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#1

last update publish date: 2026-09-02 11:10:19

カーテンの隙間から陽光が射している。

いつも通りの朝。でも実は全然違う。けたたましいアラームを止め、ベッドから飛び起きた。

────今日から貴島が学校に来る。

舞台に乗り出すような勢いで制服に着替え、身なりを完璧にしてから家を出た。

昨夜のうちに連絡して、待ち合わせの約束をした。

学校の最寄り駅に降り、改札口へ向かう。するとちょうどスマホに視線を落とす貴島が見えた。

「貴島! おはよっ」

「……おはよう」

安定のローテンション。しかし美形はそこにいるだけでマイナスイオンを発するらしい。周りにいる女子高生の熱い視線を感じながら、彼と並んで歩き出した。

貴島は慣れてるんだろうな。どこ行ってもポーカーフェイスだし、心乱さないし。

俺だったら転校初日とか緊張で具合が悪くなる。だから彼は色んな意味ですごい。

「ウチの学校の制服、めっちゃ似合ってるぞ」

「どうかな。一年生に戻った気分だ」

貴島は慣れない制服だから入学式に来たみたい、と零している。ポケットに手を入れ、可笑しそうに空を仰ぐ。そしてふとこちらを向いた。

「……でも、お前とこうして歩けるのは嬉しい」

「……おぉ」

俺もだ。

同じ学校に通えるなんて思わなかったから、感動してる。

でも頷くだけにしておいた。冷静な彼の手前、あまりはしゃげない。

これはこれで難儀だけど、俺も今まで通りクールに振る舞おう。これまで築いたイメージを覆すわけにはいかない。

学校に着き、貴島と長い廊下を歩く。職員室の前を通りがかったとき、ちょうど扉付近にいる担任と目が合った。

まだ若い男性教師、藤間先生だ。

「おー、おはよ。川音に、貴島君だな。改めてこれからよろしく!」

ん?

藤間先生は俺だけでなく、貴島に向かって微笑みかけた。既に知り合いのようだけど、もしかして。

「あれ。貴島が入るのって、二年一組?」

「あぁ」

「俺もだよ。奇跡じゃん!」

やった!

まさかの同じクラス。こんな嬉しい偶然があって良いんだろうか。

ほくほくしながら佇んでると、藤間先生は感心したように顎に手を添えた。

「転校生が来るなんて言ってなかったのに。よく貴島君に気付いたな、川音」

さすが生徒会長有力候補は違うな〜、と彼は笑っている。でも一緒にいるのはちゃんとした理由があるから、説明しようとした。

「いえ。先生、実は俺達幼なじ」

「実は職員室の場所忘れてしまって。迷ってたら、彼が声を掛けてくれたんです。困ってたので本当に助かりました」

エッ。

何を言ってるのか本気で分からず、貴島の顔を凝視した。ところが彼は落着し、藤間先生と笑い合っている。

先生もまた、少し誇らしげに腕を組んだ。

「そうそう、川音は面倒見が良くて、学校一のモテ男なんだぞ。貴島君も、困ったことがあったら川音に何でも聞きな」

「そうします。ありがとうございます」

「うんうん。じゃ、俺もすぐ教室に行くから……川音、先に貴島君を教室に案内してあげてくれ。席もちょうどお前の後ろだから」

藤間先生はそう言うと、必要な物を取りに職員室へ戻っていった。

二人きりになり、思わず貴島に詰め寄る。

「ちょっと、何言ってんだよ。初対面みたいなふりしてさあ……!」

「良いんだよ。先生だけじゃなくて、クラスメイトにも隠しておこう。偶然って言っても信じてもらえなさそうだし」

「えええ……」

貴島は何でもないように腰に手を当てる。

同じ学校、その上同じクラスなんて不審がられると告げた。

けど転校生は定員に満たないクラスじゃないと入れないし、奇跡と言えば皆納得してくれるはずだ。

俺は正直、彼と幼馴染ということを声を大にして言いたい。六年ぶりに会えた、自慢の親友なのだと。でも。

「転校生を気にかけてる、って顔しとけよ。優等生なら尚さら好感度上がるだろ」

「……」

貴島は俺の為を想い、そう言ってくれた。

でもぶっちゃけ自分の株なんてどうでもよくて、ほんとのことを公言したい。彼と仲良しだってことの方が百万倍重要だから。

あれ。でも“仲良し”ってのも変か?

引っ越してからはたまに連絡をとるだけ。それもお互い遠慮して、メッセージでのやり取りだったし。

貴島の大親友を気取るのもお門違いなのかも。……そう思うと、何か急に寂しくなった。

「それはそうと、やっぱりモテるんだな」

「え? べ、別に」

「教師が言うなんて相当だぞ。……彼女いるのか」

一歩前に出ようとして、やめた。

顔を上げると、貴島は真剣な表情でこちらを見ていた。

隠してる部分を射抜くような眼差し。それが少し怖くて、視線を逸らした。

何故か息苦しい。誰に訊かれても笑顔で答えられたことなのに。

貴島には、触れてほしくないと思ってしまった。

「……いないよ。お前は?」

貴島はイケメンだから、彼女がいても驚かない。

でも、できれば知りたくない。

何で知りたくないのか、それも分からないけど……話の流れで聞き返してしまったことに、内心のたうち回りたい衝動に駆られた。

一秒一秒がやたら長くて、目眩がしそう。息するのも忘れて答えを待ってると、彼は軽く片手を振った。

「いないよ。一度もできたことない」

笑えるだろ、と言って貴島は微笑んだ。

そうか。

笑える。怖いぐらい、自分がホッとしてることに。

正直意外だったけど、俺も同じなのでかぶりを振った。

「ふ〜ん。……ま、貴島ならすぐできるよ」

「どうかな。……そもそも欲しいとも思ってないから。お前と会えただけで充分だし」

……。

歩幅を合わせながら、騒がしい教室へと向かう。

表情こそ真顔を保ったものの、心の中は嵐が巻き起こっていた。

俺も“彼女”は考えられない。

彼とまた会えたこと。今はそれだけで、怖いぐらい幸せなんだ。

……なんて、そんなの絶対言えそうにないけど。

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