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第4話

Penulis: コーラ
私はファイルを開いた。

中には涼介と小林家の令嬢が並んで写った写真が何枚も入っていた。どれも、皮肉なくらい絵になる二人だった。

「吉野さん、あなたは才能の高い人よ。

けれど、榊家に受け入れられるのは、誰にでもできることじゃない。

来週の婚約披露宴を最後まで演じきって、小林家に彼との縁談を完全に諦めさせてちょうだい。

事が済んだら、生活に困らないほどの金は渡す。後は心配いらない。

その後はここを去り、二度と姿を見せないこと」

この展開、まるで昼ドラに出てくる、現金をばらまく悪役の義母みたいだ。

だが、私は腹を立てることはなかった。

ファイルを閉じ、涼子の目を真っ直ぐに見据える。

「お金はいりません」

涼子は意外そうに片方の眉を上げた。

「足りないとでも?」

「いいえ」

私はバッグからタブレットを取り出し、一枚の設計図を表示させた。

「これは、榊グループのヨーロッパ支部の新ランドマークのデザイン初稿です。

このプロジェクトで皆さんが頭を悩ませているのは知っています。以前の案はどれも却下されたと聞きました。

私は、このプロジェクトのチーフデザイナーの職位をいただきます」

涼子は一瞬、固まった。

彼女はタブレットを受け取ると、それまでの無関心な眼差しを鋭く変え、最後には驚嘆の色を浮かべた。

「……これを、あなたが?」

「はい。涼介のために、これまで、自分の力を抑え、七年間おとなしく振る舞ってまいりました。

けれど、自分の専門を捨てたことは一度もありません。

私が欲しいのは施しではなく、チャンスなんです」

涼子はタブレットを置くと、初めて私を対等な人間として正面から見つめた。

彼女の視線には、ほんの少しの挑発と、ささやかな感嘆が混じっていた。

「いいわ、取引成立ね。

ところで、披露宴ではどう動くつもり?」

私は口角を上げ、意味深な笑みを浮かべた。

……

婚約披露宴の日がやってきた。

涼介は、市内で最も豪華なホテルの宴会場を丸ごと押さえた。

客はひしめき合い、華やかな装いの人々で会場は彩られていた。

白いスーツに身を包んだ涼介は、立ち居振る舞いも優雅で、まるで童話から抜け出してきた王子のようだった。

彼は私の手を取り、愛おしげな眼差しで客の一人ひとりに紹介して回る。

「俺の婚約者、遥です。

俺が人生で最も愛した女性ですよ」

私はオーダーメイドのドレスを纏い、彼の言葉に合わせて、頷きを返した。

涼子は主賓席に座り、ワインのグラスを揺らしながら、まるで私たちの内心まで見透かすかのような鋭い視線を向けていた。

式の進行は順調に進んでいた。

ところが、指輪の交換の場面になった途端だった。

司会者が声を張り上げた。

「お二人、指輪の交換を行ってください!」

涼介は情熱的な瞳で私を見つめ、ダイヤの指輪を手に取った。

「遥、一生かけて君を守り抜くと誓うよ」

その時だった。

会場のサラウンドスピーカーから、突如として激しい着信音が鳴り響いた。

涼介の携帯だ。

会場のBGMを流すために、彼のスマホがブルートゥースに繋がっていた。

メインスクリーンには、それまで私たち二人の幸せそうな写真が映し出されていた。

だが画面は一転し、着信画面へと切り替わる。

そこに表示されていた名前は――

【可愛い子猫ちゃん】

会場は一瞬にして静まり返った。

全員の視線がスクリーンに釘付けになる。

涼介の顔色は一瞬で蒼白になり、手に持っていた指輪が落ちそうになった。

彼は慌ててポケットのスマホを取り出し、通話を切ろうとする。

だが、私の方が早かった。

私は一歩踏み出してコントロールパネルの前に立つと、マイクを手に取った。

そして、呆然と立ち尽くす客たちに向かって、微笑みながら告げた。

「どうやら、待ちきれずに祝福を伝えたいという友人がいるようですわ。

せっかくの熱意ですもの、皆さんで一緒に聞いて差し上げましょう」

涼介が悲鳴のような声を上げる。

「遥! やめろ!」

遅い。

私はすでに受話ボタンを押し、スピーカーフォンに切り替えていた。

天乃の、媚びるようでいて刺々しく、泣き声の混じった声が、最高級の音響設備を通じて会場全体に響き渡った。

「涼介! どこにいるのよ!

今日私と一緒に産婦人科行くんじゃなかったの?

私の電話を無視するなんて……今すぐベランダから飛び降りてやるから!

男の子を産んだら、あのおばさんとは手を切るって約束したじゃない!

涼介、何か言いなさいよ! 一生私の飼い犬になるって言ったのは嘘だったの!?」

――ドォォォン。

会場は、蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。

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