻ることを考えながら玄関の前に立つと、ドアが開いた。「母さん……!」「おかえり、百合」 パジャマにカーディガンを羽織った母・藤
百合は秋明のオーラに圧倒され、言われるがままにキスをしてしまう。「あの女、妻夫木さんにキスをしたぞ!」「どういうことなの!?」 会場はどよめき、矢絃とマキは呆然としている。秋明は更に百合を抱き寄せ、人々に振り返る。「この女性は宝生百合といって、最近噂になっている高級ブランドのデザイナーであり、俺の婚約者でもある。そこの副社長のストーカーなどしていない」 秋明の言葉に、会場は更にどよめく。百合は何がなんだか分からず、固まっている。「なんだ、お前は! コイツに何をした!? お前もお前だ! 男だったら誰でもいいのか? このアバズレが!」 顔を真っ赤にして怒った矢絃が、ふたりの間に割
晩餐会当日、高級ホテルにあるきらびやかな会場には多くのセレブがいる。百合は暗い気持ちで壁の花を決め込む。 成功したデザイナーとはいえ、セレブの仲間入りを果たしたわけではない。矢絃がいなければ、このような場にはいられないだろう。(こんなところ、願い下げよ) 百合は矢絃から送られてきた日程を伝えるメールを思い出し、心の中で吐き捨てる。メールには日時と会場と、「本来はお前ごときが参加していい場ではない。晩餐会に出られること、感謝するんだな」という一文が添えてあった。 あれから矢絃はマキの家にでも転がり込んでいるのか、帰ってこず、母の藤子と数人の使用人と奇妙な同居生活をしていた。 藤子に







